第一話 序 たとえばそれが誤解であっても(表紙挿絵あり)
新章スタートです。
初めましての方も、続き読みに来たよの方も、よろしくお願い致します!
タイトル詐欺にならないように、頑張ります!
がりがりがり、と引っ掻き音が耳に届く。
暗闇の中、小さな四角い画面が青白く光っている。そこから聞こえてくる楽しげな音に唇を噛みそうになる。
(どうしてうまく出来ないの? どうして)
そう思えば思う程、引っ掻き音がひどくなる。
一際力のこもった音が暗闇に響いた時、きれいに剥がされた瘡蓋が手のひらの上に転がった。
(大きな瘡蓋。
もっともっと大きく。
もっときれいに剥がれるように、大きくしなきゃ)
いつの間にか青白い画面のことなんて頭から消えて、どうしたら瘡蓋が大きくなるのか、そんなことに集中し始めていた。
(きれいに。きれいに。
きれいに、みんなにバレないような、大きな瘡蓋を作らなくちゃ。
もっと力を込めればいい? もっと爪が長い方がいいのかな? でもそうすると、部活で不利だ。
刃物? でも切り傷だと瘡蓋きれいに出来ない。やっぱり、引っ掻き傷じゃなきゃ)
ぐるぐる、堂々巡りの思考の中で足の膝ひとつじゃ限界なんだと気づく。
(そっかぁ……、じゃあ、傷増やそうかな)
そう軽く考えて、反対の足の膝に血まみれの指を掛けた。
※※※
前髪を優しく撫でられた気がして、閉じていた目に力が入る。
目を覚ましたいのに、開けられない。
まだ眠い。
(というか、今は朝? 夜?
眠った記憶がないのだけど、いつベッドに入ったかしら?
……あれ、こういうの覚えがある)
数ヶ月前の秋に同じような経験をした。あの時は見知らぬ場所で目が覚めて、混乱したっけ。
指で何度も輪郭をたどるように頬を撫でられて、さすがにくすぐったくて避けるように身じろぎする。笑い声が洩らした時、すぐ耳元で声がしたことに驚いた。
「そろそろ起きないと、鼻を摘むぞ」
(………は???)
聞きたかった声という願望と、ひどい言葉ばかり投げられるという現実が混ざった声が聞こえて、バチっと音が立つ勢いで目を開ける。
目の前に、朝日を浴びた秀麗な顔があった。
右眼の眼帯は相変わらずだが、以前のようなよそよそしさがその瞳の中にはない。黒曜石のように真っ黒い虹彩の中に、神秘的な深い緑が揺らめき、艶めく黒髪は春の柔らかな陽の光を弾く。
何もかも、記憶の中の通り。
無表情なのに不機嫌だと分かるこの人は、海夜の住んでいる日本からは異世界と呼ばれる所にある、黄國という国の第一皇子。
そして、去年の秋に押して押して押しまくった結果、口説き落とされてくれた自分の婚約者だ。
その婚約者が目の前にいる。寝台に寝かされていた自分の目の前に。
(……アレ? えぇと……? たしかまだ、界渡りする日ではなかった筈だけれど……、夢?)
まだぼんやりしていると、婚約者の青年は言った。
「おはよう。––––––それで? この首のところの痕は、一体なにごとだ?」
確かめるように海夜の首筋に指を這わせた婚約者、武尊・キアリズ・黄花・サディルは開口一番そんな風に言った。
それはそれは美しいかんばせで、口の端を意地悪に上げて。
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