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大切だと思えるもの


 開かれた扉の中へと足を踏み入れると、そこは真っ暗だった。

 所々、壁に松明があるが、その視界はせいぜい二メートルが限界である。


 ゴブリンが得意なステージという事だ。

 普通のゴブリンならば何の問題もないが、強化ゴブリンで、何体いるかもわからぬ状況ではグレンも慎重にならざる得なかった。


 一応試すが、相変わらず探知魔法は効果がない。

 洞窟は意外と広く、おそらくは人が掘ったものだと考えられた。

 それが余計に厄介で、奴らが紛れる闇の範囲を広くしているのだ。


 突然、闇の中から槍が飛び出してきた。

 グレンは軽く剣で受け流したが、反撃する余裕まではなかった。

 何故なら、攻撃の後で直ぐにまた闇に紛れるからだ。


「うそだろ……?」


 こんなに賢い魔物だったか? と、グレンは少しでも明るくしようと、壁の松明に魔法で更なる炎を与える。

 すると、その拡張された灯りの範囲からゴブリンは逃げて闇に消えたのだ。


 魔法の炎が効果を緩め闇が戻ると、再び奴らは動き出す。

 ──頭がいい! ゴブリン達が戦術を持って動いている事にグレンは驚いていた。


 せめて二人いれば……と考えたが、それは望めない。

 今、この場に来るとしたらアリアくらいだ。しかし、グレンは彼女が来るまでに終わらせたいのだ。




 その後、不利な状況で何とか二体の強化ゴブリンを倒したが。張り詰めた緊張感でグレンは疲弊していた。


 いや、それだけとはいえない。

 疲れているのは体内魔力の不足もある、とグレンは気付いたのだ。


 ルウラの街で〝空気の流れを止める〟等という継続空間魔法を使った事。

 それに次いで〝転移魔法〟や、複数回の〝無駄な探知魔法〟そして、明るさを求めて炎魔法も連発。


 しかも、全てがダイレクトに魔力を消費する〝無詠唱〟で使用していたのだ。

 考えて見れば少し冷静さに欠けた行動だ。


 どうして〝この程度の事〟に僕は熱くなってるのだ? と、ふとグレンは考える。


 これはソティラスの仕事と何の関係もない。

 これまでのグレンは、大なり小なりギルドの為になるから動いていた。


 では今回、この無利益な行動は誰の為なのだ、と言われれば。

 ──彼女の為。と、すぐに答えは出る。


 元々、アリアと接するまでのグレンは〝無感情〟だった。


 売れ残りそうな依頼の中でも、影響力のある人間の依頼や、話題性のある依頼ばかり選んでおり。

 金額が低いだけの依頼や、解決しても喜ぶ者が少ない依頼なんかは本当に〝ゴミ箱〟に入れた事も多々あった。

 つまり〝ドライ(冷酷)〟な男だったのだ。


 故に、あの頃のグレンは〝役立たず〟や〝ゴミ箱〟と呼ばれても気にもならなかった。

 

 ところが、アリアと接してからのグレンは少し変わった、と自分でも感じている。

 何故かと言われればハッキリはしない。


 彼女の裏表のない性格だったり、人を色眼鏡で見ない所。他の冒険者とは違い、利益だけに拘らない所などが目についたからかもしれない。


 そもそもグレンは幼い頃。

 冒険者と、そしてギルドに対して、深い〝恨み〟を持っていた。

 子供ながらリンザールのギルド本部に、単身で乗り込んだ過去がある程である。


 シラルという小さな辺境の村で生まれたグレンは、六歳の時に〝とある事件〟で両親を失った。

 そしてその原因が、当時のギルド本部や冒険者だったのだ。


 しかし、その後のグレンが育ってきた場所は皮肉にもリンザールのギルド本部である。


 それは当時、怒れる獅子となった少年の怒りの全てを受け入れた唯一の存在が、ギルドマスターだったからに他ならないのだが。

 それからもグレンは人と距離を置き、唯一心を許したのは自分を育ててくれたギルドマスターだけだった。


 故にソティラスの活動はグレンにとって、ギルドマスターの為でしかなかったのだが。

 アリアに会ってからグレンは少しづつ変わり、人に対して〝温情〟を抱くようになっていた。


 彼女の行動が人の〝温かみ〟を思い出させてくれたのかもしれないし、彼女自身に何か自分に似たものを感じたからかもしれない。

 それは今でもハッキリとしない。


 ただ……


 ──これでもう二回目か……と、グレンは思う。

 それは自分がアリアの事で冷静さを欠いた回数である。

 リーヤマウンテンで、ゴブリンの首を斬るより先に、彼女を庇い自分が戦闘不能になった事を思い出す。


 しかし、それほど彼女を〝大切だと〟思えている事に気付いた。

 だからこそ、後には引けない。


 サヴァロンが奥にいるなら、始末しておかないと気が済まなかったのである。

 今後の彼女の安全の為にも、だ。



 だが、冷静さに欠けるグレンの一瞬の油断は、背後と正面から同時に襲われるという〝最悪の事態〟を生み出していた。


 チッ……と、らしくない舌打ちをして、グレンは背中を諦めた。

 一撃食らった所で動けなくなる事はない、と。目の前のゴブリンだけを確実に仕留めた。


 しかし。

 予想外に、背後のゴブリンすらも「グゲェ」と変な声をあげて息絶えた。


「あんたも来ていたのか……」


 背後から現れ、ボソリと呟いた男にグレンは驚く。

 坊主頭で、手に握っているのは〝カタナ〟と呼ばれる少し短めで反りのある変わった剣だ。


「ね、ネジイさん? どうしてここに?」

「奴を追っている」


 奴……とは、サヴァロンだろうか?

 ネジイはあまり話さないので、グレンにはよくわからなかったが。


 驚くべきは、彼は暗闇でも平気だった。

 まるで見えているかのように、ゴブリンを斬っていくのだ。

 どうして彼が〝Aランク〟なのかが、相変わらずグレンの中では謎の一つである。


 ネジイが来てからは早かった。

 各々が両端の壁づたいに歩みを進め、次々とゴブリンを始末していくだけだ。

 終いには、暗闇の中を逃げていくゴブリンの足音すら聞こえてきた。


 そのまま暫く進むと、闇の向こう側から不自然な程に明るい光が照ってくる。

 どうやら大きな空間があるようだ。


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