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第29話(攻防戦)・2


 中央の通路の行く道を阻む さくらの術で。

 金縛りにあっているカイト。


「ぐわっ……! あああっ……!」


 ただの金縛りでは ない。


 高圧電流が まるで、(もてあそ)ぶかのように。

 カイトの体を(むしば)むので あった。


 一歩も、一挙一動も身動きが とれないでいるカイト。

 さくらは、それを面白そうにウットリと見つめていた。


「……諦めなさい。レイ様には会わせませんわ」


 手に持った扇子(せんす)を広げて顔の下半分を隠し、陰で口元が笑う。


 妖艶めいた目つきで相手を見下すようで。


 カイトは それが とてもムカついた。


(余裕綽々(しゃくしゃく)だな。女のくせに……やったら強え奴だな)


 体に激烈な痛みを全身に感じながらも。


 カイトは今ココから どうすべきかを必死に考えていた。


(すき)、だ……隙を作るんだ)


 カイトの考慮など知らず、話し続ける さくら。


「レイ様は今、救世主と戦って いらっしゃるの。きっと今頃……救世主を なぶり殺しにしていらっしゃるわ。やっと会えたんですもの。念願の……レイ様念願の、救世主との一対一の対決。ああ、(わたくし)も見とうございましたわ……レイ様の華麗な、あの動きを……」


「……ふっ」


「何が可笑(おか)しいんですの?」


「レイ様レイ様って。お前、奴の何なんだ?」


 上目で さくらを嘲笑うかのように見た。


 さくらの整った眉がピクリと動く。


 カイトは それを見逃さなかった。


「親か兄妹か友達か……恋人か?」


 電流に痺れ。


 意識が段々と遠くなっていきそうに なるのを堪えながら。


 さくらの出方を待った。


「レイ様は……私の……主ですわ。私は ただの下の者……」


 薄れゆく視界の中。

 さくらの悲しげな顔が浮かぶ。


(こいつ……レイの事、好きみたいだな。ちょっち罪悪感もどき……なあんて、言ってられますかぁ? 人間、時には非情なり!)


 隙あり! と言わんばかりに。


 カイトは最後の力を ふり絞って、口にした。


「“津波(つなみ)”!」


 唱えた時。


 さくらとカイトの間に高い壁が できた。


 透き通る、水の壁。


 徐々に壁は高くなって、うねりを上げ。


 さくらに高波となって襲いかかる。


「キャアアアアアッ! レイ様ァーッ!!」


 声も波の轟音と共に かき消された。


 途端に全身の力が抜け。


 その場にカイトはバタリと倒れ込む。


「へへへ……ざまあみろ……い」


 重い まぶたを閉じる。


 さくらが どうなったか。

 今の自分が どうなっていくのか。


 全てを忘れ。

 疲れを身に預けて意識を失っていった。





「てあッ!」


 カキン!


 ナイフと邪尾刀の交戦の音。


 すっかり調子を戻した勇気は。


 積極的にレイに食って かかった。


 だが やはり、レイは強いのだろう。


 まるで大人と子供のよう。


 無駄な動き一つ なく。


 勇気の勢いにも動じないレイ。


(くう〜……何か、手は ないのかしら……)


 レイに攻撃しながら一生懸命に考える。


 充分わかっていた。


 自分は、レイの相手などには ならない事を。


「お前の力は こんなものか」


「こんなもんです!」


 ガキンッ!


 レイの邪尾刀が、勇気のナイフを飛ばした。


 ナイフは勇気の手から離れ空中回転して、遠くへと。


 どうやら床に叩き落ちてしまったようだ。


 武器を失くしてしまった勇気。


 ……その瞬間の虚を突いて、レイが攻撃する。


「“(つばくら)”!」


 邪尾刀を構えたと思ったら素早く呪文を唱え。


 剣道でいう『突き』を連発する。


 その速さが風を生み。

 勇気は何が何だか わからなくなって。


 顔を護る体勢をとった。


 風は肌に感じるが、痛みは なかった。


 だが息つく間も ない豪風だった。


 その状態が約10秒ほど。

 風が止み、恐る恐る目を開けると同時に。


 ゴト、と重い物が床に落ちた。


 ……それはボッロボロの布になった勇気の制服から落ちた、まな板であった。


 さっきの攻撃で、防御を失ったので ある。




 そんな『制服ボロボロ事件』の さなか。


 左の通路で紫苑に行く道を阻まれている蛍と紫。


 ちょうど最悪の状況であった。


 紫苑の作り出した“蜘蛛(くも)”の幾重ものの糸に絡められ。


 引っ張り吊り上げられている2人。


 まんまと紫苑の用意していた罠にハマッてしまったらしかった。


「くっ……! 紫苑……っ!」


と、蛍は悔しそうに紫苑を見下ろす。


 ただの糸では なく。


 粘りつき、とても弾力性の ある糸だった。


 体の自由は利かない。


 しかも糸は、蛍の幻遊師としての力も吸いとってしまっていたのだった。


 なすがままの どうにでもして状態とは このような時の事を言うのだろうが。

 人道的な紫苑は ただ、


「事が収まるまで、そうやって おとなしくしていろ。殺しはしない」


と、冷たい床に座禅を組んで そう言った。


「殺しは しない、ですって……?」


 紫苑の その一言に気に食わない様子を見せる蛍。


「紫苑! たとえ あなたが私の親代わりだとしても……今は生死を決する敵同士よ! トドメを刺しなさいよ!」


「蛍様……」


 紫が蛍の横で名を呼んだ時。


「あっ……」と思わず漏らす蛍。


(今……私……紫苑を『敵』って言った……?)


 紫苑が自分の敵なら。

 自然と自分はレイと対立する立場を とった事になる。


 勇気の元へ居るには居るが。

 決して『味方』に なったわけでは なかった。


 なのに、今自分はレイの敵になるという事を自分で認めてしまったのだ。


 顔が赤くなった。


 そして、俯いて黙ってしまった。


 そんな蛍の隣から、ブチブチという歯切れのよい音が聞こえた。


 え、と蛍が見ると。


 最後の糸が切れ吊るされていた紫がスタッと下に降り立った。


「紫……」


 体中に巻きついた糸を手で外しながら、ポツリポツリと口を開く。


「私の主は蛍様です。私の命は主と共に あります」


 紫苑は黙って目を閉じて座っているだけだった。


「蛍様が あなたを敵とした以上、私は あなたを倒します」


 そう紫が言った後、微かに紫苑は笑った。


「……面白い」


 そう言うと、音も なく立ち上がった。


 手を前で合わせた。


 徐々に体の周りにボンヤリとしたオーラが見え始める。


 戦闘準備に入ったようである。


「売られたケンカは買えと、俗に言われているな」


と、今度は二コリと笑った。


 すると なんと紫も、口元を二コリとさせた。


「行きますよ」


 紫も戦闘の構えを。


(紫……!)


 依然、吊られたままの蛍は そんな2人を少し悲しく見下ろした。


(私のせいで……ごめんね、紫。私は……助けたいの! ……あのバカを……)




 くしゃみ一発。


「クシュン!」


 制服をボロボロにされ武器と防御を失った私。

 それでもレイを睨んでいた。


 もう終わりだ、と思った。

 絶望だとも思った。


 でも、負けたくなかった。


(負けない!)


 キッと歯をガッチリと食いしばった時。


 指輪の力で風のバリアーが生まれた。


 あの おなじみの風だけれど。


 いつもより いっそう風の壁は厚くなっていたような気がした。


(こんな奴に、負けてたまるか!)


 風は私を中心にグルグルと暴れ回り、部屋中を吹き荒らす。


 当たってパラパラと、天井や柱の破片も落ちてくる。


 レイは腕で顔を風から護る。


 そんな風に、レイを威嚇してみた。


 しかしレイを睨んでいた私の目は、突然ギョッとした目に変わった。


 と、いうのも。


 レイの後ろの方の暗闇が、まるで壁の。


 ……黒い皮をめくるかのようにベリベリと はがれ落ちていったからだ。


 そして はがれ落ちていく さらに その向こうに。


 キラキラと銀色に輝くクリスタルが現れた。


「ハルカ、さん……?」


 氷の中でヒッソリと立つ美少女。

 それは夢で見たままの、ハルカさんの姿だった。


「驚いたか」


 その美しさに みとれ驚く私にレイは冷たく言う。


「この部屋も この城全体も。俺のこの闇の力で作った空間だ。どうやら、風で闇の一部が飛ばされてしまったようだな」


 闇の力で作った?


 城も……ああ、それで廊下が突然 分かれ道に なっていたりしたんだ。


 レイの思うがままに……。


「こんな近くに……」


 私に一筋の汗が流れた。


 見えづらいとはいえ、気配も何も感じなかった。


 こんな近くに閉じ込められたハルカさんが居ただなんて。

 思いも しなかった。


「ふ……置物にしては、見事だろう? セナに見せてやるつもりだったんだがな。お前を倒した後で」


 レイが嘲笑う。


「倒されるもんか!」


 風のバリアーに包まれ、なおも意地を張る。


 レイは邪尾刀を構えて、ジッと私の出方を待っている。


 どうすれば……なんて、ヒョイと考えた時。


 私の背後で声がした。




「勇気!」




 思いがけない声の主に、私は振り返って また驚く。


 セナだ。鶲を倒したんだ!


 ドアを開けて……無傷だった。


「セナ! よかった、生きて……」


 気が。

 少し緩んで、私を取り巻いていた風が少し弱まった隙を突いて。


 ザシュッ! ……


 何とも、気味の悪い音がした。


(えっ……)


 頭の中が、真っ白に なった。


 向き直ると低姿勢なレイの顔が すぐ近くに。


 いつもみたいに、少し口元を歪ませて……。


 気が遠ざかる。


 私の心臓に、邪尾刀が、……刺さっている。


 レイの体に降りかかったものは……血だ。


 私の……


 私の……!



 急激に全身の力が抜けて足腰が崩れて――


 倒れ……る。


「勇気ィーーーッッ!」


 意識が薄れていく。


 今度こそ、本当に。




 ……ヤバイかもしれない。




《第30話へ続く》





【あとがき(PC版より)】

 フライパンも あったんですけどね。身内とはいえ あんまり持ち出したら兄、困るよ(同情)。


 ご感想やご意見など お待ちしています。

※本作はブログでも一部だけですが宣伝用に公開しております(挿絵入り)。

 http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-82.html

 そして出来ましたらパソコンの方は以下のランキング「投票」をポチッとして頂けますと突然 作者が起(最近眠気に弱)。


 ありがとうございました。


 ピョン。



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