第九話 降って湧いた珍事
ちょっと文字数多めです。ごめんなさい。
精霊事が皇宮内で起こったと、皇都を賑わせたのは翌日朝早くからだった。
皇女が関わっていたならばさもありなん、と虎なら理解できる話だ。奥宮以外の皇宮内には精霊除けが施されていない。皇女の呼び声に応える精霊など、ごまんといるのだから。
しかし、皇都の住人でさえ貴種の特性を知る者は少ない。その場に居たのが精霊事に免疫のある、黄花・サディル家の皇子と公爵家令嬢だったばかりに、多くの者の好奇心をかき立てたらしい。
特に第一皇子は、表舞台に姿を出さないことで有名だ。
あることないこと、人々の妄想力の留まる所を知らず、皇宮内でさえ無責任な噂が飛び交っている。
特筆すべきは普段ならば皇族が足を運ぶことのない前宮という場所で、更に来訪者の教室という特殊な場所が破壊されたことだった。
子どもの頃ですら問題を起こしたことのない(バレなかっただけだと、虎は勿論知っている)第一皇子が成人してから起こした事件に、皇都中が耳をそば立てていることを肌で感じながら、虎は國皇の謁見室に呼び出しを受けた主人と薔珠大尉を待っている。
大事に包むように、控え室にまで主人が連れて来た、やんごとなき女性を見守りながら。
※
水の中にいるみたい、と海夜は他人事に考えた。
呼ばれれば返事もできるし何を話したかも記憶しているのに、感情が薄い膜の向こうに隠れてしまって、出来事が自分の中に響かない。
皆、淡々と返す海夜の様子に困惑しているけれど、これ以上何かを感じると、また周囲が困った状況になる。
それは嫌だった。
だって、誰かの血を見るのはいや。
だったらこのまま水に潜って、溺れてしまいたい。
「––––––––––––……や」
声が耳に落ちた気がして、は、と息を飲む。
目は開いているのに、何も見えていなかった。視界に景色が戻って、水の底から掬い上げられたように、周囲の音が鮮明に届く。
窓辺に差し込む穏やかな春の陽に目を細めた。
ここは中宮にある、國皇謁見室の控えの間。落ち着いた色調の調度品と、海夜が座る一人掛けのソファ。
ここに連れてこられた時のまま、海夜はピクリとも動かずにいたようだった。ガウンの裾が、薔珠が直してくれた時の状態で保たれている。
「奥宮に戻るぞ」
座る海夜の目の前に片膝ついて、覗き込むように話しかけてくるのは、海夜の大好きな人。結婚してと、しつこく迫った海夜を受け入れてくれた、優しい人。
改まった場へ行っていた為か、眼帯を外して左右異色の瞳を晒している。黒曜石色の瞳と、黄花・サディルの貴種である証の、透き通る濃い琥珀色の瞳。
黒曜石のように艶めく瞳は、目を抉られた海夜の兄を助ける為に、その力ごと兄へと瞳を譲った。綺麗な黄緑色がかった琥珀の瞳は、その時から黒い色へと変色して、今は少し精霊を捉えることが出来るだけらしい。
その代わり、残った右眼は琥珀色の黄色味を増し、失った片目を補うように、本来なら見えなかったものまで見えるほど力が集中してしまったと聞いた。
あの眼帯は、見えすぎるものを防ぐ役割もあるそうだ。
海夜が大好きだった黄緑色の虹彩は、今はもうなくなってしまった。けれどどちらにも、彼の根本を表すような穏やかな緑の色は健在だ。
春先の若葉のような薄い緑色と、深い森林のような濃い緑。
これを遠慮なく眺められるのは、海夜にとって幸せ以外の何者でもない。
それなのに。
武尊の瞳に手を伸ばしかけて、磁石の反作用のように途中で動けなくなる。どうしても、一定の距離から近づけない。
感情と自分の行動がちぐはぐに噛み合わない。
どうして? と思う。小さな焦燥感のようなものもある。
けれど、慌てる気持ちは起きない。
それは多分、武尊がいつも通りだから。海夜のとぼけた言葉に呆れはするけれど、伴わない行動を責めることをしない。
ただ、あるがままに受け止めてくれている。
それが楽だった。怒っていないんだと安心もした。
この人は海夜の唯一のひと。唯一全部を許せるひと。
海夜を傷つけない。
海夜が 傷 つ け ら れ て も い い ひ と。
間近にある海夜の硬直した指を静かに受け止めて、海夜が動くのをじっと待ってくれている。だから海夜は、その瞳に吸い込まれたまま、触れることは諦める。
手を下ろすと武尊ではない誰かが、安堵の息のようなものをついたのが聞こえた。
「––––––國皇陛下のお話は、済んだの?」
静かに問いかけると、武尊は頷いた。
「たいした話じゃない。大袈裟に騒ぎ立てる周囲に焚きつけられて、呼び出してきただけだ」
そう言って立ち上がる彼は、海夜のソファの横で寝そべる存在に目を向ける。
昨夜、海夜が我を失って受肉させてしまった精霊を、武尊が抑えてくれた。
ソレは海夜が恐怖を感じるままに、来訪者の教室の中を暴れ回り、歴史ある教室を破壊した。精霊に相対する術を持たない亜種の三人を庇って、尚且つ海夜の「殺さないで」という懇願に武尊が応えた結果が、今海夜の足元に寝そべる不思議な四本足の生き物だ。
最初、それは薄青金色の、透き通った翅を持つ少年の姿をしていた。けれど今は、鼻がぺたりと潰れた丸顔の、大型の四本足の何かになっている。猫科の大型動物にも見えるし、犬科のそれにも近い。
けれど、決定的にそれら四足歩行達と違うのはその毛並みだ。光沢のある滑らかな天鵞絨のようなのに、ふかふかした毛足の長い絨毯のような感触。被毛の奥の方は深い青なのに、表面は光を吸って薄金色に流れる。
明らかに、異質の生物。
前足に顎を乗せてじっと瞳を閉じ、ぴしりと立てた三角の耳だけが、武尊の動いた音に警戒するように鋭く前を向く。
この姿にしたのは海夜だ。祖母から受け継いだ黄花・サディル皇家の精霊に対する知識を使って、解放者がいない状態の受肉精霊を守る為の対策だった。
彼らの核が傷つかないように、本来の姿を隠す。それには受肉者の近くに居やすい動物の姿が一番で、海夜はこの色合いでも不審がられない、鳥か何かに変えようとした。けれど本人たっての希望で、大型四足歩行動物になった。
どうやら受肉し慣れた精霊のようで、過去にも同じことを経験しているらしい。
気を取り直し、武尊を見上げて問いかける。
「陛下、怒っていらした?」
皇宮を破壊するなんて、たぶん前代未聞だ。
「あの父が? そんなことがあったら、この国はもっと安定していた筈だが」
「ご安心下さい、姫君。むしろ面白がられておられましたので」
「おもしろ……?」
海夜も立ち上がり、側に来た薔珠の言葉に首を傾げる。
あのひと癖ある國皇の反応を指す言葉としては、流石としか言いようがない。
「……わたしも一緒に謝りたかったのに」
何度もそう言ったのに、二人は頑として受け入れてはくれなかった。それなのに、目を離すと碌でもないとでも思っているのか、壁一枚隔てただけの控の間には連れて来られる。
あんまり意味がないんじゃないかと思うが、顔を出させたくない理由があるようだから、それには従っておこうと思う。深く考えても今の海夜では思考が散らばって、上手く答えに辿り着けない。
「諸侯が立ち並ぶ中で好奇の目に触れたいか。晩餐会の時とは訳が違うぞ」
(……わぁ、そんなに沢山人がいたんだ)
そっと肩を竦ませて薔珠を見上げる。
「薔珠は大丈夫だった?」
「私は父始め、軍の中で叱られ慣れておりますから。……殿下は不遜でいらっしゃいましたが」
若干責めるような口振りなのは、おそらく國皇以外から何かを散々言われたのだろう。
「陛下が武尊を呼び出して叱るなんて初めてだって、虎さんから聞いたから心配していたのに」
そう言うと、武尊は小さく舌打ちした。
虎の余計な口だと思ったようだ。
「叱られる程の距離感もない。今回も、諸侯が煩いから説明しろと呼び出しを受けただけだ」
この父子の間には、深い溝があるのだと感じてはいる。
でも面白がる國皇に内心苛ついている武尊が応答する姿を思い描き、やっぱりその場に同席しなくてよかったのかも、と思い直す。
「そこの青いの。明日の午後には解放者が来るぞ。元に戻れると思っておけ」
話を変えるように、寝そべったままの受肉精霊へと声をかける武尊に、精霊は片目を開けて視線を寄越した。
のそりと緩慢に起き上がり、体を伸ばすような仕草をすると、お行儀よく足を揃えて座る。
「早イナ。構ワント言ウタ筈ダガ。受肉ハ随分ト久シイカラ、モウ少シ楽シンデカラデモ良カロウニ」
「おまえのような大型獣が皇宮内を闊歩するのは目立つ。大人しく還れ」
聞こえてきたのは、ハスキーな少年の声だ。あの薄青金の精霊の声だった。
解放されることに文句をつける精霊なんて、海夜は初めて会った。日本の精霊と似た子達は、受肉してしまうと何が起こったのか呆然として、五感に惑わされてしまう子も多い。それを兄と母が、頑張って解放してくれていた。
二人に苦労をかけたくなくて、小さな頃から必死で受肉の能力操作を訓練してきた。その甲斐あって、十歳の頃にはほぼ無意識に受肉させることはなくなっていたのに、今回は自分の心をコントロールできずに、能力だけが本能的に暴走してしまった。これでは記憶を封じ込めていた時と同じだ。
気をつけなければ、と戒めるように胸の前で固く両手を握りしめると、何を思ったのか受肉精霊はその手に前脚を掛けて立ち上がり、頬をベロリと舐めた。
「ウン、美味イ。黄花・サディルノ女ハ皆美味イガ、其方ハ格別ニ美味イ。言ワレタ事ガアルデアロ?」
「大人しくしていろ。首輪を付けるぞ」
一人納得するように頷きながら言う精霊に、その首根っこを掴んで引き剥がした武尊は、冷淡に宣言する。
薔珠が一定の距離を取りながら慌てて背に隠してくれるが、頰を舐められた海夜はそこを押さえながら驚いていた。
(……触れた。精霊だけど、人に近い時の姿を知っている存在に触られて、平気だった)
確認したくて、再び待てをするように座った精霊の口元に手を伸ばす。
その行動を訝しげに見ていた武尊達と、それを当然のように受け入れる精霊の温度差に気づくことなく、海夜はその毛並みに触れた。
やはり、触れる。
顎を撫でると気持ちよさそうに目を細めるので、そのまま頭をヨシヨシと撫でる。すると、もっと撫でろと擦り寄ってくるので、しゃがみ込み、もふっと抱きしめた。
触れるどころか密着できる。胸のざわつきもなく、むしろ漣だっていた心が落ち着いていく。擦り寄ってくる頭に頬を擦り寄せると、癒されるような安心感がある。
これは何だろう。
どうしてこんな風に感じるのだろう。
「其方、精霊ニ近イダケアッテ、人間ヨリ精霊ノ方ガ安心スルヨウジャノ。暫ク人間ノ輪カラ離レタ方ガ良イゾヨ」
「……人間から離れる……?」
そんな発想、なかった。
意外な言葉をぼんやりと考えることしかできない海夜に、武尊が背後で深くため息をつく。
「精霊どもの棲家にやるつもりはない。……だが物理的でいいなら、人間達から遠ざけてやることはできる」
物理的に?
明日迎えに来る兄と共に、日本に帰るという話だろうか。
何となく抵抗を感じて、精霊の首を抱きしめる腕に力を込める。
「奥宮は精霊除けが施されて、呼ばれない精霊は入れない。ならば奥宮を出ればいいだけだ。場所なら当てがある」
帰れ、という情け容赦のない言葉ではなかった。予想と違う。
ちょっとびっくりして、精霊に抱きついたまま彼を振り返る。
「…………いいの?」
「何が」
海夜の唐突な質問に、片眉を上げて武尊は問い返してきた。
「……日本に帰れって、言われると思ってた……」
「和夜次第だ。三影が大雑把に説明したようだが、おまえの顔を見てから連れ帰るか決めるそうだ」
「………武尊は、それでいいの?」
そう問いかけると、彼は首を傾げながら腕を組んだ。
「おれが決めることじゃない。おまえと、おまえの家族が決めることだ。おれが口を挟んでいい問題ではないだろう」
「……………」
(………、そう、なのだろう。……たぶん)
海夜自身の問題を、海夜が決めなければならないのは当然だ。ただぼんやりと過ごしてはいけないと、去年の秋にここに来た時にも考えた筈。だから、頑張って結論を出さなければ。武尊の言葉に、ちく、と心のどこかで棘が疼いても、それは海夜の甘えなのだから。
でも、日本に帰ることに抵抗を感じるこの気持ちを、どう言語化すればいいのかわからない。わからないから触っていると心地よく、心の波風が均されていく青金色の精霊にますますしがみつく。
その様子に呆れたのか武尊が一つ息を落とし、海夜達のやり取りに精霊は笑った。
「其方、朴念仁ジャノ。言葉ハ力ナキモノカ? 伝ワラヌト? 言葉ニモセズニヨウ判断ツクノゥ? 姫ハ我ガ守ウテヤルニ、其方ハ自分ノ分ヲセイゼイ成スガ良イゾヨ」
何気なく厳しいことを言っている気がして、精霊の顔をまじまじと見る。見返してきた彼は獣の顔つきながら、にんまりと悪戯っぽく笑った。
視界の隅で小さく肩を震わせて明後日の方向を見ている薔珠を捉えたが、それより何より、武尊のまとう空気が不穏に重くなったことが気になる。
おそるおそる肩越しに彼を見上げると、腕を組んだまま左手の指が小さく自身の腕を弾いている。その動きがこわくて息を詰め、勢いよく元の体勢に戻り精霊の首元に顔を埋めた。
(ああ、心地いい。
まるでお布団の中にいるよう)
「精霊一体ごときに任せるほど頭は湧いていない。共に移動するが、準備に半日ほどかかる。その間に移動先の方でも受け入れ体制を整えさせるから、午後まで暫く待っていろ」
内心の苛立ちを押し込めるように、武尊が低く言う。
(え、一緒に行くつもり?)
「でも、お仕事忙しいでしょう? 周りの方にご迷惑掛けちゃうわ」
「やり方は色々ある。皇城に居なければ出来ない執務ばかりではない。編成したての部隊の訓練も兼ねられる。皇城の敷地内の移動だ。何かあれば対応もできるだろう」
「敷地内……?」
どういうことだろう。
別の場所、というから大掛かりな移動になるのかと思っていたのに。
「湖の向こうに皇族の私用の別邸がある。同じように人間の中にいることに問題が出た、過去の貴種皇女の為に建てられた静養所だ。年に何度か皇妃が使っているから、人の手も行き届いている。すぐに使える場所としては最適だ」
初耳の情報に目を瞬く。
湖の向こう側には、軍の訓練場があるぐらいだと思っていた。
でもよく考えれば、あれは皇城の敷地というよりは、軍の施設の敷地と皇城の敷地とを分けるように、境界に存在する場所だった。訓練場と鍛錬場が隣り合い、皇城だけでも広大な広さの敷地なのに、軍の敷地まで合わせると視界に入る山向こうまで行くんじゃないかと思ったこともある。
実際はその山の麓までが軍の施設だと聞いたが、それでも十分広い。
「薔珠大尉、皇女付き近衛連隊の招集をかけろ。湖の館に於いて、訓練を兼ねた実習を行う。午後には護衛対象がそちらへ移る旨も通達しろ」
「承知致しました」
薔珠に指示を出し、武尊はまだ精霊を抱きしめたままの海夜に目を移して言った。
「暫く静かに過ごせ。精霊も遠慮なく寄ってくる場所だが、おまえに悪さする者はいないだろう」
……精霊の中で過ごせる。
日本にいた頃は、薄い存在でしか見えなかった。意識体に近い生物だからか人間の思念が作用して、信仰心も薄れれば彼らの姿も薄くなる。それが少しだけ寂しかったのが、ここでは濃い存在として同じ世界に生きているのだと実感できて嬉しかった。
その精霊達と、過ごすことができる。
考えるだけで水に浸かっていた心がふわりと浮き上がる気がする。
配慮してくれた武尊と、提案してくれた精霊ふたりにお礼を言おうと口を開き掛けた時、控え室の扉の外が急に騒がしくなった。
外には虎と守衛が立っているが、何かあったのだろうか。
薔珠が確認しようと扉に近づいた時、内開きの扉が勢いよく開いた。
大きな音と雪崩れ込んだ人物達に、息を飲んで身体が竦む。それを察して、武尊と精霊が海夜を隠すように前に出たのは殆ど同時だった。
二人の向こうで、虎と守衛が何か言い募っていたようなので、おそらく招かれざる客のようだ。
「ああ、皇女殿下! やはりこちらにおられましたか!! ようございました!」
武尊を飛び越えて伸び上がるように覗き込み、海夜に直接話しかけてくる人物には何となく見覚えがあった。
昨年の晩餐会のことだ。夜のガーデンパーティで薄暗い中顔を合わせた、國皇を中心とした高位貴族の輪の中の一人だった気がする。
武尊が氷の刃のような視線で制し、低く命じている。
「水取伯、入室を許可した覚えはない。控えろ」
そうだ、古い家門の一つだという壮年男性。
立派なお腹周りと雰囲気を醸す、いかにも実直そうな大柄な男性。
濃くたくわえた髭が威厳ありげでいかつく、昔の写真の中の軍人のようだと思った。
水取伯は武尊の冴え冴えした冷淡な声にも負けず、鈍銀色の瞳に赤々とやる気を灯して立っている。
「ご無礼は承知の上。殿下が奥宮から出されぬ故、皆やきもきしておりました。皇女殿下、お久しゅうございます。覚えておられますでしょうか? 絽和・水取伯爵でございます」
伸び上がるように顔を覗かせ、武尊と精霊の背に隠される海夜の顔を一目見ようとしてくる。
覚えてはいる。
けれど沢山の人と一気に顔合わせをした時だったので、何の役職でどんな家族構成だったのかまでは思い出せない。
とりあえず「お名前だけは」と答えると、武尊が更に背に隠すので、完全に彼らの姿は見えなくなった。取り巻きなのか部下なのか、何人か若い男性貴族を連れているのが確認できた。
「どうしてもこれだけはと思い、奥宮へと戻られる前に直接ご奏上申し上げたく、こちらへ参りました。無作法をお許し下され。どうか皇女殿下、これをお聞き届け願います」
必死に言い募る声を聞くと、どうしたのだろうと心配に思ってしまう。
「明後日に、隣国よりお客様が参られます。私はその接待に抜擢されました。その上で、先方が是非にと望まれていらっしゃることがございます。そのご協力をお願い致します」
「水取伯、それは出来ないと断った筈だが。貴公の耳は飾りか」
武尊が無表情に氷のような声で告げるが、水取伯はどうしても伝えようと必死で耳に入れない。重ねるように言い募る言葉は、海夜にとって疑問でしかない内容だった。
「この国の皇女殿下のご接待を受けたい。先方はこれだけをお望みでいらっしゃいます。どうか、この水取の顔を立てると思い、お聞き届け願えないでしょうか」
(………え?
お隣の国からのお客さまって、きっと偉い人よね……? その人が皇女の接待を受けたい?? どうして???)
突如降って湧いた難題に、ぼんやりしている場合ではないのだと呆然とした心地で、その場に立っていることしかできなかった。
お読みいただきありがとうございます♪
ブックマーク等大変嬉しいです。
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