ある探偵の死☆
男の子なら、誰もが英雄に憧れたことが有るだろう。
子供の時にテレビで見た特撮ヒーローの主人公の探偵が、俺にとっての憧れの英雄だった。
「そんな……。嘘。嘘ですぅ! あの人は、私の運命の人!!! 浮気なんかするはずない!!!」
そんな正義のヒーローに憧れ、才能も有ったようで、学歴不問で実力主義の英雄になった。
現実の探偵稼業は憧れと違い、人の役に立つ仕事が少なく、他人様の身辺調査や浮気調査、つまりは粗探し。
「私には、あの人しか居ないのに!! それなのに!!!」
貧しく、弟や妹が多く居る大家族である俺は、憧れと程遠い仕事であったが、生活のために続けて来た。
アラフォーに差し掛かるまで、弟達が妹達が独り立ちするまで、続けて来た。
自分の家族を守るために、他人様の家族を破壊する粗探しを続けて来た……。
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いつものように依頼人の自宅で、浮気調査の結果を奥様に伝えている。
今回の調査対象の旦那は、なかなかの糞野郎で、水商売のような金だけの関係以外にも、会社の同僚、仕事先の社員、出会い系で知り合った相手、ジムでの知り合い。
あまつさえ、奥様の友人にも手を出すといった、俺の長年の経験からでも、滅多に見ない糞野郎だった。
「……こんな、不誠実な旦那さんには見切りを付けて。新しい恋か、人生を生きた方が良いと思います。幸いというか、お子様も居ないですし、再出発は楽かと」
これは探偵の仕事の領分を越えた発言なのは分かっているつもりだ。
長年の経験上、この案件は刃傷沙汰になることを直感していたからだ。
弟や妹達が独り立ちし、後は好きに、後悔の無いように生きようとする覚悟で発した言葉、大きなお世話。
「あの人が居ない人生なんて、考えられないですよぉ……」
今までの、他人様の幸せを狂わせて食べる食事の、なんと味気ない事か……。
たまに舞い込む、迷子の猫探しのような平和な仕事くらいでしか、美味しい食事を食べたことが無い。
才能が有り、有能で、名声もある俺に、この手の仕事の依頼は絶えず、砂を噛むような食事には飽き飽きしていたのだ。
それを少しでも和らげようと、初めて領分を越えることをした、最初で最期の、大きなお世話。
「ただいま~~! 今、帰ったぞ」
玄関から、これから修羅場を迎えるであろう旦那さんの、緊張感に欠けた声が聞こえてくる。
長居をし過ぎたことに気づき、修羅場を前に退散しようと、俺は玄関へと向かう。
「おや? どなたですか?」
「健康食品のセールスマンです。奥様に営業していまして。すぐ帰りますので」
こういう鉢合わせに備えて、セールスマン風の小綺麗な変装もしており、抜かりはない。
一種の罪悪感を、外に出て吸うタバコのことと、砂のような味しかしないだろうが、食べる夕飯のことを考えながら、玄関から出て行こうと……
「あなた……。この人、酷いこと言うんですよぉ……」
帰ろうと、奥様に向けた背中が、熱い……。
「あなたが……。浮気なんか、してるって……。言うんですよぉ……」
急激に失われていくナニカで、脚に力が入らず、倒れこむ……。
「あろうことか、あなたを”不誠実”だなんて……。ウフフ……。こうなって…………と、う、ぜ、ん、ですよねぇ……」
「うわ、うわあぁあぁあぁぁぁあ!!??? おち、お、落ち着け! 落ち着いて、ソレを、置くんだ!!」
こういった稼業だから、武道には多少の嗜みが有るが、油断したところに背後からでは無理だ……。
「説明。セツメイ、できますよねぇ? この、しゃしん、どろぼうねこ。うふふ。わたしの、オトモダチの、ヒナコちゃん、うふふ。ヒナコちゃん、も、うつってる。うふふふふふ。ヒナコちゃん、どろぼう。うふふふふふふふふふふふ」
「アハハハ! へ、へ~~。よく、写ってるじゃないか。……これには訳が、……訳が有ってだな!!?」
暗くなっていく視界、糞野郎の苦し紛れの言い訳と、奥様の狂ったような、狂った笑いを聞きながら、”死”を実感する……。
「わけ、訳、ワケ!!! そうですよねぇ。わけ、が。うふふふふふ。ふっっっかい、わけ。うふふふふふふふふふふ!!!」
しがない凄腕探偵の俺、是枝・太一の生涯が、終わる……。
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『パンパカパーーン☆ おっめでとう☆ 選ばれたんだゾ☆』
死んだと思ったら、目の前に奇抜な格好の金髪美女が居た。
『いっや~~ん☆ 死んで、すぐだから落ち込んでると思ったら★ 事実とはいえ、すぐに女性を”美女”だなんて、褒めるなんて☆ ポイント高めなんだゾ☆』
探偵稼業なんて、俗な稼業により培われた長年の経験と勘が、容赦なく俺に告げる。
コイツは関わったら駄目な、とびきりの厄災だ!!!
あらすじの内容なので、一時間おきに投稿します。