表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【三章連載中!】花びら姫の恋  作者: 師走 瑠璃
【二.五章】それは彼女に聞いてくれ
82/91

第三話 魔獣

現実世界の神話伝説名称を下敷きにする手法を、今回は取ってます。

でもオリジナルの解釈で使っているのでツッコミどころもあるかと思いますが、軽ーいファンタジーだな、とお目をつぶって頂けると幸いです。

お楽しみ頂けると嬉しいです♪







 皇族の私服がここまで簡素だと、却って嫌味かもな、と響紀ひびきは普段目にする貴族たちの私服姿を思い描き考える。

 生地は上質だがシンプルに過ぎて面白味がない。……服の事は門外漢だが。 

 ……が、この簡素さを以てしても隠しきれないのが、この皇子の顔面偏差値の高さだ。そこは恐らく誰も否定できない。


 「魔獣というのは?」

 

 老舗菓子店のエントランスに現れて開口一番、第一皇子は平坦に質問を口にした。前置きもない所は実力主義者だけあるが、単に他者との会話が面倒らしいのだと、侍衛官仲間の薔珠そうじゅ・黄花・サディルから聞き知った。


 「この建物の裏手です。薔珠大尉組が発見しました」


 こちらも別に無駄口を交わしたいわけではない。

 簡潔に答えると、皇子は素っ気なく頷き「案内しろ」と指示する。


 「皇女殿下から目を離してよろしいのですか」

 「三影が付いている。鈴の守りもある。問題ない」


 腹違いだと聞くが、第二皇子はどうやら辛辣な目を持つこの皇子に信を置かれているらしい。

 侍衛官になって皇家の内情を知る機会は多いが、これはまた新たな情報だ。


 「殿下、こちらです」


 案内した建物裏の路地から顔を出したのは、同時期に侍衛官に着任したオード・眞爾ましか大尉だ。

 目立った武勲は聞かないが、とにかく温厚で誠実な人柄。人格者である事は間違いなく、癖の強い侍衛官たちのまとめ役になっている。おそらくそれが、彼が侍衛官として期待される一番の理由だろう。


 「小型ですが凶暴です」

 「数は?」

 「確認できたのは五体、捕獲は二体です。三体は逃しました。申し訳ありません」

 「何の装備もなく二体なら上出来だ」


 路地裏の奥に進むにつれ、濃い瘴気のようなものが漂い出す。生臭く目が霞む空気だ。

 ガラスを引っ掻くような耳障りな鳴き声が聞こえ、それを押さえ付ける声も聞こえる。


 「ウウ、臭イノゥ。此奴ラマトモニ話シモ出来ンノニ、体臭ダケハ一人前ジャ」

 「人語を解す魔獣が居たら大ごとだ」


 暴れる魔獣を前脚で押さえ付け、嫌そうに鼻の頭に皺を寄せる生物は、薄く光を流す金色と青の被毛の大型四足歩行に見せかけた受肉精霊だ。

 揚羽あげはと名付けられ、皇女と主従の契約を結んでいるという。精霊は見える体質だが、受肉精霊は初見でほぼ伝説だ。初対面の時にはかなり衝撃を受けた。


 その隣で同じように魔獣を押さえ付けているのは、皇子の従姉妹である薔珠大尉だった。

 しなる鞭の紐で魔獣を雁字搦めに捕えている。


 「有翼種か。面倒だな」


 膜状の翼に、尖った鼻。鼠のような形状の生物が魔獣とわかるのは、血色の瞳が禍々しく光っているからだ。赤く光る目は、魔獣の証拠だった。

 二人の足元に視線を落とす皇子に、薔珠大尉が礼を取る。


 「殿下、貴重なお時間にお呼び立てし申し訳ありません」

 「オゥ、来オッタカ。早ウ始末ツケヨ。気持チ悪インジャ、コイツラ」

 

 遠慮なく文句を言う受肉精霊に構わず、皇子は無感情に質問した。


 「状況は」

 「は。揚羽が近辺で異臭に気づき、周辺の安全確認の為建物裏へ回った所発見、捕獲しました。群れで行動するようです。目視で五体確認しましたが、もっといるでしょう。地下通路へ逃げ込みました」

 「……食料が減る冬なら稀にある事だが、この時期の皇都に魔獣か」

 「有翼である所はマンティコア種とも言えますが、これは齧歯類に属す物ですね」


 片膝をつき魔獣を観察していたもう一人の侍衛官、倮須平らすびら少尉が顔を上げた。


 「一体は生かし生物研究所へ送れ。魔獣掃討部隊へ報告し、神殿の聖騎士団を呼べ。一帯を封鎖し瘴気の浄化を行うよう指示しろ」

 「残りの群れは? 追いますか?」

 「掃討部隊に任せる。用意なく地下に入る事は危険だ」


 地下通路は皇都の中心地の地下に蜘蛛の巣状に広がり、迷路の様相を呈す。

 小型魔獣の知能では迷い込んだら自力で出る事は不可能だろう。そうなれば飢え死ぬだろうが、万が一地上に出て来るとも限らない。駆除しておくに限る。


 「殿下、これをご覧下さい」

 

 周辺の確認を行っていた眞爾大尉が、少し離れた場所から何かを見つけたように皇子を呼んだ。強張った表情は、あまり良くない報告のようだ。


 「以前、検非違使けびいし隊の任務で似たような事案を扱った事を思い出し、もしやと思って周囲を探りました」

 「似たような事案」


 言外に何の事かと問う皇子に、眞爾大尉はしゃがんでいた場所で立ち上がり、皇子に場を譲る。


 「季節外れに魔獣が皇都の中心部に現れ、都民に被害を及ぼした事件です。六、七年程前の話ですが」

 「………………」


 譲られた場に視線を落とした皇子は、無言で目を眇めた。

 同じようにそちらを見た皆が息を呑む。響紀もその光景には一瞬表情を歪めた。


 大きく歪な円陣。複雑怪奇な紋様の中心に、破裂したような血痕が飛び散っている。


 「………召喚陣に大量の血痕。これだけで事件と言えるな」

 「以前の事件でも同じように召喚陣が残されていました。ただその時は、生贄とされた少女の亡骸がその場にあったのですが……」

 「場の類似性だけで何かを判断はできない。血痕の主の生死は元より、何を呼び出したのかも推測するしかない状況だ。事件として扱い、検非違使隊にも報告しろ。現場を維持し、一般人を近づけるな」

 「承知」


 すぐに手元の小型タブレットを操作し出す眞爾大尉に背を向け、皇子は薔珠大尉たちに目を遣った。


 「そいつらを召喚したのだとしたら、狙いはどちらかだ。或いは両方か」

 「……は。どういう事でしょう?」

 「おれを狙うには役不足だが、海夜一人なら何とかなると考える浅薄さが鬱陶しい。魔獣の好物は貴種の血肉だろう」

 「魔獣ゴトキデ貴種ヲドウニカデキルト? 浅薄トイウヨリ愚カデアロ」

 「さて。貴種憎しで目が曇る輩には、己の脅威が他者の脅威にもなると考えるんじゃないか。魔獣の天敵は貴種だからな。子供騙しだが」


 確かにこの程度の小型魔獣は、少々剣術の心得がある者なら退けるくらいはできる。だがぽやぽやしたあの華奢な皇女が簡単にどうにかできる程、魔獣は甘い存在ではない。

 精霊事と同じくらい、人間の手に余るのが魔獣だ。精霊は人間に益を齎らす存在もいるが,魔獣は常に奪う側。毎年の魔獣による被害は大きなものなのだから。


 「……それでは奥宮内部を調査せねば」

 「体制の変化で見慣れぬ顔が出入りしている。隠密兵を使え」


 こちらの疑問など気にも止めず、従兄弟同士は頷き合っている。

 どういう事かと倮須平少尉と顔を見合わせ合えば、受肉精霊がおかしそうに口端を釣り上げた。


 「間者ガオルトヨ。魔獣ハ貴種ヲ狙ッタノジャロ。姫ガ外出スル事ナゾ、誰ガドウヤッテ知ルノジャ。内部ニオレバ探レル事モサゾ多カロ」


 そういう事か。

 皇族の行動を知る事ができるのは、近くで働く者たちだ。それ故に厳選された人材が登用される。それが最近の体制変化の為に人を増やしたので、見慣れぬ新人達が出入りするようになった。

 疑われるのは、まずその新人たちだということだ。


 そこまで考えてちょっとおかしくなった。

 響紀たち自身もその新人なのだと思ったからだ。


 「精霊ニモワカル事ヲ、思イ当タラナンダカ? 侍衛官ジャロ?」

 「……政治は疎いもので」


 おかしそうに首を傾げる受肉精霊に無難に返しておく。

 何とも思わない訳ではないが、そこまで求められて侍衛官になったのではないから心も痛まない。


 だが隣に立つ倮須平少尉はそうではないらしい。ほんの少し狼狽したように、耳が赤くなっている。

 小心者だな、と内心肩を竦める。

 任務以上の事をやろうとすれば、厄介事を抱え込む。そんなのはごめんだ。割り切れば楽になるというのに、彼女は性格か若いのか、他人の評価に敏感だ。


 「侍衛官だが分業している。任務に誠実であれば問題ない」

 「揚羽は姫君の分身のようなものだ。姫君への危険を嗅ぎ分けているだけで、裏はない。気にするな」


 事実だけを平坦に口にする皇子と、同僚をフォローする薔珠大尉。 

 ここでも分業があるようだと思いながら頷く。


 「殿下、全ての手配が整いました。検非違使隊がすぐに到着します。掃討部隊と聖騎士団はもう少しかかるかと」


 腕のタブレットを操作しながら戻ってきた眞爾大尉の報告に頷き、皇子は魔獣を押さえる二人に視線を向けた。


 「ご苦労。揚羽、ソレを生物研究所へ持っていけ。薔珠大尉は速やかにソレを始末し、虎と共に奥宮の調査を開始しろ。眞爾大尉はこの場に残り、現状を関係部署に通達。皇宮に戻ったら事後報告してくれ」

 「承知しました」

 「生物研究所ハ我ヲ弄クリマクルカラ嫌ナンジャガ」

 「常連だろう。所長と茶でも飲んで来い」

 「彼奴ガ一番我ヲ苛メルンジャゾ」


 軽口のようなものをきく二人に意外なものを見る気分だ。

 この皇子は常に壁を張っていて、必要以上に人を近づけない。平等に他人に接するが、人間味がない所が近寄り難いと一部で云われている。だがこんな面もあるのだと、近くに居れば気づく事もあった。


 「終わったら海夜が戻るまで寝てていい」

 「ヌ。ソレハ美味イノゥ」


 自由にしろと言われてニヤリと笑った受肉精霊は、若干気が抜けたのか。

 前脚で押さえつけていた魔獣が暴れ、身を捩った拍子に精霊の爪が外れた。

 それをはずみに飛び上がった魔獣は、本能とでも云うように貴種である皇子に勢いよく突進していく。


 「殿下!!!」

 「オゥ、スマン。手ガ滑リオッタ」


 薔珠大尉たちの悲鳴のような声と暢気な精霊の声が重なる中、皇子は一つ舌打ちして自身に迫った魔獣を片手で叩き落とした。


 「………っ」


 突然の出来事に動けなかったこちらと、あれだけのスピードと勢いを片手で払いのける反射神経にただ唖然とするしかない。

 だがすぐに、ポタリと落ちる赤い雫に気づき皆が正気に返った。


 「殿下っ、お怪我をっ」

 「歯が掠っただけだ。魔獣から目を離すな」


 黒革手袋の一部が破け、手の平に滲む血を見て薔珠大尉が青ざめる。

 皇子はそれを聞き流し、地面に払い落とした魔獣を一瞥した。

 その姿が一回り大きくなったように見える。いや、実際大きくなっているのだ。

 内側から膨張するように魔獣の体が波打つ。ボコボコと湯が沸騰するような音をさせながら、見る間に手の平サイズだった魔獣が大型犬の大きさに変化した。


 立派なたてがみを持つ有翼の獅子。ギラギラと赤い目を光らせ、地を震わせるような咆哮を放つ。


 「血を取られたな。鼠が獅子に変化か。マンティコア種で間違いないようだ、倮須平少尉」


 どこまでも平坦に無感情に、皇子は動揺もせずに魔獣を見下ろす。

 そうして魔獣へ一歩踏み出す皇子は手に何も武器を持たず、ただ右手を魔獣へ翳した。


 「揚羽、夕食は抜きだな」

 「ヌッ、狭量ナ! ワザトデハナイノジャゾ」

 「海夜の前でそれをやったら一週間は食餌を絶つ」

 「横暴ジャッ、暴君メっ!」


 精霊が抗議の声を上げた直後だった。

 皇子が手を翳していた魔獣が、内側から弾けた。まるで膨張を止められなかったかのように、粉々に崩れ落ちる。

 醜悪さと腐臭のような悪臭に、吐き気が込み上げる。


 「……何で……」


 皇子は何もしていなかった。ただ手を翳していただけだ。

 倮須平少尉が唖然としたように呟くと、皇子は手を下ろし「魔獣の天敵だからな」と平坦に返した。


 「貴種の方は、やはり計り知れませんね……」

 「寄せ付けないから天敵なんだ。だが血肉が欲しくて本能で引き寄せられるんだろう。こうなると分かっていても向かって来る。憐れで阿保だ」


 埃でも払うように服を払い、眞爾大尉の言葉に答えている。


 「後始末は任せる。誉古継よこつ中尉と倮須平少尉は皇宮に戻り執政長官に報告しろ。その後は全員解散。明日に備えろ」


 こちらへも簡単に指示を出すと、皇子は軽く踵を返した。

 そういえば今日は休日だったなと、その言葉に思い出す。


 「殿下が計り知れないのか、貴種さまが計り知れないのか……」


 隣りで呟く倮須平少尉に、貴種がどうの亜種がどうのと取り沙汰する世間にうんざりしていた自分が少数派なのだと、改めて思い知る思いだった。

 

 

 



 


 ※







 さわさわとさざめくような人々の会話の声と、食器の触れ合う音。

 広いカフェだけあって沢山の人がお茶とスイーツを楽しんでいる。


 ワゴン上のスイーツ類を、慣れた手つきで手際よくテーブルに置く女性から目を離せず、海夜はそろそろと息をついた。

 三段のティースタンドには美しく飾られた季節のスイーツ。花を模ったカトラリーセットと同じシリーズのトリオ。

 普段なら心踊るテーブルセッティングなのに、違う意味で心臓が大きく鳴っている。


 「……久しぶりだよね。ずっと避けられてると思ってた」

 「まさか、そんな筈ありません。新作の試作に忙しかっただけです」


 温められたトリオのカップに透き通った紅色のお茶が注がれると、鼻先に馥郁ふくいくとしたフルーティな香りが届く。

 

 「そっか、スイーツ類は君が監修してるものも多いんだっけ」

 「はい。まだまだ力不足ですけど」

 「そんなことないよ。フルーツを使った今期のスイーツも華やかで目を引くし」

 「ありがとうございます」


 やはり三影とこの女性は知り合いのようだ。

 思い当たるのは以前に彼が話してくれた、スイーツショップの気になる女の子。気立のいい看板娘さん。

 いい雰囲気だったのに皇子だとばれて、逃げ腰になられているという。


 (……こういうだったのね……)


 失礼だとわかっているのに、目が離せなくてつい彼女の行動を目で追ってしまう。

 その視線に気づいて、三影が苦笑した。


 「紹介しておくね。彼女は黎眞りま斐須祇ひすぎ。ここのオーナーの長女で跡取りだよ」

 

 跡取り。

 老舗大店の跡取りという事は、それなりのお家の娘さんだ。

 それなのに、彼女の方が三影の身分を気にして凄い勢いで逃げているらしい。

 

 メイドエプロンを着けたふんわりと柔らかそうな体型の彼女は、雪のように真っ白な肌だった。うっすらとそばかすが浮いてしっとり美しく、それだけで羨ましい肌質だとわかる。


 「黎眞・斐須祇と申します。本日のご予約に三影さまのお名前を拝見しましたので、ご挨拶に伺いました。お越し頂き、誠にありがとうございます」


 にっこりと笑顔を浮かべて礼を取る姿は、見た目よりもう少し年上に見えた。しっかりした礼法は少女というより成人女性に近い。


 「……海夜と申します。お会いできて嬉しいわ」


 何とか笑顔で返した挨拶だったが、姓を名乗らなかったので不思議に思ったのか首を傾げられる。

 微妙な空気になりかけた時、三影が覗き込むように彼女に顔を近づけた。


 「ところでその髪どうしたの? 見慣れないから驚いた」


 彼が指摘するのは彼女のメイドキャップからこぼれる長い髪だ。

 ふわりと柔らかそうだが強い癖があるとわかる、大きなウェーブの髪。海夜も緩く波打つ癖髪なのでどれだけ朝が大変だろうと同情するが、それを上回る程感情を揺さぶるのはその色だ。

 

 見覚えがある。

 動揺する。

 柔らかな色合いなのに、刺激してくるその感情は直視するにはまだ勇気が要る。


 「実はこちらの色が地毛なんです。平民がこの色を持つのは少々障りがあるので普段は染めているのですが、少し油断するとすぐに元の色に戻ってしまって」


 照れたように笑う仕草につられて揺れる、柔らかな髪に釘付けになる。


 美しい色。

 人の目を引くだろうその色は、海夜が“桜色”と呼んだある人の色と同じ髪色だ。


 「……斐須祇家はちょっと前まで貴族家門だったね、そういえば。貴種の因子が強く出る子孫も居るか」

 「子どもの頃は染めてもひと晩で元に戻りましたが、今はだいぶ落ち着きました。それでも、手を抜くとこうなってしまうんですけど」


 自分の髪に目をやって、ふふっと軽く笑う彼女は確かに三影が言う通り気立のいい明るさがある。

 そういう意味では常に冷静で笑顔もクールだった同じ髪色の彼女とは、黎眞のイメージは重ならない。


 「どうぞお召し上がり下さい。こちらは初夏のフルーツをたっぷり使用したケーキです。自信作なんです」


 嬉しそうに微笑まれて、促されるままフォークで崩したケーキを口に運ぶ。

 甘酸っぱいフルーツの爽やかさと濃厚なバタークリームは意外と相性が良く、甘さも控えめで食べ易い。


 「美味しいわ」


 バタークリームのケーキは久しぶりだ。

 母が好きなので日本の実家で作った事はあるが、どうしても油っぽく独特の風味が出てしまう。それをこんなにフルーツと相性良くできるのはやはりプロなのだと思う。


 「この甘さなら男性でも食べられそう」

 「はい、男性のご家族のお土産にされる女性も多いんですよ」

 「三影くんは甘いもの平気だものね。虎さんに買って行ったら喜ぶかしら?」

 「虎が虐められるの見たいなら止めない」


 ティーカップを口に運びながらさらりと物騒な事を言う三影に、単なるお土産よ? と驚く。

 それなら侍衛官たちにも買っていこう、と考えお茶を口にすると、こちらもフルーツに合うさっぱりとした口あたりで美味だ。

 テーブルコーディネートからスイーツ、お茶に至るまで完璧で文句のつけようがない。


 「……すごいわ。おもてなし方法を教えて頂きたいくらい」

 「彼女、メイド専門の学校に通ったぐらい接待に力を入れてるんだって。貴族じゃないけど、奥宮に勤める資格も取れるぐらい優秀なんだ。俺も勧誘してるんだけどね」


 ……それは下心込みの勧誘なのではないだろうか。だから引かれているのでは。


 そんな考えが浮かんだけれど、そっと心にしまっておこうと考え直す。馬に蹴られても痛いだけだ。


 「とんでもないです! 皇宮にお勤めできるといっても、奥宮に入るにはそれなりのソロリティに属していないと。新しい皇女さまもいらして、周囲のソロリティの子たちがとっても期待してますし、私なんかとても……」


 黎眞は慌てて訂正するように、真っ赤になって手を振っている。

 この反応を見るに、三影の勧誘自体にはそれ程否定的ではないらしい。

 

 「ソロリティって?」


 聞き慣れない言葉に首を傾げると、椅子の背に凭れるように三影が身を起こす。


 「同じような身分階層の子女が集まるグループ。その中で女の子の集まりをソロリティって呼ぶよ。大体十歳前後からそういうのに属して、横の繋がりとか結束とか強めとくらしい。将来的な保障にもなるしね」

 「保障?」

 「結婚とか」


 ……うわぁ。


 わかり易い説明だがストレートな物言いで若干口元が引き攣る。

 そんなに幼い頃から結婚を意識した行動を取らなければならないのか。庶民と貴族が結婚する事も珍しくないと聞いていたけれど、それはそれ、これはこれという事らしい。


 「でもわたし、そんな話何も聞いてないわ」

 「ソロリティの子たちが期待してる話? 俺は聞いてるよ。仲立ちしてくれの催促が雨のように来てるからね」

 「えぇっ?」

 「心の狭ーい人が間に立ってるから、ねえさんの耳に入らなくて当然」

 

 それはあの眼帯男の事だろう。

 

 「あの? “ねえさん”というのは、一体?? 三影さまに姉君がいらっしゃるというお話は……」


 戸惑うような黎眞の声に、そうだったとはっとする。

 

 彼女は三影の身分を知る人間だ。皇家の家族構成を思い描けば、三影に姉が存在しない事もわかる筈。

 大っぴらにしていないだけで秘めた存在というわけでもないのだが、今更皇女ですと名乗るのも機を逸している。

 

 どうしたものかと迷った時、背後からの声にどきりと背筋が伸びた。


 「海夜」


 低くて耳心地いい声。

 今まさに話題に上がった海夜の婚約者が、こちらに向かって歩いてくる所だった。






お読みいただきありがとうございます♪

次回更新は1/21(日)12:00頃の予定です。

よろしくお願い致します!


ブックマーク等大変嬉しいです。励みになります!

ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ