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普通人間  作者: タンサン
3/4

第一歩を踏み出したとしたら


新しく就職した職場は、


人間関係が良好、と聞いていたが本当だった。


私と同年代20~30歳代の同僚が多く、元気に溢れている。


ここはリハビリ専門の病院であり、看護師は主に患者の回復過程を支え、退院の支援をする。


以前働いていた急性期病院とは違い、状態の悪い患者が臨時で入院してくる、といったことが一切ない。


以前の職場では、臨時入院の嵐で、退勤時間をすぎても入院を取らされることが度々あった。


4~5時間の残業は当たり前であり、手当も十分にもらえなかった。


しかも重症な患者が多く、生命を守ることへのプレッシャーもあり、精神的負担が大きかった。


しかし、現在の職場は、重症な患者はいない。すでに前医で治療が終わっており、リハビリ目的で転院してきた患者たちだからだ。


そしてなんと、定時で職場から帰宅することができる。




涙が出るほど嬉しいが、その反面、こんなんで良いのかと、罪悪感を感じてしまう。


仕事が終わっても疲労はさほどなく、夕食の買い出しに行くことが出来る。


ワンパターンの食事が、バラエティ豊かになり始めている。


以前はレシピを調べる時間すら惜しんだのだ。


今はゆっくりとレシピを見て、買い出しにいき、彼に振る舞うことすらできるようになった。



食事を食べたら、絵画をする。


洗い物は彼氏の役割だ。部屋が汚れていれば掃除機だって、かける時間は十分にある。


トランペットやギターも気が向けばやる。


仕事後にこんなに色んなことが出来ると思っていなかった。


こんな日がくると思っていなかった。


やりたいことを全て出来ている。


ここは天国かもしれない。


どうして早く、以前の職場をやめなかったのだろう。


5年間も、抑うつ状態になりながら、働き続け、得られたものは何だったのだろう。


もちろん、急性期病院では多くのことを学んだ。


消化器疾患、膠原病、神経難病、脳血管疾患、さらには救命処置についても。


看護研究もたくさんやってきた。論文を出し、発表講演も。


あの時は本当によく働いていた。


今も、残された人たちは、頑張っているのだろうか。



私は、あの職場から逃げてしまったのだろうか。


残された仲間たちには、きっと恨まれているだろう。


私は罪を犯してしまったのだろうか。


幸せになってしまって、良かったのだろうか。



近頃はそんな思いが胸をよぎる。


心が痛い。


だが、私は今、幸せなのである。


そして、私はまだ、第一歩を踏み始めたばかりなのだ。


これからやりたいことをたくさんやっていく。


そう思うと、力がみなぎってくる。





まずは、自分の作品を出展してみたい。


できれば、私は、芸術家になりたいのだ。



***


以上は、現在の職場をやめた後のことを想像してみた結果だが、


なかなか幸せそうである。


本気でやめることを検討した方がいいかもしれない。



今日は夜勤明けだ。


午前11時に帰宅。今回は20時間ほど勤務していた計算になる。


今日もまあ、いつも通り、激務だった。


帰宅してから、風呂に入る力はなくそのままベッドへ。


仕事の夢をみながら、心電図モニターのアラームやナースコールの幻聴を聞き流す。



就職するまで、


看護師という仕事がこんなにもハードで体力を必要とするものとは思っていなかった。


就職先にもよるが、私は相当「ブラック」な病院に勤めてしまったらしい。


まだ「無理がきく」はずなので、続けているが。



急性期病院に就職して5年目となり、チームのサブリーダーに任命された。


来年度はおそらくトップリーダーとなる。


今仕事をやめれば職場には多大な迷惑がかかってしまう。


それほど、現在の職場には必要とされているはずなのだが、


いくら褒められようと、もてはやされようと、居場所を認められようと、


心が安らがないのは何故だろうか。


この場所を去りたい気持ちが年々増してきている。


幸せになりたい。そのためには仲間を見捨てなければならないのだろうか。


仲間を見捨てることで得た幸せは本当に幸せなのか。


それについてもじっくり考えていきたい。


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