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第35話(光頭刃の威力)・2


「!」


「お久しぶり、救世主。あれ? 風神や水神は一緒じゃあないんだ」


 辺りをキョロキョロと見回す。


 私の所へ目を止め。


 いつものようにニヤニヤ笑い。


 黒ずくめ全身タイツの奇妙な格好。


 毎度おなじみ四師衆の一人、業師の(ひたき)


「ひ、鶲……」


「何でココに……」


 いきなりの登場に びっくりだ。


 なのに当人は気にせず。

 ひょうひょうとしている。


 後ろから(何と!)どうやら蹴りをくらったらしい国王は。


 身を起こし、パンパン、と。


 服に付いたホコリを払い落とした。


 すっかり出遅れた家臣や家来が。


 騒がしく急いで段上を駆け上がって来た。


 兵がズラリと私達や鶲を取り囲む。


「素敵な出迎え ご苦労。あれ、やだな。怖い顔しちゃって。何、僕とやろうってんの?」


 見渡して、余裕をぶっこく。


(あ、あんたねえ……こんな大勢の兵とココで やるつもり!?)


 鶲は自分の胸前に手を出した。


 するとフッ……と。


 その手に刀が出現し、握られた。


 見慣れていた物だった。


 散々、目に焼きついている刀だ。


 邪尾刀――鋭く黒光りする刀身。


 巻かれた布。


 レイが これで何十人もの人々を襲ったんだ。


 レイが居ない今、預かっているという事か。


「先に言っとこ。この刀、斬れ味 良すぎるから、手加減してもダメなんだ。レイは、この刀で斬れないものは この世に存在しないなんて言ってたっけ。さぞかし人間の肉も よく斬れるんだろうねえ」


 刀身を前に、薄目で兵を見た。


“さあ、かかってきな”


 光の無い漆黒の瞳が そう言っているのだ。


 やがて、剣を構えた兵の一人が飛び出した。


 気合いの声と共に。


 兵の長剣が鶲を狙って振り上げられた。


「ダメぇーッ!」


 私の声の方が遅かった。


 止めようとした時は もうすでに。


 兵は長剣ごと邪尾刀で体を。


 ……頭上から斬られた!


「……!」


 兜なんて関係なかった。


 身を護るための防具なんて。


 全く役に立たなかったのだ。


 この刀の前では……。


 一呼吸 置いて。


「ひいぃ!」


「わああっ!」


と悲鳴が あちこちで上がる。


 噴水のように血が飛沫(しぶき)を上げて。


 絨毯の赤を もっと新鮮な赤で染めた。


 だが、次の兵が鶲に飛びかかると。


 今度は つられて いっせいに兵達も斬りかかっていった。


 そうしてココは あっという間に戦場へと化す。


 ワアアアァァア……ッ!


 渾身の声が城内に響き渡った。


 空気の震えを感じるほどの騒ぎに身が強張り動けなくなった。


「勇気! こっちへ!」


 そんな縮こまった私の腕を掴んで引っ張って行ってくれたマフィア。


 頭や体が鎧を着た兵達に ぶつかって。


 すごい轟音と喧騒の中で。


 訳が わからなくなりそうになる。


 私達が去り行く後ろでは。


 鶲が邪尾刀を存分に振り回しているようだ。


 カキン、とかいう武器同士がぶつかり合う音は。


 あまり聞こえてこない。


 あの刀は本当に よく斬れるのだ。


 普通の刀や剣じゃ相手にも ならない。


 きっと鶲やレイが本気で斬れば。


 この城ごと斬る事も可能なんじゃないだろうか。


 兵の集団が押し寄せる波に逆らって進む。


 私とマフィアは できるだけ巻き込まれないよう。


 遠く離れようとした。


 すると急にマフィアが立ち止まった。


 手を引かれていた私は止まれず。


 勢いよくマフィアの背中に ぶつかる。


 ぶつけた鼻を押さえて前を見ると。


 ある人物が私達の進行を妨げていた。


「蛍……」


 マフィアの茫然自失とした声。


 私も同じだった。


 私達の後ろでは何十か何百かは。


 わからない兵と鶲が戦っているはずだ。


 その戦場の光景と音は。


 テレビや映画で観たものと変わらない。


 そっくり同じだった。


 人々の波。

 空気の波。

 音の波。



 ――だが。


 一瞬にして後ろにあるはずの それは。


 消えてしまったかのように思えた。


 今、この空間が。


 ――存在が蛍と私達だけに思えた。


 沈黙が、空気が。


 私達の本来の時間を止め。


 別の空間へと誘い支配している。


「死になさい。救世主」


 やけに響く蛍の声。


「蛍……無事だったのね……」


 蛍の言っている言葉の内容は。


 最初 頭に入っては来なかった。


 私が蛍の前に出ようとするとマフィアが制した。


 マフィアの顔を見上げると怖い顔をしていた。


「以前の あの子と違うわ」


 私に言い聞かせる。


 マフィアの真剣な表情を見て。


 もう一度 蛍の方を。


 そうしたら蛍の背後にスッと。


『影』が現れた。


 人の形で。

 段々と色が ついてクッキリと。


 輪郭を表したのは紫だった。


 手に、一本の刀を持って。


「あ……?」


 私もマフィアも目を疑った。


 紫の持っている その刀は。


 さっき鶲が持っていた物と同じ。


 刃こぼれもサビもない。


 斬れ味 抜群そうな その刀……。


 不気味に光る刀身。

 まさしく邪尾刀そのもの。


「どうして……2本も あるのよ!?」


 振り返って鶲を見た。


 兵が大勢 倒れている……!


 ココからは若干 遠いが。


 鶲の手には確かに紫が持っている物と同じ物が握られている。


 もし どちらかが偽物だと言うのなら。


 たぶん紫の持っている方だろうか。


 鶲の持っている刀は幾多の兵を なおも簡単に倒しているから。


 その斬れ味は、まさしく“本物”の邪尾刀に間違いない。


 私は腰に着けていたナイフを。


 マフィアは腰を据え。


 お互いに戦闘のポーズをとった。


 一応そうやって構えた姿勢をとったものの。


 全然 戦うつもりなんかなかった。


 だから しきりに話しかけた。


「無事で よかった。突然消えたから、すごく心配してたの。たぶんハルカさんの所に居るんだろうと思ってたわ……でも。それは蛍、あなたの意思なの? 今ココで私達と戦うつもり?」


「レイは……生きているわよね。レイの意思? それともハルカさんの? それとも独断?」


「私、蛍達とは戦いたくないわ」


 ……


 蛍は ずっと黙って聞いていた。


 私が休みなく続けて言ったもんだから。


 返事をする隙が なかったかもしれないけれど。


 私は一度は構えたナイフを持った手を引っ込めた。


 マフィアも心なしか、体勢を緩ませる。


 戦う意思が こちらには ないんだという事を。


 アピールしたかった。


「レイ様は眠っておられるわ……ずっと、ね……原因は不明だけど。それに、炎神の命令でココに来たわけじゃない。私の意思よ。それに、私達が あんた達の元を去ったのも自分で決めた事よ」


 蛍は答えてくれた。


 紫が、ぶらさげていた刀を横に持って構えた。


 刀に私の顔が鮮明に映し出されていた。


「あんたら、勘違いしてんじゃないかしら?」


と、蛍がクスリと笑う。


 小バカにした顔は久々に見た。


 すると、笑いが どんどんと膨らんできて。


 屈み込むような姿勢で手で口を押さえながら。


 クックックッと声に漏らし肩を動かせる。


 しまいには「アハハハハ!」と高らかに大笑いした。


 空を向いて笑った後。


 目線を再び私達へ戻す。


 涙を指で こすり払い。


 歪んだ口元を変えず一歩 後退した。


「鶲の持っている方は邪尾刀モデル。この刀を複製したの。私の力でね」


と、腕を組んでアゴで紫の手元をさした。


「忘れてやしないかしら? 私は四師衆の一人、幻遊師・蛍。物に魂を吹き込む力があるって事。詳しく説明すると、頭の中に描いたものを具現化したり操ったりするのよね。あんたらには少し難しかったかしら? キャハハあんたら、私が敵だって事 忘れてたでしょ? すっかり」


 キャピキャピ笑いながら数歩 後退。


 紫の背後へ回った。



 私には信じられなかった。




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