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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第三話【マージナル】

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その03 告白 

 厨房に戻った私は、まずは肌着と下帯を装着した。もうこの時期は下着無しは寒すぎる。

 時期的に月のものも近い。当たり前だが生理中は血で汚れるので、下着と受け布が必須となる。


 靴下をはき、毛糸の腹巻きをつける。修道着はワンピース型で胸元にボタンが付いている。ボタンを止めたら腰布を巻き、別パーツの襟を被る。

 ウィンプルは髪が乾くまでは着けなくて良いとされているので後回し。襟の穴に聖印を取り付けて出来上がりだ。


 ちなみに聖印は、院長先生のように位階の高い人だけが銀などの金属製を許される。私みたいな下っ端のペーペーは木製だ。

 サンダルを履きながら、トチェドの月のものはいつなのだろうと気になった。その手の話をした覚えが無い。


 生理による痛みや眠気、倦怠感に個人差があるのは知っている。普段から朝に弱いチオットはより起きれなくなるし、私は我慢できない腹痛に悩まされる。

 修道院の素晴らしいところの一つは、その状態で働く必要がないところだ。もちろん休めるわけではない。院長先生が魔法で痛み止めをしてくれるのだ。


 最も偉大なる一の神様。

 六龍と十二天使を使役し、この世界をお造りになられた至高の存在。

 信仰深い司祭は『神聖言語』とよばれる魔法を使える。らしい。


 らしいというのは、院長先生曰く事実ではないからだ。

 魔法全般は才能と相性であり、魔法の力と信仰は関係がない。その証拠が院長先生とおばあちゃん先生で、院長先生は魔法が使えるけどおばあちゃん先生は使えない。


 でも、と私は思う。

 司祭という地位に有りながら信仰心などまるで無いと嗤う院長先生だけれど、言う程信仰心は薄くないよね。


 私は少し考えてからチオットの部屋に向かった。行動原理は好奇心ではなく友情! チオットが取り乱したのが気になるし、心配ではある。

 ヘアルトが変なこと言わなければ純粋な気持ちで行けたのだけれど!


「チオットちゃん、大丈夫?」

「イウノちゃん……?」


 ノックをして声を掛けると、おずおずと顔を出すチオット。周りを見て私しかいないことを確認して部屋に招き入れる。

 チオットもまだ髪が濡れているため、ウィンプルを被っていない。可愛い顔がよく見える。


 綺麗な赤い瞳は憂鬱に伏せられて、ふっくらとした頬は心なしか青ざめている。

 私はこの年上の同僚を時々妹のように感じることがある。儚げで、弱々しく、甘え下手な。


「どうしよう、どうしよう……困る、困ります……」


 小刻みに震えて意味のわからないことを呟くチオット。その取り乱し振りに私も不安になる。

 私の想像以上の何かがあるのだ。困惑しながらも華奢な肩を抱き、頭を撫でる。


「チオットちゃん」

「どうしようイウノちゃん……このままじゃあ私、夢に見られちゃう……!」


 んんん????


 ごめん今なんて言ったの? 聞き間違い? 聞き間違いかな?

 『夢に見られちゃう』って言った?


「ええと、うーん……何か力になれる? 何も言いたくないならぎゅってしておくけど」


 抱きしめたり、抱きしめられるのは心がしんどい時に少なからず助かるものだ。相手が人でなく羊や犬でも案外助かる。

 とりあえずぎゅっと抱きしめて頭を撫でる。チオットはなすがままにされながら、私の耳元で囁いた。


「本当は……誰にも言っちゃいけないの」

「うん」


 甘くかすれた囁き声がセクシー過ぎて、変な気持ちになりそう。


「お兄ちゃんは、『信用できると思っても、バカを見るだけだ』っていうし……院長先生にも言ってないけど……」

「待ってチオットちゃん、本当に平気? 私は口は軽くないけど、そこまで信用できるほど真面目じゃないよ?」


 私の言葉にチオットは小鳥みたいにクスクス笑う。笑い事ではない。

 私は院長先生みたいに賢くないし、おばあちゃん先生みたいに優しくない。ニカお姉さまみたいに頼りにはならないし、ボゥお姉さまのように口が固くない。


 先日、ロドゥバの金貨に膝を屈した。弱くて信用ならない人間だ。


「イウノちゃんになら騙されても、裏切られてもいい」


 体を離すチオット、赤い瞳が妖しく光る。重い、重いよチオット。言い方がセクシー過ぎる。頭がぼーっとして来ちゃう。


「あのね、今まで秘密にしてたんだけど……」


 チオットが襟を脱ぎ捨て、胸元のボタンを外す。

 豊かな胸の谷間があらわになり、私は目のやり場に困った。というか、何で脱ぐの?


「ちちち、チオットちゃん?」

「見て」


 腰帯がほどかれて、修道服が床に落ちた。

 下帯一枚のチオット、私は目を剥いた。彼女の胸元、下腹部、腰回りが紫色の光を放ち、複雑で優美な紋章のようなものが浮かび上がった。


「…………え?」


 チオットの顔にも、頬と額に同様の光が灯っていた。それどころが側頭部に二本、螺旋を描く角があった。


「私ね、人間じゃあないの」

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