第30話(脱出)・3
「ハルカ……!」
セナが名前を呼ぶ。
金髪に くっついていた氷の細かい破片のせいで。
キラキラと金色は なお いっそう まばゆき。
整った決して崩さない顔は さらに気品を漂わせ。
……ゆっくりと目を開いていった。
3人とも、目の前の美女に釘付けになる。
「どうしてココに……? レイの所に……」
信じられない顔で、そう問うセナ。
だが美女は何にも答えず細腕を上げて。
何処かを指さした。
何処か、とは……。
視線を指し示された方へと向けると。
そこには血だらけで虫の息のレイが。
何だか私は嫌な予感がした。
やがて美女、もといハルカさんは口唇を動かして何か言った。しかし、聞き取れない。ゴクンと唾を飲み込みながら様子を見ていた。完全に魅了され、圧倒され続けていたのかもしれない。
「よくも……」
もう一度 口唇を動かした時。
確かに そう聞きとれた。
それと同じく。
ハルカさんの体から、遊糸が。
――糸のように細く白い煙が見え出していた。
ハルカさんの肌に触れた空気が熱せられているのか。
チラチラと体から立ち昇っている。
……もしや湯気だ。
「よくも、レイを……」
2度目に聞こえた言葉と共に。
表情の なかった顔は形相を変えた。
レイの冷ややかな氷のような鋭さでは なく。
こっちは まるで熱せられた鉄槍で刺すような鋭さの瞳。
視線を熱いと感じるなんて。
……決して気持ちのよいもんでは ない。
放射線か熱線か。
光線でも浴びているんじゃないだろうか。
もっと言うなら、“憎悪”の視線だ。
「許さない……レイを……レイを、 よ く も !」
手を広げ。
ハアア……と思いきり息を吸い込んだ。
えっ、何っ!?
「“火焔”!」
ハルカさんの首に着けられているチョーカーの赤く丸い飾りが。
赤々と輝き出す。
ハルカさんの広げられた両手から。
燃えさかる炎が出現した。
炎の塊は、2つに分かれ触手のように何メートルも伸ばして。
私達へと襲ってきた。
「きゃああ!」私が悲鳴を上げたと同じに。
炎の触手は2つから『1つ』に繋がった。
つまり、炎のリング状となって私達を取り囲んだのだった。
取り囲んだ炎は勢いを増し。
中に閉じ込められた私達3人を燃やそうとしている。
「あついいいい!」
私は もうパニック。
叫ぶしかなかった。
「“小波”!」
カイトが消火を試みたが、焼け石に水だった。
「嘘だろ……!」と愚痴るが もう遅く。
炎は私達をリングで締めつけようと迫ってきた。
万事休す。
思った、その時。
「“影絵”!」
呪文が聞こえた。
すると。
なんと炎は赤を黒に姿を変え。
灰になり散り散りになって風化されていった。
「!」
見ると、いつの間にか私の そばに人が立っていた。
その人は……。
「し、紫苑……」
“さん”付けを忘れてしまった。
しかし細かい事は今は どうでもよかった。
「法眼師! 邪魔する気か!」
少し離れた遠くでハルカさんが熱り立つ。
紫苑は冷静だった。
落ち着いて、私達には背を向けながら。
ハルカさんを正面から見据えていた。
信じられない。
紫苑、あなたは敵じゃ?
……助けてくれたなんて!
しかも意外な事をさらに言った。
「蛍と紫は先に送った。お主らも去れ」
え?
紫苑の片手が、横に上がったと思ったらだ。
段々と、紫苑の背中が薄くなっていく。
いや、違う。
紫苑だけじゃなく。
見える範囲の視界全てが薄くなって色あせていく!
「待って、あなたは――」
と私が一歩前に出ようとした時。
紫苑もハルカさんも姿を消してしまった。
……いや。
消えたのは こっちの方だったのかもしれない。
だって、暗がりの部屋が いきなり。
見覚えのある街の景色へと。
変わってしまったのだから。……
「へ……」
朝焼けが見えた。
呆然と、キョトンと。
3人とも地面に へたり込んでいた。
背中を それぞれに合わせて。
ただポカンと周囲の状況を見つめるばかりで。
一体ココは何処?
と自分でもなく他人でもなく。
頭上に確かに存在してある本物の空に聞いていた。
「ココ……キースの街……」
見覚えがあるはずだ。
キースの街の、雑踏だったんだ。
メインストリートのド真ん中。
建物だけでなく。
大勢の通行人が居る。
皆、横を通りすぎながら変な目で私達を見ていた。
いきなりのワープで頭が混乱している。
「あの坊さんに助けられたみたいだな」
まだボーッとあさっての方向を見ていたカイトが言った。
サッと一吹きの風。
汗だくのボロボロの私達。
ブル、と身震いをしてしまった。
「どうやら息は あるようだ。すぐ治る……」
レイのケガの具合を診て紫苑が言った。
だがハルカの怒りは。
まだ おさまってはいなかった。
「何故 逃がした! レイを傷つけた奴ら……皆殺しにしてやる!」
激しく口唇を噛み。
怒り心頭で罵声や雑言を周囲に浴びせるハルカ。
「頭を冷やせ。レイ殿のケガの治療の方が先だ」
「……」
レイ、という言葉で黙るハルカ……。
紫苑はレイと共に。
何処かの場所へと瞬間移動した。
消えてしまい誰も居なくなった空間に。
取り残されたハルカは。
落ち着きを取り戻して。
砕かれた氷の残骸に目を向けた。
「やっと……やっと……出られたのね。レイ……あなたと触れ合うために……」
ハルカは満足気な顔をして。
胸の前で手を合わせた。
《第31話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
陰陽師……そうだっけ(ほほー)。
ヒトガタとか使った方がそれっぽいんだろうか。
私は○HKで やってた稲○ゴロさんの陰陽師が好きでしたが(どーでもよい話)。
とりあえず勇気 最強。
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