第33話(商人の街)・2
「救世主!? 誰が!? あんたかい!? それとも あんた!?」
予想通り、というか やっぱり。
おじさんは びっくりして。
私達の顔から下までジロジロと見回した。
「こいつです、こいつ」
カイトが私を後ろから。
頭をつついた。
「へっ!?」
おじさんは さらに びっくりして目を丸くした。
改めて私を見る。
そして はあ〜……と感心しきった顔をした。
「“この世に四神獣 蘇るとき 千年に一度”……ってやつだろ? へえ……あんたみたいな女の子がねえ……」
「……ねえ?」
と私はポリポリと頭を掻く。
だって、自分でも信じられないものね。
本当、何で私が選ばれたんだろー?
「そんでさ、その伝説に従ってだな、俺ら七神を捜して旅してるってわけ。なあ、おじさん。この辺で妙な力を持った奴とかさ。さっき言った“七神創話伝”の内容とか、それに関するもん何でもいいから、何か知らね?」
と、私の頭上でセナが聞いた。
おじさんは。
真面目な顔になって考える人のポーズをとり、考え込む。
「そういえば……」
おじさんが そう口を開いた瞬間。
「何っ!?」
と、いっせいに私達が注目したもんで、ヒッ、とおじさんは声を上げ身を引いた。
「い、いや、噂だけどよぉ……どっかの……たぶん、もっと大陸の北だとは思うんだけど……七神の……だと、思うんだけど?」
私達は揃いも揃ってウンウン、と頷いた。
おじさんは続ける。
「言い伝えがあるとか ないとか……コウジン、とか言ってたっけなあ……」
「コウジン?」
ニンジンじゃないわよね。
「ニンジンじゃねーよな」
と、セナ。
……私と同じ事を……。
「オラぁあまり好きじゃなくてなあ、神とか、そういうの。悪いね」
そう言って苦笑いをする おじさん。
慌てて手を横に振るセナと私。
「いや、参考になったよ。サンキュー!」
「うん。有力な手掛かりだよ! ありがとう!」
ニッコリ笑って見せた。
それを見た おじさんは また少しだけ考え込む。
「……あんたら、北へ行くんだね?」
と、上目づかいに私達を見る。
「ええ。そのつもりです。ね!」
と私が後ろに ふると、皆は頷いた。
「そうだろうな」
「そうね。重要な情報だもの」
マフィアもカイトも一致する。
おじさんは「そうか」と軽く相づちを打った。
「ま、気をつけてな。またトップル食べに来てくれい」
「うん。ありがとう!」
私達は何も気にせず店を去り。
宿の方へ向かって行った。
勇気達が去った後。
店の奥で隠れていた小さな女の子がトコトコと。
おじさん、もとい店主の横へやって来て。
目をクリクリさせて言う。
「今のが、めしあ なの? めしあ、が やって来たの?」
店主はジッと一点を見つめながら、怖い顔で。
「ああ……来ちまったらしい」と言った。
「さっきね、そこに兵隊の人が居たよ」
「!」
子供の言葉に、ビクッと肩を震わせた。
(見られた……?)
嫌な汗が頬を伝う。
……何も知らない子供は、悪気の ない声で言う。
「めしあ が来たよ、って知らせてい?」
店主は……。
……
……屈んだ。
子供を抱きしめて。
か細い声で言った。
「いや、言わなくていい。ちゃんと後で言いに行くから……」
子供は、やはり何も わからないまま。
目をパチクリさせていた。
「パパ、すごい汗だよ」
宿をとった私達は、荷物を置いた後に。
屋内に ある食堂へと集まった。
そして少し早めの昼食を。
私達の泊まった宿は割と大きくて、客も多い。
賑やかな客の笑い声と。
民族めいた歌なんかが聞こえてくる。
忙しそうに。
宿の従業員らしき人達は止まる事なく動いていた。
「あのさー、相談なんだけど」
「何?」
セナが少し言いにくそうに言う。
「少しバイトしていいか? ココで」
「へ?」
急に そんな事を言われて。
パチパチと まばたきが止まらない。
「実はさ。前に世話になったバイト先の親方さんがよう? この港に知り合いが居て、手が足りていないらしいんだ。もし こっちに行くんだったら、少し手伝ってやってくんねーか、って言われて。ほんの2・3日で いいんだけど」
「2・3日? 別にいいけど……」
と私は首を傾げた。
するとサッと立って、
「よし。んじゃ、さっそく行ってくるわ。じゃ!」
とスタスタと行ってしまった。
残された私達は、はあ? というような顔で。
お互いを見つめ合った。
「2・3日か……よし。んじゃ、俺も行こ。メノウの事、よろしく」
と、カイトまで立ち上がった。
私が慌てて「何処へ!?」と聞くと、
「人形売りに。売れたら金になるよ」
とても さわやかに言って軽い足取りで行ってしまった。
「うちの男どもは……なんてマイペースなのかしら!?」
マフィアが腰に手を当てて怒った。
私には、別の気に なる事が あって。
そっちに気を取られてしまった。
セナ……バイトばっかり。
このまま、どんどん離れて行ってしまったら。
……私、気に しすぎなのかな。
どうなのかな? ……
「メノウ、ジュースもらってくる!」
と、メノウちゃんはコップを持って走り出した。
私とマフィアだけが昼食の済んだテーブルに取り残されて。
私は、ぼおっと食べ終わった皿を見つめていた。
「忘れてたけど。セナと前、一緒に居た女の人ね」
マフィアが突然、話しかけてきた。
「へ? 何の事?」
「ほら。窓から見たでしょ。ブレスレット、もらう前……」
……ああ、あれか。私は思い出した。
今、自分のしている手元を見る。
セナにもらったブレスレット。
仕事帰りで泥とホコリまみれの2人が楽しそうに笑っていたのを窓から見たっけ。
それを見て すごぉく胸がムカムカしちゃって。
「それが何?」
つい、思い出して眉をひそめてしまった。
「セナと同じバイトの子だったんですって」
マフィアは そう言うけれど。
それは とっくに予想が ついていた。
だって格好が。
汚れ方が そっくりだったんだもの。
たぶん、あの日も。
たまたま帰り道が一緒だったとか、そんな所だと思う。
「セナ、皆にプレゼントしたじゃない? ブレスレットとか せんべいとか。あれ、どんな物がいいか選んでもらってたんですってよ。最初、勇気だけに買おうかと思ってたらしいけど、それじゃ皆に悪いかと思って……ですって」
え?
「……私だけに?」
「そうよ。ケンカっぽいのしちゃったんだって?」
「え……あ、うん」
「その お詫びみたいね」
思い出した。
私が自分の気持ちに気が ついた時。
セナにサヨナラを告げて走り去った、あの時。
セナは何を思っただろうか。
その後、レイを倒して。
ハルカさんが復活して。
私達は逃げて……。
セナはバイトだと言って。
あんまり一緒に居なくなって。
……でも、あの日。
ドア越しで謝ってくれた。
悪いのは私の方なのに。
勝手に落ち込んだり行動したりして。
いつも悪いのは私の方なのに。
いつもと同じ素振りで変わってはいない。
セナはセナだ。
出会った頃と同じ、優しさだ――。
「ふえ……」
突然、涙が ぼろぼろと溢れ出した。
マフィアが びっくりして私を見た。
「勇気?」
「マフィア……あのね……私……」
マフィアに全部 話す事にした。
セナとハルカさんの事も、洗いざらい。
マフィアは黙って。
聞き取りにくい私の言葉を聞いていた。




