”武器”予選~非公式~
”仙術”の予選で非公式に出場選手が減ったせいで、”武器”の参加者が例年よりも減ってしまっていた。
いつも通りなら予選で時間が多く取られ、本選ですら明朝、明日に回されかねない状況らしいのだが、他の部門のように一日で終わることも可能らしい。
「それでも例年通り、決勝が明日に行われるのはチケットの関係ですね。すでに完売していますから、運営的にも決勝は明日です」
興行的に決まっていることなので、決勝だけは明日に開催されると、フェイ・ランが言う。
予選の試合が一回で済むらしいので、個人的には楽で嬉しい限りだった。
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「ハッハハハ! 弱いナ! 歯応えが無いゾ!」
トウコツが身の丈以上の斧を振り回し、相手を圧倒し、相手の武器や【仙術】の攻撃も、持つ大楯で完全に完封していた。
この後の本選で、相性的に完封できるポンチャイに当てようと思っていたので、ホっと胸をなでおろす結果となった。
「……本選で、我と当たりませぬように。……当たりませぬように。当たりませぬように!」
トウコツが勝ち上がったの見て、必死に当たらぬように祈っているポンチャイに悪いが…………負けてくれ!
「タイチ師父、見てくれましたか!? ”武器”での手合わせ、楽しみにしててくださいね!!!」
フェイ・ランも慣れない武器を使っているとは思えない程に、見事に勝ち上がっていた。
『もし、条件が揃わねば、その時点で中止だ』
皇帝との約束を守るために、後は俺が本選を決めるのみだ。
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__『”無手”、”仙術”と優勝した選手が”武器”で優勝しなかったことが有りません! その歴史を守りきれるか!? 是枝・太一の入場だ!!!』
司会、兼、審判に促され、舞台の中央へと歩み出る。
ココで勝ち、本選に行かねば、ニーナ達が完全燃焼出来ないので、気合が入る!
__『嵐を呼ぶ淑女! 極東の”洋露波”の”災厄”!! ジェーン・リトルゲートの入場だ!!!』
反対側の入場口に佇む、デカい鎧を着た人物。
持ち込む武器の申請の列に居た、デカい鎧の人物はジェーンだったのか。
どうやって着ているのか分からないが、大柄なチュイやアレクが着ても丈が余りそうなフルプレートの全身鎧を身に付けている。
「ア゛ァ~~ハッハッハ! テスラの”光”、シー皇女の”炎”にも、どんな衝撃にも耐えられる特注品よ!! 今度こそ、”詠唱”を邪魔させないわよ!!!」
”武器”と、名前が付いているが、必ずしも武器や防具、道具を使う必要は無い。
ジェーンのように防御に、防具に全てを割り振ることも可能なのだ。
「ア゛ァ~~ハッハッハ! 常時、熱に衝撃に耐えられる効果を発動しているから、不意を打つことは無理よ! 恐れおののきなさい!!!」
最大の攻撃として、テスラとシーの【神技】を想定した鎧は大きく、武骨で、俺の世界のロボットアニメに似ていた。
前世で、『ボトムズ』だったかな? そんな名前のロボットに似ている。
「ア゛ァ~~ハッハッハ! ん!」
__『……あのぅ』
「ア゛ァ~~ハッハッハ! ……ん!!」
__『ジェーン選手? 早く入場してください。失格にしますよ?』
「……ん!!! ア゛ァ~~ハッハッハ!」
「ア゛ァ~~ハッハッハ! ………………う、動けないの……」
俺、選手、会場全体が、一斉にズッコケることになった……。
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「お騒がせしました。吾輩は、これで」
俺とテスラで協力してジェーンを舞台の中央へと搬入した。
「ア゛ァ~~ハッハッハ! 敵に塩を送ったことを後悔すると良いわ!!!」
荷物のように搬入されたのに、偉そうにジェーンが言い放っている。
__『……おほん! それでは____”開始”!!!』
”仙術”の時は試すようなことをして、申し訳なかったと思っていたのだが……。
今回は気兼ねなく、実験台にしても心が痛まなそうだ!
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『”銃”を【仙術】に耐えられるように。仙力を流すだけで、本体の強化と弾の威力が上がる術式を彫り込んだだろがい』
”銃”を改良したグリムに言われたように”銃”に仙力を流して、撃ってみる。
「__黄昏よりも昏きもの! __血の流れより紅きもの!」
流石に特注品の全身鎧と言うだけあって全弾、六発全てを叩きこんでも、ジェーンは”詠唱”を止めるどころか身じろぎもしなかった____が!
「おい、アレって”銃”だよな?」「しかも小口径だよな? 当たった時の音がデカくないか?」「【仙術】か? 有り得ねぇよ。壊れるはずだ」
観客の反応、俺の手応えからして、威力は確かに上がっている!
『本体の強度が上がれば、【仙術】に耐えられるだろがい。そうしたら”本体”でなく、”弾”に【仙術】を込めて撃てば更に威力も上がるし、色々と出来る』
スピードローダーと呼ばれる回転式拳銃に素早く装填できる道具を使って、弾を込める時に【仙術】を流し込む。
「何処に向けて、撃ってんだ!??」
「__時の流れに埋もれし! ___
観客が言うように様々な方向に、明後日の方向に撃ち出された”弾”が___
___偉大な汝の、ええぇっ!!?」
___空中で軌道を変え、全弾が同じ個所に当たったことに驚き、”詠唱”を止めてしまった。
「弾が曲がったぞ!??」「間違いねぇ! 【仙術】だ!」「”銃”に【仙術】なんて、聞いたことが無いぞ!??」
「ワッハハハ!!! 驚いとるだろがい! まだ非公式な技術だからのう! 愉快痛快だろがい!」
俺の”銃”を改良したグリムが観客達の反応を見て、愉快そうに笑っているのが視界の端で見えていた。
「ア゛ァ~~ハッハッハ! 多少、驚いたわ! けど、この特注の鎧はビクともしないわよ!!! __黄昏よりも昏きもの! __血の流れより紅きもの!」
『タイチ殿の選んだ”銃”。最も改良できる”銃”だったが、限界が有る』
すぐさま排莢し、スピードローダーでなく、一発だけを装填するために握りしめる。
『【神技】は当然、無理だろがい。【精霊技】が限界。しかも、1発が限界だと思ったほうが良い。2発も撃てばガタが来て、3発で壊れるだろがい』
『テスラの”光”、シー皇女の”炎”にも、どんな衝撃にも耐えられる特注品よ!!』
ジェーンを倒すのには、”一発”で充分!
「__時の流れに埋もれし! __偉大な汝の名において!」
「所詮は金属! ”熱”や”衝撃”には対策していても____”電流”を防ぎ切れるか!!!」
希少な”属性”である”雷”の俺の対策が出来ているとは考えにくい。
対策が出来ていたとしても、”虎杖丸”で切り裂くだけ!
それでも駄目なら、シーと当てればジェーンが問題なく勝てるだろうから大会は無事に終わる!!
「【雷槍・弾】!!!」
「__我ここに闇に誓___
≪リン! リリリリリン!!!≫
俺の【雷槍・弾】が効かなかったら、自分の出番だと息巻く”虎杖丸”が鳴り響く!
___わ____ギャアアアアアアア!!!」
__『勝者! コレエダ・タイチ!!!』
やはりと言うか、予想通りに”雷”の対策が採られていなかったジェーンの鎧を【雷槍・弾】の雷撃が駆け抜ける。
鎧の隙間から黒煙が上がり、”球体”が見事に砕け散り、その巨体を地へと倒れ込むことで俺の勝利が確定することになった。
≪リ、……リリン……≫
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
出番が無くなったことを寂しそうに”虎杖丸”が鳴く”音”と歓声だけが、俺の耳に届いたのだった……。
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「勝利の余韻に浸るのは分かるけど! 起こしてくれないかしら!? 動けないの!!!」
「負けたくせに偉そうだな。……これは、テスラも苦労するな……」
地べたに倒れたまま、偉そうに指図をするジェーンを助け起こそうと、俺とテスラが近づくと___
≪リーーーーーーーーーン!!?≫
___身体が勝手に動いていた。
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「あ、有り得ないん、ですけど」
まっさきにタイチの異変に、タイチの動きに、タイチの【居合】に気付いたのは、リン・ムーだった。
自身の攻撃を目にも止まらぬ、断ち切る音さえも置き去りにしたシライシの【居合】そのものだったからだ。
あの時と同じように、タイチを狙った投擲武器が半分に断ち割られて、落ちていたからだ!
「テスラ。客の相手をしなくてはならない。悪いが、ジェーンを1人で運んでくれ」
「タイチ殿!? これはいったい!??」
「早くしろ!!!!!」
テスラの疑問に答えず、いや、答えられずに、襲い掛かって来た相手だけを見据えていた。
「__忌々しい、実に、忌々しい!」
これは”武器”の選手として、登録されていない者との非公式な戦い。
「ただ、この世界に無い【武道】を持っているだけで、デカい顔をするばかりか!!」
正式な試合では無いので、お互いに”球体”による命の保証の無い、非公式な争い。
「才能に! 人に!! 運に!!! 恵まれただけの凡人が!!! よくも、俺を否定したな!!!!!」
自分が公人であることを忘れたような逆恨みを、怨嗟を吐き出す。
何が、そこまで彼を駆り立てるのか、タイチに理解できる材料は無かっただろう。
しかし、襲い掛かってくるのなら対処しなくてはならない。
公人の乱心、乱入、殺人などの事態になってしまっては、大会どころでは無いのだから。
グゥァンウー・フーとタイチの、非公式試合が始まろうとしていた。