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第3話(森の訪問者)・2

 あそこにいた子供の顔は、はっきり覚えている。

 子供たちは皆、顔に不安を浮かべ、どうすればいいかもわからず。

 ただ うろたえるばかりだ。


 マフィアの顔も、彼らと同じ。

 切羽詰まった、緊迫に満ちた表情。

 マザーの存在の重さを感じた。



 森に着いた。

 さっきまで私たちがいた森だ。


 まさかまた ここへ戻ってくるとは。

 細くなってる道を構わず突き進む。

 マフィアの進む足に、迷いは無かった。

 私たちも後に続く。


 奥へ しばらく進んだ後、マフィアはサッと屈み、ある草を引っこ抜いた。

 見た目 雑草で葉の先が少し白かった。


「これが熱下げの草なんだけど……」


「ミキータが採ってきた草には、魔力が かかっていたって言ってたわよね。この草は大丈夫?」


 私が その草を見ると、突然 何処からか声がした。


「 殺 せ 。 救 世 主 を 。

  そ の 草 は 、 渡 さ な い ! 」


 すると、さっきまでマフィアが持っていた草はシナシナと萎れてしまった。


「誰!? 誰なの!?」


 叫ぶが、返ってくる声は一定の場所からじゃなかった。


 森の あちこちから聞こえてくる。


「殺せ……殺せ……」

「救世主。お前を生かしておけない」と聞こえてくる。


 次第に その声は範囲が広がり。

 森中が“救世主を殺せ”と言い出した。


 耳を塞いでも、声は聞こえてくる。


 一体私が何をしたっていうんだろう?


 セナの方を見ると、セナは突然ある方向に向けて石を投げた。

 それは大木に当たった。

 大木は「キャッ!」という音を放った。


 目を丸くして驚いていると、大木の前に ある少女が現れた。


 何と その少女は、空中に浮いているではないか!


 黒髪を上で2つに束ね、上から下まで服は黒に統一し。

 女の子らしいけれど顔は どこか意地悪そう。

 真っ黒い瞳をしていた。

 年は9、10くらいかな。


「痛いわね! 何すんのよ!」


 その少女は私たちを睨みつけた。


「ふん……まあいいわ。私は四師衆の一人。幻遊師、蛍よ。救世主が現れたっていうから、ちょっと見ておこうと思ってね。あんたが その救世主? ……キャハハッ! やっだ! こんな ちんちくりんがっ!?」


 その時の私ときたら、チンプンカンプンだった。

 新しい言葉が色々と出てきたからだ。

 四師衆?

 幻遊師?

 蛍……は名前でしょうけど。

 一体何なわけ? それって。


「なーんも わかっていないようね? レイ様の言う通り。『まだ何にも知らない虫ケラ同然の人間どもだ。あんな奴らに構っている暇は無い』だってぇ!」


 その少女……蛍は高らかな声で笑う。

 よく笑うんだけど、その笑いは物凄く嫌味ったらしい。

 見ていると、ムカついてくる。


 私が何か言い返そうか、という時にセナが一歩先に前に出た。


「おい! 今……レイ、って言ったかっ!?」


 セナが蛍に聞いた。


 蛍は最初「はあ?」という表情だったのだが。

 セナの顔をマジマジと見つめ、何かピンときたようだった。


「あんた……レイ様が いつか言ってた……風神?」


 ますます訳が わからない私。

 セナの袖を引っ張って「ねえ、どういう事?」と聞くが、セナの耳には入っていないみたい。

 返事をするセナ。


「……そうだ」


 聞いた蛍は、さも面白そうに笑い出した。


「へええ……救世主と一緒に いたんだ。早い展開ね。レイ様は この事を知っておいでなのかしら? どう思う?  紫」


と、誰もいないはずの蛍の右隣に話かけた。


 確かに そこには誰も居なかったはずなのに。


 いつの間にか、人が そこに立っていたのだ。


 (むらさき)と呼ばれた男の子。


 まだ、少年だ。

 15歳くらいか。


 黒のランニングシャツに、だらしなく長い黒のズボン。

 蛍と同じく漆黒の瞳で髪は短いが、顔の右半分だけが長く伸び 目を隠している。


 私たちにとっては、いきなり現れたように感じた。

 だが蛍は、さっきから ずっと そこに 居たような素振り。


 蛍に話かけられ、静かに口を開いた。


「きっと、何もかも知っておいででしょう」


「そう? やっぱり そうかぁ。でもたぶん、そのうち救世主を殺すつもりなんでしょ?」


「おそらくは」


「じゃ、今 殺しちゃおうよ。まだ芽のうちにさあ」


 蛍は、微かに口元を歪ませた。

 私たちの方に振り返る。


「やっちゃって、紫。救世主を殺すのよ!」


 私を指さした。

 子供なのに、それが逆に怖い。


 紫は、まるで蛍の奴隷か人形のように指さされた私の方へ降りてきた。

 しかし私の前にはマフィアと、セナが立ちはだかった。


「ちょっと。よくわかんないけど。この人たちはウチの子の命の恩人。死なすわけにはいかないわ」


 マフィアは そう言って紫を睨んだ。

 ウチの子とは、ミキータの事だろう。


「おい。お前ら……無力な人間を殺して、楽しいのかよ?」


と、セナも。


 私は感動していた。

 何をこんな時にノンキな……と思うかもしれないだろうけどね。


 だって、まだ会って間もない人たちが こんな事を言ってくれるなんて……。

 私、すっっごく嬉しかったんだもん。


 でも、やっぱりダメよね。

 お命頂戴、って言われているのに、まるで王女様気取りでは。

 できるだけの抵抗はしないと。

 自分の命は、自分で守らなきゃ。


 彼らを睨み、場はジリジリとした雰囲気になった。


「邪魔するなら、いくら風神といえども構わないわ。やっちゃえ!」


 蛍は紫の背中を口で押した。


 紫は ためらわず、前に進み出た。

 セナがまず、強烈なパンチを繰り出した!

 しかし、音も無く紫はサッと横にそれをかわし、


(こ、こいつ、速っ……)


とセナが体勢を立て直すよりも先に紫は、セナの足を自分の足でペン! と払った。


 当然、セナは前のめりになって倒れてしまう。


 紫は、セナが倒れている事などもう眼中にはない、という様な感じで私の方へ近寄って来た。


「はああッッ……!」


とマフィアが……何と隠し持っていたムチを振り回し始めた。


 私は危ないのでマフィアから離れた。


 マフィアは、見事な技を色々と繰り出していく。

 が、それを軽々と かわすのだ、この男は。

 どんな動体視力をしているのだろう……。


 痺れを きらしたのか、蛍が叫んだ。


「紫!」


 すると、さらに口で背中を押されたように彼は攻撃体勢へ。


 ムチを腕で受け止め、全然痛みを感じないのか表情は あくまでも「無」で、マフィアをブッ飛ばした。


 何か、気合いのようなものなのかもしれない。


「マフィア! セナ!」


「気をつけて……そいつ、強いわ」


「くそっ……おい勇気……逃げろ!」


 セナは再び立ち上がって、紫に鋭い蹴りを。

 蹴り、蹴り、蹴り、蹴り。

 ……しかし、どれも軽く かわされてしまう。


 私は、ハッとしてセナに叫んだ。


「セナ! あれよ、あれ! 何かこう……風で切り刻むようなやつ」


 前に見た、セナが起こした風。

 怪物たちは、血みどろの最期を遂げた。


「ダメなんだ! 何か、誰かに邪魔されて風が起こせない。ついこの前は、出来たのに!」


 状況は、どう見たってセナが不利。

 こうなったら、私も見てないで戦いに参加しなくちゃ!


 私は辺りを見渡す。

 まあこんな深い森の中、変わったものは落ちてないけど……。


 ふいに、そばの木に触れた。

 すると何かが私の心の中に すうっと入り込んできたのだ。


 一方、セナがまた紫に足払いを かけられ、前に倒れた時。

 紫はセナの両腕を もぎ取りそうな程に引っ張り、セナを苦しめた。


 チラリとセナが紫を見る。

 紫は あくまでも冷静で、何を考えているのか わからない。


 そんな時、私はセナに……。


「今よ、セナ! 風を使ってみて!」


と言った。


 セナは まさか、という顔で言われた通り、風を出して攻撃してみた。


「“風車(かざぐるま)”!」


 言うと同時に、紫は突然出現した強風に10メートル程飛ばされた。

 セナは信じられない、と口をパクパクさせた。


 紫が体勢を戻そうとするより先に、セナがパンチを一発!

 紫はバタリと倒れた。


「紫!」


 顔面蒼白の蛍。

 すると……。



『何をしてる。蛍、紫』



 何処からか声が聞こえた。


 セナも私もマフィアも、そして蛍も「え?」と たじろぐ。


 すると蛍が後ろの大木に向かって「レイ様!」と叫んだ。


 大木に、段々と「顔」が浮かび上がってきた!

 ……木に、顔が出来たのだ。


 その顔を見て、今度はセナが叫んだ。


「レイ!」


と……。


 この2人は、知り合いなのか?

 私の疑問は、2人の間には入り込めなかった。


「レイ……お前だったのか……。何故……勇気を……救世主を、殺そうとする?」


 すると大木の顔は口を開いた。


『お前には関係の無い事だ』


と言うと、今度は蛍に向かって しゃべり出した。


『蛍。勝手な行動をとるんじゃない』


 さっきの じゃじゃ馬ぶりは何処へやら。

 蛍はオドオドしながら、その大木の顔に思い切って言う。


「しかしっ、レイ様! 救世主なんて危険なものを……今が倒すチャンスです! まだ、ヒヨッコのうちに倒しておけば……」


『馬鹿がっ!!』


と、エンマ様の お叱りの如く、威厳のある声が響き渡った。

 ビクリッ! となった蛍は、そのまま黙ってしまった。


『今は そんな雑魚を相手にしている時間など無い。早く戻れ!』


 蛍は、しぶしぶと……サッと消えた。

 いつの間にか、紫も もう いなかった。


「レイ……何を企んでいるんだ! 今、何処にいるんだ!?」


『ふん……風神か……久しいな。いや、そんな事は どうでもいい。我々の計画の邪魔をするな、セナ』


「計画……?」


『復活させるのさ。四神獣の一つ……


 “ 青 龍 ” を な ! 』


 ……


 語尾の語に、エコーが付かんばかりの迫力で、私たちを見えない力で圧倒させた。

 私の脳裏に、“七神創話伝”の第一章が浮かんだ。



 この世に四神獣 蘇るとき 千年に一度 救世主 ここに来たれリ



 今まさに、この伝説を繰り返そうとしているのか。


 伝説が まさに今、現実になろうと足踏み状態で近づいているのか。


(青龍の復活……? 一体そうなったら、どうなるっていうの?)


と私の疑問は増えるばかり。


 セナが怖い顔でレイを訴えた。


「何故だ!? レイ!」


『止めても無駄だ。もう遅い。せいぜい抵抗できるものならしてみろ。旧友といえど、容赦は しない。長生きする事だな。セナ』


と、アハハハ……と笑いながら、大木の顔はスウっと引っ込んで消えて、元の大木へと戻った。


 しばしの沈黙の後、セナはガックリと膝を落とした。


 そして、右の拳を地面へと突き立てた。


「ちくしょう……」と呟いたのが印象的だった。


 どうやら、セナと彼……レイとは さっきの話から、かっての友達……旧友だったようだ。


 そのレイとかいう男が、四神獣の一つ、青龍を復活させようと計画している。


 四神獣の復活……それが何を意味するのか。


「勇気……」


 ふいにセナが口を開いた。


 セナを見ると、まだ何か落ち込み気味なのか、下を向いている。


「さっきの風……何で わかった? 今なら使えるって事が」


「え? あー、えっと。実はね、さっき……」


 私は さっき起こった事を説明し始めた。




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