12.負けないで
彼女に全てを話したあの日からあっという間に時間が流れた。
僕に対する嫌がらせは、さらに酷くなっていた。話しかけても無視、僕に聞こえる様に悪口を言う。
これぐらいであれば我慢出来た。
机の上に花瓶が置かれていた時は、流石に傷ついた。
だが、悲しい事ばかりではなく嬉しい事もあった。
見かねた一人のクラスメイトが、そっと席を立ち僕に気づかれない様に片付けてくれようとした。
廊下を出た先に僕が居て、彼はびっくりした様子だったが何も言わず歩き去っていった。
思わず涙が出そうになるぐらい、彼の気遣いが嬉しかった。
鷺丘さんと付き合っているという噂は、既に本人が完全否定している。
にも関わらず、今回の嫌がらせが収まる気配を見せない。
収まらない理由としては、僕達が一緒に昼休みを過ごしているのも原因の一つだろう。
一度、彼女から距離を置こうと提案があったけど、それは僕が拒否した。
僕を害する人達に負けたくないと思ったからだ。
花瓶の件と鷺丘さんの優しさのおかげで、僕は少しだけ強くなれたと思う。
期末試験も終え、入院の日がいよいよ明日に迫っていた。
時折、乃空からの視線を感じたが、今に至るまで接触はない。
そして変わらず乃空の側には遥騎がいる。
僕のポジションはもうないと、二人から言われている様な気がした。
多少強くなれたとは言え、そんな二人を見るのは辛い。今日も、昼休みになると鷺丘さんの待つ屋上へ真っ先に向かう。
「お、来た来た。先に食べてるよ〜」
「鷺丘さん来るの早かったね、僕も直ぐに教室出たんだけどさ」
「そこはほら……アレだ」
そう言って目を泳がせる。
「また、途中で授業を抜けるかサボったんだろ……」
「ひゅ〜ひゅ〜ひゅ〜」
「あのさ……口笛って、声を出すものじゃないからね!?」
そう……彼女は口笛が吹けない。
こういうおどけた態度を自然と出来る性格が羨ましいと思った。
「もぅ、そういうツッコミとか全然求めてないから」
「ごめんごめん」
拗ねてますとばかりに頬を膨らませて抗議するので、素直に謝っておく。
「でさ、明日から入院だよね。準備とかもう終わってるの?」
「うん、流石にそれは終わってるよ」
「そっかそっか。手術前は病室って大部屋?それとも個室?」
「個室の予定だよ。それがどうかした?」
「気が向いたら顔出しに行くから。お菓子とジュース準備しといて」
準備しておけと言うぐらいだから、面会にでも来てくれるのだろう。
お菓子を催促するのも、本人は照れ隠しのつまりだろうと知っているから思わず笑ってしまった。
「そう言えばさ?僕のクラスの男子に聞かれたよ。お前と鷺丘さんはどこまでいってるんだっ!?って」
「ぶっ……!!」
それを聞いた彼女は飲み物を僕に向かって吹き出す。
「汚っ!!じゃなくて、大丈夫!?」
「ごほっ、ごほごほごほっ」
むせている彼女の背中を擦る。
「ごめんごめん、流石にそんな事聞かれてるとは思わなくて。それで何て答えたの?」
彼女からの問いに、僕はしたり顔で答える。
「そりゃもちろん、ありのままを伝えたよ。もちろん『最後』までって」
「はぁ〜!?私と君がセッ…、エッ…、その、とにかくそういう事はシタことないじゃん!!何でそんな誤解される様な事を言ったの!?それは私でも流石に怒るよ」
派手な見た目の割に、彼女はそういう事に耐性がない。
あまり揶揄からかうのも悪いと思い、早々にネタばらしをする。
「こないださ?二人で駅に居た時に、見られてたみたいで」
「え!?もしかして、君がパパにお礼を言いに行った日の事!?最後までってもしかして……」
「うん、『終点』までって意味だね」
彼女の顔が恥ずかしさから真っ赤になる。
僕はそれを見てニヤリとした。
「ね、嘘は言ってないでしょ?」
「君さ、性格悪いって言われない?」
「そうだね、『クズ野郎』って良く言われるよ」
そう言うと、2人で顔を見合わせて笑う。
これぐらいの軽口が叩けるぐらいにはなった。
急に真顔になった彼女が小さな声で言った。
「負けないでね……」
「うん……頑張ってみるよ」
僕が入院すると、彼女は約束通り本当に面会に来てくれた。
冗談だとは思っていたが、念の為お菓子とジュース準備しておいて正解だった。
その後も彼女は足繁く通ってくれ、日によっては結莉と鉢合わせる事もあった。
妹が鷺丘さんに対して終始緊張していたのが横で笑っていたら二人から怒られた。
妹に『あんな可愛い人とお兄ちゃんが友達とか有り得ない』とか言われたけど、それって何気に僕に失礼ではないだろうか妹よ……。
そんなこんなで入院期間は、あっという間に過ぎ去っていった。
手術前日の夜、不思議と恐怖はなかった。
もし僕が手術の後も生きてたら……この恩は必ず返そう。僕は改めて誓いを立てるのだった。
沈んでいた意識が少しづつ覚醒してくる。
ああ……どうやら僕はまだ生きる事を許されたらしい……。
彼女は喜んでくれるだろうか?
そんな事を思いながら僕は再び意識を手放すのだった……。
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