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第35話(光頭刃の威力)・1


※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。

 同意した上で お読みください。


※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓

http://ncode.syosetu.com/n9922c/35.html

(『七神創話』第35話 PC版へ)




「死ね……ですって!?」


 私の隣でヒザをついて。


 しゃがんでいたマフィアの声でハッと我に返った。


 マフィアは目前の人物を睨みつける。


 赤い絨毯(じゅうたん)の先、階段上で。


 立派そうな大椅子に どっかりと。


 その小さな体を包み込ませるように座す。


 国王と呼ばれる人物。


 派手な装飾をこしらえた王冠。


 不死鳥を連想させるような服装。


 賢く、歪みのない整った顔立ち。


 子供らしくない子供。


 そばには大げさなくらい大きな白いファーが付いた扇を持った女の人が数人。


 国王に扇いでいる。


 慎ましく、国王の機嫌を窺いながら。


 こちらにも時々目を向けている。


 国王の家来も。


 屋内をグルリと取り囲むように。


 姿勢よく背を伸ばし。


 私達の様子を真剣に見ていた。


 兵でも将軍階級の、サンゴという男。


 彼は自分の腰の剣を抜き私の首元を狙って静止していた。


 そしてピクリとも動けず。

 冷や汗を流している私の顔を面白そうに見ていた。


 声も出せない。


 だから、マフィアが買って出てくれた。


「……冗談でしょう? 本気ですか」


 すぐに国王が答えた。


「当たり前だ。大勢の前で私に殺されるがいい。そうすれば国民の目も覚める」


 サンゴ将軍は剣をひいた。


 しばらくぶりに解放された私は少し安堵した。


「何が救世主だ、神だ。神は私一人なのだ。その事をわからせる必要が あるのだ。よって、お前は私と民の前で首を(さら)せ」


 国王の言葉は私を奮い立たせた。


 何て身勝手な言葉……!


 こんな、こんな子供が!


 私は頭にカッと きて、階段下へ走り出た。


「!」


「わかるもんか!」


 階段 最上に座す国王を見上げ激しく睨んだ。


 国王は表情を微動だに しなかったが。


 私の態度には反応した。


「何だと?」


「確かに神は私じゃない。でも あなたでも、ないわ!」


 国王を通り越して。


 背後には あの無残にも斬られてしまった親子の幻影が見えた。


 必死に すがるように祈る母子の姿を。


 彼らにも普通の生活が あったろう。


 穏やかなタルナ民族。


 ……植物や作物を育て、額に汗し。


 一生懸命に働く。


 子供が お腹をすかせて家に走って帰って来る。


 遊びの疲れを振り切って。


 お母さん ただいま、あのね……


 ……ただ、神を信じただけで。


 どうして あの人達が。

 あんな目に遭わなければ ならないの。


 怒りが頂点に近づく。


 激しい憎悪の両の目が。


 国王に向けられる。


 すると痺れをきらしたように。


 兵の一人が私に剣で かかって来た。


「国王に向かって何という無礼か!」


 ……剣が私を捕らえる所だった。



「うるさいッ!」



 ビュオオオオオッ! ……



「うわあっ!」


 その兵士は。


 突然の豪風に吹っ飛んでいった。


 柱に強く吸いつけられたようにブチ当たる。


 この風は……。


 私から発せられた風は。


 私が着けている指輪の……。


 セナから もらった指輪の力。


 私を護る風の壁が。

 唸りを上げたんだ。


 私を中心に渦巻いて。


 周囲の兵も下女も。

 大臣か臣下も、マフィアさえ。


 その迫力に圧倒されてしまって。


 どよめき立った。


 私は国王の座す目前にまで。


 階段を上り終え歩み寄り。

 再び同じ事を繰り返した。


「私は神じゃない」


 国王は今度は何にも反応せず。


 風の影響を受け装飾や髪が乱れ。


 なびきながらも私を正面から黙って見据えていた。


 私は下口唇を噛み締めながら。


 泣きそうな悲鳴めいた声で訴えかけた。


「でも あなたも違う……それが わからないの!」


 風は いっそう強く私を。


 国王の周りに飾られていた鳥の羽や花びらが千切れ散り乱れる。


 国王は風圧に打たれても。


 ビクとも しなかった。


 私の体が固まる。


 悲しさが流れて私の身を縛って。


 動けなくなる。


 感情は動かないのか、国王というものは。


 ……そんな残念な事を思った。


 私が突っ立って痺れた頭で思考だけを頑張って。


 アレコレと巡らせていると。


 国王は おもむろに椅子と自分との間に。

 隠し持っていた長い刃身の刀をスルリと取り出した。


 私の前へと披露する。


「?」


 柄の(がら)は龍が彫られているように見えた。


 赤い毛の束で鞘が くくられ。


 刀というよりは剣だった。


 変な事に。


 国王よりも感情的な質が備わっているように感じさせる存在で。


 普通の物ではない、と私にも わかる。


 その魅力に虜とまでは行かなくとも。


 みとれて目が それに一心に向いてしまった。


 国王が鞘から音と気配なく剣を抜き出し。


 一時の間を置いた後。


 スパッと。


 ……風の音に紛れて躊躇(ちゅうちょ)する事なく私を斬った。


 斬りつけた。


(えっ)


 油断。


 まさに それだ。


 油断していた。


 私を取り巻く風のバリアーは完全に私を護ってくれるのだと。


「……」


 しかし。


 剣はアッサリと。


 バリアーごと平気で私を乾いた音で斬ってしまったのだった。


「勇気!」


 突然の事に。


 私の今まで湧き上がっていた怒りや悲しさが。


 何処かへと消え失せてしまった。


 と同時に足の力までも抜けてしまい。


 フラリと体が言う事を利かなくなって倒れた。


 倒れたと思ったら今度は ゆっくりと。


 10段以上も ある階段からゴロ、ゴロと転がり落ちていった。


「勇気ィイッ!」


 さらに張り上げたのは。


 マフィアの声だと思った。


 バタバタと激しい音が床の振動と一緒に揺れる。


 私に近づいて来た。


 私が恐らく中段上辺りで転がりを停止すると。


 誰かが――マフィアだろう――が。


 そばで何度も私の名を呼んでいた。


 斬られたと思った瞬間から両目は閉じ。


 続く倒れた衝撃に身を全て任せていたけれど。


 気だけは確かなようで。


 ああ私は階段の上から転がり落ちたんだと自覚していた。


 目を開けると。

 どうやら仰向けで。


 頭は少し打ったかも しれない。

 痛みは なくて。


 見える天井の豪華さにポカンとしていた。


 ――私は どうなった?


 血は出てる?

 何処を斬られた?


と、段々と意識がハッキリとしてきたので。


 私は起き上がって自分の体中をペタペタと触って。


 探ってみようとした。


 しかしすぐに右腕に目が止まる。


 制服の上から一緒に。


 スパリと細く手の甲から関節近くにまで至る斬り傷が あった。


 微かに感じる痛みと共に。


 血が糸のように細い傷口から浮かび上がってきた。


「大丈夫!?」


「……平気。それより、あの、剣……」


と、私が指さした方へマフィアが振り向いた。


 階段を上った先、王座の前で。


 国王の小さな体が何の意思表示も なく。


 黙って立っていて こちらを見下ろしていた。


「風を……斬った!?」


と、マフィアが驚いて剣と国王を交互に見た。


 その場が何故だか急にシンと静まり返る。


 すると。


 国王が奇妙な事を言い出した。


「お前……四神鏡を持っているな?」


と……少し気持ち大きく、目を見開いた。


 こっちも目を大きく驚きを示していた。


「何ですって?」


 私が首を傾げて眉をひそめていると。


 国王は剣を見て考え込んだ。


「神剣……“光頭刃”。我が国に代々語りと共に受け継がれてきた剣だ。私は お前を斬り殺すつもりだった。手加減は したが、それでも充分お前を傷つけるくらいの力は込めたつもりだ。だが……」


「ど、どういう事!?」


「これは……この剣は……」




「へええ。初耳。ハルカに報告しなきゃ」



 ドガッ。


 後ろから不意打ちをくらい。


 国王は前へ倒れた。


 どよめきと叫びの中。



 突然に現れた来客に視線は集中する。




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