第33話(商人の街)・1
※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。
同意した上で お読みください。
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(『七神創話』第33話 PC版へ)
蛍と紫くんが消えた。
船中くまなく探したけれど。
見つからなかった。
最後に2人を見たという人が居たので話を聞いてみたら。
2人が昨日の深海魚との戦いの最中。
お坊さんの格好をした男と。
共に居たのを見たという。
しかし、その後の事は わからなかった。
2人は、何処へ行ってしまったのか。
お坊さんの格好をした男。
……たぶん、紫苑の事だ。
紫苑がドサクサに紛れ。
2人を連れ去ったんだ。
何で今頃?
早急に2人が必要に なった?
……何のために?
ハルカさんの命令なの?
それとも……レイの?
蛍……。
今、あなたは何処に居るの――。
「仕方ない事よ。とにかく明日、大陸へ着く。私達には私達のする事が あるんだから」
とマフィアは言った。
でもね、マフィア。
蛍は本当に行きたくて行ったんだと思う?
私……蛍も紫くんも変わったなって思ってたんだよ?
すっかり仲間……って、思ってたんだよ?
それが何で こんな事に……。
落ち込んだまま目を閉じた。
薄いシーツの中で頭を隠してベッドの上で身を屈めて。
色々と考えてしまうけれど。
明日の朝、この船は大陸へ着く。
民族の争いが絶えないという、ベルト大陸へ。
そのために備えて。
しっかりと寝ておかなくちゃね。
しばらく経ってスヤスヤと眠りに落ちた頃。
……何処か遠くで声が聞こえた気が した。
―― ごめんね 勇気 ――
しっかりと聞こえた。
間違いなく蛍の声だった。
ガバッ! っと勢いよく起き上がった。
隣に寝ていたマフィアが驚いて目を覚まし。
「どうしたの!?」と聞いてきた。
私はドキドキする胸を押さえてマフィアに言った。
「蛍達は間違いなくハルカさんのトコに居る! 私には わかる!」
妙だけれど、確信していた私。
そう……そんな気がする。
そして蛍の身に何かが起こりそうな予感がする。
(ハルカさん……! 一体、何を企んでいるの!?)
客室の小窓から覗き見える空は まだ暗くて。
何も見えやしない。
……蛍は暗い部屋の一室で。
邪尾刀を握りしめて黙って座っていた。
その様子を少し開いたドアの隙間から紫がチラと見て。
そして去って行こうとした。
するとすぐ。
ドンと誰かに体が ぶつかった。
鶲だった。
元通りに なった体と服。
そして いつものような皮肉さを込めた言葉と表情。
「よく帰って来れたよね。蛍も あんたも……ま、いいや。同じ四師衆 同士だしね」
フン、と。
そっぽを向きながら鼻を あしらった。
「……」
何の反応も示さない紫を見て。
舌打ちした。
「ちえ、相変わらずブアイソ」
と、紫を思いきり真正面から蹴飛ばす。
みぞおち あたりを蹴られた紫は。
場から少し飛ばされ勢いよく倒れた。
紫は少し顔をすりむき。
頬を押さえながら上半身を起こす。
でも、相変わらず無言のままだった。
「ムカつくんだよね……あんたら。ハッ……。ハルカの命令じゃなかったら、今すぐ殺してやるってんのに。わかってるよね? あんたら、ハルカに生かされてんだよ。ハルカが、あんたらを指名したんだ。その辺、わかれよな! バーカ」
そう暴言を言い残し。
サッサと去って行った。
紫は しばらく黙って座っていた。
……すると背後にスッと、音も なく紫苑が現れた。
「紫苑様……」
と、振り向き紫苑の顔を見上げた。
紫苑は憐れみか同情を含んだ声で、紫を諭す。
「我慢して やってくれ。彼なりの出迎えなんだ」
「はい……」
すでに理解しているかのように。
少し俯き冷ややかな床を見た。……
目ヲ ツムレバ
楽シカッタ勇気達トノ
日々ガ 記憶ガ 蘇ッテクル ――
真っ黒な瞳が言う。
「あたしを殺して……勇気……」
邪尾刀を抱きつぶすくらいに強く抱えたまま。
小さな少女は心で泣く。
ベルト大陸リール港。
世界で一番 騒がしい港だという。
船を降りた瞬間。
違う空気の においを感じた。
何処か胸がホッとする、懐かしい香り。
民族が多種様々に居ると言うが。
自然環境も様々で。
その地方その地方 独特の花が咲いたり。
虫が居たり動物も居るという。
「争いなんて嘘みたいね。心が とっても和むもの。精霊達も とっても穏やかで元気いっぱいだわ」
「ああ。風が くすぐったい」
「近くにデカい泉が あるのかな。息吹を感じるぜ」
と、マフィア、セナ、カイトは それぞれの感想を述べた。
聞いているうちに私は思わず吹き出してしまう。
「何が おかしいんだよ、こら」
セナが突っかかる。
「だって……すっかり『詩人』っぽいんだもん。知らない人から見たら何か おかしい」
と私はニヤニヤ笑いをしながら見る。
「確かに……」と3人は。
それぞれ何かブツブツ言いながら照れた。
「心だぜ、心」
セナは笑う。
あんたが一番 恥ずかしい事を言っていたと思うんですけどねと私は思いながら。
「しっかしデカい港だよな。見ろよ、船の中と変わんねえ。店がズラリと並んでいるし、変わった格好の奴らが多すぎる。本当に3分の1が壊滅したのか? デマじゃねえの?」
セナが辺りを見回して言った。
何か、とってもワクワクした顔で。
目がキョロキョロとして。
ついでにキラキラ瞳は輝いている。
何て忙しい奴なんでしょ。
ま、私もワクワクしてるからいいけれど。
「ほんと。信じられない活気。心配するだけ損だったわね」
マフィアが言った。
「そうね! よかったよね!」と私もウンウンと頷く。
ココの土地の人達は もう元気を取り戻しているんだ。
よかった、本当に!
私達が それぞれ思い思いに言いまくっている通り。
港は港で『街』が出来上がっていて。
祭りなんじゃないかと思わせるぐらいの活気に包まれていた。
太鼓や笛の音。
陽気な おじさんの へたくそな大歌も。
離れた場所から聞こえてきて。
明るい赤や黄色や緑の色をした店々のテントが隙間なく並んで。
緩やかな道を作っている。
店の中では各店の主人や子供が店番をしたり。
商品じゃないのかと思うタルをイスがわりにして。
色の剥げたエプロンを着た老人が。
座ってキセルを吹かしている。
「お姉ちゃん。宿が あるって。あっち」
私の すぐ隣で。
メノウちゃんが私の制服の袖を引っぱった。
どうやら私達が あれこれ ふけっていた間に。
近くの店の おじさんに宿の事を聞いたらしい。
向かって左側の道を指して教えてくれた。
「おお、べっぴんさん。どう? この果物一つ。トップルっていう、ココ南ラシーヌ国でしか ない物なんだ。おまけに ひとぉ〜つ、付けとくよ!」
宿の事を教えてくれた おじさんが私達に話しかけてくる。
「買ってこっか。喉 渇いちゃったし。私が払うから」
というマフィアの提案に私も賛成。
マフィアは おじさんに手の平を広げた。
「じゃ、おじさん。5つ! 今 食べるから そのまま ちょうだい」
「へい、毎度あり!」
おじさんは上機嫌にトップルを私達に渡していく。
渡されたトップルとは赤く。
見た目リンゴみたいに丸かった。
でも触っても硬くはなく。
少しプニプニしている。
肉まんだか、そんな柔らかさ。
ちぎって食べられるパンみたいだった。
一口ちぎって食べてみると、やっぱりリンゴに近い味。
でも、とっても甘い。
それに水っぽい。
喉が渇いている時なんかは特に美味しいんだろうな。
「へえ、おいしー! 変わってるー!」
と私達は感動の連続。
「あんたら、観光?」
美味しそうに食べていたら。
店の おじさんが話しかけてきた。
「用事……っていうか。旅をしているんです。人を捜して」
私がトップルを頬ばりながら説明。
するとセナが割って入って来た。
「なあ おじさん。こう見えて救世主一行なんだ、俺ら。知ってるだろ? “七神創話伝”!」
トップルの最後の ひとかけらを口の中に入れてモグモグと。
その間、おじさんの顔色を窺った。