日本で超有名なあの歌姫、実は?
新たに書き始めました。
いわゆる学園ラブコメ系は初めて書きますので、不慣れですがよろしくお願いします。
「「「「ワァァァァァァァ!!!!!!」」」」
まだステージに立っていないというのに、一万五千人もの観客はすでに大きな歓声を上げながら、ボク――天音雪の登場を今か今かと待っている。そんな様子をステージ裏から覗き込みながら、今日はすごいなぁとのんきに思っていた。
「雪、そろそろ時間よ。準備はいい?」
「もちろん、いつでもいいよ」
ボクに声を掛けてきたのは、専属マネージャーの有坂夕。セミロングの黒髪をポニーテールにし、少し気の強そうな黒い目をした美人なお姉さんだ。
「ふふ、さすがにこれくらいじゃ緊張なんてしないかしら?」
「いやぁ、そうでもないよ。これでも心臓バクバクしてるしね」
実際緊張している。失敗しないかとか観客が盛り上がらなかったらどうしようとか、そんな考えは本番になるといつも抱いてしまう。けどそのたびに思うのだ。自分の歌を楽しみにしてくれている人が今、これだけ集まってくれている。皆が自分の歌が好きなのだと。ならば自分も目一杯楽しもうと。すると自然と緊張がほぐれ、最高のパフォーマンスを発揮できる。だから今日も。
「今日もたくさん楽しんでくるよ」
笑いながら夕に言って、ボクはステージに上がった。
4月1日。
今日は始業式と新入生の入学式の二つの行事がある。ボクは仕事柄、基本的に学校には最低限の日数しか登校しないだが、さすがに始業式から休むのはいかがなものかということで、今日は制服を身に着けて登校していた。
学校近くに来ると、後ろから聞きなれた声で呼ばれた。
「雪、おはよう!」
「おはよう、姫様」
「うん、おはよう二人とも・・・それはそうと美乃梨、その姫様はここではやめてって言ったじゃん」
ボクに挨拶したのは親友の福谷駿介と、その彼女の有坂美乃梨。二人はよく一緒にいることが多く、学校
ではいろんな場面でボクを助けてくれたりする、とても優しい性格の持ち主だ。
「え~、でもみんなもそう呼んでるし、別に違和感ないじゃん。実際、髪の色に因んで“銀の歌姫”って呼ばれてるし」
「うーん、仕事のときならそれでもいいけど、やっぱり普段はちゃんと名前の方がいいな~」
「はは、まあ雪の場合、姫ってわけじゃないからな、ある意味」
「・・・そこなんだよね、結局」
実際問題、自分を知る周りの人たちが自分をどう思っているかとても気になる。というのも、ボクはいつも「美人だね」とか、「将来いい嫁さんになる」とか、他にもよくそういう誉め言葉をもらうのだけど、それって冗談で言っているのか、それとも本気なのかが分からないのだ。
「いっそテレビなんかで言ったらどうだ?」
「・・・それ、初めて番組に出たときに言ったんだけどなぁ」
「あれ、まじ?」
「あはは、覚えてないかも、ごめんね」
二人の反応にボクはため息をついた。どうせそんなことだろうと思っていたけど。
そうこうしているうちに校舎の中へと入り、クラス表を見てみると、ボクと駿介、美乃梨は同じクラスだった。
「お、やりぃ! また同じクラスだな」
「ふふ、というわけで、今年もよろしく!」
「ん、よろしく」
嬉しそうにする二人を見つつ教室に入ると、すでに何人かのクラスメイトがいた。すると。
「あ、見て見て! ほんとに歌姫様だ!」
「やったー!! 同じクラスになれるなんて、私はなんて恵まれてるの!?」
「よっしゃぁぁぁ!! 俺この学校入って良かったぁぁぁ!!」
「ハァ、ハァ、ひ、姫様。うひひ」
みんながボクと同じクラスになったという事実に大層喜んでいた。・・・一人危ないのがいた気がするけど。
「えっと、みんな、今年一年よろしくね」
「よろしく! 姫様!」
「おう! 楽しい一年にしようぜい!」
「うぉぉぉぉ!! 姫様が俺に微笑んでくれたぁぁぁぁ!!」
「ちょっと男子! 気持ち悪いから姫様に近づかないでよね!」
「うひ、うひひ。姫様が・・・私に・・・ぶはっ」
「「うおいっ!! 明らかに俺らよりやべぇ女子がいるじゃねぇか!!」」
・・・朝から騒がしい。どうやら今年のクラスはかなりユニークな人たちで一杯のようだ。
「あ! 姫様! やっぱり今年もおんなじクラスなんだ! よかった~」
「あら、姫様、おはようございます」
そんな騒がしい教室にさらに二人の生徒が入ってきた。
一人は黒髪を腰まで伸ばし、綺麗な蒼い眼を持つ如何にもお嬢様といった雰囲気を醸し出した美少女、
帝堂怜奈。彼女は世界でも有名な大企業の社長令嬢で、ことあるごとにボクを専属歌手にと勧誘してくるのだ。
そしてもう一人はセミロングの茶髪に少しカールを掛け、制服も少し気崩しているちょいギャルっぽい美少女、佐藤飛鳥。
二人とは去年も同じクラスで、色々あったのだが、まあそこはおいおいということで。
「おはよう、帝堂さん、佐藤さん」
「あはは、もう姫様、私たちのことは名前で呼んでって言ったじゃ~ん」
「そうね、あなたに苗字で呼ばれるとショックで血を吐いてしまうわ・・・グフッ」
「ってほんとに吐かないでよも~」
文句を言いながらもハンカチを取り出し、慣れた手つきで介護する佐藤さん。去年から見てきた光景だった。
「あはは、わかったよ、改めてよろしく、怜奈に飛鳥」
「うん! よろしい! こっちこそよろしくね!」
「ええ、よろしくお願いするわね」
12時になり、始業式を終えてあとは解散するだけとなった。
「姫様、昼食はどうするの?」
「んー、どこかで適当に食べて帰ろうと思ってるよ」
「あ! じゃあさじゃあさ、皆で一緒に食べに行かない?」
「お、いいな。そうすっか」
「うん。いいね、そうしよ。 怜奈ちゃんもいいでしょ?」
「ええ、ご一緒させていただくわ」
ボク、駿介、美乃梨、飛鳥、怜奈の五人でお昼を食べに行くことになった。目的のレストランへ入り、各々運ばれた料理に舌鼓を打っていると、ふと駿介が朝のことを思い出した。
「そういやさ、朝の・・・雪がいい嫁さんになる云々の話なんだが」
「・・・まだ引っ張るの、それ」
「いやそういうわけじゃなくてさ。やっぱ世間的にはもう雪は男性女性ではなくて、もう雪っていう性別として認識してるんじゃないかって話」
「いや余計意味わかんない」
「ああ~、けどいつだったかSNSでそんな話があったっけね」
「あら、そうなの。・・・でも姫様って女性じゃなかったの?」
「いや違うからね!? ていうかやっぱりそう思われてたんだ!」
「え、違うの!? ・・・ごめん、私もそう思ってたよ。(でもそっか、男の子なんだ・・・それなら私にも・・・)」
「あはは・・・」
怜奈と飛鳥の反応に苦笑いをする美乃梨。
「いやでも無理ないと思うぜ、いくら最初の頃テレビで言ったとしても、簡単には信じられないくらいの美少女っぷりだしな」
「うんうん、彼女としてここは本来怒るべきなんだろうけど、姫様のことだから賛同する!」
「・・・はぁ、なんかもう疲れてどうでもよくなりそう。というか去年からこうして男子用の制服着てるのに、なんで女性だって思われるのさ」
「え、てっきり男装してるのかと」
「そんなわけあるか!」
「あら、どっちにしてもよくお似合いよ、姫様」
「・・・・・・・ありがとう」
あまり納得いかないが、素直に褒められれば悪い気はしない。
「いっそ学校でも言えばよくね? “実はボク、男なんです!”って」
「言って信じてくれるかね?」
「まあ難しいと思うけど、ほら、私たちもフォローするからさ」
「そうそう、一蓮托生だよ、姫様!」
「そうね。私も帝堂グループの力を使ってでも姫様をバックアップするわ」
「いやそれはやめてね、怜奈」
どや顔で言ってのける怜奈に、冷静に止めに入りつつ、やっぱりと思う。
(やっぱり、世間の大半が女性と思ってるか、新たな性別を勝手に作り出したか。いや後半はよくわかんないけど、そんな認識だったんだなぁ)
これまでの世の認識と、これからの“男だ”宣言によって起こりうる事態を考えて、なんだか頭が痛くなるのであった。