第28話(侵入)・3
床が青く白く。
床そのものが じんわりと光っているようだった。
ヒザ下くらいまでしかよく見えないけれど。
そして近づいてくる足音は、一つでは なくなっていた。
いや、足音は壁でアチコチに反響しているみたいだ。
それで一つでは なくなって聞こえるだけ。
おかげで、その足音を出している人物と私との距離が わかりづらくなっている。
「ようこそ。我が城へ」
声が私の所から数メートル離れた所で した。
聞き覚えがある男の声だった。
嫌に なるくらいに よく知っている。
……彼の低い落ち着いた声。
「レイ……ね」
顔が よく見えない。
足元だけが、薄っすらと確認できた。
私の真正面に姿を現し。
ブラリと下がった手には何か長い物を持っていた。
「私が来る事……とっくに知ってたみたいね」
私に緊張が素早く走る。
直接、こうやって対面した事あったっけ?
自分の手を握り締め。
レイの存在に圧倒されないように気をしっかり持とうと努めた。
「ウチには優秀な術師がいてね……それより、一人らしいが。よくセナや他の奴らが許したもんだな」
言いながら。
手に持っていた物を前へと。
あれは……。
邪尾刀だ。
「……勝手に来ただけよ。セナ達 抜きで あなたと話つけようと思ってね」
あくまでも冷静に、レイを睨みつけた。
あっちも果たして こっちが見えているのか。
どうかは知らないけれど。
レイの含み笑いが聞こえてきた。
ククククク……と。
「何が可笑しいのよ?」
と私がカッと赤くなって言うが、レイは まだ笑っていた。
そして皮肉たっぷりに言う。
「叫んだらどうだ? “誰か助けて”ってな……まあ、叫んでも無駄だがな」
ドキリ。
私の顔が また赤くなった。
(こいつ……私の心、見透かしてるッ。ま、負けるもんか!)
本当は怖い。
怖かった。
レイの その威圧感。
そこに立っているだけというのに。
まるでトゲでも刺さってくるかのような痛みを伴う雰囲気に包まれていた。
私は、立って足腰で踏ん張るのが やっとだわ……。
レイの目には、そんな私が滑稽で愉快なんでしょうねっ。
ふんだ!
「よくも……罪の無い人達を殺しまくってくれたわね! そんなに四神鏡が欲しいの!?」
と、躍起になって言った。
レイは冷静に「ああ」と返事をする。
予想通りの答えなだけに、少し悲しかった。
「どうして……もう充分 天神様は苦しんだわ。あなたの復讐は、もう とっくに済んでると思うけど! ねえ、どうして人を殺して平気でいられるの!?」
「……」
私は構わず続けた。
「青龍が復活したら、私も あなたも きっと ただじゃすまない! ハルカさんもセナも死んでしまうかもしれないのよ!」
「……」
何故か無言のレイだったけれど。
私の口は止まらなかった。
「ハルカさんが好きなんでしょう!? だから……そばに置いているんでしょう……? なのに……どうして世界を滅ぼそうだなんて……」
「言う事は それだけか」
黙っていたレイは、邪尾刀を構えた。
ひょっとしたらハルカさんの名を言った事で。
少し感情的に なってしまったかもしれないと思った。
だが、もう遅い。
「かかって来い、救世主。俺は そのために お前をココに呼んだんだからな」
「あの、ココまで案内してくれたロウソクの仕掛けには感動したわ」
と、私は少し強がりに笑ってみせた。
本当は、ちっとも余裕なんて ないけれどね。
(私はレイとケンカするために来たんじゃないもの。ナイフを持ったが最後ね。絶対に持つもんか!)
と、危うく触れそうだった、腰に差してあるナイフから手を離した。
しかしレイは私にとって意外な事を口にする。
「ロウソクの仕掛けだと? フン……勘違いするな。俺が仕掛けたものは、そんなチャチなものでは ない」
と……構えた邪尾刀の向こうで言った。
「え……どういう事よ……?」
私が要領を得ずに言うと、また少し口元を歪ませた。
「俺が何故、お前達の行く先々の村や街を襲っていたと思う?」
レイが そう言った後、私の表情は固まった。
それはカイトも言っていた疑問だった。
ライホーン村、キースの街。
それから これから行こうとしていた東ベルト大陸。
皆、私達が行こうとしていた所。
「まさか……何か意味が……?」
と、少し考えたが、やはり わからなかった。
「お前は何故、ココに来たんだ?」
「それは……レイを説得するために……レイが東のベルト大陸を襲ったって聞いて……マフィアが……」
それを言った後、少し何かが閃いた。
何かが、わかりかけた気がした。
落ち着いて、今までの過程を振り返ってみる。
ライホーン村。
私は そこで初めてレイを見たんだ。
斬殺された村人と、血塗られた邪尾刀を持ったレイ。
そして怒りを覚えた。
それはセナも同じ。
セナの旧友だったのに。
2人は敵同士に なったんだ。
キースの街。
私はココで後悔をする。
そしてレイの説得を一刻も早くと思うようになったのだ。
そして、東のベルト大陸の3分の1が やられたと聞いて。
ついに決行する事にした。
レイの所へ行かねば、と……。
「都合よく単独でココへ来るとはな。一目、救世主の力とやらを見てみたかったぞ。お前も俺に会いたかったろう? どうだった? 目の前で人が死んでいくのを見るのは」
レイの言っている事が わからない。
彼は何を言っているの?
「自分の無力さを認識したろう? 呪っただろう? ククク……ハハハハハッ!」
レイの高らかに笑う声が耳についた。
ボケた頭を叩き起こしてくれた。
「都合よく、って。どういう事よ……? まさかアンタ、私と一対一になるために……ううん、私をココへ連れてくるために……わざわざ私に死体を見せつけるために……あんな事をしたっていうの?」
最後の方は声が震えてた。
でもレイの笑いは止まらない。
楽しんでいる。
「なあに。四神鏡を探すついでさ。それに、俺より先に四神鏡を見つけられたら困るしな。てっきり、すぐココへ来るだろうと思っていたが。案外ノンビリしたもんだと呆れている」
私はレイの言葉に敏感になって。
手がワナワナと震え出して止まらない。
「探す…… つ い で ……?」
斬殺された村人を利用して、私はレイに おびき寄せられた。
私がレイを心底 憎むように。
そして……。
「許せない……」
ナイフを抜き取って手に取る。
そして構える。
“ナイフを持ったが最後”……。
彼とケンカする事になるだろう、と。
「許さないわ、レイ!」
私の顔が みるみる赤く染まっていく。
これはレイの罠だ。
私にナイフを取らせるための挑発だ。
……そんな事は わかりきっていた。
でも、それでも……。
私は胸に押し込んでいた怒りを抑えられない。
「殺す……レイ!」
ギラギラした目。
我を失った あの時と同じ。
かつて丘で蛍ちゃんに向けた目と。
「お前のせいで……セナもマフィアも、皆、……皆、傷ついたんだ!」
セナ、マフィア、カイト、メノウちゃん……蛍、紫くん……村や街の人達。
死んでいった皆……リカルくんの涙……皆、皆 傷だらけだった。
そして、私も。
「許さない……殺してやる!」
叫び、私は駆け出した。
ナイフを突きたてた。
だが、レイはアッサリと横に流すように かわし。
そして私の肩に。
そっ……と触れて近づき耳元で小さく囁いた。
「言っとくが、俺は女だからといって手加減はしない。死ぬ気で来い」
怒りで頭は回らない。
熱い……体。
ただ、そんな状態でも。
……レイの言葉は私の背筋をゾクリとさせた。
《第29話へ続く》
【あとがき(PC版より)】
お茶は開封したら すぐ飲んじゃいましょう。1日以上放置したら危険です。お腹下します。実験済み(他人で 笑)。
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