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【三章連載中!】花びら姫の恋  作者: 師走 瑠璃
【第一章】花びら姫の恋
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第二十四話 初めての二日酔い


 晩餐会翌日の朝。

 激しい頭痛で目覚めて驚いた。海夜にとってそんなことは、生まれて初めてだった。

 次いで朝食を目にしただけで襲う吐き気に、更にびっくりする。

 そしてそれは二日酔いの症状だと聞き、三度みたび驚いた。


 (お酒なんて呑んでない……!)

 

 頭痛と吐き気で酷い体調のまま思い出すのは、昨夕口にした物。

 身体を温められるように女性達が用意してくれたのは、花の香りのするお茶だった。

 あのお茶で酔っ払ったということか。

 その事実に愕然とする。

 酒類なんて口にしたことはないから、自分にどれ程アルコール耐性があるかわからない。

 だとしても、アルコール成分がないお茶で前後不覚になる程酔っ払うなんて。

 それともこの世界のお茶って、アルコールが入っている物も指すのだろうか。





 「そんな訳がないだろう、阿呆か」


 朝から果汁をほんのちょっぴりしか口にできていないのに、容赦なく現実を突きつけるのは例によってキアリズ皇子だ。

 午後になっても治まらない体調不良に苦しんで、寝室の奥で蹲っていた。そこに現れて海夜の無知ゆえの戯言にそんな感想。

 言い方、と言いたかったが体調が最悪で何も言い返せない。


 「なぜ横になっていないんだ? 眞苑達が寝室から出られない程の体調不良だと心配していたが」

 「……横になると胃の位置が偏って、吐き気に拍車がかかるの……」

 「……独特だな」


 楽な体勢を模索して、今は枕を抱きしめて部屋の隅っこで丸くなっている。

 具合が悪いと体を丸めるのは生物としての本能なのに、独特と言われるなんて心外だ。

 体を丸めることに理解はできても、部屋の隅に蹲っていることが不思議で独特、と言われたとは思わず枕に顔を埋める。


 「……この国に来てからずっとこんな調子で、自分が嫌になるわ……。どうしてこうなるのよ……」


 体調不良が心まで挫くとは思わず、つい泣き言がもれた。


 「人間になれたようで良かったな」

 「人間じゃなかったみたいに言わないで」


 湖の魔女に似たようなことを言われたのは記憶に新しい。

 むきになって言い返すと自分の声が頭に響いて、もう一度枕に突っ伏す。

 その様子に気の毒そうに息をついて、皇子は蹲る海夜のすぐ傍に片膝をついた。


 「その体調不良は、おれの確認ミスだ。悪かった」

 「……そんな風に思っていないわ。ただ、どうしてお茶を飲んだだけで、こんなに具合が悪いのかがわからないの……」


 うう響く、頭に響く。

 普通に二日酔いをしている人だって、こんなに症状が重くならないんじゃないだろうか。


 「それについては四道に調べさせた。おまえが飲んだ物に薬が混ぜられていたようだと、今朝報告を受けたばかりだ」

 「……薬……?」


 薬が効きにくい体質なのに、あんな少しのお茶に混ぜられた薬で体調不良って……。

 情けなくてため息が出るが、皇子は別の意味でため息をついたようだった。


 「おまえが貴種だから軽傷で済んだ。亜種があの量を口にしていたら、厄介だっただろう」


 ? 


 ああもう、考えるのが億劫になってくる。

 つまり?


 「普通の酒では貴種は酔わない。酔う為にそれを混ぜて飲酒する貴種がいると聞いたことはあるが、その辺りの知識を流用した者の仕業だ」

 「……えぇと、……お茶にお酒が入っていたの……?」

 「まぁ、そうだ」

 「……アルコールの匂い全くしなかったけど……」

 「おまえが鈍いだけだ。酒に慣れない者が口にして無事でいられる物じゃない。貴種でよかったな」

 「……良くない……」


 今まさに頭痛に悩まされ、治まりつつあるが吐き気に悩まされ。

 

 「おまえが口にする物に、故意に混ぜる犯罪者があの場に同席していたことが一番の問題だ。だからおれの確認ミスだと言った」

 「……でも、お茶を淹れてくれた方は複数いらっしゃったわ……」

 「残念ながら、単独犯ではないということだ」

 「……わたし、そんなに沢山の方に嫌われているの……」


 あの場の人々は海夜の味方ではないだろうが、こんな風に意地悪をされるとは流石に思わなかった。


 「おまえ個人の問題で起こったことではない。背景含め問題が複雑に絡んでいる。まあそんなものは関係なく、おまえの酔いっぷりに好感を持った者は少なくなかったようだが」


 ニヤリと意地悪そうに口の端で笑って、今一番触れられたくないことに遠慮なく触れてくる。

 思わず頭を抱えた。


 「……うぅ、やめてぇ……。思い出したくない……、海より深く反省してるのに……」

 「音痴が晒されたのは気の毒だったな」


 苦笑しながら揶揄うように言われて、更に枕を抱き込む。

 体調不良に気付いた直後、思い出したのがその醜態だった。思い出した途端頭痛が増した。それぐらいショックだった。

 酔っ払っていたとはいえ気分が良くなって歌い出すとか、話に聞く酔っ払いの行動そのものだ。

 いや、酔っ払いだったのだけど。


 「三影を巻き込んで踊っていたのも面白がられていたが」

 「……嘘よ、踊ってないわ……」

 「覚えていないのか。だが踊っていたぞ」

 「……嘘つきは舌引っこ抜かれるわよ……」

 「子供騙しだな」


 言いながら声に出して笑うので、この人何しに来たのと頭にくる。


 「……揶揄いに来たのなら、帰ってくれる? 軽口に乗れる体調じゃないんだけど……!」

 「見舞いに来たんだが、揶揄ったら面白いから揶揄っただけだ。見舞いついでに、美津里から解熱鎮痛剤と吐き気止めを預かってきた」


 そう言って皇子は自らの手に、懐から取り出した瀟洒な意匠のピルケースを乗せた。

 その行動のあまりの意地の悪さに衝撃を受ける。

 午前中の早い時間に足の傷の診察と体調不良ふつかよいを診てくれた医師夫婦は、午後にはよく効くお薬を届けられますよ、と笑顔で約束してくれた。

 そのお使いが、よりにもよってこの意地悪皇子だったのだ。 

 そういう物を持っているならまず真っ先に渡すのが真っ当な人間だと思うのに、苦しんでいる姿を見ても薬を持っている気配すら見せなかったこの根性の悪さ……!

 改めて意地悪さを確認して、何も言えずに唖然と口を開けてしまう。

 皇子は美しい切子ガラスのコップに水差しの水を注ぎ、しっかり持たせた。


 「自分で飲めるか。飲めないなら手伝ってやる。口移しだが」


 (何なのホントに引っ叩きたい)


 そういう方向で揶揄ってくるのはタチが悪すぎる。

 海夜が不慣れであることを分かった上でやっているから、尚腹が立つ。 

 顔が熱くて悔しい。


 (これは頭に来て怒りで赤くなってるんだから、恥ずかしいとかちょっと想像したとかそういうことでの反応ではない、決してない、断じてない)


 無言でピルケースを奪い取ると、そのまま中身を口に入れる。

 確かに飲めるのか、と心配になるサイズの丸薬だった。それに味も匂いも良薬口に苦しを体現している。

 でも根性だ。

 水で流し込んでも完全に飲み下すまでに時間はかかったが、頑張った。その分喉に負担がかかって咽せるけれど。

 何度か咽せ込んでその振動が頭に響いて、また枕を抱き込んで耐えていると背中をさすられた。

 気遣うような優しい手つきに驚き、恐る恐る顔を上げると、なんと隻眼がすぐ目の前にある。


 (パーソナルスペース……!!)


 狼狽しながら心で叫んで、反射的に枕をその顔に押し付けた。


 「……嫌がらせか」

 

 (どっちが!?)


 内心で鋭く突っ込むが、ため息をつきながら枕を払われ前髪を撫でられた。

 そのまま頬をくるむように撫でるものだから、心臓が爆音をたてて動揺しまくる。

 だが皇子は安堵の息をつき、含みなく手を引っ込めた。


 「熱はないな。やはり黄花・サディルの女は想像以上に頑丈だ」


 心配してくれたらしいが、最後の一言って余計よね? これでも女子なんですよ? 

 人外のように言うのは程々にしてほしい。

 海夜の手からコップを取り皇子は立ち上がる。


 「……いくつか昨夕の件に関しての謝罪申し入れがあるが、受け入れるかどうかはおまえ次第だ」

 「? ……謝罪? 何の?」

 「心が広いのか鈍いのか、どっちだ。いくつかの派閥が、おまえに利用価値を見出そうと動き出したということだ」

 「……でも、出自隠してるのに……」

 「だからこそ、乗り遅れたくないんだろう」

 「……いやらしいわ」

 「それが皇宮だ。魔窟だと言っただろう」


 そうだった。

 だから自分の基準を見失わないように、言葉にしておいたのだった。


 「……あなたの味方なら、誰でもいいって訳ではないのね……」

 「味方と言える根拠も乏しいからな。信用に値するか、しないか。それを見極めることは難しい」

 「あなたでもそういうこと言うの」

 「利害関係で成り立っている方が余程わかり易い。……おれとおまえのような」


 ぽつりと足された言葉に、静かに息を詰めた。

 忘れていた訳ではなかったけれど、改めて認識すると心臓が痛むように疼くのは、……なぜなんだろう。

 息を飲んだことを悟られなかっただろうか。

 偽装の関係だということを思い出して、びっくりしていることを悟られるだなんてかっこ悪すぎる。


 「そうね」


 だから、笑顔で軽く肯定する。


 「皇宮って、怖い所ね。わたしみたいな庶民じゃ渡っていくのは無理そう。……早く、家に帰りたいわ」


 本音だった。

 家に帰って日常を取り戻したい。親しい人達に会いたい。


 ––––––本音の筈だ。



 “それを超える何かが、ここにあるとは考えないのかな“



 昨夜の三影の言葉が浮かんでくるけれど無視だ。無視しておかなければ、動揺してしまう。

 何故って、この人の琥珀の瞳に、明るい緑色が混ざっていることを確認してしまったから。

 それからずっと動揺が止まない。

 止まない動揺に言いようもない不安を感じて、考えないように目を逸らし続けている。

 けれど、そうすればする程気に掛かる。


 傷つくとわかっているのに。



 ––––––傷つく? どうして? 何の変化も望まない。それなのに何に傷つくの。



 自分の内側から滲み出してくる声に、蓋をしたくて立ち上がる。

 足のつま先まで痺れるような頭痛に晒されたけれど、それも今は無かったことのように振る舞わなければ、動揺を悟られそうでこわい。

 否定しておかなければ、完全に自分が無くなりそうな恐怖が襲う。


 「……お薬、ありがとう。少し休みたいの。………出ていって」


 腕を組んでこちらを見ていた皇子の手を、そっと押し返すようにすると、柔らかくその手を引かれた。

 体調不良で拒否することはできなかった、なんて言い訳かもしれない。

 磁石に引き寄せられるようにすっぽり腕の中に閉じ込められて、当たり前のように感じてしまう。


 「……眠れるまで傍にいてやるから、……こわがるな」



 “こわいなら、寝られるまで傍にいてやるよ“



 脳裏に花びらと共に言葉が散って、目を瞠る。


 (…………違う)


 この人はあの桜の中の少年じゃないのに、……どうして同じことを言うの。

 わたしは何を忘れてしまっているの、どうして忘れてしまったの。

 滲み漏れてくる記憶の欠片に反応して、瞳が潤むのを感じる。

 大切な宝石を包むように、ふわりと身体に巻き付いている皇子の腕があたたかい。

 疑いようがなく、自分の中には忘れてしまった記憶があるのだと確信して、今はただ瞳を閉じた。



 ※



 「あのぅ、皇家の私的な場に私などが居ても良いのでしょうか」


 落ち着きなく部屋内を見回すのは、士官学校の制服を着込んだ善道ぜんどう公爵家の次男、真道まどうだった。 

 皇女への謁見申込と共にやってきた公爵家の兄弟は、皇女への謝罪が目的のようだ。

 様子を見てくるから一切動くな、と主人に厳命された兄弟と共に、虎は応接室で待機している。

 兄の四道伯の方は普段通り泰然とした態度だ。


 「あのぅ、殿下はご令嬢のお部屋に来ることは茶飯事なのでしょうか」

 「お前煩いな」


 そわそわと質問をする真道に、四道伯は苛ついたように口を開いた。

 途端に、びゃ、と奇妙な音を口から発して真道は居住まいを正す。


 「未婚女性の部屋ですよ、兄上。落ち着けますか? それに殿下は軍の頂点で、私は士官候補生。上官の情報は把握しておかなければ……」

 「士官学校の奴らに情報掴んで来いと言われたんだろう。そんなだから、殿下に“適材適所”と言われるんだ。いい意味じゃないぞ、それ以外に向いていないという意味だぞ、わかってるか?」

 「お言葉ですが兄上、それは目くそ鼻くそを笑うと言うのです。兄上とて、今のお役目以上の部署は向かないでしょう!?」

 「この部屋で汚い言葉を使うなぁ!」


 突如始まった兄弟喧嘩に苦笑するしかない虎は、奥の扉が開き主人が顔を見せたことにほっとしつつ背を正す。

 彼の目つきがやばかったからだ。


 「五月蝿うるさい」


 虫を払うような声音だった。

 地を這う怒りのこもった声に、言い争っていた兄弟も揃って立ち上がり背筋を正す。


 「ここがどこかわかっていての口論ならば、即刻つまみ出す」


 かなりピリピリしている。


 「申し訳ありません。ご令嬢のご様子は如何でしたでしょうか」


 流石に年の功で、四道伯は主人の取り扱いを心得ていた。余計なことは言わず訊ねる。


 「おまえがアレをあの量飲んで無事でいられると思うなら、その質問に何の意味がある」


 四道伯の言葉に不快そうに眉間を寄せた主人は、表情そのままの不愉快そうな口調で切り捨てた。

 隻眼の瞳を眇めて返す言葉は厳しい。隠しきれない怒りが滲んでいる。

 これは相当、皇女の体調は良くないようだ。


 「貴種であり、黄花・サディルであるからこそのぎりぎりの体調だ。亜種であれば確実に冷たくなって発見されている。使用した者にその意識があったかは疑わしいがな」

 「父の普段の使用量より多く盛られたようです。……監督不行き届きで、面目もございません」


 心底後悔する体で、四道伯は頭を下げる。

 その横で兄に倣うように慌てて頭を下げる真道は、飲酒に関しての知識が浅く事態の深刻さへの意識も希薄なようだった。


 「善道公は酒豪で知られている。あの人が酔う為の物を、飲酒経験のない者に使用する時点で悪意ある行為だ。早い内に証拠を揃えて手を打つ」

 「動いてはおりますが、身内ながら用意周到です」

 「手心を加えるな。周囲は徹底的に調べろ」

 「当然です」


 上官と兄との間で交わされる会話に、真道は理解できない様子で確認の為に控えめに手を挙げた。


 「……あのぅ、今話している内容はご令嬢に盛られた薬の話をしている、という理解でよろしいのですよね?」

 「……お前、士官学校で何を学んでるんだ? 話の筋道も読めないのか」


 四道伯の呆れた声に、慌てて真道は否定する。


 「話の全体像はちゃんと分かっているのです! ……ただなぜ我が家が関わってくるのかに、理解が及んでおりません……」

 「……本気で言ってんのか……」


 四道伯は心底困惑したように頭を抱えたが、主人は無表情のまま息をついただけで、真道の疑問に不快を示すことはなかった。


 「疑問を疑問のままにせず、口にできることは伸びる者の条件だ。よく訊ねた」


 褒め言葉を貰えるとは思ってもみなかったのか、真道はぽかりとして、次いで嬉しそうな笑顔を見せた。

 素直すぎる反応に、犬がちぎれんばかりに振る尻尾が見えた気がした。


 「だがおまえのそれは、見える物から目を背けているバイアスだ。自分の姉達の犯した罪に、薄々勘づいていながら臭い物に蓋をしている。直視しろ」


 振り切れていた尻尾が、主人の辛辣すぎる答えにあっという間に下がってしまう。


 「……姉上方ですか……」

 「あの姉の殿下への執着はお前も知っているだろう。ご令嬢……黄花・サディルの姫が一番に邪魔になるのは誰だ。考えなくともわかる」


 青ざめて真道は両手を拳に握り込んでいる。

 わかっていても受け入れられない現実はあるが、十五歳にはきつい事実だろう。


 「立場を明白にしろと言った筈だ。真道、おまえはこの先何を成したいのかよく考えろ。今回の件からおまえは外す」

 「……殿下、お言葉ですが真道も公爵家の一員です。未成年とはいえ甘やかさないで頂きたい」

 「甘やかす。誰に向けてものを言うのか。迷いのある者を排除し、失敗を避ける、それだけだ。真道が迷った結果如何で何が失われるか、考えろ」


 組んでいた腕を解き、主人がはっきりと言い切れば四道伯は黙った。 

 彼としては、公爵家の不始末は身内で決着をつけたい意向もあるだろう。だからこうして、皇女がまだ回復もしない内に謝罪に訪れているのだ。

 その考え自体には、主人も賛同している。

 公爵家の醜聞云々はどうでも、皇女が薬物という名の毒を盛られた事件自体は伏せておきたい。

 それが皇宮に来たばかりの皇女にとって、どんな不利益になるかわからないからだ。

 不安を与えない為、皇女本人には二日酔いであると思い込ませた。

 亜種は死に至ることも多い劇薬なので、飲酒経験のない皇女の身体にはあまりにもきつい効果をもたらしている。

 そんな物を飲酒の度に常用する善道公にも呆れるが、父親の使用量の倍以上を茶のカップに仕込む姉妹にも空恐ろしさを感じる。

 主人の怒りがこれ程目に見えることは初めてで、公爵家の兄弟始め、関わった者達の狼狽も激しい。

 ……主犯を除いて、だったが。


 「では、せめて謝罪を。姉達の非道はどんな言い訳をしても許されるものではありません」

 「無理だな。中和剤は飲ませたが、ようやく眠れるまでに落ち着いた所だ。吐き気が強すぎて横になることもできなかったらしい」

 「……どのような償いをすれば良いのか、私の浅知恵では思いつきません……。あの華奢な方に、それはこくすぎる……」


 後悔して同情するように四道伯が呟くのを、主人は軽く一蹴した。


 「謝罪はいらん。海夜本人にも真実は伝えていない。公爵家から謝罪があったとして、謝罪される覚えはないと言うだけだろう」

 「ですが、このままという訳には。公爵家にも誠意はあります」

 「ならば薔珠そうじゅを借り受ける」


 待っていたと言わんばかりに主人が口にした名に、兄弟は揃って肩を反らせた。

 

 「既に今朝の内に帰還命令を出した。明日には帰還できるという返答も来ている」

 「あいつ、相変わらず仕事早いな……!」

 「薔珠姉上とは年始以来に顔を合わせます。楽しみだなぁ」


 舌打ちせんばかりに忌々しげに呟く四道伯とは正反対に、真道は嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

 この兄弟の反応の温度差が、そのまま善道公爵家三女、薔珠という女性への人柄を物語っている。

 主人が唯一まともに言葉を交わす親戚の女性だ。


 「––––––では、善道公爵家の誠意とやらを、見せてもらおうか」


 わざとらしく勿体ぶった言い方で、主人は公爵家の兄弟が驚き慄く、酷薄で美しい微笑を浮かべるのだった。




お読みいただきありがとうございます♪


ブックマーク等大変嬉しいです。

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