第19話 入院
愛理が入院をした国営病院の名前は、国営記念病院との名前であった。この病院は地上三階地下一階の長方形の建物であり、一部がガラス張りのデザイン性を重視した建設となっている。
国営記念病院は東京二十三区外の山岳地帯付近に建設されており、そこの存在はあまり多くの人に知られてはいない。愛理はその病院の最上階の特別室に部屋を用意されたていた。その部屋は一般病棟の部屋の三倍の広さがあり、風呂やトイレにリラックスルームがある豪華な部屋となっていた。
愛理はまだその部屋にはおらず、病院に入ってから数十時間が経過している現在も地下三階の手術室にて手術中となっている。葵も病院で手当てを受けて念のために入院をすることに決まっていた。
「あ、みんなぁ~お見舞いありがとう!」
「葵ちゃんー! 心配したよー! 大丈夫!?」
葵の病室には学校の教師や友達がお見舞いに来てくれた。葵はお見舞いに来てくれた人たちにありがとうと返した。そして、葵の両親が焦りながら葵の入院している部屋に入ってきた。葵は大部屋に入院をしていたので、葵と同じ入院した生徒たちや、学校外の入院している人たちもいる。 そのなかで葵の両親は、病室に入るなり大声で葵の名前を呼んで寝ているベットを見つけるな否やすぐに抱き着いた。
「葵! 無事なの!? テレビで見てたわよ!」
「あ、ママ! 来てくれたんだ! ありがとう!」
「ありがとうじゃないわよ! 怪物に挑んで死ぬところだったじゃない! 無茶しないで!」
「ごめんなさい……でも、守りたい人がいたから!」
「そうだとしても、自分を犠牲にはしないで!」
「うん。 気を付ける!」
強く抱きしめられた葵は、親の名前を呼んで引き剥がそうとする。しかし心配したんだからと、両親が泣いているのを見ると葵は心配かけてごめんねと葵も泣きながら両親を抱きしめていた。 葵が泣き始めてから数十分が経過すると、愛理ちゃんがまだ手術中なのと両親に伝えた。すると、葵の両親はテレビ中継で戦っていたあの女の子かと声を上げる。
「そうなの! 私のことを助けてくれて、最後にあのシンと名乗ったあの怪物と戦ってくれた女の子!」
葵が愛理のことを言うと、両親がその子は今大変なのかと食い気味に聞いてきた。娘を助けてくれた葵の友達のことなので、実の娘のように心配をしているようである。
「裂傷やお腹を貫かれたり、打撲が多くあるみたいで結構大変な手術みたいなの……凄い心配だよ……」
「私達も心配よ。 葵を助けてくれた大切なお友達だものね……」
「娘を命懸けで助けてくれた友達だものな。 俺も心配だ」
葵が俯いて言うと、両親が葵に今動けるかと聞いた。
「動けないけど、動く!」
傷口が痛む身体を押して動くというが、まだ歩くことは難しい身体を葵である。しかし、葵の母親が車いすを探していると隣のベットのおじさんが俺の車いすを使えと貸してくれた。
「ありがとうございます!」
貸してくれた車いすに葵を乗せて、葵一家は愛理が手術をしている地下の手術室に向かった。地下三階にある手術室は三個部屋があり、その中の奥にある大きめの手術室で愛理は手術を受けているようである。その手術室の自動扉の前に置いてある長椅子に、正人と楓に奏が座っていた。
「お母さん! お姉ちゃんの手術まだ終わらないの!?」
「私にも分からないわ……愛理は重傷を負いながらも戦っていたから、どうなるか……」
「愛理! 無事でいてくれ!」
正人は涙を流している楓に頭を撫でたり、抱きしめたりしていた。奏はそんな両親を見ながら、両手を重ねてお姉ちゃんと祈っているようである。葵達一家は、愛理の家族を見つけると恐る恐る話しかけた。
「愛理さんのご家族の方ですか?」
「ええ、そうです。 そちらは?」
葵の父親が正人に話しかけると、正人はそうですと返答した。
「うちの娘が愛理さんにお世話になったお聞きしまして、娘が一緒に待っていたいと言いまして」
慎重に父親が正人に話しかけると、楓がもしかして葵ちゃんと話しかけた。
「はい! あの! 怪物に襲われたときに愛理ちゃんに救われて! 愛理ちゃんが私の代わりに大けがをして……」
楓と葵が話していると、話しながら葵は泣き崩れてしまった。葵のその様子を見ていた奏は、お姉ちゃんは葵さんに笑っていて欲しくて助けたんだと思いますと力強く言った。
「私が死にそうになった時に……愛理ちゃんが助けてくれて……怪物に立ち向かってくれた……」
葵は涙を流しながら奏にありがとうと言って、愛理が手術をしている部屋の扉を見つめる。
「絶対愛理ちゃんは生きる! 手術は必ず成功する!」
「うん! 私もお姉ちゃんは必ず大丈夫だと思うことにするわ!」
葵と奏はその場で祈り始めると、葵の両親も顔を見合わせて二人とも愛理の無事を祈り始めた。愛理と葵の家族がその場で祈り続けて五時間後、手術室の扉が開いて医師と看護師合わせて合計十人が出てきた。
「愛理さんのご家族ですか? 容体のご説明をしますので、奥にある部屋に来てください」
医師から愛理の容態の説明をすると聞いて、楓や奏の顔が暗くなってしまう。その二人の顔を見た正人は楓と奏の二人に愛理ならきっと大丈夫だからと言い、二人の手を引っ張って部屋に入っていく。その様子を見ていた葵達は、生きてと祈り続けるしかなかった。そして、愛理の家族の姿が見えなくなると葵は小さな声で生きて愛理と何度も呟いていた。
指定された部屋に入った正人達は小さな部屋に長机と椅子が六個置いてあるのを見ると、手前の椅子に三人並んで座った。
「ここでいいんだよな?」
「誰もいないわね……」
椅子に座って数分が経過すると、医師と看護師が一人ずつ部屋に入って来た。部屋に入ってきた医師と看護師は、椅子に座るなり一枚の紙を正人達に見せる。その紙には愛理の負っていた怪我の名称が書いてあった。内臓損傷や各部位の裂傷に打撲など多くの名称が書いてあった。
「愛理はこんなに傷つきながらも、あの怪物と戦っていたんですね……」
楓は再度泣いてしまい、持っていた小さな鞄からハンカチを取り出して涙を拭いている。奏は戦っている愛理の姿を思い出して、重症を負いながら必死に戦うお姉ちゃんは凄いなと呟いていた。
「お姉ちゃんはここまでの怪我を負ってまで戦っていたんだ……自分よりも他人を思いやって守るために……」
「それで、愛理は助かったんですか!?」
正人は医師に愛理のことを聞くと、医師は結果から申しますとと口を開いた。
「結果から申しますと、手術は成功しました」
その言葉を聞いて、正人達は安堵の表情になった。愛理はテレビで見ていただけでも酷い怪我を負っていたので、もしかしたら最悪の事態になるのではとも考えていた。しかし、医師から手術が成功と聞いて最悪の事態が起きなくてよかったと正人達は嬉しかった。
「回復魔法や外科手術によって、内蔵の損傷や裂傷などは治療が出来ました。しかし、傷口の痛みや縫合箇所が完治するまでは回復魔法による持続的な治療が必要なので、長くて一か月は入院になるかもしれません」
そう医師に説明をされた正人は回復魔法は凄いなと思いつつ、医師と看護師にありがとうございましたと言って頭を下げた。
「娘のために、ありがとうございます……」
「お姉ちゃんを助けてくれてありがとうございます……」
医師は手術が成功したとはいえ、安心はしないでくださいと言う。 正人は手術は成功したんですよねと聞くと、身体の傷は癒えても、心の傷の方が問題ですと言ってくる。
「心の傷ですか?」
楓がそう聞くと、医師は未成年ながら怪物との戦いで死を意識したと思いますと言う。
「怪物と戦うときや、模擬戦闘、魔法を使う場合にその時の戦闘を思い出して恐怖で心に傷を負っている場合があります」
「あんな死闘をしたんですから確かに娘に心に傷があっても仕方がないと思いますが、もしその状況になったら私達家族が支えます!」
「私達も娘さんの心の傷を治すお手伝いは出来ますが、実際に治すのは愛理さんの意思次第となります」
そう言われた楓は、愛理には私達がいますからと笑顔で返した。




