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【三章連載中!】花びら姫の恋  作者: 師走 瑠璃
【第一章】花びら姫の恋
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第十五話 國皇の思惑


 國皇。

 この国の統治者。

 数少ない貴種の一人で、キアリズ皇子の父親。


 お茶を口に運びながら、穏やかに微笑む壮年手前の男性を、海夜は自身もお茶を口に運んでチラリと盗み見る。

 黒い髪、琥珀の瞳。

 傍系だが黄花・サディルだと、皇子に聞いた通りの透き通る濃い琥珀の瞳は、虹彩に海夜の兄と同じ青い色が混ざっている。

 そして。


 (……似てる……気がする。キアリズ皇子に)


 目元の感じとか、艶々の黒髪とか。

 遠目の見た目なら、親子に見えなくもない。

 けれど、それだけだ。

 だって、目が全然違う。

 纏う空気というか、雰囲気が。

 皇子の雰囲気は目の前のこの人よりもむしろ、兄と二人でこっそり見ていた、ホームビデオの中の自分たちの父親に近い気がする。


 「そろそろ観察は終わりましたか、皇女」


 ソーサーにカップを戻した國皇に穏やかな声で尋ねられて、海夜はギク、と肩を竦める。

 盗み見がバレていたらしい。


 「……申し訳ありません。大変失礼を……」


 恥ずかしくなって俯くが、この人は何をしにきたのだろうと考えて、顔を眺めていたのだ。

 海夜の疑問の視線を感じ取ったのか、カップをソーサーごと机に置いた國皇は、組んだ足の上に悠然と手を置き微笑んだ。


 「ご来訪を心より歓迎致します、皇女」

 「あ、ありがとうございます……」


 突如、取ってつけたように歓迎され、咄嗟にお礼を返す。

 考えてみれば、こんな風に直接歓迎されたのは初めてかもしれない。皇子は嫌そうにこちらを見ていたし、すぐにでも帰って欲しそうだったし。

 とりあえず、皇宮の主人である國皇本人には歓迎されているようで、少し安心した。


 「つきましては、貴女にお願いがあるのですが」

 「はい……?」


 お願い?

 こんな、顔を合わせたばかりの人間に?

 でも、こちらも訊きたいことがあるので丁度良かった。

 話をする気があるならば、こちらも質問し易い。

 カップを机に置き居住いを正すと、國皇は待っていたように頷いた。


 「単刀直入に申し上げますと、貴女に皇統の継承権をお返ししたいと思っております。これをぜひ、お受け頂きたい」


  ?


 何だか難しい言葉が並んで、よく理解が追いつかなかった。

 いま何て仰いました?

 首を傾げたまま固まると、彼は重ねるように言った。


 「今の皇権はいびつなのです。正当に継承できる黄花・サディルの女子が国に帰還したのならば、お返しするのが筋でしょう。ご不安はわかります。ですが、貴女をお助けする為の体制は万全に敷くつもりですし、既に動き出してもおります。ご安心を」


 周囲を置き去りに、國皇は自分の言葉に熱くなっていく。空白の頭に、カラカラと言葉が空回りして響いた。


 (何だろう。何だか凄いことを言っている。これって現実?)


 まだ続けようとしていた國皇は、その時部屋に響いた涼やかなベルの音に、ピタリと口を噤んだ。


 「……勘付かれたかな」


 バツが悪そうに呟いて、彼は誤魔化すように再びカップを手に取った。

 取り次ぎに出た眞苑が、慌てて応接室に現れる。


 「申し上げます。キアリズ殿下がお見えでいらっしゃいます」


 今度はキアリズ皇子?

 どうなってるの? ここは集会場??

 事態に追いつけずに固まったままの海夜は置き去りで、國皇は思案するように腕を組んだ。


 「うーん、早いな。聡い子は困るね。悪だくみもできやしない。いいよ、通しなさい」


 國皇は苦笑して鷹揚に頷くが、冗談じゃない。悪だくみなんて、そんなものに勝手に巻き込まないで欲しい。

 ややあって、眞苑の案内で現れた皇子は珍しく息を切らせた様子で扉前に立ち、國皇に頭を下げた。


 「陛下、同席のご許可を賜り、有難く存じます」

 「うん、君も元気そうで何よりだ。地方視察は順調だったと聞いたよ」

 「それは後日、書面にて報告させて頂きます。まずは諸侯の謁見の時間も差し迫る中、皇女の元へ足を運ばれた理由についてご説明願えますか」


 そうして言いながら海夜に目を向けてくるので、反射で首を勢いよく振る。


 (言ってないわ、何もおかしなことは! むしろおかしなことを言われていたんですけど!)


 「まあいいじゃないか。夜花さまの孫姫だよ? 会いたいと思うのは当然だろう?」

 「当然の職務を放棄してまで、今すべきことではないかと」

 「手厳しいね、相変わらず。とりあえず君も座りなさい。話しておくことがある」

 「私からもお訊きしたいことがあります」

 「ならば丁度良かった。二人揃っているなら尚のこと」


 (え、二人って、やっぱりわたしも含まれるの?)


 困惑している内に手を払うような仕草をした國皇に従って、隅に控えていた眞苑と白玖音が応接室を静かに出て行った。

 何が始まるのか。

 不穏な空気に、膝の上に置いた手の平がじっとりと汗をかき始める。


 「おや、座らないのかい?」

 「私を何だとお思いですか。彼女の護衛は私の役目です」

 

 てっきり國皇の向かいに座るものと思っていたのに、皇子は予想に反して海夜の座る長椅子の後ろに、控えるように立った。

 これでは海夜が、皇子を引き連れた主人のように見えてしまう。

 慌てて立ちあがろうとすると、その肩を皇子が軽く抑えて「座っていろ」と静かに言った。

 訳がわからない。“守護者“の役目があるとはいえ、皇宮での立場があるのに。


 「律儀だね。それとも私は敵かな」

 

 悠然と笑んで、國皇は冷め切ったお茶を口に運ぶ。

 その言葉に、皇子はどうでもよさそうに答えた。


 「私をこの役に置いたのは貴方ですが」

 「そうだね。もう六年か。懐かしいな」

 「懐かしがる場面ではありません。本題を」


 (これ、親子の会話なの?)


 刺々しい空気に呑まれて、息を詰めて二人を観察するしかない。

 皇子はとにかく人に対して冷淡だが、父親である國皇にも変わらぬ態度を貫くとは思わなかった。

 奥底に何の感情もないのが窺い取れる。まだ他人である虎との会話の方が、感情があるように見えた。血が通っていたというか。


 「信川里しんせんりの報告後の密談内容を確認しました。何をお考えですか」

 「密談は聞こえが悪いな。内々での話し合いだよ」

 「言い方を変えても同じです。皇女は生贄ですか」


 (えぇ……、何それ)


 皇子が容赦なく問い詰めた内容は、耳を疑うものだった。

 “生贄”なんて不吉な言葉に驚き國皇を見ると、彼は安心させるようににっこりと微笑んだ。


 「怖いことを言うね。私は伝統に則った、昔ながらの皇宮に戻そうとしているだけだよ」

 「そのお考えが愚かです。根本を何も解決できていないのは承知でしょう」

 「それを私ができるのなら、とっくの昔にやっているのだが」

 

 二人とも静かな声音で意見をぶつけているが、漂う空気は不穏だ。

 それに國皇に向かって“愚か”とは、歯に衣を着せなさすぎじゃないだろうか。

 ただ聞いているだけなのに海夜の方が居た堪れなくて、つい「あの!」と口を挟んでしまった。

 当事者を置いてけぼりにしていた状況を思い出したのか、二人はピタリと口を閉じ、揃って海夜を見てくる。


 「あの、わたしもお訊きしたいことがあります。よろしいですか」

 「いいですよ。何なりと」


 やはり鷹揚に頷いてみせて、國皇は促すように微笑んだ。

 これはもしかして、タヌキの類の人物かしら、と疑いながらはっきりと質問を口にする。


 「婚礼衣装用の採寸が、國皇陛下のご指示で始まると聞きました。一体何のことなんでしょうか?」


 それを聞いた皇子も、「何だそれは」と呆れたように口走っている。

 やはり、彼も知らなかったらしい。

 問われた國皇は「ああ、それはね」と組んだ足の上で指を組み、悪戯っぽくひらめいたように笑った。


 「簡単です。貴女に結婚相手を探して頂き、結婚して頂くための準備ということです」


 (殴りたい)

 

 と思ったのは、皇子に続いて二人目だ。

 この親子、結婚を簡単に考えすぎなんじゃないだろうか。


 「この国の皇権は本来、黄花・サディルの女性が持つもの。そして、その伴侶が共に国のまつりごとを担う。これが代々の伝統でした。貴女は市井でお育ちです。政など何もご存じないでしょう。ですから、そこにいらっしゃるだけでいい。やがて相応しいお相手が、次々名乗りを挙げますよ」


 にこりと笑んだ國皇に、何となく胡散臭さを感じる。


 「……わたしは血筋がそうであるだけの、外国人です。それに、ここに皇子がいらっしゃるのに、わたしの出る幕はないと思うのですが。伝統よりも、現在の体制の方が大事ではないのですか?」

 

 政治に疎いのは確かだが、だからこそいたずらに政治を混乱させることも望まない。為政者を突然変更することは、政治的混乱を招くことに他ならないのではないだろうか。

 思ったことを率直に口に出すと、國皇は意外そうに片眉を上げた。


 「貴女は見た目通りの方ではないね。中々辛辣な部分もお持ちだ。黄花・サディルの女性はそういう方が多いと、記録で読んだことはあるが、成程。こういうことか。面白い。……では、もう一つ。この国に、皇子は必要ないのですよ」


 (……は……?)


 理解できずに眉を寄せると、更に面白がるように口元の笑みを深めて、國皇は海夜に視線を定めた。


 「もっと言えば、黄花・サディルに直系男子は必要ない。まあ、私も傍系ではあるが黄花・サディルの男子なので、あまり大きな声では言えないが」


 (……何言ってるの、この人)


 目の前に直系男子だという自分の長男がいるのに、他人事のように“必要ない“と切り捨てて残りのお茶を飲み切っている。

 その、普段通りだとでもいうような姿が逆に異様で、背筋が寒くなった。

 後ろに立っている皇子を振り向くことができない。

 普段からこんなことを父親から言われているのだろうか。だから、あんな他人よりも他人のような会話を交わすようになったのか。

 何も言えずに肩を竦ませていると、國皇は苦笑した。


 「貴女はお幸せに生きてきたようだ。夜花さまの教育は行き届いているようだが、まだまだお若くていらっしゃる。少し周りに目を向けてご覧なさい。見えなかったことが、見えてきますよ」

 「……どういう意味でしょうか」

 「皇子が今そこに立っていられるのは、いくつかの偶然と奇跡のようなものが重なった結果です。そうでなければ、彼は生まれる以前に殺されている」

 「………!」

 「それが今、必要な話ですか」


 息を飲んだ海夜に、さすがに刺激が強すぎると思ったらしい皇子は口を挟んだが、國皇は微笑んだままやめなかった。


 「貴種女性であること、黄花・サディルの女性であること、説明は受けられたでしょうが、そこにある切実さを貴女ご自身は理解できていないでしょう。夜花さまがどのような思いで日本に渡られ、海花さまの死を受け入れられたかもご存じない」

 「––––––陛下。貴方がそれを仰るのは筋違いです。私たちがここに存在することと、あなたの思惑は関係がない。同列に考えられること自体が不愉快です。あなたの過去の罪が、皇女に八つ当たりすることで清算されるとでも?」


 一切の容赦なく、底冷えするような声音で皇子は強く國皇を詰った。

 海夜の為の反撃というよりは、自分を棚に上げた発言をしたらしい父親に、頭にきたらしい。

 ぐっと詰まった國皇に、皇子は追い討ちをかける。


 「あなたの他人任せの態度が、全ての引き金だと何度も申し上げました。私が引きずり出されたのは仕方がないのだとしても、昨日今日ここへ来たばかりの小娘にそこまで立派な口を叩かれるのならば、あなたご自身がまずは手本を示されて下さい。それから、皇家への恨み辛みは黄花おうかみささぎへどうぞ」


 言い捨て口を閉じた皇子に、國皇は少しバツが悪そうに目を逸らした。

 何となくこの親子のパワーバランスのようなものを垣間見た気がしたが、あまり油断のならない人物であることは確かだ。


 「八つ当たりは人聞きが悪いですが、右も左もわからぬ方に話すことでもありませんでした。謝罪申し上げます」


 そう言って目を伏せられて、ひどく困惑する。……素直すぎて。


 「……わたしこそ事情も知らずさかしらなことを申し上げて、大変失礼致しました。お怒りはごもっともだと思います。申し訳ありません」

 「怒りなどありませんよ。これぐらいの意地悪を言う者は、宮中には山のように蠢いています。注意なさい。––––––時に、二人とも」


 (あ、やっぱり意地悪を言われていたのね。ちょっと悔しい)


 後で皇子にさっきの話の内容を説明して貰わねばと考えた時、ふいに國皇が話を変えるように呼びかけてきた。


 「噂が私の所にまで届いているけれど、これはどこまでが真実かな」


 質問ではなく確認だった。

 にこやかだけれど、またしても油断ならない目の奥の光。

 けれど海夜には、何の話だかわからない。


 「? 噂?」

 「……………」


 首を傾げて後ろに立つ皇子を見上げると、彼は思い当たるように大きく息をついた。


 「……本人たちが帰都するより先に、噂の方が届いているのですか」

 「悪事千里を走るというやつだね。情報は錬金術だ。心得ている者は抜け目がないよ」


 (悪事? それはわたしも関連すること?)


 瞬きする海夜に、國皇がさらりと言葉を落とした。


 「皇子が軍施設に女性を連れ込んで、毎晩部屋に入り浸っているとか、そのまま皇都に連れ帰るつもりだとか、色々だね。実際連れ帰って来ているから、皇城の者はそのまま信じ込んだようだよ」

 「!!?」


 今度は別の意味で息を飲んで肩を竦めた。

 今朝までお世話になっていた軍事施設内でのことか。

 確かに発熱で付き添われたり、護衛という目的で同じ部屋に居たりしたけれど……。

 それが噂になっているということ?

 あそこに実際にいた自分が全く知らないのに、国の奥深くに陣取っている人物の方が耳が早いというのは、どういうことだろう。

 しかも何だか、とんでもない内容に誤変換されている。天地が昨日言っていたのはこれのことか、と眩暈がした。

 どう否定すべきなのか、冷や汗のような変な汗が噴き出してくる。


 「皇城の者がどこまで彼女の出自を知っているのか、確認しておきたかったので丁度いいですね」


 慌てる様子もなくけろりと答えた皇子に、(この人、知ってたのね……!)と愕然とした。

 おそらく知っていて放置していたのだろう。この性悪のやりそうなことだった。


 「その前に、噂の方は」

 「ほぼその通りです」

 「ちょっ!?」


 (何言ってるのこの人!?)


 面倒そうに投げやりに答えた皇子に泡を食う。


 (二人きりで部屋にいることに不名誉がどうとか、色々言っていたのはこの人じゃなかったっ!?)


 噂の真偽はともかく、このまま否定されなければ、海夜は確実に人々の中でキズモノ扱いだ。

 顔に上ってくる熱を感じて、両手で頬を押さえて俯いた。その反応が何よりも雄弁に、噂を肯定したとは考えもせずに。


 「…………うんまぁ、そういうことか。でも、私は懐疑的だと思っているよ。君の性格なら尚更ね」


 一度は神妙に頷いた國皇だったが、人を食った笑顔で否定している。何に納得しかけたのか、追求したいような、したくないような。

 とりあえず、ここに疑ってくれる人がいて良かった。偽装結婚の約束がある身としては、安堵すべきなのか疑問だけれど。

 胸を撫で下ろしてはみるが、内心では若干首を傾げる。


 「皇女のことを知っているのは私と執政長官、弟宮おとみや羽咋はくい公の四人だよ。平群へぐり公に知らせる程愚かではないから安心しなさい。そこでの取り決めも、君を含めた関係者のみの知る所だ」

 「……善道ぜんどう公もご存知で」


 皇子の声の調子が微妙に落ちた気がして、チラリと横目で見上げると、考え込むような顔をしている。


 「信川里からの報告時、ちょうど弟宮も皇宮にいてね。あそこは仲がいいから、もう皆知っているかもしれないな」

 「口止めされなかったのは、故意にですか」

 「彼女の瞳を見てご覧。これを隠し切れるものではないよ」

 「公表の可否は大きな差です」

 「どちらにしろ、決定を覆す気はないから皇女にも頑張って貰わねば。君らの仲の真相がどうあろうと、それは瑣末だ。誤差とも言える。だから、明日の歓迎式代わりの晩餐会にはそれぞれでおいで。軽い食事会だから、気負わず人との出会いを楽しむといいよ」

 「聞いておりませんが」

 「言ってないからね」

 「皇女であることを公表させる気はありません」

 「それは君の都合だね。こちらにはこちらの都合がある」


 にんまりと笑んで、國皇は立ち上がった。


 「さて、そろそろ侍従が泣く頃合いかな。行かないとね。明日はよろしく、二人とも。これから楽しくなりそうだ」


 そう言って鼻歌でも歌い出しそうな軽い足取りで、國皇は部屋を出て行った。

 ……嵐のような。

 そんな一言で表現できる一幕に、海夜はどっと疲れを感じて肩を落とした。

 一国の國皇が、あんなにフットワークが軽くていいのだろうか。護衛とかお付きの人とか、そういう人が周りに一切見えなかったけれど。

 とにかく、緊張を強いられたのは確かだった。

 そう思っていると、背後の皇子が小さくため息をついたのが聞こえて顔を上げる。


 「……面倒臭いおっさんだな、相変わらず」


 國皇が出て行った扉を眺めながら、無表情に呟く姿が意外な気がした。

 “おっさん“だなんて、俗っぽい言い方もこの人にしては意外だったが、先程までバチバチやりあっていたとは思えない程、穏やかな物言いだ。

 こちらの視線に気づき、皇子は顔を向けて声を掛けてきた。


 「大丈夫か」

 「いきなり訪ねられて驚いたけど、平気よ。想像していたよりも気さくな方で意外だったわ」

 「あれをよくそこまで好意的に見られるな」

 

 好意的に見ているつもりはないが、嫌える部分も少ない。皇子にやり込められてすぐに怯んでしまう所は、逆に人間味もあるように思えた。


 (ちょっと意地悪だったけど、それはこの人も同じだし)


 考えて、そうだったと思い出す。


 「陛下が言っていたあれは、どういうこと?」

 「あれとは」

 「黄花・サディルに直系男子は必要ないって。普通、皇子さまって大事にされるものではないの? 女系一族だとしても、あんな言い方はおかしいと思うわ。祖母の話もしていたけれど、そもそもどうして祖母は日本に来たの?」


 畳み掛けるように質問をぶつけると、皇子は無表情に黙り込んだ。

 無表情に見えて、実は色々な感情が頭の中を駆け巡っているらしいことも、ここ数日でわかっている。そうでなければ、あんな風に笑ったりできないだろう、と昨日の朝のことを思い巡らす。

 

 「……おまえの辛辣な部分は、そういう見落としておいていい部分をあやまたない所だな」

 「全部繋がっている気がするんだもの、身落とせる訳ないわ」

 「繋がっていると、なぜ思う」


 皇子の指摘に、はたと気づく。

 そういえばそうか。

 直系男子が存在することと、祖母の話は別と捉えるのが普通か。

 でも。


 「なぜかしら。そう思うの」


 首を傾げてそう言い切ると、皇子は深くため息をついた。

 そして、仕事の山を片付けた夜なら、時間を取れるだろうと約束してくれた。




お読みいただきありがとうございます♪


ブックマーク等大変嬉しいです。

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