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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第二話【11月の幼年学校】

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その04 冒険商人カルマ・ノーディ

 夕飯が片付いた|熊の半刻(午後7時)、少し肌寒くなってきた時間だが、広間に作った子供たちの寝床は『真紅の悪竜ライフレア』に連なる『聖域』の魔法で快適な温度になっていた。

 『聖域』は一部屋を快適にする魔法で、外が極寒でも灼熱でも適切な気温に保ってくれる。その上害虫も入らず、病気もかかり難いとか。夢のような魔法だ。


 司書先生が言うには、ライフレア信仰は山岳や砂漠に多く、『聖域』無しでは生きていくのも大変だとか。

 まあ、とにかく院長先生は『聖域』の魔法石を六回分購入してきた。持続時間は半日。

 冷え込んでくる|熊の刻(午後6時)から|馬の刻(午前6時)まで起動予定だ。


 今日から一週間、子供たちは文字や算数の勉強をする。文字が読めないと、貴族が急に立てた看板の意味がわからないし、算数ができないと不当に税を取られかねない。

 この一帯の村々はそれでひどい目にあってきた。領主であるティカイルクス子爵の詐欺みたいな税収で、たくさん苦しんだ。


 私は同じことを繰り返さないために教師になりたいし、近隣の村々を守るために、院長先生にお願いしてこの教室を始めてもらった。


 まあ、そんなつまらない話は置いておいて、今は暖かい広間で、司書先生の朗読だ。

 『カルマ・ノーディ』は子供たちにも人気のお話だ。「持ち歌がない吟遊詩人はとりあえずカルマを歌え」と言われるぐらいに知れ渡っている。


 物語は単純な勧善懲悪。困ってる人たちやいさかいを収めて、悪いやつを懲らしめる。

 と言っても、カルマは商人なので戦わない。悪い奴らが因果応報に合うのを放っておいたり、お金の面でひどい目に合わせたりする。


 キザで美人に弱いカルマ、女の子に騙されたり、女の子のために赤字を出したりするのだが、そこは御愛嬌。

 ちなみに私たち『見習い』組は子供たちと一緒に聞くのを許されくつろいでいた。ロドゥバは読んだ話など読み聞かせされてもつまらないと文句を言っていたが、その態度がいつまで続くかな?


「おい、お前たちの側が近いのはずるいぞ!」

「そんなこと知らずに選んだんだから文句言わないでよ!」


 しかし、楽しい話が始まるかと思いきやまさかの揉め事である。

 ディーノくんがまたも突っかかっていた。仲裁に入ろうかとした所で、先に司書先生がヘラヘラと笑いながら口を挟んだ。


「じゃあ明日はそっちの壁で話そうかなぁ〜。

 でもさあ、あたしの声は大きくて部屋は狭いんよ。朗読は演劇じゃないし挿絵もないからね、ちょっち遠くても楽しめるとは思うんだけどね〜」


 先生の執り成しならば仕方ないと従うディーノくん。

 でも、危ういなと思う。明らかに不満が溜まっている。初日からこれではこの先どうなることやら。


「んじゃ、トっちーお願いね」

「はい」


 司書先生の用意した机には本の他にいくつか小道具が置いてある。ラッパ、角材、そして水分補給用のヤカン。

 トっちーことトチェドが弦楽器を奏で始める。吟遊詩人の使うリュートの類ではなく、弓を使って引くフィドルだ。


 穏やかな音色が流れ、気持ちを穏やかにしてくれる、そこで突然司書先生が角材で机を叩いた。


 カカカッ!!


「時は六龍歴1022年! 甲雲戦争の傷がまだ深い『十年の平和』の三年目。現オールガス帝国領北東部に位置するレブカ領に三人の旅人が訪れた!」


 カカッ!


「荷馬車に積んだ雑多な荷物から行商人の類に思われるが、そんじょそこらの商人とは様子が違う!」


 カッカカッ!!


 角材が机を叩く、元文以上に軽妙な語り口が聞く者の耳から入り脳内に映像イメージを作り上げる。

 司書先生の朗読の何が良いって説明しづらい。声が良い、調子が良い、雰囲気に合わせて打ち合わせる角材が軽妙。七色の声が扱えてまるで登場人物が生きて動いて喋ってるかのように錯覚する。なんだかんだとにかく良い。


 あっという間に物語に没入する。じかん経つのが異様に早い。ちらりと横を見ると、いつの間にかロドゥバは目をキラキラさせてかぶり付きになっていた。

 何度も聞いている子供たちもみんなそう。始めての子はそれ以上の驚きと興奮を味わえる。


 私の視線に気がついたのか、ロドゥバは正気に戻ってそっぽを向いた。


(我がヴェーシア家に来る劇団や、貴族学校の劇場程ではありませんが、悪くないですわね)


 ちょっと頬を染めて、他の子の邪魔にならないように囁き声で。

 ロドゥバにとって最大級の賛辞だろう。私も小声で(でしょ?)とだけ答えた。


 もうちょっと素直なら、ロドゥバも悪い奴ではないのにな。

 この調子で仲良くなれるのならば、それもいいかもしれないな。


 その日は、バカみたいにそう思った。


 本当、自分のバカさに腹が立つ。

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