1-4 幕府ブログの開設
幕府ホームページの開設が失敗に終わった翌日。
僕は,帰宅後再びはるかの家を訪れた。
「上様,入っても宜しいでしょうか?」
「うむ,ゆーじよ。苦しゅうない,入れ」
僕がはるかの部屋に入ると,はるかは征夷大将軍になり切る余裕も無く,
「・・・ゆーじ,どうしよう」
僕に泣きついてきた。
「上様,やはり,我々がいきなりホームページを開設するのは無理があります。まずは,初心者でも使いやすいブログサービスを用い,上様のお考えを天下に知らしめるのが上策かと思われます」
「うむ。それでやってみよう」
こうして,僕は適当なブログサービスを探し,とりあえずア〇ーバブログを選ぶことにした。
ブログの開設には,名前やメールアドレスなどの個人情報を入力する必要があるが,ネトゲをやっているはるかは,その種の作業には慣れているらしく,アカウントを作成し,ブログの画面を選択するところまでこぎつけた。
「上様,ブログのデザインは,この中から選ぶ必要があるようですぞ」
「うう,やはり幕府らしい格好良いデザインは無いのう・・・」
はるかが,悩んだ末に結局選んだのは,征夷大将軍というイメージとは程遠い,ピンク色を基調としたいかにも女の子らしいデザインだった。
あとは,ブログのタイトルを決め,最初の記事のタイトルと本文を入力すれば,ブログをアップロードすることが出来るのだが,注意事項の中に,自分の氏名など個人情報を入力しないことというものがあって,僕は怖くなった。
「上様,実名でブログを立ち上げるということは,かなりの危険が伴うようですので,ブログではペンネームなどを使うのが無難かと思われますが」
「ゆーじ,それでは余が征夷大将軍に就任したことを,世間に知らしめることができないではないか。ペンネームなどでは意味がないぞ」
・・・その後,僕がいくら説得してもはるかは折れなかったので,結局はるかの主張するとおり,ブログのタイトルは『征夷大将軍・大野はるかの御内書』に落ち着いてしまった。
そして,初記事のタイトルは,これもはるかの主張するとおり,『大野はるかは,征夷大将軍への就任を宣言する!』に落ち着いたのだが,記事の本文については,僕の予想どおり難航した。
はるかが,書いたり消したりする文章の内容を見る限り,どうやらはるかは,学校からいじめをなくしたい,世間の乱れを正したい,そんな趣旨のことを書きたいようであったが,どうしても上手くまとまらないようであった。
「・・・うう,ゆうじ,代わりに書いて」
はるかに泣きつかれて,僕は仕方なく記事の本文を代筆した。
「この日出ずる国においては,最後の征夷大将軍徳川慶喜が天皇に大政を奉還して以来,150年以上の長きにわたり,征夷大将軍は不在であった。しかしその間,戦争を望む心無い大臣どもの手によって,歴代の征夷大将軍が築いてきた平和と秩序は破られ,特に大臣どもがアメリカ合衆国に対し仕掛けた戦争によって,わが国は壊滅的な打撃を蒙った。
そして,それ以来日本国では戦争こそ行われなくなったが,心無い政治家どもは,再び戦争を起こし平和を破壊しようとする策動に余念が無い。また,政治の腐敗,危険ドラッグの横行,学校におけるいじめ,児童虐待,悪質なドライバーによるあおり運転など,日本国における秩序は乱れる一方であり,これらはすべて,日本国の平和と秩序を維持する征夷大将軍のいないことが大きな原因である。
そこで,過去15年にわたり,たまプラーザの地にありて日本国の将来を憂いて来た大野はるかは,大多数の国民の懇請により,社会の乱れを正し日本国に平和と秩序を回復するため,長らく廃止されていた幕府と征夷大将軍を復活させるとともに,自ら征夷大将軍に就任し,たまプラーザの地に幕府を設けることを,ここに宣言し布告するものである。
余の理念に賛同する者は,余の率いるたまプラーザ幕府の許に馳せ参じ,社会と秩序を乱す悪徳の輩を成敗し,日本国に平和と秩序を回復すための活動に参加せよ。
征夷大将軍 大野 はるか」
「上様,こんなもので宜しいでしょうか?」
「うむ,ゆうじよ,征夷大将軍の名に相応しい見事な布告文である。この布告文を読めば,世を乱す不逞の輩は,皆余の許にひれ伏すであろう」
「・・・上様,本当にこの内容でそのまま投稿してよろしいのですね?」
「うむ。直ちに布告せよ」
もう仕方がないので,僕はこのまま投稿ボタンを押し,最初の記事をアップデートした。
「上様,これからは社会の諸問題に関する上様のお考えを,自らこのブログに投稿してくださいませ。ブログの記事が多くの者の目を引き,上様のお考えに賛同する者が増えれば,やがては日本国に平和と秩序が戻る日もやってくるでしょう。また、インターネットで世間に関する情報を集め、上様のご見識を広げることも必要と存じます」
「うむ。ゆうじよ,ご苦労であった。今後も旗本使番として余に仕え,余の乱れを正す活動に参加するがよいぞ」
はるかはご満悦の様子だったが,僕は本当にこんなことをやって大丈夫かと、はるかの将来が不安で仕方がなかった。