3、兄と妹と兄貴分(破壊力)
四者に送った文。
三好からすれば、この手紙は策だと思うだろう。
長宗我部からすれば、この手紙は吉報だろう。
織田からすれば、この手紙は寝耳に水だろう。
毛利からすれば、この手紙は辛い話だろう。
だが、どの相手にも、共通して抱く感情があるだろう。
それは……
「……え!……にうえ!……兄上!」
「ん?」
「良かった。起きてくれた!」
「ああ、鶴か。考え事をしている間に寝てしまったようだ……」
「そんなことよりも、雑賀は本当に三好と対立するのですか?」
困惑した顔で俺の顔を覗き込んでくる美少女は俺の妹の三崎鶴。
雑賀衆の癒し役の一人と言われているが、『鶴首』という異名を持つほどの鉄砲の名手で、雑賀十傑の一人にも数えられる強さを持つ。
「ああ。本当だよ。よ〜く考えてみろ。今、この日ノ本で最も勢力が大きいのは誰だかわかるか?」
「……織田?」
「ああ。織田だ。なんたって足利将軍を上洛させることができるほどの力を持っているからな」
「それは……確かに」
「それに、三好の攻撃に参加しても何の名声も得ない。しかし、足利に手を貸せばどうなる?」
「えーと……」
「武士の頂点を救う、義理堅い者としての名声を得られ、あわよくば活躍すれば雑賀の名も広がる……でしょうか?」
「あっ……!」
「蛍か。その通り、正解だ」
「良かったぁ!」
満面の笑みを浮かべる美少女、三崎蛍。俺の妹だ。
しかし、その実はめっちゃ怖がりのビビリ。
だけどその内には、雑賀でも稀な特技(?)を持つ。それは、『夜目が効く』こと。
そのことは、雑賀衆にはあまり浸透していなかった、『夜襲』と言う攻撃を可能にすることができるようになった。夜目が効くことから、『夜蛍』とも呼ばれている
「蛍!」
「はひぃぃ!!すみません迷惑でしたよね私ごときが姉様に問われた問いを答えてしまうなんてごめんなさいごめんなさいぃぃ!」
「違う、違う」
「へ?」
「いや、ただ対外情勢をよく見ているなって思っただけ」
「そ、そうですか……。なんか、照れちゃいますね」
「ところで!」
「どうした?鶴」
「お二人さん?何か、忘れていることがありませんか?」
「「へ?」」
「あれです。特訓です」
「ナンノコトカナー」
「シリマセンヨー」
「しらを切らないでくださいよ!」
「いや!俺は今から色々やらなきゃいけないことが!」
「わ、私も兄上を手伝わないと!」
「はーい!そんなことを言ってないで行きますよ!!」
「やめろー!!」
「やめてください姉上ほんとにごめんなさい行きますから引っ張らないでくださいお願いします頼みます!」
◇ ◇ ◇
「はぁ……。なんでやんなきゃいけないんだよぉぉ……」
「兄上や蛍は近頃練習を怠りすぎです!雀を見習ってくださいよ!」
「「スミマセン」」
「まあ、いいか。さっさと終わらして、帰りますか〜」
「あ・に・う・え!!」
ボフッ!
「っ!?」
「兄上!久しぶりにここに来ましたね!」
「雀か……。びっくりした」
三崎雀。
ご察しの方がいるかもしれないが、俺と彼女の関係は兄妹だと言っておこう。
三崎三姉妹の末っ子だが、すでに齢14を回るが、まだ性格は子供っぽい。
怖いもの無しの天真爛漫少女。
彼女を形容するのはその言葉がちょうどいい。
兄妹一鉄砲の才があるのは彼女だろう。
そんな彼女の異名は『小雀』。
「あっ!いたいた!宮本さーん!」
「ん?おお、針司殿か。これまたどうした?」
宮本兵部さんは、雑賀衆の兄貴分的存在だ。
破壊力が全て。そんな考えを持つ彼の実力は、雑賀の技術者たちにも認められ、特注の鉄砲を作ってもらうほど。好漢、という言葉が一番あってる気がする。
だがなぁ……、脳筋なんだよなぁ。
「久しぶりに練習に来ました」
「そうか!よく来た!!次の戦はいつじゃ!?」
「宮本さんは、ここにいてもらう予定です。宮本さんに出てもらうと色々凄いことになりそうなんで」
「そうか……また、誘ってくれ!」
「はい!そこはもちろん!」
「準備、できましたぁ!」
「準備?」
「あれ?三崎さん。ここに来たらあれしかやらないじゃないですか」
「あれとは?」
「結構遠いところにぶら下がった針を撃つこと。それ以外に何がありますか?」
「まあ、それしかないな」
「じゃあ、早く撃ってください!」
「兄上。逃げられませんね」
「まさか……、鶴!お前もか!!」
「はいはいどこのカエサルの話をしているんですか。早く撃ってください」
「なぜ知っている!」
「気にしなーい」
「撃つよ!撃ちますよ!もう……」
「兄上……残念です」
「蛍?」
「すみませんごめんなさい許してください兄上なら全然大丈夫ですから兄上を売りますので許してください御免なさい本当にすみません!!」
「蛍……お前よく一息で言えるな……それ……」
「さて、兄上!これが兄上の種子島です!」
結局やらなきゃいけないのかぁ……面倒だなぁ……。
この距離……ほぼ20間か。こんなの、簡単だな。
ドパァッ!!
銃声が響き、針は跡形もなく消え去り、ぶら下げていた木の棒も後が無い。
「こりゃあ、たまげた」
唖然している宮本さんを尻目に、俺はもっと遠くに。そう言った
「これで、どうでしょう!?」
「ああ、いいぞ」
その距離、30間。
まあ、いけるだろう。
パァーン!!
「これも、行くんですか……?」
「まあ、簡単っしょ」
「いや、兄上が異常なだけです。普通はこの距離の針を打ち抜くとか正直に言って気持ち悪いです」
「ひどい!」
「実際そうです」
「えぇ〜……」
こうして、陽は暮れて行く。