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第30話(脱出)・2


 セナは風を、カイトは氷や水を出し防御しようとするが。


 連続 爆発の勢いで技を繰り出す暇も なかった。


 地獄としか、言いようが ない。


「まるで……“死への踊り”だね……」


と、レイの背後で腰を下ろして眺めていた鶲が言った。


 セナとの一戦での傷が、相当こたえているのだろう。


 自分で自分を治療し、見物しながら回復していた。


「休んでいろ。ココは俺一人で充分だ。……だが その前に、さくらを助けて来い」


「了解」


 スッと立ち上がってフッと消えた鶲。


 と同時に、全ての独楽が爆発し終わった。


 プスプスと立つ煙が静まっていく。


 レイの前に、倒れている2人……セナとカイト。


 うずくまった格好で倒れ。

 痛みに苦しんでいた。


 レイが近づく。


 セナの頭を片足で踏みつけた。


 片手をコートのポケットに突っ込み。

 グリグリと足でセナの髪をかき混ぜる。


 地に這いつくばる2人を堂々と見下し。

 唾を床に吐いて捨てた。


「手応えが ない……」


 セリフも吐く。

 とても つまらなそうに ため息も。


 肩をほぐすために首を回し、邪尾刀をかついだ。


 そして こう言った。


「一応、体内を調べさせてもらうか」


 静かに。

 邪尾刀をセナの胸前へ狙いを定め構えた。


 このまま、一気に いつでも刺せると脅しを込めて。


「くっ……くそぉぉお……!」


と、カイトがセナより2・3メートル離れた所で。


 起き上がれずに ありったけの力で叫んだ。


 2人とも意識が あっても、動ける力が ない。


「悔しいか? セナ……」


 母親が子供に語りかけるくらいに優しい声で。


 屈み込んでセナの耳元で囁いた。


「レ……イ……」と呻くセナ。


 床に沈められている その有様は。


 なんと無様な事かと。


 だが そんなセナ達の醜態が。


 レイに とっては快感であり、(よろこ)びで あった。


「ははははははっ!」


 声を大きくして嘲笑った。

 この、爽快な気分をゆったりと味わっていた。


 だが――。


「は……」


 レイの動作がピタリと止まった。


 信じ難い顔をして、ソロリと。


 ……後ろを見るため 振り向いた。


 そして さらにまた。


『信じられない』『まるで夢なのか』という顔をさせた。



 レイの背中に突き刺さるナイフ。


 ……つう、と傷口から血液が こぼれ出し流れている。


 血はナイフの刃を伝い やがては離れて。

 ポタリ、ポタリと……。


 床に赤の飛沫が重なっていく。


「何故……何故、お前が……?」


 レイは それを言った途端 ゴフッ、と口から吐血した。


 そしてヨロヨロと よろめき後退して。


 溢れてくる止まらない血を手で受けながら。

 ワナワナと震え出した。


「まさか……お前が……」


 目の前に居る人物を凄い形相で ひと睨みし。


「お前が!」と叫んだ後。


 ガクンとヒザを落とし前のめりで倒れてしまった。


「生きてる……?」


 今度はカイトが驚いていた。


 セナが必死に上を見上げる。

 少し暗がりの中、見覚えのある顔を見た。


 そしてセナも驚いて。

 目をパチパチさせた。


「勇気!!!???」


 心配そうな顔で こちらを窺う。


 さっきレイに胸を刺され死んだはずの勇気の顔があった。





 私はレイを刺した――


 あまり実感は ない。


 人を刺したっていうのに。

 何故だか落ち着いている。


 きっと。


 それどころでは なかった せいだろうと思うけれど……。


 そして それもあるけれど。

 ……心中は実に妙な感覚なんだ。


 それも そのはず。


 死んだと思ったのに、現に こうして生きているのだから。


「不思議なの。擦り傷とかカスリ傷とかは残っているんだけど……胸の大きな傷だけはキレイさっぱり消えちゃったのよ!」


 私が まだ半ばボーッとしたまま。

 セナ達に向かって声を上げた。


 そんな私の顔を見て。


 セナとカイトの顔が段々と ほころびていった。


「何だよ……ボロボロだな、勇気……」


と、クックックッと笑うセナ。


 つられて、カイトの方からも笑い声が聞こえてきた。


 私は自分の みすぼらしくなった衣服を見て。

 プーと顔が膨れてしまう。


「お互い様じゃない。そっちの方こそ、ボッロボロのズッタズタ。ちょっと、立てる?」


 駆け寄り。

 セナを起こそうとして頑張ってみた。


 肩を貸して、何とかセナも立ち上がる。


「カイトは? 立てる?」


「ああ……何とか……」


と、よろめきながら起き上がって立ってみていた。


 だが、すぐにカク、と足の力が抜けて(ひざまず)く格好になった。


「やっぱダメ、全然力が な……」


 パタリと。

 再び倒れてしまった。


「俺の力、分けてやるよ」


 セナが そう言って、私の肩から離れ。

 ゆっくりと近寄った後。


 手の平をカイトの方へ広げた。


 少し淡い光がカイトをほのかに包み込んだ。


 すると みるみるうちにカイトが少しずつ元気に なっていった。


 立てるだけは できるくらいにまで。


「すげーな」


と、セナを褒めた。


 力を他人に分け与えれるなんて。


 私も初めて見て、びっくりしたわ。


 しかしおかげで今度はセナが立てなくなるという。


「大丈夫。少し休めば……」


 なんて、言っちゃってるけど。


 セナの顔面は真っ青だ。


 私は閃いた。


「私の力、あげる! 送り込める力があるなら、逆に吸い込んでよ!」


と、適当な事を言ってみた。


 その割には。

 いい考えだと後から思ったんだけれど。


「じゃ、少しだけ」


 セナが私の手を掴んで また光が。


 淡い光で包まれた私の体から、セナの体へと。


 光と共にエネルギーが流れていくようだった。……


 やや回復した。


 体力、3分割?


 仲良く立てられればいいんじゃないかと。

 気楽に思う私だった。


「しっかし、妙な事も あるもんだぜ。絶対、死んだと思っていたのに」


「ねえ?」


 セナと私がノンキに会話をしていると。


 カイトが倒れているレイを軽く一蹴りした。


「ざまあみろだけど……死んでるのかな?」


と、カイトがレイの顔を覗き込む。


 血だらけで倒れているレイの手首に触れ、脈を診た。


「どうやら、微かに息は してるようだな。勇気の力じゃ致命傷とまでは いかなかったようだ。生きてるよ。どうする」


と、チラリと私とセナを見た。


 私達は困惑した。

 どうするって……。


「とりあえず連れて帰るか……ココに置いといたら、本当に死んじまう」


 セナが そう提案した時。


 ピシィッ……


 何かが弾けたような。

 それか亀裂が生じたかのような音がした。


「え?」


 私が目線を遠くへ見やる。


「ハ……」


 同時にセナが声を。


 そして音の した方を見ながら驚いた顔をした。


「何だって? 何だアレ……」


 カイトも。


 ピシ……ピシピシ……パキッ……。


 どうやら音は。


 部屋の奥に ある忘れられそうになっていた氷づけのハルカさんの方から聞こえてくる。


 しばらく3人とも黙って様子を窺っていた。


 すると……。


 ビキィッ!


 最初は控えめに音を立てていた氷が。


 派手な音を出して大きな亀裂を生んだ。


「こ、こここ、氷が!」


 驚いた私は素っ頓狂な声を発するしかなく。


 混乱する。


 一体 何が起きているんだあ!?


 それはセナもカイトも同じ気持ちだった。


 パアンッ!


 耐えきれないように。

 最大量の音を放った氷。


「わああ!」


「きゃあ!」


()でっ!」


 突然の衝撃で。

 思わず私達は自分で自分の身を護った。


 どうやら。

 砕かれ割れた氷のカケラの一部が勢いよく飛んできたらしい。


 瞬間的な事で びっくりした私は。


 伏せた目を開け恐る恐る前を見た。


「……!」


 衝撃が走る。


 氷を内から砕き。

 立っている人形――いや。



 ハルカさんだった。




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