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17.噂の出処

鳳月さんに起きた話を聞き、何故彼女がこんなにも僕達に肩入れしてきたのかを理解出来た。


ただ、話終わり涙の止まらない彼女に対し、どんな言葉をかければ良いか分からない。

困った僕は、鷺丘さんに視線を送るが、彼女も僕と同じ様に口をパクパクさせて言葉を続けられずにいた。


かける言葉難しいよなそりゃ……他力本願を即座に諦める。

僕は鳳月さんに手を伸ばし、そっと頭を撫でた。

こういう時に必要なのは言葉じゃない……そうやって自分を鼓舞するものの己の無力さを感じ、余計虚しくなった。


「辛い過去を話してくれてありがとう。僕はそんな君に対して偽善なんて酷い言葉をぶつけってしまったんだね。きちんと謝罪させてほしい。本当に申し訳なかった」


そう言って僕は頭を下げた。

彼女は両手で顔を覆っていたので、僕の行動は視界に入らないと分かっていたが、それでもやらなければ気が済まなかった。


「君の行動は、乃空を君の幼馴染と同じ様に死なせたくなかったからだったんだね……乃空を助けてくれて本当にありがとう」


「………ない。………でない」


しっかりと聞き取れなかったが、急に彼女が顔を上げ僕を睨みつけた。

突然の彼女の変わり様に思わず怯んでしまった。


「し、死んでないっ!!勝手に殺さないでっ!!」


「「…………え!?」」


僕と鷺丘さんの声が重なった。

どうやら勘違いしていたのは僕だけではなかったらしい。


「あの…その…えっと…不謹慎な発言をして悪かった。そっか、生きてたんだ。良かった……」


怒りのあまりすっかり泣き止んだ鳳月さんだったが、すぐに暗い顔になる。


「彼は生きてるわ。ただ……一命は取り留めたけど脊椎を痛めてしまった事で自分ではもう歩けないの……」


「そうだったんだね。綺麗事かもしれないけど、生きてて良かったと僕は思うよ」


「あなたが言うと説得力があるわね。ええ、本当に生きててくれて良かった……」


鳳月さんはそう言って、物悲しげな笑みを浮かべる。


「僕には君の悲しみや罪悪感を本当の意味では理解出来てないと思う。でも、本当にありがとう。乃空を……そして僕を助けてくれて」


僕の言葉をきっかけに、鳳月さんは再び声を押し殺しながら泣き始めた。


僕が彼女の為に出来る事はあるのだろうか?

もしも彼女が困った事があれば今度は僕が助ける番だ、そう心に誓った。


どれぐらいの時間が経過しただろうか……。

漸く落ち着いた鳳月さんに、追い討ちをかける様で悪いけど気になっていた質問を投げかける。


「鳳月さん、ごめんね。もう一つだけ教えてほしい事があるんだ。経緯からしても、僕がクズ野郎と言われる様な噂が流れたのは仕方ないと思うんだ。でも、その後に僕を庇う様な噂を広めてくれたのは何故?君は僕を貶めたかったんじゃないの?」


「あなたの前ではあんな風に言ったけど……私は別に広めるつもりなんてなかった。何かがあるのは分かっていたし、そうやって脅しをかけて、後日事情を聞き出そうと思っただけ。登校したら例の噂が広まっていて私だって驚いたわ」


ようやく感じていた違和感の説明がついた。


「やっぱり鳳月さんじゃなかったんだっ!!ほら、私が言った通りでしょ!?」


僕達のやり取りを横で静観していた鷺丘さんが、得意気に言った。


確かに辻褄が合わないとは言ってたけど……明言してたかな?

鷺丘さんの勝ち誇っている姿を見て、ツッコミは無粋だと思い話を戻す。


「てことは、最初に噂を流した犯人は別に居るって事ね!もしかして私と……つ、つ、付き合ってるって噂を流したのも同じ人かも」


犯人って……鷺丘さんって推理小説好きなんだろうか?

吃るぐらい興奮しているのか……すごく楽しそうにしているから、今はそっとしておこう。


「同じ人かどうかは分からないけど、私じゃない事だけは確かよ」


「これで疑問に思っていた事がスッキリしたよ。鳳月さん、知らない所で色々助けてくれて本当にありがとう」


僕は再び頭を下げる。


「好きでやった事だから、気にしなくていいわ。私の方こそもっと上手くやれなくてごめんなさい」


横で見ていた鷺丘さんが、僕達のやり取りに呆れて口を開くまで僕達の謝罪合戦は続いた。

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