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第38話(理想郷)・1


※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。

 同意した上で お読みください。


※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓

http://ncode.syosetu.com/n9922c/38.html

(『七神創話』第38話 PC版へ)




「光頭刃か……厄介なものだな」


 ハルカは夢から完全に覚め。

 過去の思い出の余韻に浸るまでも なく現実に舞い戻った。


 寝室で半身だけベッドから身を起こし。

 さくらからの報告を受けた。


 せっかく蛍を呼び戻し造らせた邪尾刀は。

 光頭刃という新参者にして やられてしまい。

 もう手元に ない。


 再び邪尾刀は一本に なった。


「蛍に もう一本 造らせましょうか」


と、さくらは提案したが。


 ハルカは深い ため息をついて。


 それは無理だろうと言った。


「一本 造るだけの時間と あの娘の体力から見ても、無理だろう……誰か、他に物を具現化できる能力を持つ者は居ないのか」


「紫苑なら……いえ、やはり完璧な物となると、蛍以上の能力は あいにく。私達は持ち合わせておりませんわ。レイ様なら おできになるでしょうけど……」


と、さくらがレイ、という言葉を口に出したのが気に食わなかったようだ。ハルカは さくらを一瞥(いちべつ)した。


「レイは眠っているのに、どうやって造り出すと言うんだ?」


 そして、さくらを邪険に追い払った。


「もういい。出て行け」


 さくらが しぶしぶ出て行こうとすると、蛍が現れた。


 さくらと行き違いになり、ハルカのベッドの横へ進む。


「……何だ?」


と、ハルカは機嫌 悪そうにジロッと蛍を見た。


「さっき紫苑の術で救世主達の様子を見ていたんですけど、どうやら四神鏡が救世主と、南ラシーヌ国王の中に あるらしいという事が わかりました」


 蛍は構わず用件を伝えた。


「2人の中に、だと……?」


「ええ。で、もちろん奪い取るつもりです。ですが、あっちには邪魔な剣が あります。慎重に ならないといけないと思われます」


「で? どうしろと?」


「救世主は ひとまず置いといて、先に国王一人にターゲットを絞り込めばいいんじゃないかと……」


「鶲と お前達2人じゃ、上手く事は運ばなかった。今度は国王一人の命を狙って、四師衆が団結すればいいと?」


「はい。上手く作戦を練って」


 ハルカは急に笑い出した。


 虚を突かれ、蛍は その場で立ちすくむ。


 高らかに笑った後。


 ハルカは軽蔑の目を蛍に浴びせた。


「あなた、救世主を(かば)うつもり?」


 ピタリと笑いを止め、代わりに鋭い視線を投げかけた。


 蛍は それに異様に(おび)え、ハルカの目から逃れられなかった。


「そ……そんな……」


 やっと出た言葉は それだけだった。


「ふん。わかってるわよ。あなた、救世主の所へ帰りたいんでしょう? レイを、裏切ってね!」


 激しい中傷の言葉に。

 蛍は言い返す言葉の力が なかった。


「違う……違う……! 裏切ってなんか……」


 レイと勇気、両方への後ろめたさから。


 そう はっきり否定など できるわけがない。


 蛍は思わず後ずさった。


 そして何か障害物に あたると、ガクッと足の力が抜けた。


 崩れた蛍を支えたのは、障害物では なく いつの間にか そこに居た紫だった。


「む……らさき」


 紫はハルカを見ていた。


「何、あなた」


「私は、蛍様を護るために あります」


 そう言って のけた。


 だが、ハルカは気にも しない様子で。


 さらに蛍に向かって命令を下した。


「命令よ。救世主を殺せ。もし殺せなかったなら……」


 痛い視線が蛍を刺す。


「あなたを殺す」



 その頃、別の一室では。


 レイが静かに、ヒッソリと眠り続けていた。


 暗い闇の中で、ドク……ドク……と。


 レイの心臓の音だけが聞こえてくる……。





 勇気達(わたしたち)の待遇は変わった。


「四神鏡を持つ者を殺すな――父の教えだ。鏡は体内で潜み、己自身を護っている。取り出してしまっては悪用されかねない。そう父は考えた。私の中に鏡が あると わかって以来、父は執拗に私に様々な事を教えた。わずか5才の私に、この剣を渡し、次期 国王として修行を積めと」


 国王は あの後それだけを言って。


 家臣達に呼ばれて去って行った。


 城内に安堵の ため息が全体として ついた頃。


 私達は食事に呼ばれた。


 もはや そこは牢屋でも何でも なく。


 広い部屋の。

 ずうっと奥まで続く白い長いテーブルと。

 規則正しく並べられた背もたれつきの豪華な椅子。


 そしてテーブルの上に。


 やはり きちんとズラリ並べられた皿などの食器類。


 処々に花も飾られていた。


 完全なる、お客様(ゲスト)扱い。


 私達は いきなりの待遇に気圧(けお)され。


 出された料理の半分も食べられなかった。


 まさか毒でも入ってんじゃないでしょうねと。

 全員の目が そう言っていた。


 食事が終わった後、自由行動と なった。


 こう言うと、まるで修学旅行に でも来ているみたいだけれど。


 でも、ココじゃそう言った言い方をする方がピッタリだ。


 何となく、落ち着けないし。

 行動が制限されているように感じるから。



 さて私は、外庭を見渡せる廊下を歩いて散歩する。


 ライオンに似た獣が彫られた丸柱が。


 4・5メートルの間隔を置いて転々と立っていて。


 片壁には色鮮やかな装飾画がズラリと並んで飾ってある。


 一枚には、龍だろうか。


 赤い色合いで、見ていると。


 こっちまで焦げそうになる迫力が あった。


 歩くと、続いて今度は鳳凰の壮大な油絵だ。


 ……山々を下に見下ろし、大空を(かけ)ていく。


 西洋と中、どっちも あるんだなあと絵を見ながら歩いていると。


 廊下に外庭に向かって一人でベンチに座り。


 ちょうど真上に さしかかった月を見ている国王が居た。


 脇に光頭刃を添えて。


 薄そうなローブを着ていた。


 部屋着かな?


「寒くない? ココ」

と、私は話しかけた。


 国王はチラと私を見て「いや。大丈夫だ」と言って。


 また月を見た。


 こうして見ると、あどけなさが あった。

 子供らしいと今 初めて思える。


「何してるの?」


 再び聞く。

 すると今度は すぐに答えず。

 私の方も見なかった。


「隣、座っていい?」


 すると「ああ」とだけ、返事が返ってきた。


 改めて国王を見る。


 月に照らされた国王の その顔は、整っている。


 目元がキリッとして、威厳の雰囲気を作り出しているようだ。


 姿勢も背筋が真っ直ぐに近く見えて、いい方だった。


 国王から視線を外し前を見ると暗い中。


 月の光に照らされ その生命を輝かせているように。


 花達が咲いていた。


 素直に綺麗だなぁ……と考えた後。


 サッと そこに誰かが立っているような幻覚が見えた。


 蛍だ。


 黒い服を(まと)う蛍。

 何故か悲しげに こっちを見ている。


 そして私も悲しく その幻覚を見つめていた。


「あの娘の事を考えているのか」


 ふいに、国王が そう切り出した。

 途端、視界から蛍は薄くなって消えた。


「……うん」


 深く ため息をつくと。

 国王は私から視線を逸らした。


「どういう経緯かは知らんが、今は敵だ。敵で ある以上、甘えは許されないぞ」


「そんな! 私には、蛍を殺す事なんて……」


 国王の冷たい言葉に。


 私は首を振って(いき)り立った。


 蛍を殺す事に否定は するけれども。


 心の中では迷っていた。


 蛍は敵だ、元から敵だったじゃないか。


 ……そういう自分と。


 何を言う、蛍は実は そんなに根っから悪い奴じゃないんだ……という自分が。


 激しく争っている。



 長い沈黙が包んだ。



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