第38話(理想郷)・2
私と国王は、ジッとお互い黙っていた。
私は それが迷いを激しくさせるようで嫌だった。
すると そんな私の気持ちを察してか、国王は話し始めた。
「この剣。光頭刃は、今は亡き父から譲り受けたものだ」
言って。
私が座る反対側に置いてある、光頭刃を示した。
「私が5才の時、この剣を渡し、次期 国王として修行を積めと言われた。厳しい父だった……だが、とても優しかった。何も知らない私に、剣術、体術、何でも教えてくれた。もちろん、国王として父は この国を治めていた。だが父は……北ラシーヌ国との抗争に巻き込まれ、死んでしまった」
「……」
「そして母も、その すぐ後、民族紛争に巻き込まれ逝ってしまった。取り残された私は、国王として この南ラシーヌ国を護らねばならない。ココには十万もの兵が居て、家臣達が居る。彼らは あの父を心から尊敬し、忠義を誓っていた。戦場では いつも父の足と なり働いてくれていた。父や母が亡くなった時、その幾万の兵も皆 嘆き悲しみ、葬式には この城が埋め尽くされるほどの花が贈られたのだぞ」
そう言うと、少し国王は笑った。何処か寂しげに……。
「そして、残った私を温かく出迎えてくれ、まだ政治に関して幼い私に色々と援助し……そして、今が あるのだ。今の私が あるのは、彼らの おかげだ」
「へえ……みんな、いい人達だったんだね」
私も つられてか、微笑みかけた。
「ああ。彼らは父と共に理想郷……絶対王政の国を完璧なものにしようとした。私は父の意志を受け継ぎ、国を造り上げなければならない。かつて父が望んだ、王の支配する、豊かな国。民族を統一し、従え、強い国を。他の国に負けない力の持つ国を」
理想郷……?
私には何かピンと こない。
王の支配する国が、本当に豊かな国なんだろうか。
確か歴史で学んだ事も あった気が する。
国民の誰もが王を神として、神、王のためならばと命を投げ出し争う……。
現に これが、あなたのいう『豊かな国』なんだろうか。
見てきた この国の人達は。
とても幸せそうでは なかった。
支配され、見張られ。
自由に神を信じる事は できず。
逆らえば殺されて……。
「本当に それは、あなたの望んでいる国なの?」
私は聞いた。
国王は何の事かというような顔をした。
「国民を見てきたけど……この国には民族紛争が絶えないっていうね。皆、命は大事だっていうのなら……何で争うんだろう。言っている事と やっている事が違う気がするのは どうして? 私の居た世界の私の居る国と比べて、何て悲しい国なんだろうって……思う」
自信は ないけれど、言うだけは言ってみた。
思う事を、そのままに。
国王は少しだけ考えて聞いてきた。
「お前の居た国? そうか、お前は異世界から来たのだったな。それでは お前の居た国とは、どんな仕組みだったのだ?」
「……」
息詰まる。
そんな深い知識も ないけれど。
かといって黙っていたのでは。
そう思って。
なけなしの知識を総動員して国王に答えた。
とほほ。
「大事な事は皆で決めるのよ。代表者が集まって、話し合いなんかでね」
「……?」
「何かを決めたり主張する時に、決して剣を持たない。王なんて居ない。まあ、天皇っていう国の象徴となる人は居るけどね。神様は、自由に信じていい……お互いを助け合っていて、とても裕福な国。それが私の居た国よ……」
裕福な国。
テレビなんかで観た。
外国 事情に比べたら私の居る国なんて。
よっぽど……。
「政治を代表者の話し合いで決めるのか? ふうん……時間が かかるな それは」
「うん……まあ。でも血を流すよりは いいんじゃないかなと思うし、それに……」
俯き加減に。
片ヒザを抱えた。
夜風が寒いかなと思ったし、それに……。
自分の言っている事が正しいかどうかなんて。
わからない、怖さが あった。……
「あなた、さっき言ってたじゃない? 今の自分が あるのは、彼らの おかげだって。国って、王が一人で動かすものじゃなく……民が。国民が、動かすものだと思うから」
私には それぐらいしか言う事は できないけれど。
少しでも、王に伝わればいいなあと思いながら。
国王はフンと鼻を鳴らして言った。
「偉そうに」
ギクリッ。
いや、わかってんですけどね、もう。
私は素早く立ち上がり、胸を張って開き直った。
直ってやった!
「だって私の方が年上だもんねー!」
だから何だっていうんだと自分の中から声がした。
聞いてないフリをした。ぐっすん。
そんな風に、私が国王と時間を過ごしていた時。
少し離れた向こうの方から凄まじい爆音がした。
「な、何!? 爆発!?」
「行ってみるぞ!」
サッと、光頭刃を手に掴み素早く走り出した国王。
私も慌てて ついて行った。
走り着いた所から。
煙がモウモウと立ち込めている。
私達が居た中庭を出て。
廊下を挟み違う大きな中庭に出た所だ。
下の地面は土と砂。
私はスリッパを履いては いたが。
国王は途中で放り投げて裸足に なっていた。
片手には光頭刃を持ち、顔は真剣だ。
無理も ない。
煙の上がっている所の周りには幾人かの兵士が すでに倒れているし。
よく見ると倒れている兵士の手には黒い玉が握られていたり。
これは きっと爆弾だ。
爆発したのは兵士が投げつけたから?
それより やばい、もし これにも引火したら……!?
立っていた残りの兵士も同じ事を考えたのか。
すぐ近づき回収したりしていた。
私が光景を見て動きを停止していると。
立ち上がる煙の中に2つの影が ある事に気が ついた。
小さな影と、比べて大きな影。
蛍と紫だった。
恐らく目標物と なった彼女達。
蛍と紫には、かすりも していないらしい。
「蛍……」
私が呟くと、ゆっくりと2人は私の顔を見た。
「今度は2人だけか。てっきり多人数で来るものかと思っていたがな」
国王が そう半ば楽しげに言った。
楽しいわけじゃないけれど。
「鶲達は城中よ。彼らは、七神達を引きとめてもらっているの」
蛍は無表情で私を指さした。
「おとなしく四神鏡を渡しなさい」
もはや余裕の笑みも なかった。
これまでのような皮肉さも無邪気さも。
何かが彼女達を追い立てているようだった。
表情の ない顔は、もはや機械人間でしかないようにも思われた。
一瞬の隙をついて、紫がサッと国王の前へ接近した。
そして。
国王が光頭刃を抜く前に紫が前から先に。
光頭刃を奪い抜いた!
その一連の動きは、さながら鮮やかな芸術のよう。
あれよあれよという間に。
奪いとった光頭刃で国王に襲いかかった。
かわしきれず、国王の胸元をかする。
「国王!」
「国王!!」
数人の兵士と私の声が合わさった。
「この……!」
何人かは飛びかかっていった。
が、紫は さらに一人の倒れている兵士から剣を一本拾い。
片手に持ち、そちらでも応戦する。
どの兵士も紫には敵わない。
光頭刃と剣とを持つ紫は、鬼に金棒2本だ。
紫ではなく蛍に襲いかかる者も居たが。
蛍がマバタキする事も なく素早く。
紫が片っ端から剣で斬りまくった。
剣を2本持ち、何人来ようが攻めは片手で事 足りる。
その余裕さが見事だった。
その間、国王を介抱する私。
「くっ……しまったな。私とした事が」
国王は胸元を押さえて悔しそうに呻いた。
血が胸元から流れている。
止まらない。
斬られた所が悪かったらしい。
「そうか、光頭刃で斬られたら……」
そうだった。
四神鏡を体内に持つ者は、光頭刃で斬られても すぐには治らない。
普通の刀や剣でダメージを受けても たちどころに治してしまうのに。
光頭刃だけは――即ち。
私も光頭刃で刺されたら終わりだという事だ。
そして それを どうやら、蛍達も知っているわけ?
どうなんだろう。
蛍と紫の手元に邪尾刀が ないという事は。
鶲達が持っているという事だろう。
とすると、セナ達は今頃 苦戦しているはずだ。
とても こっちに助けに来る事は期待できそうにない。
「嫌よ……殺されてたまるもんですか!」
私は そう言って。
そばで倒れている兵士の握っていた剣をとった。
紫が兵士と戦っている中。
蛍と私は睨み合う。
「無駄よ、その剣は。光頭刃とやらに そんな並みの剣じゃ歯が立たない」
そんな百も承知な事を言って。
私の神経をあおる蛍。
私達は睨み合ったまま。
ジリジリとゆっくり相手の出方を窺って。
「蛍……あなたは もう……仲間だと思ってた。今も……そう。違うの!?」
何度目だろう。
また私は しつこくも諦めずに懇願する。
戻ってきて、蛍……と。
でも やはり、蛍の態度は変わりを見せない。
「紫。救世主を殺して」
私の名前も呼んでくれない。もう。
「わかってるの? 四神鏡を集めたら、どんな事に なるのか」
我慢してても泣きそうだ。
泣いたりしたくない。
「殺して」
繰り返し繰り返し。
繰り返すだけの口。
「滅ぶのよ、世界は!」
叫びよ届いて どうか。
「殺せ!」
今一度。
「蛍!」
蛍!
「早く!」
最後、蛍は ありったけの力を言葉に込めた。
苦しさに表情が少し歪んでいる。
蛍が早くと促した時だ。
紫の剣が私を……貫いた。
《第39話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
えー、次回は恐らく茶番劇が繰り広げられるかと思いますが(カットしようかとも思いましたが書きますよ もう 汗)、何て甘い奴らだと。そう思っておいて下さいまし……(もう知らないよ〜)。
※本作はブログでも一部だけですが宣伝用に公開しております(挿絵入り)。
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100ですか。おやまあ! ……そして出来ましたらパソコンの方は以下のランキング「投票」をポチッとして頂けますと あなたの そばに(コラコラ)。
読了ありがとうございました(ペコリ)。




