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ポイント

 とにもかくにも、少年が「正気です」と主張するならば諦めて受け入れるしかないだろう。マザコンエルフが異動届を発出して、この少年が「受け入れます」と言えばそれで終わりだ。異動先のシャルに拒否権はない。


 だからこそこの「エルフ皆に嫌われるハーフ」の少年は、今までに十三回も配置転換できたのだ。――いや、今回で十四回目になるのか。

 拒否権があれば、テルセイロの責任者だって劣等種を受け入れていないだろう。


 シャルは目を眇めて、少年の腰元――ベルトに通された万歩計のようなものを引っ掴んだ。くすぐったそうに「先輩のエッチ!」なんてふざけている少年を無視して、その数値を確認する。


「そもそも、今日だってまだ勤務時間を終えてもいないのに……職務放棄して僕について来ても平気なのか? 前々から気になっていたんだが、この半年間でポイントの変動はどうなっているんだ」


 これは魔法のアイテム、「スカウター」。エルフ族にとってはある意味、財布のようなもの――とは言え、交換できるのは基本ダンジョン管理に関わるものばかり――だ。


「――()()()()五百万ポイント……?」

「ちょっとちょっと、失礼ですよシャルルエドゥ先輩。まだ478万2,174ポイントです、鯖を読まないでください」

「どちらかと言えば逆サバじゃないか?」


 シャルは、頬を膨らませて「ぷんぷん!」などと供述している少年の顔をまじまじと観察した。

 特に何か言葉を掛ける訳でもないが、その目には「本物のバカだ。よく見とこ」という、呆れなのか感心なのかよく分からない色が宿されている。

 ただただ珍しいものを見た――と言いたげなのは間違いない。


「現場に配属されて間もない新人が一時的にマイナスになるシーンはよく見受けられるが、半年でこの数字は驚異的だな……アイテムを交換するためのポイントを前借したのか? それとも、ダンジョンのレベルに見合わないモンスターを配置して悪戯に冒険者を殺したか」


 万歩計から手を引いたシャルは、またしてもローブの裾で手指を(ぬぐ)った。少年は照れくさそうにエヘヘと笑いながら、上目遣いで首を傾げる。


「どっちだと思います?」

「僕の予想では両方だ――いや、この上で勤務態度も悪いから三重殺(さんじゅうさつ)か」

「さっすがシャルルエドゥ先輩! 自分のことを理解してくれるのはこの世にシャルルエドゥ先輩だけですよ! 一生ついていきます!」

「とんでもない時限爆弾を投げ渡されて震えているんだが」


 ポイントの減算を食らうのは、基本的に()()()()()本人だけだ。仕事が雑だとか、勤務態度が悪いとか――ダンジョンのレベルに合わない強敵を配置するとか。


 あまりの疲労から、低レベルダンジョンの宝箱に超レアアイテムを入れるミスが起きることもある。

 中に入れるアイテムはエルフ族が生育した薬草から趣味で作った骨董品、神からポイントで購入したレア装備品など、ピンからキリまで様々だ。

 それらは、清掃チームの共有財産として在庫管理されていることが多い。


 だから冒険者が誤ったアイテムを入手したところを見るなり「おい、在庫管理を怠ったヤツは誰だ!? 宝箱にモノを入れる時は二人組でダブルチェックが基本だろうが!!」と、犯人探しが勃発することもある。


 もしもこの少年エルフがそういったミスまで起こしていたとなれば、さすがに個人の問題では済まない。中には、数人のエルフ族がポイントを出し合って交換する高額アイテムだってあるのだから。


「その結果がマイナス五百万……」


 またしても「まだ478万2,174ポイントですよぉ」と細かい訂正が入ったが、シャルは無視した。

 ポイントには前借制度があるため――神から借金する形にはなるが――ありとあらゆるアイテムと交換できる。恐らくその制度を利用して、今までのやらかし分を補填してきたのだろう。


 そこまでしてでも、ダンジョンの転属を望んだ。

 周りのエルフに散々迷惑をかけて、どれだけ嫌われただろうか。身を削ってまで何度も異動したがるとは――シャルはそんなことを考えた。


 しかし、すぐさま先ほどのマザコンエルフの総評を思い出して納得する。


「もしや、「ハーフだから」と正当な評価を得られずに育って(ひね)くれたのか。その点は同情の余地がある」

「……抱き着いても良いですか?」

「却下だ」

「冷たい! 自分シャルルエドゥ先輩が好き過ぎて、くしゃみまで「シャルルエドゥ」になったんですよ!?」

「何を言っているのかまるで理解できなくて、段々怖くなってきた。……そこまで配属先に拘るなら、養成学校を首席で卒業すれば良かったじゃないか。僕のところへ来た新卒は、それで一枠しかないクレアシオンを勝ち取った変わり者だ」


 シャルの言葉に、少年エルフはうっそりと笑って「それも知ってます」と答えた。

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