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その01 悪役令嬢が来た!

「オホホホホ! わたくしはロドゥバ、偉大なるオールガス帝国がヴェーシア候爵家の令嬢、ロドゥバ・ヴェーシアですわ!

 さあさ、ひれ伏しなさいな平民ども! 頭が高い、頭が高いですわよ! オホホ! オホホホホ!!」


 秋晴れの青い空の下、聖パトリルクス修道院の中庭に耳障りな高笑いが響き渡った。

 来訪者の高慢ちきな態度に、私たちは困惑を隠しきれない。何を食べたら初対面で相手の素性も知らないのにこんなに居丈高になれるのだろう。


 |十一月(イニアンの月)の澄んだ空気が恨めしくすらある。

 一向にひれ伏さない私たちに、ロドゥバさんとやらは不服な様子、サラサラの金髪を振り乱して大きな目を吊り上がらせている。


「院長先生、候爵って偉いんですか?」

「あン? 不勉強だなイウノ」


 私の問いかけに院長先生は咎めるような口調で、しかし明らかに面白がって応えた。

 院長先生は見事な鷲鼻と意地悪く歪められた目口、修道服を着ていなければ魔女と勘違いされそうな顔と性格をしている。黒ずくめという点では同じかもしれない。


「神の家である修道院では、誰もが神の子であり身分は関係なく平等さね」

「ですって」


 私の意を汲んでド直球に「黙れ」と言ってくれた院長先生。勝ち誇る私は、顔を真赤にして湯気を吹き出すロドゥバさんとやらを見た。


「寄付金の過多によっちゃあ、例外もあるけどな」

「院長先生……」


 満面の笑みでの掌返しに、私は膝を付いて敗北した。

 一転喜色満面のロドゥバさんとやら、『こしゅ』と気の抜けた音で指を鳴らしてメイドを呼ぶ。


「もちろん寄付金はこのように!」


「え? 旦那様から聞いてませんかお嬢様? 馬車に積んでいた三箱と手前だけがお嬢様の財産になりますよ?

 月々の寄付金や援助金はなし、あーあ……若い身空でこの先一生修道院暮らしとは、飛んだ貧乏くじですこと」


 ガクンと音を立てて落ちるロドゥバさんとやらの顎。

 思わぬどんでん返しに再起する私。思わず唇の端が上がる。いい気味ってやつだ。


「じゃあ、『姉』はニカトール。『見習い』としてはイウノが面倒をみてやんな。以上、解散!」


 しかし、院長先生の思わぬ言葉に今度は私の顎もガクンと落ちたのであった。






「いったいどーゆーことですのー!!?」

「いったいどうゆうことなのぉ!!?」


 ステレオでこだまする嘆きの声、業腹ながら想いは同じ。

 正直言って嬉しくもなんともない。


「はいはい、仲が良いのはわかったわ。まずは挨拶して修道院を案内するわよ」

「どこが仲良く見えるんですか」

「どこもかしこも、よ。お姉さんはニカトール。ニカでいいわ」


 屈託を感じさせない満面の笑み、いつも明るくて表情豊か。キラキラの青い瞳。美人で優しいがお喋り過ぎるのが玉に瑕のみんなのお姉さま。それがニカお姉さまだ。


「へ、平民と握手する習慣はございませんわ」

「あら残念」


 全く残念ではなさそうにニカお姉さま。その目がいたずらっぽくウィンク、私の挨拶を期待している。

 …………仕方があるまい。礼儀知らずの『貴族樣』に挨拶なぞ、する必要を感じないが。


「聖パトリルクス修道院、『シスター見習い』のイウノ・スグ十三歳です」


 精一杯丁寧なお辞儀。それをロドゥバはせせら笑う。


「あ〜ら『見習い』? 下っ端も下、小間使いも同然の立場ではありませんの。

 下郎がわたくしに直接口をきくなんて、教育が行き届いておりませんわよ?」


 うわ、腹立つ。

 『貴族樣』は好きじゃないけれど、こいつは輪をかけて好きになれない。苛立ちを抑えきれずにとりあえずニカお姉さまを見ると、まるで動じた様子がない。これが年の功か?


「ああ、年齢も必要だったわね。お姉さんは二十歳です。ロドゥバさんは十五くらい? 年下をいじめるのは良くないわ」

「ぐっ」


 言葉に詰まるロドゥバ。年齢を見抜かれたのか、別の理由か。

 少なくとも彼女は、いじめを咎められた程度で怯むようには思えない。


「それにね、イウノは『下っ端』じゃあないわ。位階で言うなら『侍者(アコライト)』。地位を重んじるなら修道院内に居る限りロドゥバさんは『見習い』以前の平信者。

 目上に対して態度を改めたほうがいいとお姉さんは思うんだけど?」


「ぐぐっ」


 いい気味だ。ニヤリと笑う私を、ロドゥバが一睨み。おそらく今、地位に固執するかどうかお悩み中だ。

 しばしの逡巡の後に、ロドゥバは鼻を鳴らして不承不承にニカお姉さまの手を握った。


「ロドゥバ・ヴェーシア、十六歳ですわ。平民ごときと仲良くする気はありませんことよ」

「ええ〜? 仲良くしましょうよ。これから同じ修道院で暮らすんだし。イウノもそう思うでしょ?」


 残念ながら、ニカお姉さま。

 忸怩たるものはございますが、私もその『貴族樣』と同じ気持ちです。

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