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第39話(心の開花)・2


 国王が言った『協力』。


 ……一体、何だと思う?


 ははははは……まあ、いいから。


 私達一行は。


 国王の命により民族紛争の起こっている ある地へと運ばれた。


 ピロタの泉と呼ばれる、周りを堆積岩で囲まれた自然のままの泉。


 この泉を巡って、タルナとバリという民族が争っている。


 私達が着いた所は、下一面に泉が一望できるほどの高さの崖の てっぺん。


 崖谷の底に ある泉が広がる風景は壮大だった。


 ところが。


 泉の周辺では民族がお互いを見張るためか矢倉や陣営がポツポツと見受けられ。


 小さく人間は多人数と見られた。


 てっぺんから、彼らの居る下までは距離が だいぶある。


 岩肌はゴツゴツとしているが。


 なかなか登りきるのも骨だろう。


 と、色々辺りを見渡して。


 私は下方の兵達を見下ろしながら。


 ドキドキしてきた鳴り止まない心臓を落ち着かせようと。

 頑張っている。


「じゃ、始めようか勇気」


 ドッキーン。


 セナに声をかけられ。


 私は逃げようかと体が傾く。


「こら、何処 行くんだ今さら」


 私の頭をこづいたのはカイトだった。


 マフィア、蛍に紫、メノウちゃんと。


 皆が居てくれている。


 安心、してい、る、よ、一応……。


「大丈夫。この辺り一帯は、岩に囲まれている おかげで よく響くから。さぞかし声は通りまくると思うよ。拡声器も あるし」


と、カイトは適当に設置され準備万端なさまを説明してくれる。


 そうやって私から緊張をとろうとしてくれているんだけれど……。


「もう! やるわよお!」


 ファイト一発。


 私は『用意』された舞台へと上がった。


 舞台、即ち下が見渡せる岩の上へと。


 私の今している服装は、国王が用意してくれた。


 ヒラヒラと薄く透き通った薄い桃色の羽衣を肩にかけ。


 下には原色に近い赤と金、白で織られたチマ・チョゴリ。

 もしくは仙女を連想させるような格好だった。


 頭には金色の王冠。


 化粧も少々。


 髪まで外ハネに、整えられている。


 私は誰だ。


「おい……! あれは何だ!?」


 私の被っている王冠は よく太陽の光に反射して光っている。


 パアア……。


 下で休んでいた兵士の一人が気が ついてくれて。


 私を指さして叫んでくれた。


 おかげで、泉の周囲の人達は皆。


 何だ何だとドヤドヤ騒ぎ出した。


「人だ!」


「誰だ!? 誰なんだ!?」


 次々と騒ぎは大きく。


 うるさいほどに広がっていった。


 そろそろ いいかな?


 私が横目で目配せすると。


 その場に居たセナが精神を集中し。

 コソコソと呪文を唱え始める……。


 大突風が巻き起こった。


 ビュウウッ!


「うわあああ!」


「ぎゃああ!」


「剣が!」


「わああ〜!」



 ビュアアアアアアア……ッ!



 目下では風が四方八方吹き荒れて。


 剣も鎧の一部も飛ばされる飛ばされる。


 兵士達は一挙に大混乱に陥った。


 身構えたり、そばの枯れ木に つかまってみたりと。


 とにかく飛んでいかないようにと大慌てだった。


 別に それを愉快に思うわけじゃないよ。


 ただの演出だった。


 私は、大きく深呼吸。

 そして大声で叫んだ。


(しず)まれえい!』


 ぴた。


 声と同時に、風も兵士達の騒ぎも止まった。


 ほんと、思っていたよりココは声が よく響き通るみたい。


 ちゃんと下まで聞こえているらしかった。


 そうそう、私は自分の世界じゃ放送部員。


 発声練習は最近サボっているけれど。


 それなりに やってきていたもんね!


 何だか自信が ついてきた!


 これならイケるぞ!


『私は天神に召喚された救世主だ! よく聞け、愚かな者ども! 私は醜い争いを終結させるため、この地へ来た!』 ……


 間が空く。


 兵士達は段々と また、騒ぎ出していった。


「救世主……だと?」


「あの噂の?」


「まさか!」


「嘘だろ、決まってる!」 ……


 そんな言葉が飛び交った。


 すると今度はカイトが私の背後で意識を集中し。


 ピロタの泉の水を盛り上げた。


 ザパアアァァン、グルグル、と。


 大きく盛り上がった水は回転して渦となり。


 竜巻となって暴れた。


 もちろん、兵士達はパニックだ。


『黙れ、こわっぱが!』


 私、野次に向けて言い放つ。


 ちょうど言った後に水が そんなもんになった訳だから。


 兵士は水が私の力で動いているのだと勘違いしてくれている。


 よしよし。


 しかし“こわっぱ”って。


 言い過ぎたかなあ?

 まあいいか。


『肌の色は違うけれども、髪の色は違うけれども、誰かのために護るという精神は同じもの。お互いが血に染めあっても、何も解決は しない。どの世界でも、平和を願う心は ひとつ。同じだ……』


 シーン……と静まり返った戦場。


 気分は爽快だった。


 ノッてきた。


『見るがいい』


と、サッと手を上げた。


 次に。


 マフィアが気を集中させ。


 泉の周りに。


 たちどころに緑色の雄々しい木々を作り出した。


 映像を早回ししたように木々は みるみる生長し。


 岩肌の この場所は緑で囲まれた泉になってしまった。


 どよめく現場。


「神だ!」


「神の力だ!」


「奇跡だ、本物だ!」


と。


 兵士達の気迫は上がったようで。


 それぞれ顔を見合わせ今 目の前に起こった事を素直に認めていた。


『こんな血で濡れた所でも緑は育つ。その生き様は、まこと素晴らしいものだ。その生命力を前にし、くだらない争いをしている うぬらを……恥ずかしいと思わんのか!』


 シーン……


 再び静かになった空気を。


 一人の兵士が一歩前に出て打ち破った。


「それでは救世主様! この泉は一体、誰のものなのですか!」


 私は答えた。


『全てだ』


 ……


 ……偶然にも、ちょうど雲と雲の隙間から。


 いつの間にか隠されていた太陽の光が、さす……。


 全てが私の味方に ついたみたいな気分に なった。


 救世主ハイ?


 こんなムード満点、ノリノリ状態 絶好調な私は。


 太陽を指さし笑いながら宣言した。


『この泉を開放する。今日をもって兵を退け。民族同士の争いの時代は終わりだ!』


 ……


 ……


 ……これまでにない長い長い沈黙の後。


 先ほど発言した兵士から、パンパン……と拍手が。


 そして それを機に。右から、左から、と。


 拍手が沸き起こり、音は次第に大きく重なって。


 鳥が一斉に飛び立ったかのように響いていった。


 それから。


「神様!」


「救世主様!」


「万歳っ、戦争が終わるんだ!」


「救世主様が来て下さった! もう安心だ!」


「救世主様!」 ……


と、“救世主様”コールが何度でも何度でも沸き上がる。


 私はと いえば。


 ジーン、と。


 達成感に酔いしれていたんだなあ。


 よかったあああ。


 ……


 と、ココで。


 説明をしておこうと思う。


 実は国王が言っていた、『協力』とは……。


“救世主”という私の立場を利用して。


 こうやって猿芝居をしてだ(何か そう見える)。


 神の存在をアピールする。


 国民は国王が神だと押しつけられていたわけだけれども。


 こうして神、救世主――が実際に救いに来たという事で。


 国民を安心させるのだ。


 それから日を置いて国王の演説だ。


 改めて、国民の前で。


 救世主と共に国王 自らが平和宣言をするという。


『私の不甲斐なさで皆に迷惑をかけた。だが、今日から安心して暮らすが いい。そう、私は今この時をもって平和を宣言する。即ち。戦争の禁止という法を成立させる。これから私は国民のための政治をする事を誓う。そのため、平和の宣言と共に民族の自由独立をも約束しよう。不安がる事は ない。何故なら我々には、神の使いが居て下さるのだ』


 国王の演説の後。


 あの泉とは、比べものに ならないほどの大歓声が襲った。


 私と国王とは、民の前で握手をする。


 拍手と歓声と笑いと涙。


 全てがゴチャゴチャの。


 歴史にも残り得る演説は。


 こうして幕を閉じていった。


 ……




「しっかし凄かったなあ……あの人の数。俺、まだ耳鳴りが止まないぜえ?」


と、耳を押さえながらカイトは後で背伸びをした。


 夕食をとった後。


 私達は部屋で(くつろ)いでいる。


「うん……何だか感動しちゃったわね」


 マフィアが しみじみと頷く。


「しっかし、笑えるよなあ……勇気の あの格好」


と、クククと小声で笑うセナの頭にポカリと一発くれてやる私。


 プンと そっぽを向いてやった。


「国王様の提案だったのよ。仕方ないじゃない……ま、気分よかったけどさ」


と、思い出してみた。


 仙女の格好をした私……やっぱり体型が子供だよなあ……。


 あんまり似合ってなかったような気がする。


 シュン。


「何は ともあれ。これで旅の再開だって事だな……あー、長い寄り道だったぜ。俺、本当、疲れたわ。もう寝る。どうせ出発は準備も あるし まだ少し先だろ? 寝るぜ。じゃな」


と、勝手にブツブツ言いながらセナは部屋を出て行ってしまった。


 カイトがポツリと言う。


「なーんか……変な感じ……」


 私はドキリとした。


 何故だか不明。


 そしてカイトの言葉は聞こえなかった事に した。


 あんまりセナの事を考えるのは よそう……。


 そう思っていたかった。



 それと。


 だいぶ時間が経って皆は忘れてくれているのが幸いなんだけれど。


 私の刺された傷。


 今は違う部屋で過ごしているはずの蛍達。


 紫に剣で刺された傷……。


 剣は光頭刃だった。


 私は覚えている。


 これが おかしいという事にも気がついてい……る。


 私は邪尾刀だろうが光頭刃だろうが。


 刺されても復活できるという事実を目の当たりにした。

 する事が できた。


 でも どうして?


 ……



 誰も答えては くれない。


 私は救世主……。


 改めて、自分が何者なんだろうかという不気味さを感じた。


 背筋に寒気すら感じた。


 そして それも胸の内へと しまい込む事に……した。



《第40話へ続く》





【あとがき(PC版より)】

 次回また分割な予感……という事は話数が増。増えるワカメ現象で最終は何話に なるんだろうなあ。

 まさか100話なんて事は(何だとー)。ははは! ご冗談を(笑えない 泣)。


※本作はブログでも一部だけですが宣伝用に公開しております(挿絵入り)。

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-101.html

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