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第36話(繋がり・壱)・2


 どうしてレイの事を考えるといつも。

 辛くなってしまうんだろうね……。


 私達が お通夜みたいに黙りこくってしまうと。


 国王が割って入ってきてくれた。


「話の筋が それてしまったな。まあいい。レイとやらにはレイとやらの複合的な考え方が あるんだろう。とりあえず、四神鏡を所有する者は無敵だという事は、わかっただろう?」


 私達は頷いた。


「だが、無敵では なくなった。それがこの、“光頭刃”だ」


と、腰の鞘に収まっている剣を見せる。


「サンゴ! 手を!」


 そして彼を呼んだ。


 ケガ人のために指揮をとって。


 走り回り忙しくしていたサンゴ将軍を呼びつけたのだった。


「はっ、国王。お呼びで」


「片手を出せ」


 すぐに やって来たサンゴ将軍は言われた通り。


 国王の前に太い腕を出した。


 顔を見ると、チラチラと横目で見て。


 マフィアを意識しているのがバレバレだ。


 キリッと引き締まったフリをしてはいるが。


 もっと よーくよーく観察すると口がモゴモゴと動いて。

 ニヤニヤ笑いを抑えている。


 マフィアは見ないようにしていた。


「国王。何をなさるので?」


と、内心 嬉しそうにサンゴ将軍は国王を見た。


 すると国王は剣を抜き。


 さし出された片腕を掴み。


 何と突然スパッと手の甲を直線状に剣で斬りに かかった。


「ぎゃあっ!?」


 機嫌の よかった表情が一変し。


 真っ青に なって悲鳴を上げた。


 まぁ無理もない。


「こここ国王!? あんまりです!? 何をなさるので……」


 私達も驚いて成り行きを見守っていたら。


「大丈夫だ。見ろ」


と、国王が冷静に落ち着きを促した。


 そして目線はサンゴ将軍の手の甲の方へ。


 注目した。


 すると どうだろう。


 ついたと思った傷は、全く影も形も なかった。


 これにはサンゴ将軍 自身も驚き。


 手を表裏と ひっくり返してみては。


「あれえ?」と首を捻った。


「ど、どうして……? 確かに今……!?」


とマフィアはサンゴ将軍を不思議そうに見つめた。


 マフィアに見つめられ。

 顔が真っ赤に なった彼は。


 大汗をかきながら「しっ、失礼します!」と。


 上ずった声で ぎこちなく去って行った。


「……彼は普通の人間だ。額に負っていた傷は、残っていただろう?」


「そ、そうよ……ね」


 さっきの鶲とのバトルで勇敢に向かっていった彼は。


 邪尾刀でアッサリと斬られてしまっていたが。


 その時に ついた額の傷は そのまま残っていた。


「でも鶲のは偽物だったわけだし……」


「でも斬れ味は本物と変わりなかったわ」


 私とマフィアが言い合っていた間に国王が入る。


「鏡を持っている者を斬る――それが、この剣だ。地上や天界で斬れぬものなど無いと言ったのは、生物以外のもの のみで、鏡を持たない普通の人間は斬れないはずだ」


 国王は手に持つ剣の先を天へと掲げた。


 答えたように剣はキラリと。


 神々しい輝きで その存在が確かなように光った。


「鏡の所有者は斬れる……?」


と、私は私を指……さした。


 思い出したんだ。


 自分の右腕。


 今は軽めに包帯を巻いておいたんだけれど。


 とってみると浅く、一筋の傷が ついている。


 国王の持つ“光頭刃”で斬られたものだが。


 治ってなんかいない。


 受けた傷、そのまんまだ。


「傷……治ってない」


 確かに傷が存在する……って事は事は!


「嘘でしょう!? それじゃ勇気が四神鏡を持っているって事に なるの!?」


 マフィアの大声で、私に焦りが。


 私って最強?


 普通に傷をつけられても死なない体?


 確かに、今まで受けたダメージは後に引きずる事もなく。


 いつの間にか治ってたって感じはしていたけれど。


 でも別に おかしいと思った事なんて……。


 ……いや。


 レイに体を貫かれた時に復活したっけ。


 それって まさか まさか?


 嫌な汗が流れる。


 気持ちの悪いものの塊が、自分の中にあるようで。


 気持ちが悪い。


 そんな中。


 国王は一度 掲げた剣を持ちかえると。


 片腕の袖をまくり上げ。


 私と同じように手の甲から腕に沿って。


 10センチほどの傷をつー……と。


 剣で斬った。


「……」


 しばらくの沈黙。


 私達は さし出された腕をずっと見ていたが。


 治る気配もなく。


 ジンワリと血が にじみ出てきた。


 そして何分か経った後。


 やっと国王は口を開いた。


「私も四神鏡の所有者だという事だ」




 勇気達が居るベルト大陸をさらに北東へと行った先に。


 孤島が存在していた。


 ただっ広い海面にポッカリ浮かぶ赤い島。


 火山島ではないのだが。


 何故か目の錯覚で外側から見ると。


 島を囲む全体が赤々と輝いているように見える。


 そして異常に暑さを感ずる。


「ハルカ殿の“気”のせいだろう」


 何故この島が こんなにも赤く。


 そして蒸すように暑いかを。


 鶲は ふと紫苑に尋ねてみた。


 さっきの戦いで疲れた体に。


 紫苑の生体エネルギーを少し分けてあげていた。


 おかげで元気になった鶲は。


 座っていた丸椅子から立ち上がり腕をブンブンと振り回してみる。


「“気”ね……僕らのモノとは違うんだろうね」


と、今度はグッ、グッ、とコブシに力を入れてみた。


「私達の体はレイ殿の“闇”の生体エネルギーで造られている。従ってレイ殿が生きている限り私達は死ぬ事は ないし、こうして私達が生きているという事はレイ殿が生きている証拠だ。そして今やったように、私達 四師衆は己のエネルギーを四師衆内の誰にでも送り込む事が出来る」


「闇の者は闇どうし。僕ら四師衆の間なら、エネルギーの分割が出来るって事か」


と、今度はポキポキと指を折り鳴らす。


「闇のエネルギーを持つ者 同士は、闇の生体エネルギーを交換あるいは分割が可能だ。最も、私は『術』で、レイ殿達の持つ生命エネルギーを与えあう事が できるがな」


「僕らが闇エネルギー体だとしたら、レイやハルカ達人間は光エネルギー体、って事か……」


と、そこまで考えて。妙な疑問が沸いた。


 人間との空隙(くうげき)


 そんな言葉が思い浮かんだ。


 自分達は人間ではない……としたら。


 レイに造られた体だ。


 この体には恐らく。


 人間という、いや あるいは生物というものが持つ。

 臓器や骨といったものが無い。


 だが、さっきから動かせているように。


 人間と同じく関節は曲がるし、疲れもする。


 無いはずの骨が見る限り外見からでは『ある』ように見える……。


 これでは まるで、人間そのもの。


 自分達が人間ではないとしたら、人の形をしている自分達は一体、何だというのか。


 手の平を鶲は広げてみせる。


 汗は かいてはいない。


 そういえば傷を受けた時。


 いつも血液は出ていたか。


 汗や唾は出た事があっても。


 涙は……蛍が流していたのを知っている事が あっても。


 血は……ない。


 一体 何なのだ。


 この『体』は……。


 そう思うと、不思議な感覚がして目を閉じた。


 紫苑に聞いてみようか。


 それもいい。


 だが、聞くのが恐ろしかった。


 何故だか聞いては ならないような。


 知らない方が身のためになるような気がしていた。


 自分は、何なのだろう……。


“闇”で出来ていると一口では言っても。


 体からは一体 何が出てくるのだろう……。


 鶲は頭を軽く振った。


 バカバカしい。


 そんな事、どうでもいいじゃないか。


 そう結論づけて。


 思考を強制的にストップさせた。


 気がつくと、自分の居る この部屋には。


 もう誰も居なかった。


 2つの丸椅子と、隅のテーブルに花が供えてあるだけの部屋。


 誰が置いたのか。


 また何処から摘んできたのかが わからない。


 アネモネに似た花が寂しそうに見えた。


 この薄暗い部屋では。


 せっかくの明るいピンクも暗闇色に染まり。

 眠っているようであった。




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