第39話(心の開花)・1
※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。
同意した上で お読みください。
※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓
http://ncode.syosetu.com/n9922c/39.html
(『七神創話』第39話 PC版へ)
「勇気!」
遠くで声が する。
まだ息が あった。
あの声はマフィアだ。
「勇気! しっかりして!」
「勇気!」
薄く、目を開けた。
心配そうな顔をしたマフィアが私を抱き起こした。
後ろでセナの顔も あった。
「蛍……!」
キッと、マフィアが蛍の方へ顔を向ける。
私はボンヤリとした視覚の中で、蛍の方を見る。
途端、蛍はガックリとヒザを落とし。
「う……うわああああッ……!」
と泣き崩れて伏せた。
マフィア達も私も驚いていた。
何も かける言葉が なく。
蛍の泣き声が皆の内に反響する。
すると しばらくして。
蛍の斜め後ろにスッと鶲が現れた。
「やったじゃない。蛍。さ、早く取り出せば。七神の連中なら僕らに任せてよ」
紫の横には紫苑が姿を現した。
たぶん、隙を見て。
こっちに来てくれたセナとマフィアを。
彼らは追いかけてきたんだろうけれど……。
「……」
蛍は顔を覆っていた両手を離し見つめ、苦々しい顔をした。
涙でグッショリとなった顔と手の平を見た鶲は。
訝しい目を投げかける。
そして言葉で叩きつけた。
「早くしなよ。こんな所で2つも鏡が手に入るんだ。ラッキーじゃない」
「……」
「レイの復活も間近だしさ」
!?
その言葉に反応したのはセナだ。
身を乗り出し、「何だと!?」と大きな声を上げる。
「あれ? ご存知じゃない? レイは復活のために眠っているのさ。力を蓄えてね。いや……力をつけてる、と言うべきかな」
と、鶲は指で口先をいじくりながら意味深な事を言った。
「力をつけている? どういう事?」
マフィアの問いかけに。
ニッコリと満足そうな笑い付きで鶲は答えた。
「レイは力を温存して、さらなるパワーアップをめざしてるって事さ。紫苑に頼んで その眠りに ついているってわ・け。今は代わりにハルカが指揮をとって、それで動いてるんだよね」
腕を組み。
足でリズムをとりながら小歩きをしてみせる。
私達の真剣な顔が面白くてたまらないんだろうか。
憎らしい。
「パワーアップって……さらに強くなるって事か!? 一体、何故!?」
「さあ? 悔しかったんじゃない? 救世主に してやられたのが」
それを聞いたセナは視線を逸らし。
難しい顔をした。
「ハルカの指揮……」
「そう。ご愁傷様。昔の友達同士で戦ってるんだもんねえ。風神のセナ君?」
と、ク、ク、と笑いを漏らす……。
セナは舌打ちした。
「蛍。早くしなよ」
鶲の手元に、なかったはずの邪尾刀が現れた。
そして しっかりと片手に握った鶲は。
ブンブンと刀を振り回し。
セナとの攻防が始まる。
セナと鶲、マフィアと紫苑だ。
それぞれを相手に、戦った。
セナとマフィアは苦戦する。
鶲は邪尾刀を使うが故に。
紫苑は妙な技を使うが故に。
鈍い金属音と、風の音と。
飛び交う中、蛍は ゆっくりと天を見上げた。
涙は放ったらかしにされて……。
「勇気は……敵で ある私に優しくしてくれた。殺そうとしたのに……『一緒に行こう』だって。バッカみたい」
光る雫は頬を伝い流れ落ちて。
横たわっている私――勇気を見て。
寂しげに微笑む力の ない少女。
優しそうに……優しそうに。
「勇気は言った……裏切る、っていうのは、気持ちを180度 変えちゃう事だって……何も変わってない。私の心は……勇気の事を好きだって……この気持ちは」
震えは声の中にも。
「――変わってないのォッ! …… 」
……
蛍の叫びが皆の動きを止めさせた。
蛍の小さな体から。
心の中のものを全て吐き出すかのように。
ありったけの力と想いを込めて叫びへと変え。
解き放たれる。
動きを止めたセナ達や鶲達。
見守っていた兵士達や国王も。
風や音も。
世界の あらゆるものが動作を止め。
幼き黒い少女に注目する。
(蛍……)
私の視界は滲んでいた。
これは涙のせいだと。
言わなくても わかる。
私は心底 嬉しかった。
嬉しい……それだけで身体が満たされる。
そして熱く。
熱くなってきた!
「紫!」
急に紫を睨む蛍。
その向けられた目は憎しみでは ない。
怒りだった。
「私を殺しなさいッ!」
命令を下した。
決意。
怒りは紫では なく。
自分自身に向けたもの。
「なっ!?」
「!」
その場に居た全員が仰天して動揺で どよめく。
「何だって!?」
同じ反応を鶲は した。
鶲は信じられないものでも見た形相をして。
刀を下ろして蛍を見た。
ドサリ……と、腰を落として正座して。
力無く顔を傾ける蛍。
とても疲れた顔をして。
涙だけが忙しそうに流れている。
その何かを悟りきった表情は。
皆の胸を締めつけた。
「私は勇気達の進む道には邪魔に なるの……早く、紫。お願い」
と、黒い瞳は何処か……紫では ない何処かへと。
泳いでいたのを見せた。
蛍は自分の両の手を組み。
祈りを捧げる真似をする。
紫は眉一つ動かす事は なく。
ジリ、と前に踏み出して片手で兵士の剣を構えた。
「……お望みと あらば……」
紫の、トーンを下げた少年の声からは感情が ない。
紫は剣を握る手に本気の力を込めた。
「やめて! 紫くん!」
今にも近づき蛍に斬りかかろうとした所を制したのは。
……私だった。
ヒョイと手をついて起き上がり。
難なく紫の方へと駆け出して。
紫の手に掴みかかったという。
紫は呆然だった。
当たり前だけれど。
おかげで優に紫を止める事が できた。
「勇気!」
「お前、平気なのか体は!?」
当然、マフィアもセナも そう呼ぶわけだけれど。
こっちは それに答えていく余裕は ない。
それどころでは なかった。
よって無視。
私は紫を押しとどめたまま。
蛍に向かって叫んだ。
「どの世界にも、邪魔者なんて居ない! だから死なないで!」
必死だった。
どうか届いてと願いながら。
やがて蛍はキョトンとして呆れた顔を。
……涙を拭かず、コクンと頷き。
微かに笑った顔に変えた。
私には それだけで満足だった。
蛍の言葉は私には嬉しかった。
胸が熱くなったの。
もう、それだけで充分よ……。
蛍は わんわん泣き出して。
何と私の元へと やって来てくれた。
胸の内に飛び込まれて!
……泣き続ける。
気がつくと、鶲や紫苑の姿が なかった。
しばらくの静けさの後。
カイトが城内の廊下を懸命に走って。
こちらに合流した。
「おい。どうなったんだ? 紫苑が突然 現れて、さくらと一緒に消えちまった……け、ど?」
精一杯に走ってきたカイトの目に映る光景は。
私の胸の中で ただ ひたすら謝り泣き続ける蛍。
カイトにしたら異様な光景だったろうと思う。
ハテナ、という顔で首を傾げるばかり。
「ごめんね、ごめんね……」
「もういいよ。よく頑張ったね」
と、私は蛍の背中をさすってあげた。
同じくして。
マフィアが国王の元へと歩み出た。
負傷し動けない国王を気遣い。
「大丈夫ですか国王」と声をかけた。
すると国王は息を整えて、こう言った。
「民主主義……民との話し合いか……悪くないな」
少し笑う。
何かが国王の心にも生まれたのだろうか。
私は国王の言葉を聞いて。
……優しく2人ともに微笑みかけたのだった。
数日が過ぎた。
四神鏡を狙って また奴らが襲ってくるかもしれないと思われ。
しばらく滞在していたけれど。
あれ以来、全く そんな気配は なし。
そこで、私達はココで ずっとジッとしている訳にも いかないと。
そろそろ旅立ちの準備を始めていた。
国王は もう すっかり元気に なり。
他に負傷していた家臣や兵士達を見舞っていた。
滞っていた書類などの整理にも追われて。
休む暇も ないと思われていたが。
何と私が呼び出される。
豪華すぎる国王の仕事部屋、というものを。
想像しまくっていたのだけれども。
アテは外れて。
普通の、何処ぞの大きな家にでも ありそうな規模の書斎へと通される。
横に広く。
書類や本、ファイルなどで。
埋め尽くされようとしている仕事机が窓際に。
部屋の中央には。
丸いガラス製の小さなテーブルを囲むように。
2人掛け、1人掛けの高級そうなソファが。
そして国王 専用なのか。
特別仕様と思われる装飾の ふんだんに施された、頑丈で ゆったりとした椅子に。
国王は足を組み威勢よく堂々と座って。
私とは向かい合っていた。
私はソファに座って、出された紅茶を飲みながら。
緊張しつつも、国王と対談していた。
対談……。
各国 首脳 会議じゃないんだから……。
国王の背後、壁際に召使いのような人が一人 立って居るけれど。
こちらの話に一緒に加わりませんか?
つまんないでしょ立ったままじゃと。
聞きたくなるくらい。
緊張なんて飛んでいったくらい。
私と国王は仲良くなっていった。
これぞ救世主の力なんだろうか……。
ただの世間話にも見える話の内容だったんだけれどね。
「……とまあ、選挙というものが ありまして。その地区の代表を選ぶために投票してですねえ……」
とか かんとか。
最初、見てきたココの街の様子や外観とかの話から始まって。
話は私の居た世界での学校生活とか暮らしぶりなんてのになり。
恥をさらしつつ(もう暴露していいやと諦めてトホ)。
流れは政治の方向へと。
私の知っている限りになってしまうけれど。
よく お兄ちゃんがテレビを見ながら言っていた好き勝手な暴言も参考にと。
……まあ、想像に お任せします。
私の拙い知識と言葉でも、国王には理解が できるらしく。
しきりに頷いていた。
さすがだなぁ……。
「ふうん……選挙して投票か。なかなか斬新だな。面白い」
お、面白いんですか、そうですか。
「いいな それは」
んん?
「さっそく私の国も……と言いたい所なんだがな」
ええ?
「問題が ある」
国王は言うと、紅茶の入ったバラの絵の描かれたティーカップを持ち。
静かに一口、もう一口と優雅に飲んだ。
問題?
私は国王の様子をずっと窺っている。
国王の考えている事は掴みきれなかった。
「なあに? 問題って……」
国王は紅茶に浮かぶバラの花びらを見て。
そして同じく浮かんで映る自分の顔を見ているのか。
……それとも 何処も見てなくて。
考えに耽っているだけなのか。
しばらく黙っていたが、やがて口は動き出した。
「家臣や兵士、民を説得させたり仕組みを根底から変えるなどという事は、そう容易い事では ない。相応の覚悟も いるし、しかも、今現在に起きている民族間の紛争なり戦争なりも止めなければ いけない。何も聞いてはくれぬだろう」
「……」
いきなり気が重くなる。
でも それも仕方がない事だ。
そうだよね……。
「そうだね……規模も規模。人数も人数だよね……」
そう言いながら、私は ちょっと引けてしまっていた。
向かう先が大きすぎて、手に負えない気が勝ってしまって。
ついつい、自分は救世主なんですけど?
って、忘れてしまいそうになる。
……世界を救おうとしている救世主の方が規模が大きいはずなんだけどなぁ。
……あれえ?
国王の重そうな話は続く。
「今まで縛っていたものが、いきなり自由になどなって。きっと皆 困惑するに違いない。そこでだ」
「へ?」
国王は私を見た。
国王は意味ありげに私を見ているが。
私は自分を指さして目をパチクリとしているだけだった。
「協力してほしい」