第35話(光頭刃の威力)・3
邪尾刀と。
その複製刀……偽物のくせに。
斬れ味は本物と同等じゃないか。
邪尾刀が2本に なったという事と同じだ。
しかも。
それに今の口ぶりから察するに。
私達と一緒に居たのは。
油断させたり情を持たせたりするためだって事?
邪尾刀が2本になったのは事実だけれど。
蛍が本当にレイやハルカさんに屈しているとは到底 思えない。
私達と一緒に居た時間が嘘だったなんて信じられない。
信じたくないのかもしれない。
私達が固まっていると。
後ろから向かって来る兵を全て薙ぎ倒した鶲が呼びかけた。
「はい。試験 終わり」
と、息乱れる事なく刀をブンブンと振り回した後。
ドッカリと肩に担いだ。
足元にはホコリが立ち込めていたが。
やがて地面に落ち着いていった。
床では数十人の兵士が呻き声を上げながら横たわり。
中央に鶲が立っていた。
残った兵士は戦意を喪失し。
腰を抜かしたり震えていたり。
下女の人達と逃げたりしていた。
ワーとかキャーとかいう声が あちこちに飛び交った。
でも鶲には もうそれらは どうでも よいらしく。
興味を示さなかった。
向かって来る者だけを斬ったようだ。
逃げ惑ったりする人達は完全に無視していた。
「OKみたい。この、邪尾刀2」
と、刀を上に掲げた。
刃先がキラリと光った。
「当然よ」
と、鶲の言葉にフンと鼻で笑い答えた蛍。
つまりは。
ココへ来たのは。
その複製刀の試し斬り……って事なの?
「なるほど。試し斬りにココへ来たわけだ。わざわざ私達に見せるために?」
マフィアも同じ事を考えていた。
ニッコリと笑って蛍は。
「そうよv」
と ぶりっ子っぽく答えた。
「信じないわ」
突然、キッパリと言い切ったマフィア。
「何が?」というような目でマフィアを見た蛍。
「私達が あの時に船上で深海魚と戦っている隙に、炎神の……ハルカとかいう女に呼ばれたんでしょう? 絶対、あなたの意思で私達の元を去ったんじゃないわ」
真っ直ぐにマフィアは蛍を見つめた。
少し驚いたように蛍の表情が一瞬 強張った。
「だってほら。手が震えてる」
言われて、慌てて両手を隠した蛍。
少し、足も震えていた。
マフィアの言葉で。
私は初めて それに気がついた。
「……我慢しないで。帰って来て。わかってるでしょ? ハルカに利用されてるだけって事は!」
悲しそうな顔でマフィアは呼びかけた。
「帰って来て! 今すぐにでも! 蛍!」
私も必死に呼んだ。
でも蛍は顔を背けて私達の呼びかけを否定した。
「うるさい!」
と。
「私の君主はレイ様よ! レイ様が絶対、レイ様が全て! レイ様の意思が私の意思! レイ様が望む事は、私が命を懸けて叶えるのよ! 四神鏡 探し……あんた達を殺す事もね!」
そして後ろから押すように、紫に声をかけた。
「行きなさい、紫! 目障りな奴らを始末してしまって!」
音もなく。
紫は刀の先を私達に向けた。
そしてサッと素早く動き。
マフィアを襲う。
マフィアは避けるついでに。
横に居た私を突き飛ばした。
おかげで私も攻撃を避ける事が できたが。
鈍かった私は転んでしまう(ひえーん)。
マフィアは次の紫の攻撃を避けようと後退した所。
鶲が攻撃してきた。
ザクッとした音が響く。
「マフィア!」
私は急いで立ち上がって駆け寄ろうとした。
すると よろけたマフィアが。
斬られた左腕を押さえて「来ないで!」と叫んだ。
かろうじて さっきの鶲の攻撃をかわしたマフィアだったが。
今度は紫からの攻撃。
「……くっ……」
高くジャンプして私の数メートル先に着地した。
左腕からはドクドクと血流。
かわしきれなかった攻撃でケガを負ったのだ。
「大丈夫。私が あなたを護る」
「マ……」
私からは擦れた声しか出なかった。
私の居る位置からではマフィアの表情が わからない。
マフィアは言った後。
2人の敵へと向かって行った。
「マフィアあ!」
届かない私の手。
伸ばしても届かない手……!
悔しい。
もし この手が届いて、マフィアを止められたら!
ダメ、ダメだよ、マフィア!
このままじゃ。
このままじゃ、殺されてしまう!
「セナ、カイト、天神様っ……」
誰か。
誰でもいいの、お願い!
マフィアを助けて……!
……。
……。
私の叫びは届いたようだ。
突風が吹き荒れた。
ある一定方向からの風の圧力を受けた鶲と紫は ひるみ、数歩退く。
「2対1なんて卑怯じゃねえの?」
と……風の壁の向こう側から声がした。
セナ。
「女相手に男が2人だなんて。最悪!」
隣に居たのは、カイト。
2人とも。
頼もしい正義のヒーローか何かに見えた。
「セナ! カイト!」
私は歓喜の声を上げる。
「間に合ってよかった」
何と。
セナとカイトの背後から別の声が。
……それはサンゴ将軍と国王だった!
ひょっとして あの混乱に紛れて。
セナとカイトを呼びに行ったんじゃ?
だとしたら かなりの機転だ!
私は感謝の気持ちで いっぱいに なって。
目が潤んできてさえいた。
ありがとう、国王、サンゴ将軍!
これで こっちの不利じゃなくなった。
「お疲れ。とりあえず手当てしてこいよ。こっちは お任せ」
と、カイトがマフィアに近寄って頭を叩いてあげながら。
そのまま鶲達の前に歩み出た。
セナも後に続く。
マフィアは叩かれた頭を軽く押さえながらコクンと頷き。
私の所へと小走りで駆けて来た。
国王とサンゴ将軍も私の所で落ち着いて。
皆で成り行きを見守る事に なった。
「奴らとは知り合いのようだな。聞いた事がある。四神が、蘇りつつある方向にあると」
と、国王の話しかける横でサンゴ将軍は自分の着ている服の片方の袖を破り。
マフィアのケガしている箇所に巻きつけ止血してくれていた。
「ありがとう」とマフィアが言うと。
「いやあ そんな」と またデレっとして頭を掻いた。
そんな2人を横目で見つつ、私達は話す。
「噂通りです。奴ら……の背後にはレイといって、七神のうちの一人でもあり、青龍復活を企てている奴が居るの……」
自分で言っていて。
悲しくなってきていた。
でも続けた。
「レイは あの2人が持っている刀……邪尾刀で、罪の無い人達を斬って……青龍復活のために必要である“四神鏡”――体内にあると言われている鏡――を探しているの」
私が簡単に説明する。
国王は“邪尾刀”という言葉に反応した。
「“邪尾刀”……あれが」
言いながら、鶲や紫の手元を見た。
向こうではセナ達が攻防を続けていた。
「“鎌鼬”!」
「“小波”!」
彼らの おなじみの技が繰り出され。
鶲も紫も手こずっているようだ。
風や水の刃と化したような攻撃の散布を。
刀で受け止めながらも悪戦苦闘していた。
セナの出した風が渦巻く。
カイトの出した大量の水が広がって。
相手を飲み込んで行こうとする。
「くっ……」
牙のように鋭い風の先で何度も攻められ。
鶲の黒いタイツな服はボロボロに なってきた。
おお……ひょっとして優勢か!?
私の お腹の底に気合いが入る。
コブシに力が加わった。
すると私の横で国王が ぼやきを。
「愚かな奴らだ……せっかくの刀が泣いているぞ」
そんな意味深な事を言った。
「え?」
私が国王の方へと目を離した隙に。
紫がカイトの攻撃を避けセナに斬りかかった。
「ちっ!」
セナは すんでで一歩後退した。
そしたらば。
気をとられた時に。
風圧から逃れた鶲が宙を飛び私達の方へと やって来たではないか。
「!」
「待て!」
奥。
遠くで紫の相手をしているセナとカイトの声が。
だが鶲は素早かった。
こっちに突進して来るまま。
国王を刀で狙う!
しかぁーし!
「私が相手だあ!」
と、サンゴ将軍が国王の御前に出て立ちはだかり、
剣を構え鶲を攻撃した。
だが やはり邪尾刀の前では歯が立たない。
剣ごとスパッと斬られてしまい。
ザシュ! っと。
サンゴ将軍の額に血の筋が通った。
「うわあっ!」
後ろに倒れ込んでしまった。
「国王、恨みは ないけど調べさせてもらうよ。四神鏡が体内に あるのかどうかをね」
鶲はニタリと笑う。
私とマフィア。
それから国王も鶲を睨んだ。
「……っざけんじゃないわよ!」
マフィアが背中に隠し持っていたムチで鶲に攻撃した。
鶲はフワリと風に舞うように難なく かわし。
せっかくのムチは空回りしてしまった。
「!」
刀ばかりに気をとられ。
マフィアは鶲の足払いには気がつかなかった。
完全に足に引っかり。
前のめりに倒れてしまった。
「マフィア、危ない!」
鶲がマフィアに襲いかかろうとしていたのを見て。
咄嗟に私は叫んだ。
鶲の構えた刀が振り下ろされようとしていた。
「邪魔者は失せなよ!」
「マフィアぁあ!」
私が駆け出す。
鶲が刀を振り下ろす!
間に合わない!
「死ね! 木神!」
「ダメぇえええ!」
…………ッ!
ガキイイィィインッ!
「……」
「……」
「……」
「…………あぁ?」
沈黙を破る鶲の声。
無敵の刀・邪尾刀が思い切り振り下ろされた。
その時。
この刀を。
受け止めた者が居た――。
いや、受け止めた『物』と言うべきかもしれない。
その『物』とは。
……神剣、“光頭刃”。
そしてマフィアを庇い。
頭の中に残響音が まだするほどの金属音をさせて。
最強の邪尾刀を受けた剣を持つ者とは……
……国王。
さっき兵士達が束になっても敵わなかった、この刀を。
その小さな体で受け止めたのだ!
邪尾刀 対 光頭刃。
ギリギリと。
お互いに交えた武器は。
両者一歩も退かなかった。
しばらく睨み合っていたかと思ったら。
鶲の方が先にバッと勢いをつけて後ろへと下がった。
「神剣……“光頭刃”を、知っているか?」
剣の鋭く光る向こうで。
鶲を威圧するかのように見る国王の。
凛々しい顔が そこに あった。
鶲は声も出なくて。
ただ黙って見ている。
「話には聞いていた。この世に邪鬼により造られし魔刀“邪尾刀”が存在し古来より悪に仕えていたとな。2本もあるのは どういうわけか知らんが、所詮 一方は紛い物。この剣には敵うはずもない」
国王が そう言った途端。
鶲の手の邪尾刀2はポキン、と刃が折れ。
下に落ちた。
真っ二つになった邪尾刀2。
やがてボロボロと砂に形を変え。
風に さらわれて なくなっていった。……
「ふ……これで お前に勝ち目は ないな。何なら、試し斬りしてみようか。言っておくが、私は手加減が苦手だ。この剣は邪尾刀さえ凌ぐと言われている。地上や天界で、斬れぬものなど ない」
さすがの鶲も形勢不利だと思ったのか。
少し焦っていた。
無理もない。
刀を失ってしまったし。
こっちには謎の剣がある。
「覚えてなよね」
悔しそうな顔をして、フッと姿を消した。
途端、はああぁ〜……と私は。
全身の力が抜けて座り込んだ。
だが すぐマフィアの声でハッとした。
「勇気、まだ! セナ達が!」
「あ……そうそう!」
セナ達の事なんて すっかり忘れていた。
見ると、セナとカイト 対 紫 の戦いは今も なお続いていた。
「セナ! こっちは済んだわ!」
私とマフィアがセナ達に駆け寄る。
紫は蛍の元へと後退した。
「蛍! 帰って来て!」
私が そう言っても、蛍は何も言わなかった。
「蛍!」
もう一度呼んだ。
でも答えてはくれなかった。
「引き上げるわよ。邪尾刀の造り直しね」
それだけを言い残して2人とも姿が薄くなって。
……消えた。
《第36話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
作者クイズ〜
マフィアの お相手さんはダ〜レだ?
とか言ってみる……。
誰にしよう(オイ)。
正解は約半年後(最終回かい)?
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