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2.噂

教室はまだ生徒が全員揃ってないにも関わらず、普段の3割増で騒がしい気がする。


ヒソヒソと話しているつもりなのだろうが、僕を非難する内容が耳に飛び込んでくる。

その内容は……


『巡谷は昔から人気者の幼馴染に嫉妬していた』

『巡谷は以前月夜野さんに告って振られた事を根に持っている』


他にも色々噂されているが、どれも事実無根だ。

噂の怖い所は、一度広がり始めたら止められない。

仮に否定しても逆効果でしかない事を僕は知っている。


盗み聞き……じゃなくて勝手に聞こえてきた話を要約すると、『過去に僕が乃空に告白して振られた。元々幼馴染の人気に嫉妬していた事もあり、好意が一転して憎悪に変わる。理不尽な逆恨みをした僕は、何とか乃空に好きになってもらい、その後に振るという計画を思いつく。困難と思われたこの計画は僕の努力で見事実を結び、徐々に僕を好きになっていく乃空。一方僕はその裏で彼女を作り、ざまぁの機会を虎視眈々と狙っていて、昨日遂に実行した』という話だった。


馬鹿馬鹿しい。普通こんな話信じるだろうか?と言うのが率直な感想だった。

大体僕らの間で告白というイベントがあったのは、昨日の一件だけだ。

こんな話は、親友の遥騎と乃空が来たら流石に否定してくれるだろう。

僕は2人が来るのを今か今かと待ち侘びた。


10分ぐらい経過しただろうか?遥騎が教室に入ってきた。クラスメイトに笑顔で挨拶をしながらこちらに向かって歩いてくる。


「遥騎、おは……」


「時哉、お前の事を見損なったぞ」


親友の今まで聞いた事のない冷たい声が、僕に最後まで挨拶させてくれなかった。


「遥騎、な、何を言ってんるんだよ!?」


「うるせぇ、気安く名前を呼ぶんじゃない。お前なんか絶交だ」


「ちょっと待ってくれよ。どうしたんだよ!?なんでいきなりそんな事を言い出すんだよ!?」


「とぼけるなよ。お前、月夜野さんに告白させて手酷く振る為に今まで優しくしてたんだってな。過去にお前から告白したと言うのはデマだろうが、それ以外は本当なんだろ?お前、人の気持ちを何だと思ってるんだ。お前みたいなクズ、親友でもなんでもねえよ。二度と俺に話しかけるな」


そう言い捨てて、僕の元から去っていく遥騎の背中を呆然と見送る。


嘘をつく時は、真実を少しだけ混ぜると、真実味が増すとかは聞いた事がある。

でも、今噂になっている内容は……ほぼ嘘でしかない。

僕が乃空を振った事だけが真実で、残りは全部嘘だ。

普通ならこれだけ嘘にまみれていたら信じないだろう。


何故、真実だと周りから認識されるのだ!?

僕は混乱してしまい、理解が追いつかないでいた。


そ、そうだ。乃空……乃空はまだ来ないのか!?この状況を打破してくれるのは乃空だけだ。

告白を断っておいて助けてくれは都合が良いと思われるかもしれないが、背に腹はかえられない。


僕は机に伏して、すがる思いで彼女の到着を待つ。

だけど、そんな僕の淡い期待は砕け散る、結局彼女が学校に来ることはなかったのだ……。




休み時間の度に、トイレに籠り時間をやり過ごす。

普段はわずらわしい授業の時間だけが、安心出来る時間というのは皮肉な話だ。


昼休みの間、トイレに篭もるのは気が引けたので、誰も居ない体育館の裏に逃げ込んだ。

食堂で買ったパンと飲み物を手に体育館の階段に腰をおろす。


時間が経ったおかげで少しだけ落ち着いた僕は、事実無根の噂が何故真実のように広まっているのかを考える。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………ダメだ、全然分からないっ!!」


自分で言うのも悲しくなるが、僕は別に特別優秀な訳でもない。

分からない事は、多少考えたところで分からない。

そもそも簡単に答えが出るぐらいなら最初から悩む事はないのだ。


上半身を倒し、仰向けになる。僕の心の中とは真逆で綺麗な青空が広がっていた。

午前中の気疲れのせいか、少し眠くなってきた。ウトウトしそうな所で不意に声が聞こえてきた。


「巡谷君、ちょっといいかしら?」


聞き覚えのない声に呼ばれ意識が覚醒する。


身体を起こし、声のした方を向くとそこに居たのは思いもよらない人物だった。


真っ直ぐ伸びた綺麗な黒髪が風に揺れている。

猫のような目と薄い唇。

笑顔になる事が少ないので、クール系美少女として学校内で人気が高い鳳月有栖ほうづきありすが僕を見下ろしていた。


今まで一度も話した事なんてないのに、僕に何の用があるのだろうか?

もしかして噂の件だろうか?このタイミングだ、それしか考えられない。

こんな人でもあの噂話が気になるのか……僕は警戒を強める意味で彼女を睨んだ。


「そんなに構えなくていいわよ。別に取って食おうとかそんな事じゃないのだから」


「それじゃ聞くけど、君みたいに有名な人が僕なんかに何の用があるわけ?今まで話した事すらないじゃん」


僕の言葉を聞いて、やれやれといった様子で肩をすくめ溜息を吐く彼女。

美少女はこんな些細な行動でも絵になるのか……とどうでも良い考えが頭をよぎった。


「今日、学校に来ておかしな事はなかった?身に覚えの無い噂話とか……」


「君みたいな美人でも噂話に興味津々なんだ。ちょっと意外だね」


やっぱりその話か。この人もクラスメイトと同じで俗物だったのか。そういう感じの人には見えなかったので、人間見た目で判断したら痛い目を見ると言う言葉をふいに思い出した。


「ええ、興味があるかないかで言えばもちろんあるわよ。だってその噂が広まる様に仕向けたの私ですもの」


「へぇ、君があの噂をね……そりゃ興味も………って。へ?ちょ、ちょっと待った!!それって一体どういう事だよ!?あの噂のせいで午前中僕がどんだけクラスで居心地悪かったか」


気が動転した僕は彼女に詰め寄り、肩を強く握りしめてしまった。


「い、痛い!!ちょっと触らないで」


咄嗟とっさの事とはいえ、流石にいきなり肩を掴むのはアウトだ。

僕は、ごめんと素直に謝ると手を離した。


「まぁ、いいわ。今回だけは許してあげる」


そう言って、彼女は不敵な笑みを浮かべた。

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