14.訪問
コンコンと病室の扉を叩く音が聞こえた。
「どうぞ」
僕の返事を受け、勢いよく扉が開いた。
「ほら、遠慮せずに入った入った」
「し、失礼します……」
お目当ての人が、背中を押され困惑気味に室内に入ってきた。
「来てくれてありがとう」
お礼を言うと、彼女は申し訳なさそうな様子で僕と目を合わせた。
「その、あの、ご、ごめんなさい。私……知らなくて……」
「そんなに畏まらなくていいよ。別にとって食おうというわけじゃないんだし。とりあえずそこの椅子に座ってよ」
ベッドの横の椅子に促す。
「私は外出てよっか?2人で話すでしょ?」
「いいえ、鷺丘さんも居てくれて大丈夫です」
鷺丘さんが退室の意を示したものの、鳳月さんはそれを止めた。
椅子に座ったのを確認して話を続ける。
「えっと、まずは何から話そうか。鷺丘さんから話は聞いてる?」
「大体は……聞いてる……と思います」
「そっか。それじゃ、まずはあの時答えられなかった質問の答えについてだけど……告白を断った理由は病気だったんだ。まぁ、これは当然聞いたよね?」
「…………はぃ」
「今はこうしているけど、難しい手術だったんだ。失敗するかもしれないから乃空には言えなかった。まさかこんな状況の時に彼女から告白されるなんて思わなかったから驚いたよ」
「聞いてもいいですか?何で月夜野さんに言わなかったのでしょうか?」
彼女からの質問は予想通りだった。普通に考えればそこが気になるよな。
「一応先に言っておくけど、笑わないで聞いて欲しいんだ。それと出来れば『こいつ何言ってるんだ?』って目で見ないでくれると助かる」
前に鷺丘さんに話した時の失敗談も含めて先に念押ししておく。
それを聞いた鷺丘さんは苦笑いを浮かべて、鳳月さんは小さく頷いてくれた。
「告白してきた時の乃空の鬼気迫る態度に恐れをなしたんだ。君も見ていたんだろ?付き合ってしまった後に、僕がこの世を去れば後を追うかもしれないって思った。だから言わないという選択を選んだ」
それを聞いた彼女の表情が歪む。
「病気が分かってからずっと乃空に言うか悩んでいた。相手に迷惑がかかるんじゃないか?ってウジウジ悩んでいたら、なかなか言い出せなくて。病気を知った乃空が離れていったらと思うと怖かった。気持ち的にも追い込まれてたから乃空に一度話してしまうと縋ってしまうと思ったんだ。でも一人で抱え込むのも辛くて。あの告白がなければ遅かれ早かれ彼女に言っていたかもしれない」
苦笑とともに本音を吐露した。
あの告白の日に、乃空の僕に対する並々ならぬ気持ちを知った。
そして、僕の優柔不断だった気持ちを吹き飛ばしたんだ。
「ごめんなさい……あなたに事情があるのは分かっていたのに、私は酷い事を言ってしまった」
そう詫びる彼女は今にも泣きそうだった。
「気にしなくていいと言いたい所だけど、僕にはすぐに君を許すなんて言えない。でも、前にも言ったけど、君には感謝している部分もある」
「どういう事ですか?」
「前も言ったけど、君の行動のおかげで乃空が僕を諦めた訳だし。今度は逆に信頼回復に努めないといけないんだけどね!!」
冗談のつもりでおどけて言ったのだが、誰も笑ってくれなかった。
「ただ、なぜ君がそんな事をするのかは考えたけど分からなかった。僕が知りたいのは君はなぜあんな事をした理由だよ」
「…………」
「…………」
「…………」
彼女は僕の質問に答えず声を押し殺し泣き始めた。
きっと簡単には言えない何かがあるのだろう。
僕はそっと身体を起こし、前にやったように彼女の頭に手を伸ばした。
「鳳月さん、君が僕らの事情にあそこまで肩入れるするのはおかしい。君にメリットなんてないはずだ。鷺丘さんから聞いたよ、君が『僕に関わらないで』と言ってくれたと。恐らく……そのおかげで僕に対する露骨な嫌がらせが減ったんだと思う」
「…………」
「その事だけはお礼を言わせて欲しい『ありがとう』」
何が彼女を刺激したのか分からないが、突然彼女は声を上げて泣き始めてしまった。
突然の事に驚いた僕は、彼女が泣き止むまでずっと頭を撫で続ける羽目になった。
一つ気がかりな事といえば、そんな僕の行動を視界に映る鷺丘さんが不機嫌そうに見ていた事だろうか。
出来れば、僕の気の所為であって欲しいと思う。
ふと、『髪は女の命』と言われている事を思い出した。
あまり気安く女の子の頭を撫でるなって言いたいのかもしれないな……。
まずは、いつも読んで下さってありがとうございます。
そして、ブクマ・評価・感想・誤字脱字・ミスのご指摘ありがとうございます。
一喜一憂しながら、励みにさせていただいております!!
↑定型文ですいません
仕事が忙しくて更新が遅れました。
ブクマ外されてなくて凄く嬉しかったです、ありがとうございます!!




