13.お願いがあるんだ-鷺丘爽凪②-
手術が成功したと、彼のお母さんから連絡があった。
本当に良かった……。
これまでの苦労が報われた、これでようやく私の役目も終わる。
もうこれで彼と関わる必要もない。
そう思うと達成感でいっぱいのはずなのに、何故か胸がチクリと傷んだ。
このままいきなり赤の他人と言うのも薄情だ。
どうせ夏休みは補習以外に特にやる事もないし、彼の回復を待ち一度くらいはお見舞いに行こう。
メッセージアプリを立ち上げ、結莉ちゃんに手術が成功したお祝いの言葉を送る。
直ぐに既読が付き、返事が来た。
『ありがとうございます、またお兄ちゃんに会いに来てください』
こちらが今、一番欲しい言葉をくれる。
なかなか気の利く子だ、どこぞの頭でっかちの妹とはとても思えない。
その日は面会出来るようになったら連絡が欲しいとだけ返して、アプリを閉じた。
後日、結莉ちゃんから連絡が来た。
それを受けてお見舞いに行くと、頭に包帯を巻いた彼が迎えてくれた。
経過も順調だとは言っていたものの、術後まもない事による痛みで辛そうにしている様子を見て、面会は短時間で切り上げた。
決して気を緩めると思わず泣きそうになったとかそんな理由ではない。
そう自分に言い聞かせる。
最初は一度だけと思っていたが、結局2、3日に1回の割合で顔を出すようになった。
少しづつ回復をする彼だが、思い悩んでいる様に見えた。
思い切って理由を聞いてみたが、曖昧に濁すばかり。
こういう所は、全くもって男らしくない。
イライラした私は、彼が病人という事も忘れて怒鳴りつけてしまった。
するとようやく観念したのか口を開いた。
「前は自分の事で精一杯だった。鷺丘さんのおかげで、病気なんかに負けないと強く思えるようになった。本当にありがとう、改めてお礼を言うよ」
改まって言われると、正直照れる。
「べ、別にいいわよ。親から頼まれてただけだし。それに、これでもう変態の面倒を見なくて済むと思うと……思うと……」
あ、マズイ……と思った。込み上げてくる涙を一生懸命耐える。
別に彼の事が好きな訳じゃないのに……。
私は昔から同性に嫌われていた。
理由は本当に下らない嫉妬というものだ。
私が男子と話すだけで嫌われる。
自分が好きな人が私を好きだと言うだけで、仲間外れにする。
私の心はすり減り、いつしか友達と言うものを求めなくなった。
だから私は馬鹿なふりをして、軽い女を演じた。
あんな見た目をしているから仕方がない……そう思われている方が楽だったからだ。
特定の人と付き合えば解決したのかもしれない。
だけど、そんな私に近づいてくる男は、見た目だけで『軽い女』だと判断するよう『クズ野郎』ばかりだった。
私にはたくさんの知り合いは居ても友達は居ない。
それでいいと思っていた、彼に会うまでは……。
私以外の子を好きな人、親同士が知り合い、その安心感が私の纏っていた仮面をすぐに取り去った。
カッコよくもないし、自分本位で、決断力もない。
知れば知るほどダメな所が見えてくる。
それでも、彼と過ごす時間を楽しいと確かに感じていた。
その時間ももうこれで終わる……。
「そ、それでさ……」
考え事に夢中になり過ぎていたようだ。
ハッとなり、急いで彼の話に耳を傾ける。
「僕、学校行っても評判は地に落ちたままじゃん?それは自分でどうにかするしかないからいいんだけど、ちょっと気になる事があって」
いいのかよっ!?
彼のあっけらかんとした態度に溢れ出しそうな涙が一気に引っ込んでしまった。
「鷺丘さんが前に言っていた噂の整合性がつかないって話さ?あれがずっと心に引っかかってるんだ」
「それは私も気になっていた……」
「それで、あの日の事を思い返してみたんだ。ある程度話の流れは前に言ったと思うけど、しっかり説明出来てない所もあったんだ」
私は黙って頷く。
「あの日の彼女はさ?どこか様子が変だった気がする。なんて言えばいいのかな……僕に自分を重ねてるっていうのかな?なんかそんな感じ」
「何それ?意味分からないんだけど」
「うまく説明出来ないんだけどね。ただ、『中途半端な理由で振るな、そんな事されたって諦められない。徹底的に嫌われるぐらいの事をしろ』みたいな事を言われた。ぶっちゃけ徹底的に嫌われる必要は無いと思うんだよね。何で彼女はこんな事を言ったんだろう」
「…………」
話を聞いても、余計なお世話としか思えない。
大して知りもしない他人の恋愛に口を挟むとかどうかしている。
でももしも、こう言わざるを得ない理由が彼女に存在すれば……。
だが、私達がここで考えた所で答えは見つからないだろう。
「まぁ、その後色々あってね。最終的に頭に血が上った僕は『好きな幼馴染を諦めないといけない気持ちが分かるか?お前みたいな偽善者に何が分かるんだ』みたいな事を言っちゃったんだよね、ははは……」
バツが悪いとばかりに笑って誤魔化している。
「やっぱり謝った方がいいかな?」
そんな事を知るかっ!!いちいち私に聞くんじゃない!!
彼が手術していなければ、私は間違いなく手が出ていた。
「知るかっ!!」
「そうだよね…ははは……」
そう言って笑っていた彼が急に真面目な顔つきになる。
「鷺丘さん、お願いがあるんだ。鳳月さんと会えるように……段取りつけてもらう事って出来ないかな……」
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