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第34話(神)・1


※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。

 同意した上で お読みください。


※じっくり小説らしく味わいたいパソコン派な方はコチラ↓

http://ncode.syosetu.com/n9922c/34.html

(『七神創話』第34話 PC版へ)




「救世主……? あの伝説の……?」


 ミヤーリさんは玄関で兵の男と しゃべっていた。


 そこで、今の言葉。


 私は身を乗り出しそうに なりながら。


 ココに居る事が兵にバレないように物陰に隠れて聞く。


「そうです。あの“七神創話伝”に出てくる、ね。そこで、密告が ありまして。どうやら この大陸に やって来たらしいのです」


「まあ……」


という2人の会話を。


 私はギクギクしながら聞いていた。


(密告ですってぇ……!? まあ いいや。それより救世主と この村と何か関係でも あるのかしら?)


 私の考えを よそに。

 2人は話を続ける。


「それは わかりましたけれど。でも そんなに慌てて いらっしゃって、何か都合が悪いのかしら?」


「ええ。リメイラ教というのは、ご存知ですね」


 兵の男の問いに。

 ミヤーリさんは普通に答えていく。


「はい、知っています。私は教徒では ありませんけれど。でもタルナ民族には たくさん居るそうですわ。でも、それが何か?」


「リメイラ教というのは、神をたて、信仰する宗教です。そのため、南ラシーヌ国王はリメイラ教を廃そうとしていました」


 少しの間を置いて考え。


 ミヤーリさんは やがて わかった顔をした。


「絶対王政の この国では、それが邪魔だ、と……?」


 そう声に漏らすと。


 兵の男は頷いた。


「そうです。この国の神は国王です。ですから、それに従わないリメイラ教は王に とって邪魔な存在なのです」


「何て……」


 ミヤーリさんは後の言葉を心の内に しまい込んだ。


「リメイラ教の神は天地創造の神、“七神創話伝”に出てくる、天神。つまり、天神に導かれ降り立つ救世主とは、王の敵という事です。お理解(わか)り頂けましたか」


 ミヤーリさんは無言で頷く。


 兵の男は さらに続けて言う。


「国王は気に入らないながらも、弾圧とまでは行きませんでした。ですが、救世主が現れ、しかも この国に来た、という事で。そうも言っていられなくなりました」


「禁止令を?」


「はい。国中に。他の似たような宗派も、全て徹底的に。ですから、あなたも充分に注意して下さい」


「ええ。わかりましたわ。充分 気をつけます」


「くれぐれも、救世主を見つけたら 我々に すぐ……抵抗するなら、殺しても構いません。それでは」


 ……。


 兵の男は言うだけ言うと、去って行った。


 私は その場に へたり込んだ。


 無理も ないわよ。



 ――抵抗するなら、殺しても構わない――



 そんな言葉を間近で聞いてしまったなら。


 救世主は この国の敵?


 邪魔な存在? 弾圧ですって?


 それが全て本当なら。


 私達……


 やばい。





 宿に帰った頃には、陽は沈みかけていた。


 部屋に入ると、皆が揃っていた。


「やっと帰ってきたあ。何処 行ったのかと思っちゃったよ、お姉ちゃん! そろそろ皿洗いの時間だよ〜」


と、いつも通りに元気なメノウちゃんが。


 はしゃぎながら私に飛びついた。


 横に居たマフィアが私を見るなり驚いた。


「どうしたの? 顔が真っ青。しかも そんなに息を切らして。何処 行ってたの?」


 心配そうに顔を覗く。


 そこで。


 私はミヤーリさんの家で聞いた事を全部 話した。


 セナやカイトも寄って来て。

 私の話を聞いた。


 すると皆 素っ頓狂というか。


「えええええっ!?」と声を上げた。


 場は一気にパニックに なり。


 好き勝手に悲鳴を上げる。


「それ、まずいじゃんか!」


「マジかよ、嘘だろ!?」


「で、でもでも! 私達 普通の人と変わらないし……」


「若い奴らが固まって、しかも子供連れで。旅してますって言って信じてもらえるか? 調べられた挙句、絶対にバレるね。勇気の持ち物だって怪しいし」


と、カイトは私を見た。


 そんな事 言われたってぇ!


「こうなったら夜逃げか」


「ダメよ。余計に怪しまれる」


「とりあえず こんなトコ、早く出ようぜ」


と、最後にセナがキリをつけた。


 突然の『救世主危機』に。

 皆も私も顔を青ざめる。


 ああ天神様!


 どうか私達を護って……!





 朝早く。


 本当に朝早く、出発した。


 辺りはシンと夜と同じく静かに、佇んでいる。


 私達はコッソリ、港町を後にした。


 昨日 私が通った一本道を歩く。


 人の行き交いは ない。


 そして、今日中に この国を出るはずだった――が。


 そうも いかない事になってしまうのだった。


 一本道を歩き続けて。

 2時間足らず。


 陽も姿を見せ、朝になった。


 村の入り口に近づいた所に。


 とある親子が居た。


 遠かったし。


 草がボウボウに生えていて邪魔をしていたから。


 何をしているのかが わからない。


 でも よく見ると。


 母親と子供は座り込んでジッとしていて動かなかった。


 それは何かを必死に、祈っているかのよう。


 少し近づいて行くと横並びの親子の前に。


 一つの像らしきものが置かれている。


 簡単な石造りのもので。

 人の形をしていた。


 リメイラ教。


 ――神=天神を信仰する宗教。


 彼女らが そうなんだという事は私達 皆に わかった。


 でも こんな所で。


 ……もし兵にでも見つかったら。


 とんでもない目に遭うんでないか……?


 そう思ったからこそ。


 私は親子に忠告しようとして。


 もっと近づこうとした。


 しかし、それをセナが制した。


 文句を言おうとすると横からマフィアが。


 私の腕を引っ張り込み。

 草むらに隠れた。


 私達 全員、隠れている。


 訳が わからないでいると。


 やがて向こうで声がした。


「おい! 何してる!?」


 辺りの静けさを吹き飛ばすかというほどの大きな声だった。


 私は驚いて目を伏せた。


 でも声の対象は私達ではなく。


 あの親子だったみたいだ。


 恐る恐る草むらの陰から様子を見ようとして。


 目を開けた、その時。


 恐ろしい光景が目に飛び込んできた。……



 ザシュ。



 ……。


 ……あの親子が いっぺんに、斬られた……!



 倒れる母親と子供。


 一斬りにされた傷から。


 暴れるように飛び散らす出血の量から見て。


 即死だろうと思われた。


 薄く光る剣をブンと勢いよく振り。


 腰に据えつけられた柄へと おさめる兵の男。


 昨日 見たのとは違う。


 格好も。


 銀色の堅そうな鎧を纏っていた。


 そして顔は歪んでいるように見えた。


「ふん、こんな像を作りやがってコソコソと……見張ってて よかったぜ。忌々しい救世主め!」


 そして その歪んだ顔で。


 立ててあった赤く染まった像を蹴り飛ばした。


 像はモロく簡単に割れて。


 ゴロゴロと地面を転がった。


 血が涙のように流れていた。


 私は震えていた……。


 目が、その光景に釘付けになって。


 マフィアが後ろから肩に手をかけ。

 支えてくれていた。


 混乱する。


「どうして……どうして あの人達が殺されなければ ならないの!?」


 親子を斬り殺した兵は何処かへ行ってしまった。


 私達は草むらからソロソロと出て。


 血だらけで倒れている その2人をジッと黙って見ていた。


 トントンと、セナが肩を叩いて言った。


「……墓、造ってやろうな」


 私はセナの方を見て。


 また親子の方を見た。


 呆然と。


 そしてガックリとヒザを落とした……。


「あんまりだ」


 私は呟いて。


 涙を手で覆い隠した。


 殺される。


 ……殺される理由なんて ないのに。


 あなた達が死ぬ事は ないのに――。


 そのセリフが。

 ずっと巡っていた。


 人が死んでいく。


 その墓穴を私達が掘る。


 弔うために。


 ……一体いくつ掘れば。


 彼女らは救われる?


「勇気……辛いけど、しっかりして。あなたは今まで、人が死ぬ所を何回も見てきたでしょう……?」


 ハッとして、マフィアを見上げた。


 マフィアは黙って私と死体を見下ろしていた。


 そうか……。


 私、何度も こんな場面に遭遇したね。


 レイが……あの刀で……。


「ショックなんだよ……レイ以外の人が人を殺すなんてさ……」


と、少し私は笑って立ち上がって涙を拭いた。


 何が可笑(おか)しい?


 そう自分に問いながら。



 その場所から少し離れた荒地に。


 親子の墓を造った。


 花も何も ない、ただ そこに あるだけの墓。


 大きい石を一つ置いて。


 それと わかるように。


 私達は手を合わせ、並んだ。


 そして皆は黙ったまま。


 場を後に した。


 何とも言えない気まずい空間を遮ったのは。


 私でもセナでも誰でも ない。


 また別の、兵の男だった。


「おい お前ら。見ていたぞ。何者だ。旅行者か」


 さっきの兵と同じ。


 銀の鎧と剣。


 手を柄に かけ。


 私達を舐めるようにジッと見た。


 すると今度は。

 また違う兵が2・3人と やって来た。


 彼らは集まってボソボソと話し始めた。


 気のせいか、私の方をチラチラと見ているようだった。


 やがて そのうちの一人が私に向かって言った。


「おい、女。珍しい服を着ているな。何処から来た?」


 私の代わりにマフィアが歩み出た。


「西の方から来た、ただの観光の者です。北の方に珍味と呼ばれる食材が あると聞きまして。この子は私の妹。服は西の方では普段着と なっている物ですわ。彼らも同じ目的で一緒に なりましたの」


と、誤魔化そうとした。


 すると別の、隣の男が言った。


「怪しいな。救世主一行の疑いが あるんでね……城まで来てもらおうか」




 城へ連行される私達。


 厳重に囲まれた馬車の中で。

 セナが小声で言った。


「隙みて逃げようぜ」


 しかし、私は首を振った。


 セナが「何故?」というような顔で私を問い詰めた。


「国王に会いたいの。こんなバカな事、止めさせるために」


 私の目は怒りで真剣だった。


 セナは何も言わない。




 馬車からは外が見えない。


 だから いつの間にか何処かに連れて来られていた。


 馬車から降りろと命令され。


 降りて すぐ牢にブチ込まれた。


 あれよ あれよという間だったので。


 逃げようと思ったとしても たぶん無理だったと思う。


 狭い寒い何も ない、ただの牢。


「さて……どうなるんかな、俺ら」


 カイトが第一声。


 しかし誰も答えなかったので。

 カイトが一人で しゃべる。


「逃げようと思えばイケるとは思うけど。でも そうしたら“そうです。私が救世主です”って教えてるようなもんだよな。だからといって このまま何されるか わからないままっていうのは なあ。俺、こういう時間って嫌なんだよねー。例えば、人形買いに来た客が お金を取りに家へ戻ってまた来る、なんて言ってさ。その客を待ってる、その時間! アレコレ考える。“やっぱり面倒臭いから やめた”なんて思ったら どうしようとか、実は俺を騙してたんじゃないかとか、人形が もう これきり売れなかったらとか、マフィアの三つ編みは あんな(なげ)ぇの編んで嫌に なんねえのかな とか……思考っていうのは、尽きないわけよ」


 誰か聞いているのか聞いていないのか。


 わからなかった。


 全くの無反応にカイトはガックリした。


 そして また口を開きかけた時。



 牢の外に誰かが やって来た。




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