第29話(攻防戦)・1
※シリアスあり、コメディー要素ありとなっていますが作品中、今後の経過により残酷な描写があるかもしれません。
同意した上で お読みください。
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(『七神創話』第29話 PC版へ)
頑固者を説得するほど難しいものは ない。
一つ事を決めれば、何が何でも やり通す。
仮に それが、偽りの正義だったとしてもだ――。
「どうした? 手が震えてるぞ」
変わらない冷ややかな声の調子で言うレイ。
私は、まんまと奴の策にハマッてしまったのだ。
こいつの頭の中では。
常に張り巡らされた策で いっぱいなのかも。
セナだって何度か言ってた。
レイは、頭が いいとか天才だって。
……冷静で徹底主義で、粗が ないって。
その頭脳で、大人でさえ言いくるめてしまうって。
レイは私にココへ来るように仕向けた。
一人で来たのは たまたまだったけれど。
恐らくセナ達と一緒に入り口をくぐったとしても。
何らかの方法で結局。
私を単独で行動させようとしたんだろう。
私達の行く先々の村や街を襲っていたのも、そのため。
私が、レイを心底 憎むように。
そして、レイの元へ来るように、仕向けた。
悔しい。
悔しいわ!
何で それぐらい気が つかなかったの!
いつかカイトが疑問に思って こぼした事はあった。
何で、レイは私達の先回りをしているんだろう、って。
少し頭には引っかかっては いたけれど。
レイは ただ闇雲に四神鏡を探しているのだと思っていた。
なのに、そんな裏が あったなんて。
結局 私はそんな深く考えていなかった。
「どうして私と戦いたいの? 私が“救世主”だから?」
怒りで震えているのを堪えて聞く。
レイは私の最初の攻撃をかわして、私の背後に居た。
「お前の本当の力を見たい。蛍と戦った時の、あの“力”を……」
レイは言った。
瞬間、私はドキリとする。
その事は、ずっと触れないで心の奥に しまっておいた事。
蛍が まだ敵だった時、私と一対一で戦った。
せっかくカイトから もらった人形をダメにしてしまい。
カッとなって私が放った“攻撃”の事だ。
あれで私、丘を一つ消してしまった。
オボロゲにしか、覚えていないんだけど。
私は てっきり。
セナにもらった指輪の おかげなんだと思っていた。
今も そう思っている。けれど……。
「私は一般人。何の力も持ちは しない。おあいにく様ね」
ニヤリと笑ってやった。
本当は足も、ナイフを持つ手も震えているんだけれどね。
何とか踏ん張って強がっている。
怖いけれど、だけど……!
レイは顔色一つ変えず。
いきなり指をパチンと鳴らした。
すると、私の背後にパッと何かが現れていった。
それは大きく、映写機とかで映されるスクリーンのようなもの。
しかも横並びに3つ。
パッ、パッ、パッ。
驚いたのは。
中央のスクリーンには この城の入り口らしき映像が映し出されていて。
セナ、カイト、蛍、紫の4人の姿が あったのだ。
「セ、セナ……皆。来てくれたの……」
ナイフを持つ手が緩んだ。
あまりの感激に顔も ほころびた。
セナの真剣な顔……。
セナとは、ケンカ別れ風になってしまった。
てっきり怒っているんじゃと思っていた。
でも、来てくれた……嬉しい。
ところが、私の そんな姿を見て。
レイは また口元をニヤつかせた。
「何処を見ている救世主。セナ達は、ココへは来ないぞ」
「え……?」
一瞬だけレイの方を見て。
またスクリーンの方を見た。
すると どうだろう。
セナ達の進む先には、3本の分かれ道が。
おかしい。
私が通ってきた廊下では分かれ道なんて なかったはずじゃ。
どういう事なの?
とにかく、声は聞こえないんだけれど。
セナ達は集まって少し話し合った後に。
3手に分かれ。
それぞれ道の先に向かって歩き出していった。
セナは右の道に。
カイトは中央の道へ。
蛍と紫くんは左へと。
それぞれが歩き出し。
各スクリーンで個人を追うように映し出されていった。
まさか そのために用意されたスクリーン?
「救世主ともども。単純で楽だ。わざわざ別行動をとるとは。よっぽど救世主のおかげで焦っているのか、考えが足りない」
レイが愉快そうにスクリーンを見て一笑する。
レイの言葉は私の胸にチクチクと針をさすよう。
単純で悪かったわね!
ああそうですよ、考えなしですよぉ!
私はアッカンベーでも してやろうかと思ったが。
さらにバカさをアピールして どうすんだと引っ込めた。
「あ……!」
気が ついた。
それぞれの道先には。
敵が、立ちはだかる。
右の廊下を突き進んで。
何処かの部屋へと入っていったセナの前には、鶲が。
中央のスクリーンでは同じくして。
何処かの部屋へと入っていったカイトの前には、さくらが。
そして。
左のスクリーンに映し出された蛍と紫くんの前には。
……お坊さん?
「蛍が言ってた……紫苑、ね」
頭はツルピカ。
毛は生えていない。
無表情に見えるが。
落ち着き払ってまるで存在が感じられない雰囲気が漂う。
沈黙を肌に感じる奇妙さが伝わってきた。
それぞれが、それぞれに。対面していた。
「大事なゲスト達だ。最高の もてなしをしてやろう」
言ったレイは邪尾刀を叩きつけるように。
ブンッ! っと下めがけて一振りした。
ビシィィイッ!
軽く振っただけなのに、床に亀裂が走る。
斬れ味、絶好調とでも言いたいんだろうか。
風圧だけで硬そうな床に大きな傷が。
(殺される……)
嫌な汗が背中を伝う。
ナイフを構えて体勢は とってはいるけれど。
内心ビクビクしていた。
さっきの怒りは。
悔しさは、何処へ行ってしまったの?
どうする私。
……本当にレイと戦うの?
確実に殺されると わかってて?
確実に……なんて言ってしまったけれど。
勝てる自信が ない。
そうじゃないのに。
こんな、武器で取りあうために来たんじゃないのに。
「どうした? かかってこないのか? なら、こっちから行くぞ」
ハッと、気がついた時は もう遅かった。
私の緊張と恐怖で固まった体は。
瞬時には動いてくれるはずもない。
レイの刀は私の胸を刺した――。
セナと鶲は睨み合っていた。
いや、睨んでいたのはセナだけで。
鶲は さも面白そうにセナを見ていただけだった。
しばらく両者とも、相手の出方を窺っている。
「どいてくれ……つっても無駄だな」
「無駄だね」
そう即座に返す鶲の言葉に。
ハァ〜……と大げさな ため息をついた。
これまで、鶲には えらい目に遭わされてきている。
今回も そうなんですかと、セナは うなだれた。
しかし勇気の事も あったので、セナは焦っていた。
鶲には決して見破られたくは なかったので。
精一杯の余裕を見せるよう胸を張っていた。
「そういや、お前と こうして戦うのは初めてじゃなかったっけ」
などと話しかけたりした。
「そうかもね。僕、争いごとは あんまり好きじゃないんだ。大椅子にでも座って机上で空説だの理論だの、述べている方が好き。だって僕の役割は業師。今回の この戦いの組み合わせは、僕が決めたんだよ。レイが どうしても救世主と戦いたいって言うからさ。ま、しょーがないって感じでね」
ステップを踏んだりして おどけてみせた。
セナは眉をひそめる。
「レイが勇気と戦いたい? 何故だ?」
セナの疑問に答えながら。
首を回したりして準備体操を始めている。
「あの人は僕と違って戦いが好きなんだよ。救世主の行動を監視していて、大いに興味を持ったんだろうよ……ただの直感かな? それとも」
「だから、襲う所の対象を俺達の目指す場所にしたんだな。俺らを誘ってやがったのかレイの奴……!」
軽く舌打ちをして歯を食いしばった。
鶲を見ておらず、横目で部屋の白一色の壁を睨んでいた。
「レイに とって、救世主なんてどうでもいいのさ。利用するだけ利用するつもりらしいけどね」
すると鶲は。
おしゃべりは この辺で おしまいとでもいう風に。
手のひらをセナに見せるように前に広げた。
ボコ、ボコボコボ……コ。
床が見えない力で砕かれて。
大石や小石へと割れていく。
そうして なった破片や塊は、すう、っと個々 上昇し鶲を中心に。
鶲を囲んで浮かんで いった。
その数は増えていく。
浮かび ある程度に まで いったら静止して。
増えて、増えて……。
「これはレイの技だよ。四師衆は皆、レイから技を教わったんだ」
段々と小石は また その数を増やしていく。
やがて堰をきったように鶲が呪文を唱えた。
「“飛礫”!」
そう唱えると。
浮かび上がった小石や破片は全てセナに向けて発射された。
スピードが かなり かかっている。
だがセナは この技を知っていた。
というより、話に聞いていた。
レイが この技で、3人の人間を殺してしまった事を。
……だから予想できた分、護りが速かった。
「“風車”!」
鶲が先ほど攻撃したのと ほぼ同時ぐらいに。
セナは呪文を唱え強風を起こした。
強風は円や弧の形を描き。
飛んできた無数の小石を残さず全て弾き返していった。
弾き返された石は、鶲へと数個、数十個と当たっていく。
鶲が放ったよりも さらに倍以上のスピードをつけた石は弾丸と化し。
幾つかは鶲の体をも貫いていった。
「っつ……!」
思いもよらない反撃に。
ひるんだ鶲の隙を突いてセナが次の技を唱えた。
「“剃刀”!」
風が横一文字の無数の刃となって、鶲を襲う。
「うわあっ!」
容赦ないセナの攻撃に鶲は傷を全身に受けつけ、倒れた。
ガックリと首を地面に打ちつけ意識を失う。
近寄り、なんと一つも呼吸を乱す事なく黙って鶲を見下ろした後。
先を急ぐべく出口を探そうと周囲を見渡すセナ。
何よりも、勇気の事が心配で たまらなかった。
……レイに胸を刺された勇気。
ところが。
刀は刺さっては いなかった。
「何だ それは」
レイは弾かれた刀を引っ込め。
勇気の胸元をしかめっ面で注目した。
勇気は“してやったり!”という顔で。
刺して破れた制服の布をめくり、見せてみた。
「私の お兄ちゃん愛用の まな板よ! 全ー然っ、気が つかなかったでしょ!?」
そう。
勇気は、制服の下に いつの間にかセーターを脱いで まな板を仕込んでいた。
まな板が あろうが あるまいが。
あまり変わらないという悲しい事実を利用した勇気の大機転であった。
見事に だまされたレイ。
ひょっとしてレイ史上、初では ないだろうか。
「どうだ! レイ!」
まるでネコのような顔で小バカにしてみせた。
「……」
レイは無言で、無表情だった。
そしてトドメに。
「地球っ子をナメんなよ! 負けないんだから!」
と、ビシイッ! とレイを思いっっきり指さしてやったという。