表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/161

第37話(繋がり・弐)・2


 ハルカは久しぶりに国王と面会した。


 いつものように日の当たる机に向かって読書していると。


 国王が部屋を訪れた。


 厳かな国王は。


 ハルカを見る目だけは優しさを秘めていたように思われる。


 向かいあう2人。


 しかしハルカは二コリとも笑わなかった。


 ただ、目の前の国王である父を真っ直ぐに見つめるだけ。


 やがて国王は口を開いた。


「毎日 退屈だろう。今日は庭にでも出て遊ぶといい。私は これから出張だがな」


 ハルカは顔色一つ変えない。


「体に気をつけてな」


 国王は そう言い残すと。


 伸ばした白い髭を触りながら部屋を出て行った。


 部屋の中に侍女と2人きりに なった。


「珍しいですね。王様が突然あんな事を……」


 侍女は そう言って首を傾げた。


 ハルカはドアから視線を読みかけの本に戻した。


「新しい女でも見つけたんだろう。違う香水をつけていたみたいだしな。いよいよ私も お払い箱というわけだ」


 到底 子供の発言とは思えない その口調に。


 侍女は少し顔をしかめた。


「それで、どうします? せっかくああ言って下さったんですから、庭へ散歩でも。私が付き添いますけれど……」


「いい。私一人で行く。一人で散歩したい」




 見渡す限り花畑。


 カランコエ、スイートピー、バラ、ハイビスカス、ビオラ。


 多種様々に咲き乱れる。


 花で埋め尽くされた中庭。


 中心には円状の、銀造りの噴水。


 女神が壷を肩に担ぐ像が あり。


 壷からはサーッと清い水が流れている。


 国王の趣味で造られた この庭の手入れは。


 雇われた技師・庭師がしている。


 おかげで、花はスクスクと健康に育ち。


 その生命力を開花させている。


(人の手で形づくられたものなど、私には興味が ない)


 ハルカは花に見向きも しなかった。


 歩いているだけ。


 するとシャクヤクの花が並ぶ前に、人が居た。


 長いオレンジ色のストレートヘアの。


 ハルカの3つ年上である姉。


 城内に一緒に住んでいるにも関わらず。


 あまり顔を合わさない。


 ハルカが立ち止まると。


 向こうも こっちを振り返ってハタと目を合わした。


 手には いっぱい、シャクヤクの花を持っていた。


「あら、あんたがココに来るなんて珍しい。こんな所、似合わないんじゃあないの」


 ハルカを見るなり、暴言を吐く姉。


 この女だけではない。


 ハルカの兄姉達は皆。


 ハルカに対して中傷の言葉を浴びせる。


 上の14人達は皆 仲は いいが。


 ハルカだけは別の目で見ていた。


 何、あの髪の色。

 何、あの瞳。

 あの子、薄気味悪い。


 どうして お父様は私達より、あんな子を可愛がるのかしら。

 私達には、あんな優しそうな目をして下さらないわ――


 シャクヤクを手に抱きかかえ、目が そう言っていた。


 万事が万事この調子だから。

 ハルカも もう慣れきっていた。


「この庭の花には触らないでくれます? お父様の大事な、私達に とっても大事な場所ですもの。あんたなんかに触られたら、せっかく咲いた花も台なし。あんたなんて、一歩も部屋から出なくてもいいのよ」


 ハルカは姉の目をジッと見た。


 燃えるような、熱い瞳。


 姉は ますます それが気に食わなかったようだ。


「本当に気味の悪い子」


と捨てゼリフを言いハルカの横を通りすぎようとした時。


 わざとドンと体が ぶつかった。


 ハルカは不意打ちを受け、デンと尻もちをついた。


「アラごめんなさい」


と、フンと鼻で笑いながら。


 スタスタと向こうへ行ってしまった。


 座り込んだままのハルカは。


 しばらく ずっと地面を見下ろしていた。


 レンガで造られた道。


 レンガの冷たさが体に伝わる。


 動かなかった。


 怒りや悲しみというよりも。


 何も言い返したり反抗したりしない自分の冷静さが情けなく思えた。


 物心ついた時には もう。


 こんな事は日常茶飯事。


 自分は異母兄姉である人達に軽蔑されるがままで。


 無抵抗で。


 心の中で彼等(かれら)を蔑み、馬鹿扱いしている。


 反抗しないのは、してもムダであり。

 馬鹿らしいからだと思っている。


 数分ほど座っていた後。

 音も なく立ち上がった。


 パンパンとスカートに ついた砂を払う。


 そうすると……。


 ガサ。


 ハルカの背後。


 数メートルほど行った所の茂みの中から。


 何かが動いている音がしていた。


 しかしハルカは どうせ犬か何かだろうと思い込み。


 落ち着き払っていた。


 最初 振り向く事も せずに、砂を払っていた。


 そこに現れた『彼』には、気がつかずに。


「あれは お前の姉か?」


 そこで初めて振り向くハルカ。


 ビクッ、と肩で反応して声の した方に勢いよく振り向いた。


 目を見開いて驚きの表情を示す。


 そこに居たのは……つい この前。


 監獄のフェンス越しに出会った少年。


 決して微笑んだりも しなかった、青髪のレイと呼ばれていた方の。


 一人、だった。


 何でココで あなたと出くわすんだと。


 言わんばかりに彼を見つめた。


 彼はハルカの顔を見て。

 心中 察しているかのように言った。


「なあに、気まぐれだ。暇つぶし……と言ったらいいか」


と、ふ、と笑う。


「どうやってココに入った? 門には兵が居るし、塀は高くて見張りが大勢 居るはずだが……」


 ハルカが動揺を隠せず冷や汗を流していると。


 彼――レイは自分の右手を胸前に出し。


 人指し指を立て両目を閉じた。


 そして精神を一点に集中させると。


 ものの数秒のうちに突然フッ……と。


 姿が消えてしまった。


 ハルカは慌てて彼の居なくなった辺りを探した。


 すると「ココだ」と……ハルカの真後ろに現れた。


 呆気に とられたハルカだったが。


 ……やがて閃く。


瞬間移動(テレポート)……魔法か」


 言うと。


 目が楽しげに笑ってレイは「そうだ」と答えた。


「人に教わった。セナも知らない。まあ……近距離しか できないし。たかが しれてる力だ、自慢できやしないさ。ココに来るには、充分な力だがな」


と、フーと息をつき。


 噴水の前の石段に腰かけた。


 そしてハルカの後ろの方で咲いていた、真っ赤なバラの群集を見て。


「まるで血のような色だな。見事だ。よく世話されているらしい」


と声に漏らした。


 ハルカは視線をバラに向けた後。


 またレイの方を見た。


 そして尋ねる。


「……さっきの一部始終、見ていたか」


と、話を最初に戻した。


 レイはヒザの上に両ヒジをつき。


 指を組んで口元を隠していた。


 ハルカを見ている。


「ああ」


「私を憐れむか。それとも お前なら、他人事だと たいして気にも とめないか」


と、皮肉そうに笑って見せた。


 兄姉達に向けた目と同じ目をレイにも向けた。


 ――だがレイは気にする風でもなく。


「別に。憐れんでほしいなら、そう言え。そうじゃないなら どうでもいい……少し、気になったからな。あの時の、お前の表情(カオ)……王族の暮らしとやらを見てみたくなった」


 あの時とは、初めて2人が出会った晩だ。


 セナも居た。


 ハルカの態度と顔から、気にかかったとレイが言う。


「世間知らずの馬鹿お嬢様とは違うらしい。同年くらいで、セナ以外の理解力の ありそうな奴に会えたのは初めてだ。そうだ、クイズを出してやろうか」


と、ずっと気持ち楽しそうに話している。


 ハルカは黙って頷いた……。


「綺麗だが、近づくと攻撃する。何故なら、2つになると崩れてしまうからだ。さて、これは何か?」


 レイは言った後、ハルカの様子を(うかが)った。


 ハルカは少しだけ眉をひそめ、腕を組んで小声で繰り返した。


「綺麗で、近づくと攻撃して……2つになると崩れてしまうもの……」


 何だ それは……ハルカは悩む。


 解いてやろうという気が あった。


 レイは言葉に付け足した。


「ヒント1。俺の言葉にヒントが ある」


 チラ、とレイを窺うと彼は考え込むハルカを愉快そうに見ている。


 さあ どうだ? と その顔が言っている。


 こうなるとハルカも、解けないまま降参したくはない。


 自分のプライドに かけて、と思っていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ