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お節介焼きの万屋・タイチ  作者: 花畑
"二つ名"を冠する者達
33/128

”二つ名”の天才

 ____始まりは、静かだった。



 タイチの世界と違い、【武道】が発達しづらい世界の出身とはいえ、基本的な戦闘スタイルが無手のフェイ・ランの構えは、ぎこちないながらも【武道】の片鱗を感じさせるものだった。

 数多くの対人戦を、対妖魔(ヤオモ)戦を無手で経験してきただろうフェイ・ランは、その多くの経験と勘、戦ってきた相手の動きなどを学習し、洗練してきたのだ。



 それに対し、様子見とばかりに【ボクシング】のフットワークを思わせる足さばきで、距離を保ちながら円を描くように周囲を回り始めるタイチ。

 タイチの世界で、この程度の技量の相手は腐るほど居たのだろうが、この世界の身体能力はタイチの世界を遥かに上回る。

 加えて、【仙術(シィェンシュ)】を絡めてくる戦法を使ってくることを考えて、不用意に近づけないのだ。



()()()()、フェイ・ラン!!」


 動かぬ局面に、トウコツが痺れを切らすような気配を感じ取ったタイチから仕掛ける。

 整った庭での、一対一の戦いに選んだ【武道】は【キック・ボクシング】と【ムエタイ】の複合。


「!!? これがタイチ殿の【武道】!!?」


 身体強化の【仙術】を使っているとはいえ、見えない速度ではないのに面白いようにタイチの打撃が吸い込まれていく。

 対して、タイチを迎撃する拳打も、脚撃も、首を振り、腰をひねる回避動作に翻弄され、捉えたと思っても捌かれて軌道を逸らされる。

 未だにノーガードで打撃を貰っていないが、洗練された【武道】での攻撃をガードした腕にダメージが蓄積されていくのが、傍目で見ていても分かる程だった。



()()()()!!!」


 足技を主にする【武道】であるのに、攻撃をフェイ・ランの上半身に意識的に集中していたタイチが、必殺を込めて放った”ローキック”。

 プロが放ったのなら木製のバットを粉砕するとされる”ローキック”が【仙術】により、人を越えたレベルで放たれる。

 未知の【武道】に晒され、意識を上半身に向けさせられたフェイ・ランに対処する(すべ)は無いのだ。




 これが、通常(ただ)の殴り合いだったのなら、の話だが……。




 ーーーーーー




()()()()!!?」


 蹴ったタイチを、逆に襲う鈍痛。

 捉えたと思えたフェイ・ランの左脚に立ち塞がる()()()()()()甲羅のような盾。


()()()()()()()()!!」


 予期せぬ妨害と痛みに動きが止まったタイチに逆襲とばかりに襲い掛かる!



「何!!? くそぉ!!!」


 先程と違い、()()()のように責め立てられるタイチ。

 突如として出現した”盾”によって、形勢が完全に逆転してしまっていた。

 守護の玄武(シェァンウー)の【仙術】によって創られた盾が、流れを読み予測する青龍(チンロン)と、動力の朱雀(ヂゥーチュエ)の【仙術】によって、フェイ・ランを守る衛星のように周囲を廻っているのだ。



 しかし、真に恐ろしいのは【仙術】を絡めた戦闘スタイルではない!



「【武道】とは! かくも素晴らしいモノですね!!」


 ()()()のように___



 ___いや、()()()()()()【武道】を使いこなすフェイ・ランの学習能力!!



 一を聞いて十を知る、百聞は一見に如かず、()()()()という者は凡人には計り知れない恐ろしさが有るのだ!!!




「ぐわあああああああ!!!!!」


 自身が必殺を込めて放った”ローキック”を自身よりも完璧に放たれて、ボールのように飛ばされ、外壁に土埃を巻き上げながら衝突していく。



 タイチが見せた一部の技術だけとはいえ、【武道】を身に付けたフェイ・ラン(勇者)が誕生してしまったのだ。




 ーーーーーー




「手応えが変でした。()()()()()()()いましたね」


 虚空に四本の鋭い土で出来た槍のようなモノを生成し、いまだに土煙の中に居るタイチを青龍の【仙術】で正確に捉える。

 白虎(パイフー)、青龍、玄武、朱雀の”四神(スーシェン)”全ての【仙術】を【神技(シェンジー)】までといかなくても、【精霊技(ジンリンジー)】レベルで運用できるフェイ・ランは世間では、()()呼ばれる。


「この傭兵特級! ”万能(ワンノン)”のフェイ・ラン!! 手は緩めません!!!」



 今まさに放たれようとしていた槍に呼応するように、鳴り響く()()()()()

 フェイ・ランを守る盾が自動的に銃撃を防ぐために動くが、その動きが放たれようとしていた槍の軌道上に入ってしまっていたので、放つタイミングを逃してしまった。

 同じく、流れを読む青龍に長けたタイチにもフェイ・ランの姿、行動が風の流れや仙力(シィェンリー)の流れで分かった上での妨害である。




 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー




 槍を放つタイミングを逸し、同じように妨害されると感じたフェイ・ランが土煙が収まるのを待っていた。


「聞きしに勝る天武の才能だな、フェイ・ラン。()()()だが、高いらしいんだぞ。貰って、すぐに壊れたら怒られるだろうが」


 土煙が収まり、姿が見え始めたタイチの右手には拳銃が、左手にはチィウ・リーから贈られたキセルが握られていた。

 仙力を込めることで尋常ではない強度になるキセルを”ローキック”が放たれた左脚に仕込んでいたので、骨が折れることを、戦えなくなることを防いでいたのだ。



 つまり、ここまでの攻防の全てが()()()()()()()のことの証明。



 ーーーーーー




「次が最後になる。これが防がれたなら、俺の負けだ。最期になるかもしれないからな。壊れていないかも含めて……一服、良いか?」


 相手であるフェイ・ランと、観客であるトウコツに最期になるかもしれない一服の時間を取ってもいいかの同意を求めていた。


「ウチ的には、タイチに勝ち残って欲しいものだナ。その【武道】とかいうもの。まだ引き出しが有るだろう。しかし、悪とはいえウチは神。神は言ったことは守る。希少な先程の【武道】の攻防をウチの記憶に刻み付ける間だけだゾ」


 この世界での未知である【武道】同士の戦いに気分を良くしたトウコツは、気持ちを落ち着かせる意味も兼ねて、これを許可した。

 許可が出たことで、ゆっくりとキセルにタバコを詰め、火を付け、煙を飲み込む。



「ガンちゃん。リウ。想定していたが、使うことになる。悪いな」


「仕方ありませんよ。ご武運を、タイチさん」


「今すぐ、お墓に入らない為だもんね。しゃあないよ、タイチ様」


 ()()()()煙を吐き出しながら、自身に憑いて来た精霊達に謝罪をするタイチの様子に、次の攻防で”媒介”を用いた渾身の一撃が来ることを覚悟するフェイ・ラン。

 キセルが壊れていないことに安堵しながら、次の攻防で壊れないように精霊達に向けて放り投げるタイチ。




「待たせたな。クゥイちゃんの優しい”願い”の為に、俺が___


「クゥイお嬢様の日々の安寧の為に、私が___




 ___勝つ!!!」」







三章完結まで、時間ランダムの一日一回更新です。

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