プロローグ前編
物語を語る前に、ひとまず言えるのは
この話の主人公である僕が
<人間>では、無かったって事だ。
ああそれと、実は僕の住む世界。
それ自体が現実では無く、つまり作り物──なのだとか。
まあ、知ったこっちゃ無いけどさ。
僕はこの世界で、最期まで
〈店員C〉として、生きただけだ。
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ふと自分の意識が芽生えたのは、まるで夢から覚めるかの様唐突に。
アイテムを売っているレジの最中だった。
「……。
は。」
僕は手元に並べてあるアイテムの数々を袋に詰めている最中で、並んでいる客達が不思議そうな表情でこちらを眺めている。
そしてそれよりも一層、不思議な発言をし始めた。
「……ん?何だ?店員がおかしいぜ?バグか?」
「隠しイベントじゃない?」
バグ。
単語から察するに馬鹿にされているのだろうと解釈した僕は、すぐに袋詰め作業を終わらせる。
「お待たせ致しました。」
これで解決する……客の発したおかしな単語は気にせず、自らの仕事を淡々とこなせば良い。
そう、とるに足らない日常のはずだった。
「お待たせ致しました!?
おい、初めて聞いたセリフだぜ!?
やっぱり何かイベントじゃないのか?」
「いやいや、ただの新機能でしょ?
人間臭さを出す為の。」
ちょっと待て。
アルバイターだって人間だ、何故そんな言われ方をするのか。
客の発言に腹が立ち、つい口が出る。
「あの~、お客様。
どういった意味合いですか?
新機能とか、人間臭さとか……!あ。」
言ってしまってから後悔した、客という立場の人間に感情に任せた物言いをすると、必ず面倒な事になるのだ。
いや、とは言え思い返せば今までそんな事は職務で一度も無かった気もする。
しかし、そうなる確信だけはある。謎だ。
なんにせよ怒鳴られでもするかと、身構えていると。
「!?普通に会話してきたぞ!?
まさかこの店員プレイヤーか!?」
「んと……ううん。
ステータスを見る限りNPCだよ。絶対。」
返ってきたのは意味不明な会話。
更に店内の客が同じ様な反応をしながらこちらのレジへ集まって来る。