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ダークファンタジーは萌と共に  作者: 深川 七草
第二章
19/40

*19話 悟り*

 薬屋を出た二人は、今晩のことを考える。

「重かった木工品も全部置かせてくれたし、薬草なんかも手に入って助かったよ」

「うん、リュックすかすか」

「ミント、今日は給料の残りがあるから宿屋に泊まるけど……」

「わかってる。明日からは野宿」

 二人は宿屋で部屋を取ると、もう一度買い出しへと出かけた。

「日持ちする食べ物って、米、麦、乾燥肉とかかな?」

 真人は歩きながらミントに聞くが、当然彼女も詳しくはない。

「捕まえて食べる!」

「そんな簡単に捕まるかな?」

 ミントがウサギや鳥をさばけることは、エレクトラがいなくなってからわかったことだ。真人はやり方を知らなかったので、これも彼女が言う記憶が戻ってきていることと関係しているのではないかと考えていた。

「真人、野菜売ってるよ。ジャガイモ、ニンジン、タマネギ……」

「買おうか、根菜類は長持ちするから」

 そう言いながら真人は、やっぱりカレーが食べたいなと思い出してしまう。

「みかん、りんご」

「うん、少しなら買ってもいいかな」

 真人はそう言いながら、みかんと言われ思い出す。

「そうだ、缶詰作れないかな?」

「かんづめ?」

「缶に食材と、空気が入らないように水や油を入れてから密封して加熱するんだ。そうすることで、食べ物を長持ちさせることができるんだよ」

「ふむ」

 ミントは、わからないと素振りを見せる。


 そんな時、この意味不明さに突っかかってきたのは果物屋のおばちゃんであった。

「うちの売り物はどれも新鮮だよ」

 言いがかりはよしてくれとばかりに真人を睨む。

「あ、はい。わかってます」

「うん? あんた、さっきの変わり者じゃないか」

「ええまあ。あれは解決しました。今度は、買いに来たんですよ」

「そうかい?」

 みかんとりんごを買うと、店から離れる。

「真人、おばちゃん怒ってた?」

「そうだね、売り場を借りに来たことを覚えていたんだね」

「そっか。そんなに嫌だったんだ。それで缶詰というのは作るの?」

 ハルモニアからもらった地図は、ログハウス周辺とこの町のことしか書かれていなかった。だが、行商が来ているということは、道があり移動できる範囲に他の町もあるということだ。

 しかし、次の目的地を決める根拠がない真人は、最悪に備えるべきだと思っていた。

「うん。蓋の接合も俺の造形でいけると思うんだよね。あと、缶切りも作っておくかな」

「じゃあ、あと何を買えばいいの?」

「砂糖と容器に使う鉄かな。みかんの缶詰と水の缶詰を作ってみようと思うんだ」

「水? 水なら竹筒があるのに?」

 ミントが不思議そうにする。

「毎日手に入るとは限らないからこれかなと」

 加工前の米、麦、大豆などの豆類、肉や魚の乾物などは普通に市で売られていた。

 しかし、日持ちしない水は現地調達しかない。

 真人は、鉄でできている鍋や器を買ってから宿に戻ることにした。


「さて、容器と蓋はできたけど、中身を加工しないとな」

「真人。それより今、お腹空いてるんだけど」

 真人は缶を作ることに夢中になり、夕飯のことをすっかり忘れていた。

「ごめんミント。えっと、こんな時間でも食べるところやってるのかな? そうだ、ここでかまどを借りて自炊できないかな。ついでに缶詰の中身も黙って作っちゃえばいいし」

「自炊はいいけど、そんなに上手くいく?」

 ミントの心配をよそに、真人は受付まで下りて行く。

「こんばんは。こんな時間にどうかしましたか?」

 受付には、妙に若い三つ編みの女の子がいた。

「夕飯食べ損ねたので、かまどを貸してもらえませんかね? 自炊したいんです」

「うーん。お父さんに聞かないとわからないので待っててください」

 彼女はそう言い立ち去ると、すぐにお父さんと思しき人と戻ってきた。

「お待たせしました。どうぞ使ってください。同じ娘を持つ身としてわかりますから」

「あ、ありがとうございます」

 真人は否定できなかった。

「私も手伝いますよ。こっちです」

 それでも、かまどを借りられればよいと思っていた真人に、また予定外のことが訪れる。宿屋の娘が、夕飯を作る手伝いをしてくれるの言うのだ。

 仕方なく真人は荷物を持ち厨房に入るのだが、やはり宿屋の娘は驚いた様子を見せる。

「それは食材ですか? うちにあるの使ってもいいですよ?」

「実は、明日からの遠出に備えて加工したい食材もあったのです。黙っていてすいません。あ、もちろん夕飯がまだなのも本当です」

 騙しきれないと思った真人が早くもバラしてしまうので、ミントは呆れてしまう。

「ほら、言わないことない」

「あはは、私はグレイス。見ての通りここの宿屋の娘よ」

「私はミント。そこの真人の娘ではない」

「そうだったの? まあ、事情は聴かないわ。それよりご飯にしましょうよ」

 ミントはすっかりグレイスと仲良くなり、一緒に食事を作るのであった。


「どうぞ」

 真人とミントは、グレイスに勧められるまま厨房にある作業台をテーブル代わりにして食べ始める。

「ごめんねグレイス、手伝わせちゃって。でも、料理うまいんだね」

 真人はグレイスにお礼を言った後、斜め向かいに座ったミントを見てあれ? と思う。

「ミントって、左利きだっけ?」

「うーん、別にどっちでも」

 ミントは、スープの入った皿を右手で抑え、スプーンを左手に持って掬っていた。

 ひょっとして、俺が髪留めを左側にしたせいではないだろうか?

 真人が考え込んでいると、暇を持て余したグレイスがリュックの上からはみ出している缶を見つける。

「缶見えてますけど、何を作るんですか?」

「保存食って言えばいいのかな」

「瓶ではないんですね?」

「そうだね。言われてみればどっちでもよかった気もするけど、割れないしこっちの方が軽くていいだろうね」

「それで、どうやって作るんですか?」

「材料入れて封をしてから、湯煎で温めようかと」

「温めるんですか?」

「直接炙らないし、缶だから平気だと思うけどやってみないとわからないかな」

「初めてなんですね……」

「まあ」

「それで何を入れるんですか?」

「水の缶詰と、みかんの缶詰を作ろうと思ってる」

「みかん? ですか」

「中の薄い皮までむいてシロップ漬けにするんだ」

「はぁ、シロップはわかりますが、中の皮までむくとかありえないですね。まあ、手伝いますけど」

 グレイスは、真人のことを(馬鹿なんじゃないのこの人)と思ったが、夕飯を食べる二人の横で皮をむき始めた。

「えっと、シロップを一杯いっぱいまで入れて、湯煎の準備と。だけど、この寸胴な缶をその蓋でどうやって閉じるんですか?」

「特殊な技術で封をします」

 真人の苦し紛れの発言が、グレイスの興味を引いてしまう。

「見たいです!」

「ええ!」

「特殊な技術、見たいです!」

「だ、ダメだよ。実用新案出願中なんだから」

「へぇ?」

 首を捻るグレイスがむいたみかんを、横から手を伸ばしたミントが食べている。

「真人、みかんおいしいから見せてあげなよ」

「そうですよ。むくの大変なんですから」

 二人のよくわからない連携に観念した真人は、詰め終わった缶に蓋を置き手をかざした。

『見るがよい! 造形!!』

 微かに周りが光ると、蓋の淵が本体を巻き込みながら折れ曲がっていく。

「「おお!」」

「あっち! シロップ熱いよ」

「ええ? どうせ湯煎するんですよね」

 グレイスの言う通りである。

 真人は、缶との距離や跳ねる汁に気をつけないといけないと悟るのであった。

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