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5/11

飛鳥は雪に物申す。あ、お礼?

翌日。

集合時間の20分ほど前に噴水前に着いた。流石に姫様はまだ来てないかな。ちょっと速く着き過ぎちゃった。昨日来られるってメールが来てからは本当に嬉しかった。けど楽しみすぎて全然寝られなかったのは彼には内緒だ。


私が何故これほど楽しみにしているかというと、単純に姫様と一緒にいるのが嬉しいというのもあるのだが、一番はやっとあの日のお礼が出来るから。




去年の春、怜奈と買い物へ行くために今日と同じ場所で待ち合わせをしていた。先に着いた私がここで待っていると、やたらとチャラついた男二人が近づいてきて、声を掛けてきた。所謂ナンパというやつだった。

断って携帯を見ようとしたけど、男達はしつこく誘ってきて、それでも断り続ける私に痺れを切らしたのか、強引に腕を掴んで連れ去ろうとしたのだ。抵抗したけど流石に力で男に勝てなくて、周りの人達も関わりたくないのか見て見ぬふりをしてた。


もうダメかもって思った時、彼は来てくれた。


「何してるの? 嫌がってるけど」


とても透き通っていて綺麗な声だった。


「あん? なんだお前」

「なんか文句あんのか?」

「だから、嫌がってるよねって。止めてあげなよ」

「おいおいガキ、俺らはあくまで優しく連れて行こうとしてんだぜ?なぁ」


男は私に聞いてきたけど。


「そんなわけないでしょ! お願い、助けて!」

「うん、わかった」


そう応えると、彼の背後からいつのまに来たのか、黒服を来た男二人が、ナンパ男達を取り押さえたのだ。


「いででで!! な、なんだお前らは!?」

「ま、やるのはボクじゃないけどね」


テヘッと舌を出して彼はふざけてみせる。と、その隣に親友の怜奈が突然やって来た。


「そのまま連行しなさい。後のことは好きにしていいわ」

「って、怜奈!? いつのまに」

「ごめんなさい、飛鳥。少し道に迷ってしまって。彼に案内して貰っていたのだけど、着いたらあなたが連れ去られそうになっていたから驚いたわ」

「そ、そうなんだ。・・・あの、助けてくれてありがとうございます。本当に助かりました。」

「いや、さっきも言ったけど、実際ボクがやったわけじゃ無いし。お礼なら彼女と黒服さん達に言ってあげて」

「いえ、あなたがいち早く気づいてなかったら危なかったわ。だから素直に受け取っておきなさい」

「そ、そう・・・じゃあ、うん。どういたしまして」


頬を掻きながら少し困ったように言った。明らかに変装しているからか、少し分かりずらかったが、かなり可愛い容姿をしている。なんだか不思議な雰囲気もあるし、もしかしたら有名人だったり? だとしたら目立つのはよしとしないのかも。


そこまで考えたところで、彼がそろそろ行くよ、と切り出した。


「あ、ちょっと待って!」

「うん? なにかな」

「えっと、その、な、名前、教えてくれませんか」

「・・・あー、そうだなぁ」


また困らせてしまっただろうか。そう思ったが、彼は私の近くに来て、耳元で言った。


「ボクは天音雪。一応歌手をやってるんだ。今日はお忍びだから、この事はみんなには内緒ね」

「え、天音って・・・」


再度聞く間も無く彼、歌姫こと天音雪は去っていった。


「飛鳥?・・・どうかしたの?」

「・・・・私、とんでもない出会いをしたかも。っていうか」

「ていうか?」

「あ、ううん、なんでもない!それより怜奈、速く買い物行こう!」


誤魔化すように私は速足で当初の目的地へ行くのだった。




そこまで思い出したところで、姫様が向こうからやってくるのが見えた。とはいえ声を上げるわけにもいかない為、大きく手を振ってこちらの方へ誘導した。


「ごめん、おまたせ」

「ううん大丈夫。私もさっき来たばかりだから」

「あはは、そっか。というかボクだってよくわかったね。変装してるんだけど」

「ふふ、だってその変装、去年と同じなんだもん」


「そうだっけ?」と言って自分の格好を見渡す姫様。そんな様子も可愛い。


「それじゃあ姫様、早速これに着替えてね」


そう言って服が入った紙袋を渡す。


「これは?」

「えへへ、とっておきの変装服だよ! これなら姫様だってバレる事はないはず!」

「は、はぁ。じゃあ着替えてくるから、ちょっと待ってて」


姫様は紙袋を抱えてトイレへ向かった。


「ふっふっふ。いやぁ楽しみだなぁ」




10分後、ようやく着替え終わったボクは若干の不満を抱えながら飛鳥の元へ戻った。


「あ、お帰り。・・・・うん、やっぱり私の目に狂いは無かった。姫様ちょー可愛い!!」


そう、今ボクは女装している。ふわっとした白のブラウスにドット柄の紺色のスカート。靴も紺色のヒールと徹底しているのだ。


「これ、わざわざ用意したの?」

「うん。と言っても私の服なんだけどね」

「・・・え」


つまり今飛鳥の服をボクが着ているということ?そう考えるとなんだか気恥ずかしくなってきた。


「あ、大丈夫だよ!ちゃんと洗ってあるから!」

「いや、そこではなくて・・・・まぁいいか」


気にしすぎてもかえって申し訳ない。そう割り切ることにした。


「それじゃあ早速行こ、姫様」

「その前に、今日はその姫様って呼び方、やめた方がいいかも」

「あ、そっか。それでバレちゃったら変装の意味ないもんね。けどどうしよっかな」

「普通に名前でいいと思うけど」

「じゃあ・・・・雪?」

「うん、それでいいよ」

「・・・・えへへ。じゃあ雪、改めて、しゅっぱーつ!」


そんなこんなでショッピングモールの中に入ると、オープンしたばかりというのもあってか、人がたくさんいてとても賑わっていた。


「ほぇー、すごい人だね、雪」

「さすがに多いだろうね。はぐれない様にしないとね」

「そだね、それじゃ気を付けながら行こっか」


そうしてボクたちはモール内のいろんなお店を周った。色んな種類のお店が目白押しのため、全部は回り切れそうにないが、目一杯楽しんだのだった。


「・・・・ふぅ、飛鳥、ちょっと休憩しない?」

「そうだね。じゃああそこのフード店で休もうよ」


お店に入り適当に飲み物を注文した後、ボクたちはモールについて話し合っていた。


「それにしてもほんとすごいね、ここ。何でも揃ってるって感じ」

「確かにね。元々結構栄えてる街ではあったけど、このモールのおかげでさらに繁盛しそう」

「ふふ、いつかここで雪もライブとかやったりしてね」

「まあそれならそれで楽しそうだけど」

「あはは。・・・・あ、あのね、雪」

「うん?」


なにか言いずらそうにしている飛鳥。不思議に思って見てみると、少し頬を赤らめながら小さな袋を取り出した。


「こ、これ、受け取って欲しいの!」

「・・・?何が入ってるの?」


言いながら袋を受け取り開けてみると・・・中身は銀色の輪の中に緑色の宝石が組み込まれたネックレスだった。


「あ、きれいなネックレスだ。どうしたのこれ」

「さっきコッソリ買ってきたの。雪に渡したくて」

「ボクに?」

「うん。あのね、去年の春に私を助けてくれたでしょ。だから、遅くなっちゃったけどそのお礼ってこと」

「去年・・・あ、ナンパの時の。でもお礼ならその時に言ってくれてたと思うけど」

「それだけじゃダメ。ちゃんと形にしたかったの・・・受け取ってくれる?」


不安げに上目遣いでそう聞いてくる飛鳥。そんな飛鳥を見て、可愛いなと思ったのは秘密だ。


「うん、わかった。じゃあ受け取っておくね」

「あ、うん!・・・あのね、あの時は本当にありがとう!今でもずっと感謝してる」

「・・・うん、どういたしまして」


そう言うと、ボクたちは同時に笑いあったのだった。


日が傾き始めたころ、ボクのタイムリミットが近づいていた。


「っと、そろそろ帰らないと、夕にまた怒られちゃな」

「あ、そっか。これからお仕事なんだっけ」

「うん。だからもう行くね」

「雪、今日は付き合ってくれてありがと!ほんとに楽しかった!」

「ふふっ、ボクも楽しかったよ。あ、服は洗って来週返すね」

「別にそのままでもいいのに」

「ダーメ、ちゃんと洗って返します」

「ちぇ、まぁ仕方ないか」

「なんで残念そうなの・・・」


そんな話をしながら、朝の噴水前まで来たところで別れることに。


「じゃあまた来週ね」

「うん、またねー」


ボクたちは手を振りながら帰宅するのだった。




良かった、受け取ってくれた。

雪と別れた後、家に帰るなり先ほどのことを思い出していた。


「・・・えへへ」


嬉しい気持ちでいっぱいになった。自分のプレゼントで喜んでくれるのが、こんなに嬉しいことなんだ。あるいは雪が相手だからかな。


「けど、やっぱり一つだけ、言えなかったな・・・」


ネックレスを渡した後、あの日のお礼とは別に伝えたいことがあったのだが、どうしても一歩勇気が出ずにいた。


「けど、まだチャンスはあるはずだし。うん!がんばろう!」


――――いつかこの気持ちを、雪にちゃんと伝えられるように。


そう決意する飛鳥だった。

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