表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

生涯、坊主頭

作者: 京本葉一
掲載日:2020/05/08

 幼いころから物静かであった少年は、ずっと坊主頭だった。

 中学生となり、周りが髪型にこだわりはじめても坊主頭だった。

 帰宅部なのに坊主頭だった。


 仏道に入るという周囲の予想を裏切り、高校に進学したときも、公務員となって以降も、彼はずっと坊主頭だった。

 同年代の髪が薄くなっても、変わることのない坊主頭だった。

 白髪が生えはじめても坊主頭だった。


 結婚はしなかった。

 両親はすでに亡く、兄弟姉妹は遠くにいた。

 お盆になると親族が集まる家に、ずっと一人で暮らしていた。


 中学生だった私が家に転がり込んだころ、なにもいわずに迎え入れてくれた伯父の坊主頭は、すっかり真っ白になっていた。


 伯父は頻繁にバリカンを使っていた。何事においても淡白な伯父が、唯一坊主頭にこだわっていたのは、同居してすぐに気づいた。

 理由をたずねたときは、このほうが楽でいいといっていた。


 それは嘘ではないものの、すべてではなくて、だからこそ伯父は、アルバム写真をみせてくれたとき、いつもとちがう笑みを浮かべていたのだろう。姪っ子を少しだけ騙していたことに、密やかな楽しみを覚えていたにちがいない。


 私が思春期の諸問題を乗りこえたころ、伯父の身体にガンが見つかった。


 手術はうまくいったものの、一年も経たず、別の場所にガンが見つかった。誰よりもパニックに陥っていた私は、伯父の世話をするつもりで家に転がり込み、伯父に慰めてもらっていた。


 食事やサプリメントに追いつめられる私に、伯父はまた、いたずらめいた笑みを浮かべて、誰にも語ったことのない秘密を打ち明けた。


「子どものころ、どうして髪の毛が伸びるのかが不思議でな。いろいろ考えたあげく、もしかして排泄物なんじゃないかと思ったんよ」


 ばっちいものにおもえて坊主頭にしていた。

 誰にも言えるようなものではない、けっこうなトラウマだったらしいが、私にしてみれば、まったくもって共感できない理由だった。


 ひたすら文句をいいつづける私に、とくに反論するでもなく、伯父は謝罪した。そして、いたずらめいた笑みのまま、私が結婚するまで死なないと約束して、私に安らぎをあたえてくれた。


 伯父は、病院通いをつづけながら、最期まで穏やかに生活した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ