1-3 幕府ホームページ開設への活動
翌日。『たまプラーザ幕府旗本使番』なるものに任命されてしまった僕は,学校から帰った後,はるかの家に立ち寄ることになった。
「お母さん,はるかの様子はどうですか?」
「裕司君のおかげで,何かとても元気になったみたい。これからもよろしくね,裕司君」
・・・何やら,はるかのお母さんには,妙に期待されてしまっているようだった。
そして,僕ははるかの部屋に向かい,ドアをノックした。
「はるか,入ってもいい?」
「うむ,苦しゅうない。入るがよいぞ」
はるかの言葉だけは,なんか芝居がかっていたが,入ってみるとはるかの服装は昨日と大差なかった。
「はるか,今日は一体何をするつもり?」
「ゆうじ,余はせいいたいしょうぐんであるぞ。口の利き方というものがあるであろう」
一体何を観て習ったのか,はるかは口先だけは征夷大将軍になり切ろうとしているようだった。
仕方ないので,僕は言い直した。
「上様,本日はどのようなご活動をなされる予定でいらっしゃいますか?」
「・・・ゆうじは,何をすればいいと思う?」
をい。将軍様になり切れてないぞ。
「上様,たまプラーザ幕府が成立したとはいえ,我ら2人ここにたむろしているだけでは,世の乱れを正すことは出来ませぬ。幸い,今の世の中にはインターネットなるものが流通しており,インターネットを通じて,上様のお考えを全世界に発信することが出来まする。
まずは,インターネットを利用した活動をお考えになってはいかがでしょう?」
「分かった,ゆうじ。まずは,幕府のホームページを開設するぞ!」
言い出しっぺの僕としては,初心者でもとっつきやすいブログなどを使ってはどうかと思っていたのだが,はるかは,幕府のホームページを作る気になってしまったようだ。
幸い,はるかの部屋には,おそらくゲーム用のかなりスペックの良いパソコンがあり,インターネットにも接続されていたので,まずはこのパソコンを使って,僕たちは幕府ホームページの開設に取り掛かることになった。
当然,こんなお遊びに費用などかけられないので,『ホームページ 開設方法 無料』などのキーワードで検索して,簡単に無料でホームページを作成する方法を探した。結構簡単そうなのが見つかったので,はるかにこのサービスを利用してはどうかと勧めてみたのだが、用意されているホームページのデザインに,いまいちはるかの気に入ったものが見つからないようであった。
「はるか,いや上様は,どのようなデザインのホームページを制作しようと,お考えでいらっしゃいますか?」
「決まっておろう。幕府のホームページなのであるから,武家の幕府らしい,威厳に満ちたデザインのものでなければならぬ」
はるかの言い分は,ある意味もっともではあったが,無料で提供されているデザインは商用を意識したものが多く,幕府らしいデザインと言えるものは見つからなかった。
「このようなデザインしかないとは,やはり世は乱れておる。かくなる上は,このような無料サービスに頼らず,余が自ら幕府らしいホームページを作成するのみ!」
「・・・上様,素人が無料ソフトのみで,一からホームページを作成しようとすると,公開に至るまで1年くらいはかかると申しますぞ。上様は,ホームページ作成のご経験がおありなのですか?」
「ない。ゆーじ,ホームページって,どうやって作ったらいいの?」
仕方がないので,僕がインターネット上であれこれ調べたところ,どうやらホームページは,HTML言語というものを使って作るらしいことが分かった。
「上様,ホームページを一から作るためには,まずテキストファイルで,HTML言語により,作成するホームページの内容を記述する必要があるようでございます」
「HTML言語とは,どのように記述するのだ?」
「はい。まず,HTML言語は,冒頭の行に<html>と記述し,最後の行に</html>と記述しなければならないようです。そして,その間にはheadタグとbodyタグを設けることができ,その間には・・・」
以下の説明は,言葉で説明すると複雑になるので省略するが,要するに以下のように入力し,〇〇〇の部分に文字を入れると,その文字がタイトル文字になり,●●●の部分に文字を入れると,その文字が本文になるというところまでは,何とか僕にも理解できた。
<html>
<head>
<title>〇〇〇</title>
</head>
<body>●●●</body>
</html>
「ゆうじ,幕府らしいデザインを入力するには,どうすれば良いのだ?」
「そのためには,どうやらHTML言語だけでは足りず,まず画像作成ソフトを使い,ホームページに掲載する画像ファイルを作成する必要があるようです。その上で,HTML言語により,その画像をどこに組み込むかを指定する必要があるようなのですが,これ以上のことは私にも分かりません。
上様,自力で思い通りのデザインをしたホームページを作成するには,どうやらかなりの勉強をする必要があるようです。ひとまずは,ホームページのタイトルと本文を決めるところから,始められてはいかがでしょう?」
僕は,ホームページのタイトルと本文の入力については,はるかにやらせることにした。僕が何から何までおんぶにだっこでやってしまうと,はるかの勉強にならないからだ。
しかし,もともと文章力のないはるかは,タイトルと本文の文章を決めるだけで1時間以上も悩みに悩み,結局書けた文章は,これだけだった。
タイトル:たまプラーザ幕府のホームページ
本文:わたし,大野はるかは,征夷大将軍になるぞ!
「・・・上様,さすがにこのようなホームページを,ウェブ上にアップロードしたところで,意味はありません。少なくとも今日のところは,アップロードを見送ってはいかがでしょうか?」
「・・・ゆうじ,そうする」
こうして,たまプラーザ幕府ホームページの開設に向けた活動は,ひとまず頓挫してしまった。