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【三章連載中!】花びら姫の恋  作者: 師走 瑠璃
一章 番外編
40/91

秘密の花園

婚約後の、日本でのお話。

幼馴染三人の話です。


 武尊の衝撃の一言に打ちのめされて日本に帰ってきた海夜は、相談した幼馴染から笑顔で渡されたマンガ本を何気なく捲って、目眩を覚えた。


 (ぴ、……ピンク色……っ!)


 絵柄こそ綺麗で可愛らしい少女マンガ風なのに、中身は中年のオジサンもびっくりなんじゃないかと思うような、目くるめく官能の世界が展開されている。


 「マンガアプリでひっそり読むのが嗜みかもしれないけど、このマンガ家さんの絵柄好きだからさ、紙媒体も買って創作活動の応援しておこうと思って。結構面白いよ? 痒いところに手が届くというか。“そうそう、恋愛って行き着く所そこだよね!”って真理を突きつつ、それを綺麗な絵で表現してくれてる感じ。あんたが勉強するには、この辺りがちょうどいいでしょ」


 教室の海夜の机の上に、カラフルな表紙の単行本を重ねて置いて、美鈴は満足そうだった。あまりのことに言葉も出ずに、ひたすら固まる海夜に裏なく笑顔を向けてくる。

 それを横目に、昼食のブリックパックを飲みながら、貴一が一冊開いてギョッとしている。


 「エグ……。結構過激じゃんか。こんなん海夜が読めるわけねぇだろ」

 「そう? 割とソフトな方だよ、この作品」

 「てゆーか、こんなん学校に持ってくんな。品性疑われるわ」

 「はぁっ? 学校のわけわかんない性教育より、よっぽど分かりやすくていい教本だと思うけどっ?」


 美鈴は大変な読書好きで、活字ならジャンルは問わずに読んでいるらしい。

 所謂サブカル系も大好きなのは知っていたが、まさかこんな、海夜には想像もつかないジャンルまで読んでいるとは思わなかった。


 「官能小説でもいいかと思ったけど、妄想力だけ育ててもしょーがねーわと思って、視覚にモロに訴えかけてくるマンガチョイスにしたのに、外野が口出しすんなっ!!」

 「おまっ、外野扱いすんなっ! オレだって海夜のこと心配してんだぞっ!」

 「残念ながら女子の色々わかるのは、女子だけなんです〜」


 二人のいつもの口論が始まって、海夜は意識を飛ばしている場合ではないと我に返った。


 「や、やめて、二人とも。ごめんね、わたしが変なこと相談したから……」

 「いや、お前は悪くないだろ。変なこと言って悩ませたのは武尊なんだから」

 「でも、武尊の言うことも一理あるよ。結婚考えてる彼女が、子どもの作り方知らなかったら、キーチはどう思うよ?」

 「え、そりゃ……。いやでも、純粋なんだなって感心すると思うよっ!」


 幼馴染の女子二人に強い視線を投げられて、貴一は一瞬考えたが、すぐにいい方向に答えを持っていこうとして失敗している。


 「違うでしょ? 子どもっぽいって引くでしょ」


 美鈴の指摘に当事者の海夜は、グサリと胸を刺された。


 「子どもっぽい……」


 まさにそれだろう。

 武尊の質問に真っ白になって答えられなかった海夜に、彼は深ーくため息をついて、無言で海夜を部屋まで送り届けてくれた。そこに下心は一切見えなかった。呆れられたのは明白だ。

 それに焦って、帰国して真っ先に連絡した二人は、無事を喜びながらも海夜がメッセージで相談した内容に、驚いたようだった。


 《あのね、少し急だけど結婚することになった》

 《急だなっ! アホか!》

 《結婚式は、出席できねーよなあ……》

 《それでね、武尊に子どもの作り方知ってるのかって聞かれたんだけど、わたし、授業で習ったことしか知らなかったから、ちゃんと答えられなかった……》


 変わらない幼馴染たちの反応にホッとしながら本題を切り出すと、二人は既読のまま返事をくれなかった。

 しばらくして返ってきた美鈴からの返事は、“明日ね!”というスタンプのみで、貴一からは結局返事がなかった。

 そうして翌日の昼休み、美鈴の暴挙に海夜が固まったのが今ここだ。


 「やっぱり、子どもっぽいって思われたのね……」

 「んー、でも本気でそう思ってたら、こんな痕残さないって」


 美鈴はそう言って、海夜の首の後ろを髪の上から撫でた。

 

 「? アトって?」

 「あれ、気づいてないの? ……やっぱアイツ最低か」

 「……あいつ最低だな」


 二人で納得して低く呟き頷き合っている姿に、何のことかと思ったが、たぶん二人とも教えてくれない。長い付き合いだからわかる。

 そうして一巻目を流し読みし終わった貴一が、それを海夜に渡してきた。


 「これはそんなエグくなかった。お前でも読めるだろ。他のはやめとけ。色々トラウマになるから」

 「あ……、ありがと。きいちゃん」


 わざわざ内容を検分してくれたらしい。

 それを見て、美鈴がチッと舌打ちしたのを、貴一は見逃さなかった。


 「おまえ根性悪いだろ。いきなりこんなポルノ、海夜に見せんな」

 「ポルノじゃない、TL」

 「パッケージ替えても一緒だろ。幼稚園児にポルノ見せるのが、虐待じゃなくて教育だとか言い出しそうだな、お前」

 「幼稚園児と成人年齢の女子を、一緒に考えるほど常識ハズレじゃないし。悪いけどゆっくり性教育してる時間なんかないでしょ、この子に。ぶっつけ本番でもしろって? そっちのがトラウマだろ」

 「お前はこわいからって、拒否られる側の気持ちなんか考えたこともないんだろうが。馬に蹴られて○ね!」

 「おまえが○ねっ! ばーかばーか!!」


 いつも通りの口論になった二人は、いつもなら仲裁に入るはずの海夜が静かで、尚且つ開いた本に突っ伏して震えていることに気づいた。口論をやめて気遣うように覗き込んでくる。


 「海夜? 大丈夫か?」

 「顔真っ赤だよ? そんな過激だった?」

 「やっぱやめとけ。付け焼き刃で知識入れても無理だって」


 貴一は海夜の心の許容量キャパを心配してくれているらしいが、それは耳に入らない。

 海夜は今、女主人公ヒロイン男主人公ヒーローに積年の想いを告げて受け入れられ、イチャイチャラブラブ幸せそうな所までなんとか読み進めた所だった。

 小さな頃から大好きだったお隣のお兄さんに、頑張って頑張って想いを伝えようとする所が自分と重なって感情移入していた所に、いきなりキスシーンが始まったものだからびっくりして本に突っ伏したのだ。


 「……む、むり……っ」

 「ほら見ろ、言わんこっちゃない」


 呼吸困難に呟いて、海夜は単行本を手から離した。顔どころか体全体が熱くて、机に突っ伏す。

 貴一が海夜から取り上げた単行本を覗き込んで、海夜が読んでいた部分を検分した美鈴は大袈裟に声を上げた。


 「冒頭でのぼせるって、どんなだよっ! アンタほんとやばいじゃんっ! 免疫なさすぎ」

 「こんだけエロコンテンツ溢れてる世の中で、どうやればこんな純粋培養されんだ……、オレらが育て方間違ったんか……」


 貴一にまで呻くように嘆かれるがどうしようもない。

 だって。


 「……ヒーローのセリフが……武尊の声で、再生されるんだもの……」


 キスシーンは流石に子供っぽい自分でも受け入れられる。

 それより何より自分でもびっくり仰天したのは、男主人公ヒーローのセリフが脳内で武尊の声で勝手に再生されたことだった。

 恥ずかしさより、驚きで硬直したというのが正しい。

 こんな甘いセリフ、あの無感動男が絶対に言うはずないのに、わかっているのに、再生がやまない。

 こんな、“可愛いから止まらない”だの、“好き”だの“愛してる”だの、“めちゃくちゃにしていいの?”とか……ない。絶対にない。天地がひっくり返ってもない。

 ないのに…っ!


 ゴニョゴニョと口の中で誤魔化すように呟くが、美鈴と貴一は正確に汲み取ったらしい。可哀想なものを見るような目で見られて居た堪れない。

 美鈴の大声を聞きつけて、数人のクラスメイトが海夜の机の上のマンガ本に集まって来ていた。各々手に取り読み始めながら、海夜の意見に同意するクラスメイトもいる。


 「わかる! 感情移入してると好きな人の声とか、推しの声で脳内再生されることあるよねっ!」

 「ええ? そんなことある? 所詮作り物の世界でリアルとか感じる?」

 「感じるよー。マンガとかって疑似体験したくて読むもん」


 同意されて安心した。

 やっぱりそういうことってあるんだ、海夜が欲求不満とかではないんだ、と。

 安易に胸を撫で下ろしたが、貴一には「そんな多くねえだろ、そういうの」と否定されて傷つく。


 「そもそもこんなこと言う奴、信用できんのお前ら。キモくない?」

 「それは男子の意見でしょ。一生に一回くらいは言われてみたい女子は多いんじゃない? ていうか、これぐらいのこと言う余裕を見せてほしいよね」

 「これ、余裕とか関係あんのか?」


 余裕云々はよく分からない。

 でも、こういうことを、好きな人に言われてみたいとは思う。

 だって、現実には絶対に言ってもらえないとわかっているから。こんなことを武尊が言う日が来たら、それは人生が終わる時のような気がする。


 (……でも、そういえば……)


 「私の経験だけでもの言うけど、こういうこと言いたがる奴って割といない? リアルだと私は引いたけど」

 「それは美鈴が冷めてるからじゃん?」

 「いーや。こういうこと言う奴ってさ、状況に酔ってるというか……」


 美鈴が言葉を探すように、うーんと考え込む傍らで、海夜はまだ思い出したばかりで、朧げだった記憶を探っていた。

 思い出すのは二年半前の、武尊たちが黄國に帰る前日の夜だ。帰国直前、それまでの天馬との激しい攻防を物語るような、あちこち包帯だらけで痛々しく傷だらけの武尊に言った。

 一緒に連れて行ってと。

 好きだった。子供の頃からずっと、大好きだったから、離れたくないのだと告げた。

 武尊は驚いて、なんの冗談だと言った。けれど、海夜が本気で告げているのだと悟って優しく抱き寄せてくれた。同じ気持ちだと、答えるような仕草だった。

 そして、だからこそ黄國には連れていけないと、全身で拒絶されているのも感じた。


 “おまえが望むなら––––”


 耳に残っている声は、同時にあの時感じた絶望も思い出させた。


 “おまえが望むなら、どこにでも連れて行ってやりたい。けど、あの国だけはダメだ。あそこはおまえにとって、いい場所にはならねぇよ”

 “そんなのわたしが決めることよ。どうして武尊がそんな風に言うの”

 “黄花・サディルが不幸になってきた場所だからだ。夜花は日本で幸せに生きただろう。だが海花は、黄花・サディルのくびきから逃げられずに死んだ。その軛におまえを巻き込むのは嫌だ”

 

 じゃあ、武尊は?

 武尊は巻き込まれたままでいいっていうの?

 そんなのは、自分が許せない。

 武尊を幸せにしてあげたい。

 ここで離れてしまったら、多分一生会うことはないのに、武尊の決心は揺らがないように見えた。それでも離れたくなかった。

 ずっと、首を横に振り続けた。自分たちだけ無関係に生きていくなんて、できない。


 一緒にいたい。


 聞き分けなくバカみたいにそれだけを主張する海夜を、ひどい怪我で体が痛むはずなのに、彼は力一杯抱きしめてくれた。


 “––––もう、会わない。だから、全部持っていって、全部置いていく。

 ––––おまえはここで、幸せになれ”


 あの時、本当に腹が立ったことを記憶している。

 でも声が出なかった。喉が詰まって言葉にならなくて、抱きしめてくれる胸にしがみつくことしかできなくて、武尊は意地悪だと思った。

 ただ一緒にいたいだけだったのに。

 それを叶えられないと突っぱねておきながら、こんな風に抱きしめてくるなんて、残酷だ。

 だから素直に言葉に出した。


 “……武尊は、意地悪ね……”


 気づいたら、唇が重ねられていた。

 連れて行けないと言いながら、どうして?

 意地悪、横暴、冷血漢。

 心の中であらゆる悪口を言ったと思う。

 でも、振り払う気にはなれなかった。

 キスも初めてなら、男の人に強く抱きしめられたのも初めてだった。初めての人が武尊でよかったと心の底から思っても、あの時は未来がなかった。その先を思い描くことなんてできなかった。

 だから、無意識に人を好きになる気持ちに鍵をかけてしまったのだ。武尊以外の人との未来なんて、いらなかったから。

 耳元に囁かれた言葉が、鮮明に蘇ってくる。



 “許してくれなくていい。でもおれは憶えておく。おまえだけを想っていくから、……だから、おまえは全部忘れてくれ––––”



 記憶を復習さらって思い出した過去に、むずむずと大人しく座っていられない気持ちになってくる。彼にそんなつもりがなかったとしても、あの言葉自体は海夜には十分甘い睦言だった。たとえ身勝手で、腹立たしい内容だとしても。

 そもそも、キスも初めてじゃなかった。

 再会したばかりのあの朝、軽くキスされて憤慨しながら“初めて”と明かした海夜に、“初めて?”と首を傾げたあの時の武尊の、不可解そうな顔を思い出してイラッとする。

 自分ほたるに関する記憶を封じ込めておきながら、ああいう態度で海夜の反応を窺っていたのは、性格が歪みすぎじゃないだろうか。

 ぐ、と苛立ちの拳を握った時、持論を展開している美鈴の声で我に返った。


 「女子の方が一緒に状況に酔える子ならいいけど、独りよがりなんだとしたら相手の空気も読めないアホだよね」


 美鈴が辛口で言い切った持論の内容に、海夜は一瞬で顔が熱くなる。

 あの時、海夜は周りが見えていなかったことは確かだ。状況に酔っていたと言われれば、否定できない。

 そして、海夜の気持ちも知らず日本に置き去りにした武尊の睦言は、確かに空気を読んでいなかったのかもしれない。有能なくせに、身勝手すぎるのだ。


 「そんで気が済んで連絡取れなくなるとかだったら、控えめに言ってクズ」


 (ほんとにその通り……!)


 何もかも否定できない指摘をされているようで、ひっと息を飲む。

 聞いているのが居た堪れなくなって、海夜は両手で顔を覆って俯いた。

 甘い言葉を武尊が言う日が来るのだとしたら、それは海夜の人生が終わる時だと思った。

 実際に海夜は自分の人生に絶望し、武尊の催眠暗示に上書きして自分に暗示を掛けていた。自分から人生を終わらせるつもりで。

 それもこれも、それが最善だと勘違いも甚だしい独断をして関係を断ち切った、武尊というろくでなしが原因だ。


 「美鈴、いつもそんなひどい男と付き合ってんの? 草」

 「かわいそう〜www」

 「かわいそう言うな」

 「あれ海夜がなんか落ちてる」


 美鈴の持論展開を聞いていた面々が、突っ伏す海夜に気づいて首を傾げる。

 幼馴染二人は、海夜が俯きたくなる背景に気づいたのか、顔を見合わせた。

 そうして二人で「ああ……」と納得している。

 

 (うん、納得しちゃうわよね…)


 当事者が一番残念な気持ちなのに、幼馴染三人の内、女子二人が似たような男に引っ掛かっている事実に、男子である貴一が嘆いた。


 「マジお前ら男の趣味悪すぎ」

 「お前が言うな?」


 飲み終わったブリックパックをゴミ箱に捨てにいく貴一の背に、怒りの反論を投げつける美鈴は、一つ息をついて海夜の顔を見直した。


 「こういうマンガでも無理みたいだから、何が一番わかりやすいか考えてみる」

 「ありがとう……、でもわたしが自分で勉強しなきゃいけないから」

 「なになに、海夜がエッチなこと勉強してるの?? ネットにいくらでも転がってるじゃん」

 「ネットだと認知の歪みが起こりそうだから、それはさせらんない」

 「相変わらず過保護だな〜」


 エッチなこと、と言われて否定もできないが、本来の目的はそこじゃない、とは声を大にして言いたい。


 「こんなこと言い出したってことは、海夜に彼氏でもできた?」

 「そこはノーコメント」

 「いいじゃん、教えてくれても。卒業前にワンチャン言ってる男子、まだ結構いるよ?」

 「滝本なんてめちゃ本気じゃん。早めに現実教えてあげるのって、親切だよー」


 笑いながら席を離れていく三人と入れ替わって、貴一が戻ってきた。

 肩の部分をさすっているので、どこかにぶつけたのか。


 「きいちゃんどうしたの? 肩ぶつけた?」

 「や、今そこで滝本とぶつかった。あいつ、謝りもしねーで、ムカつく」

 「キーチがなんかやったんじゃないの?」

 「してねぇよ。朝からなんかおかしいじゃん、あいつ。海夜がなんかしたんだろ」

 「え、わたし?」

 「朝お前と嬉しそーに話してから、明らかに態度おかしいだろ」


 そう言われても、朝の挨拶の後に長く欠席していた理由を訊かれて、体調を心配してくれたぐらいで(短期留学先で怪我で入院してた設定になってた)、特に思い当たることがない。


 「アレかな、海夜の首のに気づいたかな」

 「だろうな。余計な火種撒いて、やっぱ性格悪いよな、武尊って」

 「わざとでしょ。二年以上ほったらかしの癖に、独占欲とかみっともな」

 「お前……、身も蓋もないな……」


 やっぱり辛口な美鈴に呆れながら、貴一が海夜にひそめた声で警告する。


 「アイツのお前への執着って有名だし、しばらく気をつけてろよ。オレか美鈴と絶対一緒に行動しろ」

 「う、うん……」

 「アイツもしつこいね。何回フラれても諦めないし。顔はまぁまぁなんだから、他いけばいいのに」

 「海夜がどストライクなら、諦めつかねーのはわかるから、何とも言えない」

 「執念の眼力。あれじゃ海夜は益々こわがるよ」


 いや、別にこわくはない。苦手ではあるけれど。

 下級生にも同級生にも人気のある滝本が、どうして自分にこだわり続けるのかはわからないけれど、何度交際を申し込まれてもその度にはっきりと断ってきた。

 けれど数ヶ月すると、忘れたようにまた交際を申し込んでくる。

 それを一年生の時から繰り返して、三年の今まで来た。いい加減、これは何かのゲームでもしているんじゃないかと疑っているぐらいだ。


 「とりあえずさぁ、結婚がいつだか知らないけど、慌てないように男女交際ABCぐらいは頭に入れておきなさいよ?」

 「古っ! なんだよそれ、今どきそんなこと言うやついるか?」

 「結婚自体はまだまだ先よ? 三年後の春。わたしがあっちの周辺の国とか、色々勉強しなきゃいけないから」


 美鈴の言葉に暢気に答えたら、二人は同時にこちらを見た。呆れたような苛立ったような表情をしている。


 「そういうことは早く言え!」

 「……いきなり子供の作り方とかいうから焦ったのに、焦り損じゃねぇか……」

 「ごご、ごめんなさい……」


 二人で同じように怒り出すので、慌てて謝る。


 「私はてっきり今年中にでも結婚するのかと思って、めちゃくちゃ慌てたのに」

 「いや、でもアイツの手の早さからいったら、今から知識つけとくに越したことはないだろ。結婚決まった途端、こんな痕つける奴だぞ」

 「三年あるなら、もう直接じわじわ教わってけばいーわ。知らん。私らの苦労を、ちょっとでも武尊が知ればいいんだわ」


 匙を投げたように美鈴が言い放った言葉に戸惑ったけれど、確かにこういうことは自分で解決すべきだったと思い直す。


 「まー、あのすまし顔の皇子サマが海夜に振り回されるの想像するのは、ちょっと溜飲が下がる気はするな」

 「でしょ? 今頃くしゃみしてるね!」


 楽しそうに二人が言うから、海夜はまぁいいか、と一緒に笑ってしまうのだった。



 ※



 「…っ」

 「お珍しい。風邪ですか、皇子」


 就寝前の白湯を準備していた虎が、小さなくしゃみをした主人を気遣うように言うが、そんなわけがないだろうと返された。

 

 「噂でもされているんじゃないか。悪口だろうな」

 「姫君ですか」


 ああ、と納得がいって笑ってしまう。


 「あれの周囲が口喧しいから、その辺りじゃないか」


 婚約者本人が悪口を言うより、その周囲が唆していると考えているようだ。

 仲が良くて何より。



 小さな頃から心配し、面倒を見てきた弟のような存在が、ようやくきちんと幸せを掴める所まで来て、虎は嬉しくて仕方がないのだった。



お読みいただきありがとうございます♪


ブックマークは等変嬉しいです。

ありがとうございます。

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