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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第二話【11月の幼年学校】

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その05 些細ではない揉め事

 当たり前の事だけれど、一週間は六日間だ。光曜日に始まり風林火山陰の曜日になる。

 それらは六色の世界龍を示しており、五週間で一ヶ月。お月さまも新月からぐるっと回って三十日でちょうど一周。

 十二天使の名を冠する十二ヶ月で一年になる。つまり一年は三百六十日ピッタリということだ。


 ちなみに十二天使は六色の世界龍に仕える大王と女王で、それぞれが五柱の天使を従えている。詳しい人なら全員の名前の知っているけど、私はそうも行かない。

 一ヶ月は五週間で、五柱の天使がそれぞれ一週ずつを守護しているってことは知ってるけどね。


 六はとても神聖な数字だ。世界龍が六頭、天使も六対で六柱ずつ。一年間は三百六十日で六十週。


 さて、子供たちとの一週間は六泊七日、|第三の陰の日(18日)から|第四の陰の日(24日)まで。

 そしてお勉強は二日目である今日からが本番だ。

 朝ご飯のあと、午前中は算数のお勉強。昼にお茶の時間とおやつ。一刻ほど遊んだり昼寝の自由時間。そして夕飯まで国語のお勉強して、司書先生の朗読会だ。


 お勉強は年齢ごとに三チームに分けられる。

 年長組はおばあちゃん先生、ちょっと下をニカお姉さまと院長先生、年少組は私とトチェドである。

 なお他のメンバーはお料理やいつものお掃除だ。


 私たち年少組は数字や文字を歌って覚えたり、簡単な四則演算、名前を書き、簡単な本を読めるようにするぐらいが目標だ。

 数ヶ月やらないと、計算も文字も忘れる子が多い。それでも何度か説明すれば思い出す。まあ、あとは気長に繰り返す感じだ。


 さて、今日も天気がいいのでお勉強は外でできる。

 私は|鯨の半刻(午前5時)に起き出してお勉強の準備、不足がないことを確認できたのでついでに家畜小屋を見に行った。


 今日からロドゥバ一人なのだが、任せるのはまだ不安がある。朝ご飯は分量の関係でニカお姉さまが担当してくれるので、時間的には普段より余裕はあるはずなのだが。

 |午の刻(午前6時)の家畜小屋には人も動物も気配がなく、雑ながらも掃除されて汚れた寝藁や排泄物もなかった。


「よかった、できるじゃない」


 初日に嘔吐しかけてから、ロドゥバは恥も外聞もかなぐり捨てて、鼻に詰め物、口元を布で覆って作業していた。

 家畜の臭いにはだんだん慣れてきた様だが、糞尿の臭いには我慢ならないらしい。


 肥溜めは子供たちが来る前に『堆肥屋さん』に来てもらったし、新しい穴を掘ったのでまだ目に染みるはどではないはずだ。

 まあなんとかなるだろう。


 動物の移動は牧羊犬(ジョンとジェーン)がしてくれるので逃がす心配はない。

 私は問題はなさそうだと一安心した。すると次の問題はロドゥバに反感を抱かせず、かと言って増長もさせない褒め方だ。


 何を言っても皮肉と捉えられるか、増長させそう。なんて面倒くさい奴なんだ。


 考えながら外に出た瞬間に、すべての考えが吹き飛んだ。


「この、この! 平民風情が!」

「ロドゥバ!!」


 子供相手に平手を振り上げるロドゥバ、私は一も二もなく後ろからタックルした。

 何があったのかは分からないけれど、止めなければならない。考えるより先に体が動いていた。


「みゃっ!?」


 変な声を上げるロドゥバを後ろから押し倒して、私は子供たちを見た。男の子が三人、叩かれた様子はない。

 どこの村の子だ? いや、考えるのは後だ。


「何があったの?」

「誰ですの、どきなさい不敬ですわよ! わたくしに! この! もう!」


 暴れるロドゥバ、身長も体重も負けているが、ケンカで負ける気はしない。

 このまま取り押さえるか? ちょっと迷ったその隙に子供たちが逃げ出していた。


「ちょっと待って!」

「その声はイウノですわね!?」


 仕方なくロドゥバを解放すると、真っ赤な顔で修道服についた土や草を払い、キッと私を睨みつけた。


「何があったの?」

「……………………何でもありませんわ!」


 にべもない言い方、私は苛立ちを抑えつけて、できるだけ優しく、静かにもう一度問いかけた。


「あの子たちが悪さをしたの? 卵泥棒とか、動物をいじめたとか、泥団子を投げてきたとか、嫌なことされたなら……」

「何でもないと言っていますわッ!! 小うるさい愚民が! 貴族が何もないと言ったのですわよ!!」


 激しい拒絶、攻撃的な怒声。高慢ちきな態度。

 天使の顔も三度までというが、私の場合は一度が限度だった。むしろ褒めて欲しいくらいだ。


「はいそうですか! 『貴族樣』が仰る通りですね!!」


 私は怒鳴り返して放牧地を後にした。

 昨日の自分をぶん殴ってやりたい気分だ。何が仲良くなれたらだ? あの高慢ちきな『貴族樣』と仲良しなんてできるはずがないだろう。

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