表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダークファンタジーは萌と共に  作者: 深川 七草
第一章
3/40

*3話 「こんにちは」*

 エレクトラは両手を前に出し、手のひらを地面に向けると目を瞑る。

 すると、いくらもしないで地面が光りだす。

 それは、二重の輪っかによくわからない模様が浮かび上がるもので、真人からすればお約束通りであった。

 ちょっと待てよ。

 真人は、うまくいっていると思うと同時に、召喚されたものへの対応をどうするのか考えていなかったと気づく。

 何が出てくるにしても、俺も彼女も武器を持っていない。もし襲ってきたらどうするんだ?


 シュワーーー

 キター! スライムだ。


 真人は、感動しながら辺りを見渡し棍棒を探す。

 しかし、その用心は無用であった。

「ああ……」

 エレクトラが残念がるのは、目の前のスライムが溶けてベチャっとなったからである。

「真人さんすいません」

「いいよいいよ。召喚できることはわかったし」

「はい! ではもう一度」

「ちょっと待って。何がダメだったか考えないと。あと武器」

「武器?」

「だって、召喚されてくるものはモンスターな訳だし、俺たちも襲われるかも知れないでしょ」

「そうですけど、そのために真人さんの“調整”スキルがあるのでは?」

 そうであったと真人は恥ずかしくなるが、使い方がわからない上に召喚と同じで制約があるかも知れないと悩む。

「あのー。あと、このベチャっとなったの何ですかね。気持ち悪いです」

 気持ち悪いと言う彼女に気を使い、真人は森の方にポイしようと近づく。が、それはまだうごめいていた。

 ミーツゥーなんですけど。

 真人は我慢し、スライムに手を伸ばす。

 “造形”?

 そうだ。

 いつの間にか真人は、もう一つのスキルである造形を使っていた。

 するとスライムは、ゆっくりとスライムになっていく。

 いけね。棍棒。

 あたふたしていると、同時に“調整”のスキルも発動する。

 触れなくても近づくと使えるのか? 赤外線通信みたいなもんなのか?

 真人から赤外線は出ていなかったが、ハルモニアから伝えられた二つのスキルを使いこなせるようになる出来事であった。


「すごいです!」

 スライムが、ぴょんぴょん跳ねる姿を見てエレクトラは喜んでいる。

「真人さんの造形って、こういうことだったんですね。私、捕縛を使うと思っていたのでどうしようかと思っていたんです」

「へぇ?」

「だって、召喚と捕縛を同時に使うなんて難しそうじゃないですか」

 そうであった。

 彼女の二つ目のスキルがあれば、棍棒が無くても足止めできたのではないかと真人は思い出す。

「でも召喚時、いつでもベチャっとなるとは限らないし」

「そうですよね。やっぱり、捕縛使えないとダメですよね。エヘ」

 赤髪なのに最初から可愛い。

 真人は、ツンデレキャラじゃないのかと思いながらも頭の中では小躍りしていた。

「疲れてなかったら、もう一回やってみる?」

「はい! 真人さんも大丈夫ですか?」

「うん。俺のことは気にしなくていいよ」

「いえいえ、ダメですよ。共同作業なんですから」

 真人の頭の中は、小躍りから大踊りになった。


 このあと二人は、召喚したコウモリの牙を長くしたりクモを大きくしたりとやってのけていた。

「真人さん。召喚してるの、モンスターじゃなくて普通の生き物ですよね」

「そうだね。それを造形してモンスターにできるんなら、難しいイメージをする必要はないよね」

 簡単すぎると、エレクトラからは緊張感がなくなっていく。

「うーん、次はこれですかね」

 真人が持ってきていた雑誌をパラパラめくり指差す。

「これは……」

「だって、スライムみたいにモンスターを呼び出した方が練習になるじゃないですか」

「ゴーレムはやばいと思うよ。石で出来てるから硬いのはもちろん、大きくて踏みつけられたらペチャンコだから」

「じゃあ、小さくて柔らかいのがいいですかね」

 真人がホッとすると、エレクトラは次の狙いを指差す。

「同じ人型で小さくて柔らかそうです」

「そりゃぁ、人型に作ったんだろうからね」

「ロボットって書いてあります。女神様のように光沢はありませんが緑色の髪で、角が生えていますね」

「それ、角じゃなくてアンテナだと思うけど」

「あと、T時の変わった槍を持っています」

「それ、モップって言うんだよ」

「やってみましょうよ。弱そうな目つきしてますし」

 真人は、『か弱そうだから可愛いんだろ』という反論は我慢したが、

「どうせ女の子なら、リク……」

と代わりに、余計なことを半分まで言ってから言葉を飲み込んだ。

「え?」

 リクエストと違ったなんてばれるわけにはいかない。

 しかし、伝えずにいられなかった真人は、アドバイスをすることにした。

「いや。どうせなら黒髪で、その髪も長い方がいいかな? ほらその子、ショートカットだし」

「そう……ですね。鬼がハルモニア様と同じ色の髪というのも恐れ多いですし」

 エレクトラは、さすがに真人の反応はおかしいだろうと感じていた。しかし、ロボットという鬼の召喚を試したいという気持ちに負けてしまう。

「いでよ!」

 気合の入ったエレクトラは、今までに聞いたことがない言葉を発する。


 シュワーーー ホワワワワワーーーン

 キター! マル……じゃない。黒髪ロングだ。


 真人は、黒髪ロングが自分の方を見たとき微笑んだような気がした。

「はぁっ!」

 真人はかすれる声を出した後、心の声を続ける。

 崩れちゃう! 崩れちゃう! スライムみたいに崩れちゃう!!


『造形!!』


 真人は渾身の力を込め、これまた初めてスキルを声に出し使った。


 そして、

「こんにちは……」

「え?」

「うそ、でしょ?」

 挨拶する黒髪ロングに二人は驚くしかない。

「ちょっと待ってよ。待ってください。真人さん、造形時なにを調整したんですか?」

 真人は、無意識に想像をしていた。そして、その言動を黒髪ロングはしたのだ。

「い、いやぁ」

「それに、角もなくなっていますよ」

 真人は、無意識にアンテナを排除していた。そして、その黒髪ロングは普通の女の子になっていた。

「こんにちは」

「こんにちは」

「返事してないで、コウモリやクモみたいにバラしなさいよ。バラした方がいいですよ」

 今まで召喚し作り出したモンスターは、野に出ることで害にならないようスキル造形を使って解体していたのだ。

「で、でも。石じゃないし」

 真人は指で、それの二の腕を突きながら説得を試みる。

「見た目は女の子でも、どんな力があるかわからないのよ。ですよ。もし町に危害をもたらしたらどうするんです?」

「えっ、えっと、ここで一緒に住んで様子を見ればいいよ。それに何かあれば勇者もいるんでしょ?」

「ちゃんと片づけておいてくださいね」


 バッタン!


 エレクトラは、そう言い残すと家に入ってしまった。


「そ、そうだ。服着ないとね」

 彼女は頷いた。

「こっちこっち。さあ、入って」

 彼女は、真人の後ろを小股でパタパタと歩き、言われるまま部屋までついて行く。

「トランクスしかねえよ」

 真人は部屋に着くと、裸の女の子と二人きりということも忘れリュックから慌ててパンツを取り出す。

「しゃあねぇな」

 そう続けると真人は、Tシャツとトランクスを彼女に着せた。

「あ、ずっと立ってんの大変だよね。それに、ちょっと話をしたいな」

 真人は、ベッドに座ると横を軽く叩く。

「君、名前は」

 座った彼女は、質問に答えず首を捻るだけである。

「歳は?」

 彼女はそのまま動かない。

 「こんにちは」って喋ったんだから、言葉は通じてると思うんだけどな。

 !

 俺はバカだ。見た目が女の子だから普通に喋りかけていたけど、造形と調整をしたからじゃないか。

 そう真人は気づく。

「じゃあ、俺が決めるよ」

 そうだなぁ。細めの体で幼くも見えるけど、目は思ったよりものそっりとしてないし、身長も百五十ぐらいあるみたいだよな。

 あのスタイルのエレクトラが十七歳だもんな。

 真人は、名前より年齢で悩んだ末に決める。

「君の設定は、ミント、十五歳、ぎり高校生だ」

「ぎり高校生……」

「あ、そこは覚えなくてもいいよ」

 ミントは頷いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ