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ワインとフルーツとスイーツの代わりにダイナマイトを運ぶ簡単なお仕事です

 私の潜んでいた柱に矢が突き立った。


「そこに隠れている者、出てこい」


 何故位置がバレたかなどと考えるだけ無駄だ。この場に居るのは、辺境武家貴族によって選抜された奇襲部隊だ。


 辺境武家貴族の軍の異常な強さは肌で覚えている。


 戦場を常に空から見下ろしているが如く、我々の布陣の弱い所を的確に突いてくる。そして、我々は数の利を活かすことの出来ないように地形を利用して布陣を組んでくる一方で、向こうは一方的に数の利を活かしてくる。そして、誰もが一つの意思に統制されているかの如く、臨機応変にかつ最適に戦場の変化に対応してくるのだ。


 辺境武家貴族に率いられている"全ての兵"がな。


 20万の軍も100分割されてしまえば1万の軍で圧勝できる。だから、軍として辺境武家貴族と対峙してしまえば絶対に勝てないどころか、下手をすれば近接兵が近づくことすらも許されない。それをやってしまえるのが辺境武家貴族の強さなのだから。


 この程度の潜伏を見破る程度のことをいとも容易くやってのけた所で全く不思議ではない。


 敵との距離は、少し遠いな。顔を出した瞬間射殺されては元も子もないし、恐らく数歩走る間も与えられずにサボテンになるのがオチだろう。


「……」


 一度経験した身とはいえ、いざ、死ぬとなるとやはり、怖いな。足が鉛のように重くなる。


「敵襲!敵襲だーーーー!!!!!」


 持ち込んだ鐘を力の限り鳴らしながら叫ぶ。とはいえ、大橋から大橋までの距離で声などかき消えてしまうだろう。王城や都市を警護している者には聞こえるわけもない。


 なんせ、ユリーカ様の私兵部隊とその場で戦闘が行われたというのに、援軍が駆けつけてくることがなかったくらいなのだから。


 本当ならば事前に伏兵とかを潜ませるなりしてやるべきなのだろうが、一介の兵士でしかない私にそんなものを用意できる権力などあるはずもない。なんせ周囲は裏切り者の腰巾着と売国奴だらけだ。将軍もとっくに敵の息がかかっている。


 私がユリーカ様以外にこの情報を騙ったところで、誰も信じてはくれないだろう。


 船で一騎当千の少数精鋭部隊が大橋の下に潜り込んでくるなどと言っても与太話もいいところなのだから。


「不味い、さっさと無力化しろ」


 目的は別だ。敵の方から近付いてもらうことにある。その為の、ダイナマイトだ。タイミングを見計らい、導火線に火を付ける。


 いよいよ、死へのカウントダウンが始まった。オリアナ様は後方で魔法を詠唱しつつ待機しているまま、か。魔術師だから当然近づいては来ない、か。


「ぐふっ」


 決死の自爆を仕掛けようと柱の外へ一歩出た瞬間に矢を撃たれた。すぐさま大楯で急所を防ごうと構えたのに、その合間を縫って矢が胸に突き刺さった。


 分かる、最新鋭の狙撃銃(ライフル)の銃弾すらも一応力学的には弾けるはずの傾斜装甲付きブレストアーマーも貫通しての致命傷だ。既に足がガクりと崩れ落ちそうになった。だが、続けざまに容赦なく矢が飛んでくる。


 あまりにも理不尽すぎる暴力だった。


 理論上角度さえ合わせれば大砲の直撃にすら耐えられる大楯が一瞬でサボテンと化して使い物にならなくなった。弓矢で銃や大砲に有利をとろうなどと、我が国ハウル公国の常識ではありえないことを平然とやる。


 そして、この理不尽な戦場に、ユリーカ様は立っていたのだ。誰の援軍も無しに、ご自身の指揮と、己の肉体だけで、この強大な敵を相手に……最期まで戦っていたのだッッ!

 

「お、……お”お”お”おおおおおお! まだだ! まだ死ねん! ハウル公国の民よ! 我にこの敵を討つ力を!」


 他者への犠牲を強制し、虚栄と欺瞞に満ちた女神には祈らん。


 己が野心と保身のために我が国ハウル公国を売り、レムナント王国や辺境武家貴族へと下った売国奴の貴族共や将軍への忠義も尽くさん。


 そして、最期はヤケになって己が野心と陰謀をわざわざ敵の前で洗いざらいに吐き捨てた挙句、自分だけは死んで楽になり、ハウル公国の民達に今後贖いきれぬ大罪を被せて逝った元帥への怒りでもない。


「ガハッ、ガッ……ぁ……」


 無数に飛来する矢が臓腑に穴を空ける。血液と体温が急速に失われていく。視界と脳裏が血で塗り潰される。


 もはや気合や根性でどうにかなる領分を超えている。間違いなく、私は間もなく死ぬだろう。だが……。

 


「――まだだ! まだ私は報いることが出来ていないッ!!!」


 多くの名も無き兵士達やユリーカ様が味わってきた痛みは、まだまだこんなモノではない。気力を振り絞れ、走れ、全身が矢で穴だらけになろうとも、油塗れになって魔法で火達磨になろうとも、雷に撃たれて消し炭となろうとも、氷の彫像にされようとも。


 ユリーカ様は最期まで戦ったのだッ!!。


 例え、その原動力が、我が国ハウル公国を裏切った売国奴オリアナへの嫉妬や自己保身という醜い理由であったとしても。関係ない。私はもっと醜い理由でこの戦場に立っている。


 だから足を止めるな、前に進め。


「我が命は、最期の瞬間まで我らがハウル公国の民と名も無き戦友達と共戦ったユリーカ様の為に! そして、我が国の"自由"が為に捧げる!」


「こ、こいつまだ動くぞ」


 全身が穴だらけになっておきながら何故動けるのかは自分でも不思議だ。我らハウル公国の敗北……おめおめと終戦を見届けてくるなどという生き恥を晒してきたせいなのか。


 だが、そんな生き恥を晒してきたからこそ、私は知っている。


「ユリーカ様……、貴女様、だけだったのです……我らと共にあったのは」


 我らがハウル公国を裏切らず、共に己が命を賭して最期まで戦い、辺境武家貴族の精兵を討ち取り、打撃を与えて下さったたった一人の貴族は……。



 そして……。


「売国奴……オリアナァ!!!!」


 己の保身と偽善、エルフという種族繁栄の為だけに、我らがハウル公国を真っ先に裏切ったな。


 それだけに飽き足らず、好敵手である辺境武家貴族でさえもその色香で惑わせ、エルフの保護や奴隷解放を叫ぶなどという狂気に陥れたことで、エルフを奴隷にしている大国との関係を著しく悪化させたことであまりにも不毛な2面戦争を引き起こし、辺境武家貴族の領民にすらも危険と苦難に晒したことをな。


 そして、辺境武家貴族に己の民が住まう領地に火を放って敵を撃退させるなどという過酷な決断を迫らせた。


 その壮絶な戦いの結果、エルフというほんの一部の"勝者"を除いて誰しもが割を食った。敵も味方も皆飢えた、大切なモノを奪われ、あらゆる建物や文化財も破壊されていった。


 こんな戦争、許せるだろうか? 許せるわけがない。だから皆、敗者を求めていた。ボコボコに殴って溜まったストレスを発散してもいい悪者が必要になった。


 そうして戦争責任の全てを背負うことになったのが、我々ハウル公国の民だった。


 到底払いきれぬ賠償を背負わされ、歴史と知識を記した書を焼き払われ、生まれながらにして罪深き奴隷として末代まで生きる定めを背負わされた。


 エルフという少数の民族を救うためだけに、我らがハウル公国の民を生贄にするように仕向けたのだ。故に! 


「キサマだけは絶対に許さん! 我らがハウル公国の公女ユリーカ様の名誉と誇りを傷つけたことを! 我らがハウル公国の民を裏切ったことを!」


 この戦いは復讐だ。


「自由を奪われ、苦難と絶望の歴史を生きたハウル公国の亡霊の怒りと憎悪を知れェッ! オリアナァ!!!!」


「魔術で吹き飛ばします。皆離れて下さい」


 そうだ……それを待っていた。銃弾や剣すらも一瞬で燃やし尽くす炎のオーラだろうが、ダイナマイトの爆風までは果たして燃やし尽くすことは出来るかな? そして、お前達が今持っている新型魔法爆弾に誘爆すればどうなるかな?


「我らがハウル公国の自"由"に、栄光あ"れ"え"え"え"え"!!!」


 結果を見ることが出来ないのは、残念、だが……な。


 実の所、半年前に既に書いてたらしい。しかしながら何を思ったか投稿する気になれず半年間放置していたらしい。この話にブックマークして下さった5人の方々ごめ(殴


SRPGあるあるネタ。


 空中からの俯瞰視点で最初から配置バレて潜伏も効かない。突撃AIを相手に的確に多対一の盤面にして各個撃破してくるプレイヤー。しかもプレイヤー一人の考えに基づいてタイムラグ無しに理想的に動いてくる軍隊とか相手したら絶対かてないですね。はい。


 そして、何故か終盤になるとレベルカンストしてて忠誠心マックス上級職クソつよ精鋭モブ兵士が敵側にモリモリ湧いてくるのもSRPGあるある。つまるところ作中の兵士君はその一人です。

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